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CIAL代表兼デザイナー・戸塚佑太さん、ブランドエディター・加藤大雅さんが聞きたい、「地域独自の食文化を、“自続”可能な形にするデザイン」

CIAL代表兼デザイナー・戸塚佑太さん、エディター・加藤大雅さんに聞く、
「コーヒーリキュール『SOMU』開発の舞台裏」

「地域独自の食文化を、“自続”可能な形にするデザイン」を掲げ、パートナー企業との商品開発を見据えてカンバセーションズでのインタビューを開始したCIAL代表兼デザイナー・戸塚佑太さんとブランドエディター・加藤大雅さん。やがて、福岡で100年以上にわたって焼酎造りを続けてきた老舗・天盃とのコラボレーションが決まり、先日開催された成果報告会では、開発中の商品のコンセプトやキーヴィジュアルなどをお披露目してくれました。来年のリリースを予定しているコーヒーリキュール「SOMU」の開発秘話や、これまでのカンバセーションズでの取り組みについて、戸塚さん、加藤さんのふたりに振り返って頂きました。

天盃さんと開発中のコーヒーリキュールの進捗を教えて下さい。

戸塚:すでにレシピは決まり始めていて、これからパッケージなどの細かい仕様や製造コスト、販売計画などを固めていく段階です。

先日の成果報告会では、「SOMU」という商品名や、「“濃淡”で楽しむコーヒーリキュール」というコンセプトなどをご紹介いただきましたが、これらはどのように導かれたものだったのですか?

戸塚:商品開発は、CIALの原点であるコーヒーと、天盃さんがつくり続けてきた焼酎それぞれの特性を考えるところからスタートしました。コーヒーや焼酎が飲まれるシーンや、嗜好品としての特性など両者の意味性がシンクロするようなものをつくりたいという考えのもと、加藤を中心にコンセプトワークを進めていきました。

加藤:お酒は体質的に飲める人、飲めない人がいて、飲めない人には参加できないシーンもあります。でも、お酒を飲める/飲めないの二項対立で捉えるのではなく、さまざまな立場の人が色々な楽しみ方ができるお酒の方がいまの時代に合っているという思いがありました。一方のコーヒーは、必ずしも飲める/飲めないに二分されるわけではなく、ブラックでは飲めないけどミルクを入れれば飲めるという人もいます。こうした両者の特性をかけ合わせた時に、例えば早めの時間帯から牛乳で割ってアルコール度数を下げて楽しんだり、夜にしっぽり読書をしながらロックで飲んだりと色々な楽しみ方ができて、さまざまなシーンで多様な人たちの間を取り持てるようなお酒のあり方が浮かび上がってきました。

戸塚:レシピに関しては、TETOTETO Inc.井上豪希さんに監修して頂きました。天盃さんは「コーヒースペシャリテ」というコーヒーリキュールをすでにつくっているのですが、これはロックで香りや味わいを楽しむ方向性のお酒なんですね。それに対してSOMUは、もちろんそのまま飲んでも美味しいのですが、炭酸や牛乳で割ったり、さまざまなものと混ぜられることを前提にしていて、コーヒーのロースト感やコクが強く感じられる濃厚な味わいになっていることが特徴です。

加藤:SOMUというネーミングにも「染める、染まる」という意味合いを持たせています。コーヒーにミルクを混ぜると色が変わりますが、そうしたイメージがSOMUのキーヴィジュアルにも反映されています。

開発においてポイントになったことがあれば教えて下さい。

戸塚:当初は、アイデンティティデザインの観点から天盃さんが拠点を置く地域の産業や環境、歴史などを掘り下げることで何かできることがないかと考えていたのですが、そこからCIALにとってやりたいこと、つくりたいものを突き詰める方向に振り切ろうと決めたことが大きなポイントでした。キギさんから始まったカンバセーションズのインタビューは、デザイナーの視点から“自続”可能な地域の食文化について考えることが当初のテーマだったのですが、自分たちが地域のメーカーや産業に貢献できることや、最も気持ち良いものづくりのあり方を追求していく中で、自分たち自身がつくる側になるというスタンスにシフトしていきました。

加藤:基本的にデザインというのは客観的な視点に立つ営みであり、そうしたポジションだからこそ与えられる価値や影響があります。でも、カンバセーションズでインタビューを重ねる中で、それだけを続けていても満足できない自分がいることに気づきました。僕自身がそうであったように、若い頃というのは東京でさまざまなプロジェクトに関わることに刺激を感じるし、そこには価値もあると思うんです。でも、自分としてはそれをずっと続けたいわけではなかったし、つくる側になりたいという感覚が自分の中で徐々に育っていったところがありました。

戸塚:CIALのコーヒー事業では、新しいコーヒーの可能性の探求を掲げ、これまでにない原料の使い方や飲まれるシーンなどを開拓するような活動をしてきました。その背景には生産者やつくり手と持続可能な関係を築くことで、続いていくものづくりを実現したいという思いがあり、今回のコーヒーリキュールに関してもそれが自分たちのやりたいことでした。それに対して天盃の多田さんは、焼酎の可能性を拡げる機会と捉えてくださっていた部分があり、自分たちにできることはすべてすると言ってくださったことはありがたかったですね。

福岡・筑前町にある天盃の酒蔵にて。

100年以上続く老舗である天盃との協働はCIALにとってどんな意味がありましたか?

戸塚:長い間つくることを続けてきた企業というのは新陳代謝のようなことが常に起こっていて、新しいチャレンジを続けてきた歴史があると思うんです。天盃さんとの取り組みを通じて、まさにそうした営みに触れられたことはとても大きかったですね。

加藤:僕は秋田に拠点を移し、数百年の歴史を持つ酒蔵さんとも仕事をしているのですが、10~20年、100~200年先を見据えた上で時間をかけて一緒につくっていくという意識が大切だと感じています。老舗にも変わろうとする意思は間違いなくあるものの、時間の捉え方は自分たちとは違います。そこに関わろうとするのであれば、老舗企業が持っているリソースを編集やデザインすることで打ち上げ花火的に何か新しいものをつくろうとするのではなく、時間をかけて一緒に取り組む意義を咀嚼する必要がある。自分たちがいなくてもびくともしないような力強いものづくりをしている天盃さんと協働するにあたって強く感じたことは、自分たち自身の中に「続いていくものづくり」というものをしっかり育てていくことの重要性でした。

戸塚:自分たちが老舗と関わることで若い世代に訴求できるという側面もあるかもしれませんが、それはあくまでもテクニックの話に過ぎないですし、自分たちよりも上手にできる人たちはたくさんいます。これは老舗に限らない話ですが、自分たちが関わることで相手に何かしらの気づきや変化を与えられるはずだと考えています。老舗は変化の連続だという話をしましたが、自分たちがそうした変化の大きな要因になれるのではないかという感覚を最近になって持てるようになりました。

加藤さんが、秋田県五城目町で300年以上続く老舗日本酒蔵「福禄寿酒造」と進めている酒粕にまつわるプロジェクト「福々折々」。

カンバセーションズでインタビューをスタートした当初から、CIALは組織体制が変わり、加藤さんも拠点を秋田に移すなどさまざまな変化がありました。その中でデザインやものづくり、ブランドのあり方などについての考え方も変化したのでしょうか?

戸塚:当初から実践したいと考えていたデザインのあり方がより明確になった感覚があって、デザインのアプローチがどんどんローカルや生活者に近づいたものになっています。デザイナーという第三者の立場からブランドやメーカーをサポートすることより、一生活者であり、同時に生産者でもある立場からデザインやものづくりの営みに関わる方が誠実だし、真剣なものになると強く感じています。そして、その真剣さが関わる相手の変化にもつながっていく。自分の得意なスキルを活かした営みというものがたくさん存在していて、それぞれがスキルをおすそ分けするような形で関係し合い、地域の経済や産業が循環していくようなあり方が理想だと思うし、デザインというのもひとつのスキルに過ぎないという感覚が強まっていますね。

加藤:戸塚の話にも通じますが、秋田に来て強く感じることは、東京で働いていた頃よりも生活と仕事の垣根がないということです。カンバセーションズでインタビューしたセイズファームの飯田さんは富山という場所に根付き、地域の文化を再解釈した上でデザインをするという生業を続けられていました。飯田さんへのインタビューは自分にとって大きな経験で、自分がつくりたいものや貢献したい未来というものが先にあって、それを実現するためにデザインや編集の力を使っていくのかということが、自分のやりたいことなんだということが明確になりました。

TETOTETO Inc.井上豪希さんと進められた「SOMU」のレシピ開発。

戸塚:カンバセーションズでの一連の経験は、僕個人にとってもCIAL全体にとっても大きな分岐点になりました。自分たちが真剣に考えたかったことに否が応でも向き合わざるを得ない状況をつくってもらえたと思っていますし、同期のインタビュアーの存在にも大きな刺激を受けました。特に、ナオライの三宅さんが掲げていた「自然から感謝されるメーカーのあり方」という問いには影響を受けましたし、ご一緒できて本当に良かったと感じています。

加藤:今回はものづくりという共通のテーマが設定されていましたが、ITONAMIにしてもナオライにしても、自分たちが運営する「場」を持たれていましたよね。ものづくりをコアに据えるメーカーが場づくりにも積極的に取り組んでいて、その過程や悩みなどを垣間見られたことは個人的にとても印象深かったです。こうした取り組みは自分が暮らしている秋田の集落でも参考にできることがありそうですし、今後も皆さんの動きをチェックしていきたいですね。

最後に、「SOMU」のリリース予定を教えて下さい。

戸塚:これから製造コストを算出し、クラウドファンディング実施の検討などを含めたPRや販売の計画を固めていく予定です。来年にはリリースできるようにがんばります!