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「問い」をカタチにするインタビューメディア

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ナオライ代表取締役・三宅紘一郎さんが聞きたい、「自然から感謝されるメーカーのあり方」

ナオライ代表取締役・三宅紘一郎さんに聞く、
「循環型の暮らしを体感できる場づくり」

「自然から感謝されるメーカーのあり方」を自らの問いを掲げ、各界のスペシャリストたちへのインタビューを続けてきたナオライの三宅紘一郎さん。カンバセーションズでのおよそ1年間にわたる取り組みは、三宅さんにとってどんな体験となったのでしょうか? 今回のインタビューでは、これまでのカンバセーションズでの取り組みについて振り返るとともに、その成果としてナオライが形にしようとしているプロジェクトの構想について語っていただきました。

ここまで1年余りにわたってインタビューを続けてきましたが、カンバセーションズでの取り組みは三宅さんにとってどんなものになりましたか?

三宅:まず、最初のインタビューでようび建築設計室の大島奈緒子さんにお話を伺った際、「問い」というものを軸に対話をすることでより深いコミュニケーションができるということを強く感じました。インタビューさせていただく相手がどんな「問い」を持って活動されているのかということに迫ることで、相手への理解が深まることはもちろん、自分の「問い」を投げかけることによって、こちらのこともより伝わる感覚がありました。それ以降、さまざまな道のプロフェッショナルの方々に対して自分たちの「問い」をぶつける形でお話ができたことは非常に良い体験になりました。

インタビューをした方たちから返ってきた反応についてはいかがでしたか?

三宅:インタビューを通じて皆さんにお話し頂いた内容は共感することばかりでしたね。綺麗事なしでこれからの社会に大切なことについてお話ができましたし、インタビューを通じて大きな納得感を得ることができました。これまでに自分たちが考えてきたことに対する言わば“答え合わせ”的な機会にもなり、深く納得ができたからこそこれから進んでいくべき道が明確になり、よほどのことがなければ方向性はブレないだろうという感覚があります。

インタビューを通じてご自身の考えが覆されるようなことはありませんでしたか?

三宅:「自然から感謝されるメーカーのあり方」を掲げてインタビューを続けてきたわけですが、杜氏の石川達也さんをはじめ、自然から感謝されるのではなく、自然そのものになるんだというお話をされている方が多かったんですね。一連のインタビューを通じて、「人も自然の一部なんだ」という気づきがあり、自らの問いを見直せたことは大きかったですね。昭和、平成の時代は、人と自然が対立軸で語られることが多かったと思いますが、これからのナオライは、自然と人を一緒にしていくような会社、ブランドになりたいという考えを持つことができました。

過去の取材でインタビューをしている際の三宅さん。 Photo:Rikuo Fukuzaki

インタビューを通じて、自らの「問い」が変わっていくということにも大きな価値があると感じました。「問い」の答えを導き出すこと以上に、何を問うていくのかということを考え続けることにこそ物事の本質があるのかもしれません。

三宅:そうですね。「自然の一部になる」という点では、最近ナオライの拠点ではバイオトイレに切り替え、人間の排泄物を自然の循環の中に戻すということに取り組もうとしています。そもそも近代化される前までは、こうした循環型の暮らしというものを人々は当たり前に営んでいたんですよね。インタビューで得た納得感や気づきを、ナオライの事業にどう活かしていくのかというのは難しいテーマではあるのですが、全体の動き方がジワジワ変わってきているというのは実感としてありますね。

インタビューに対する周囲の反応についてはいかがでしたか?

三宅:SNSで記事の感想を書いてくださる方が多くてうれしかったですね。石川さんの生もと造りのお話や、アリーフ・ラビックさんの再生経済のお話、山名 慶さん久保 幹さんのサイエンスのお話などは、僕らが最も伝えたかったこと。自分たちが先頭に立って伺った話を、記事を読んでくださった方たちと共有できた感覚がありますし、一連のインタビューを通じてナオライらしさというものも伝えられたように感じています。

先日開催された第3期メンバーたちによる成果報告会でプレゼンテーションをする三宅さん。

今回のカンバセーションズの取り組みでは、「これからのものづくり」という共通のテーマのもと、ITONAMIの山脇耀平さんCIALの戸塚佑太さん、加藤大雅さんといった面々が、それぞれインタビューを続けてきました。同期インタビュアーの存在についてはいかがでしたか?

三宅:ITONAMIの山脇さんたちが掲げていた「愛」というのは本当に重要なテーマだと思いますし、共感できるところがとても多かったです。人を愛する、商品を愛するということが難しくなっている時代の中で、非常に興味深い問いだと思いました。CIALのおふたりに関しても自分たちの役割というものを模索しながら、結果的にコーヒーリキュールをつくることになったわけですが、その姿勢にはとても共感しました。模索をする中から美しいものが生まれてくるのだということを改めて感じることができました。

今回のインタビューでやりきれなかったことなどがあれば教えて下さい。

三宅:僕たちは、自然や土からつくられたお米を酒蔵がお酒にして、それを僕らが浄留することによって浄酎をつくり、酒販店などを通じてお客様に販売するというサイクルをしっかり構築したいと考えています。そういう意味では、商品をお客様に届ける、販売するというパートに関わるインタビューができなかったというのがひとつありますね。販売の部分はナオライとしてもこれからがんばらないといけないところでもあり、この壁を突破していくことがブランドとしての大きな課題です。そうした中で先日、双日さんとの業務提携が決まり、双日グループさんのネットワークのお力もお借りしながら販路を広げていくということに取り組み始めているのですが、この数ヶ月で取引先もだいぶ広がってきています。

カンバセーションズでの取り組みを経たナオライのアウトプットは、どんなものになりそうですか?

三宅:最近ナオライでは、酒造りの副産物であるレモンピールでエッセンシャルオイルをつくったり、浄酎の生産過程で生まれる発酵エキスを活用する研究などを進めているのですが、これらはすべて循環型の暮らしを見据えた取り組みです。そんな循環型の暮らしを一般のお客様が体験できるような場を、まずはナオライの拠点である久比・三角島、神石高原町の2箇所につくりたいと考えています。現時点では、酒蔵をリノベーションした浄留所や樽の熟成室などを併設した農泊の拠点となるような場をイメージしています。イタリアにブルネロ・クチネリというブランドがあるのですが、彼らは本社を置くソロメオという村に劇場や職人の養成学校などをつくり、地域の復興にも貢献しているんですね。僕らも酒造りというものを軸として、周囲を村のようにしていくことができるといいなと考えているんです。

同じく久比・三角島に拠点を置き、三宅さんが代表理事を務めている一般社団法人まめなでは、すでにそうした場づくりが進んでいるようですね。

三宅:はい。ナオライでは、中国新聞さんと連携して、「生産者になる旅」というツアーを企画しているのですが、ゲストの受け入れ先としてまめなの宿泊施設やバー、図書館などをご利用頂いています。その中でも「顔」となるような場をつくり込むことの重要性を感じていて、そこから人が人を呼ぶという流れも生まれるんですよね。ナオライとしても自分たち以外の人たちが集うことができる象徴的な空間をつくりたいと考えていて、僕たちが目指していること、これからやろうとしていることを多くの方に体験いただける場にしていけたらいいなと。

Photo:Rikuo Fukuzaki

以前のインタビューでも、「人と自然の調和などについて生産者と消費者の垣根を超えて皆で考えていけるブランドになりたい」というお話をされていましたが、まさにそのために欠かせない要素として、こうした場づくりというものがあるのですね。

三宅:そうですね。これはまだだいぶ先の話ですが、これからつくるナオライの拠点をモデルにして、全国各地に同様の場を増やしていきたいという夢も持っています。例えば、東北の拠点では東北の酒蔵やオーガニックファーマーと提携し、その地でしかつくれない浄酎をつくる。そうした取り組みを全国に広げていきたいんです。自分たちの事業の大きな目的として、酒蔵の再生や日本酒産業の活性化というものがあるのですが、これらを実現するためにも、全国各地にマイクルブリュワリーをつくるような感覚で浄酎づくりの拠点を増やしていきたいと考えています。

夢は広がりますね。カンバセーションズとしても引き続きナオライの活動に注目していきたいと思います。どうもありがとうございました。