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ナオライ代表取締役・三宅紘一郎さんが聞きたい、「自然から感謝されるメーカーのあり方」

ナオライ代表取締役・三宅紘一郎さんが、
「自然から感謝されるメーカーのあり方」について聞きたい理由

カンバセーションズ第3期メンバーのひとりとして、今回インタビュアーを務めてくれる三宅紘一郎さんは、出身地である広島県を拠点に、日本酒酒蔵の多様性を未来に引き継ぐためのさまざまな事業を展開するナオライの創業者です。瀬戸内海に浮かぶ三角島で自ら栽培したオーガニックレモンからつくるスパークリング酒「ミカドレモン」、まったく新しい低温浄溜の技術によって日本酒やウイスキーと並び得る新ジャンルのお酒を生み出すことを目指し、近隣酒蔵とも連携した酒造りを行っている「浄酎」ー。ナオライがこれらのお酒を通じて目指しているのは、人の営みが自然や生物と調和する世界を実現していくことです。そんなナオライの三宅さんが、「自然から感謝されるメーカーのあり方」をテーマにさまざまな領域の先駆者たちにインタビューを行い、ブランドが描く未来への道標となるアウトプットを生み出すことを目指します。

まずは、三宅さんがナオライを立ち上げるまでの経緯を聞かせてください。

三宅:僕は広島県呉市出身なのですが、親族に酒蔵関係の仕事をしている人が多かったことから、日本酒業界を身近に感じてきました。いま、日本にはおよそ1400ほど酒蔵がありますが、この40年間でおよそ1/3に減っているんです。業界の衰退に危機感を抱いていた僕は、日本酒を輸出することが課題解決につながるのではないかと考え、大学卒業後に上海に渡り、日本酒の販売やマーケティングの仕事を9年ほどしていました。当時、中国では日本酒の市場が広がっていて、獺祭などのブランドが人気を集めていたこともあり、ゆくゆくは究極のブランドを自分でつくりたいという思いを持っていました。そして、2014年に東京でSUSANOOという日本初の社会起業家のアクセラレータープログラムに参加したことをきっかけに、地元広島のレモンを使ったお酒をつくることになり、それがナオライの創業になりました。

ナオライという社名の由来も教えてください。

三宅:社名は、神事の最後に参加者一同で神様に奉納をしたお酒を頂く「直会」という行事から取りました。直会で頂くお酒は、それが大吟醸であろうと普通酒であろうと非常に大切に扱われ、美味しく感じられるんですよね。このように日本酒が価値あるものとして使われる状況をもっとつくりたいという思いで創業をしました。それ以来、日本酒の文化や産業をどうすれば守っていけるかということを考え続けています。

拠点を置く広島からオンラインでインタビューに応えてくれたナオライの三宅紘一郎さん。

ナオライの事業において大切にしていることは何ですか?

三宅:ナオライでは、「時をためて、人と社会を醸す」というヴィジョンを掲げているのですが、人の営みが自然や生物と調和する世界を実現したいと考えています。先にお話ししたスパークリングレモン酒「ミカドレモン」は、久比・三角島という広島県にある離島のレモンを使っているのですが、ワインと比べて日本酒は産地とブランドの結びつきが弱いという問題意識から、自分たちで下手なりにレモン栽培を始めたんですね。その過程で出会った有機栽培の農家さんから、土壌や環境、菌の話など自分が見えていなかった世界について教えてもらいました。それ以来、人と自然が調和する酒造りを意識するようになり、ひいては自分たちが関わる地域全体においても、人と自然が調和していく状況をつくっていきたいと考えるようになりました。

具体的にはどんな取り組みをされているのですか?

三宅:ナオライでは、久比・三角島全体をオーガニックレモンバレーにするという構想を持っています。いま、広島県内でつくられているオーガニックのレモンというのは、全体の10%にも満たないんですね。つまり、大半のレモンには農薬が使われているわけですが、年に何度も農薬を散布することで土壌や生態系が破壊され、農家さん自身に体調の異常が起こるケースもあります。農薬を使ったピカピカのレモンの方が市場価格は高くなりますが、自分たちが使うレモンは見た目は関係ないですし、お酒に加工して付加価値をつけることでむしろA品のレモンよりも高く買取ることも可能になる。自然との共生や命を育てる喜びが感じられる農業というものを、地域全体でできるようにしていきたいと考えています。

久比・三角島産のレモンでつくられるスパークリング酒「ミカドレモン」。

ミカドレモンの他にはどんなお酒をつくっているのですか?

三宅:2019年に、日本酒を低温浄溜してつくる「浄酎」というお酒の開発をしました。日本酒には時間が経つほど劣化してしまうという課題があり、それが輸出などにおいてもネックになっていました。そこで僕たちは、極限まで熱をかけずに蒸留する「低温浄溜」という製法を開発し、これによって日本酒の旨味成分や風味を生かしたまま、長期熟成に耐え得るウィスキーのようなお酒をつくることが可能になりました。浄酎は、日本酒やワイン、ウイスキーなどに並ぶ新しいお酒のジャンルとして、業界の産業構造を変え得るものだと思っています。これを自分たちだけでつくるのではなく、経営が傾きかけている広島県内の酒蔵と提携し、僕らが提携するタナベファームさんのオーガニック米で純米酒をつくってもらい、それを浄酎にするという取り組みも始めています。浄酎の酒蔵は広島県の神石高原町にあるのですが、ナオライの拠点の周辺で酒蔵が活性化したり、有機農家が増えていくようなモデルをつくっていきたいと考えています。

自分たちで酒造りをするだけではなく、苦境に立たされている周囲の酒蔵のサポートまでしていくというのは、これまでの酒蔵にはあまり見られなかった動きのように感じます。

三宅:もともと僕は、業界を救うためには日本酒を輸出することが大切だと考えてきましたが、日本酒の酒蔵がみんな海外に出ていこうとすると、結局強い者だけが残り、競争に負けたところは潰れてしまうということになりかねない。そうではなく、日本酒の酒蔵全体で新しい市場に移動していくようなイメージで事業に取り組んでいます。

日本酒を低温浄溜してつくる「浄酎」。

三宅さんが考えるこれからのブランドやメーカーのあり方についても聞かせてください。

三宅:これからのブランドは、透明な存在になるほど価値が高まると考えています。例えば、近年の日本酒業界は効率化のために、酒米や菌、酵母、醸造方法などさまざまなものが人工的になっているのですが、これまではそういうことをメーカー側が隠すことができたんですね。それに対して僕らは、すべての製造工程をクリアにしながら、人と自然の調和などについて生産者、消費者の垣根を超えて皆で考えていけるようなブランドになることを目指しています。

今回のカンバセーションズの企画では、 「アフターコロナ時代のものづくりや、ブランド/メーカーのあり方」という共通の問いのもと、3組のメンバーがインタビューを行っていく予定ですが、三宅さん個人として深めていきたいテーマについて教えてください。

三宅:人と自然の距離が開いてしまっている現代において、 「自然から感謝されるような人の営みや経済、企業のあり方とは何か?」ということを考えていきたいです。唐突ですが、良い空気がある街には、必ず良い酒蔵とパン屋があると思っているんですね。それはつまり、人と微生物が調和して何かを生み出す環境があるということなのですが、残念ながら現在の日本酒業界は、先に話したように「早くたくさんつくる」ために、人為的な酒造りにシフトしています。これはおそらく日本酒に限らず、食品業界全体にも通じる話だと思いますし、だからこそ、本来自然と調和した存在だった酒蔵を営む自分たちが、自然の一部となり、周囲から感謝されるようなブランド/メーカーのあり方を考えていくことに大きな意味があると考えています。

具体的には、どんな人たちにお話を聞いていきたいですか?

三宅:以前に、不耕起、無施肥、無農薬の「協生農法」をされているソニーコンピュータサイエンス研究所の舩橋真俊さんにお会いした際、自分もオーガニックの酒米やレモンをつくっているというお話をしたのですが、米やレモンのことしか考えていないと指摘されてしまいました。要は、単一の作物だけを育てていると生態系の多様性が失われてしまうということなのですが、農業をすることが地球を壊すことにつながってしまうという事実に大きな衝撃を受けました。いま改めて船橋さんにお話を伺ってみたいという思いがありますし、船橋さんに限らず地球の資源を消費し続けるのではなく、資源や生命を生み出しているような人たちにお話を聞いてみたいですね。日本酒の杜氏さんやオーガニックファームの農家さんなどの中には、資源や生命を生み出す側の人たちが一部いるんですよね。また、例えばエネルギーの分野など、さまざまなアプローチでこれまでの消費社会に代わる、新しい文明社会のあり方を模索しているような方たちにもぜひお話を伺ってみたいですね。

これからのものづくりやメーカーのあり方を考えるにあたっては、地球の資源を使ってものをつくること自体の意味から問い直すような作業も必要になるのかもしれないですね。

三宅:そうですね。何かをつくること、生み出すこと自体は良いことだと思っていますが、単につくって終わるのと、つくったものがどこに行くのかというところまで設計できているのとでは、大きな違いがありますよね。そういうところまで考え抜かれているブランドは、個人的にもファンになりたいと思いますし、何が本当に地球のためになるのかということは自分としてもしっかり考えていきたいです。ナオライでは、売り手、買い手、世間が満足する「三方良し」だけではなく、未来から見た時にも本当に良いことなのかという観点から、「自然良し」であることを大切にしています。この「自然良し」の感覚がいまの食品業界には欠けているように感じているのですが、自分たちとしては「四方良し」にならない事業はしないと決めているんです。

カンバセーションズでのインタビューを通して、どんなアウトプットを出していきたいですか?

三宅:ナオライでは、自分たちがつくった酒の瓶をどうするのかということがひとつの課題になっているので、例えば廃棄物の循環の仕組みのようなものがつくれると良いかもしれません。また、「浄酎」をつくる過程で分離されたアミノ酸エキスなどの成分を医薬品や化粧品の原料に使うための分析を進めていたり、2021年にはミカドレモンで使ったレモンの皮を漬け込んだ「浄酎」の販売を予定しているなど、一切無駄を出さない製品づくりを会社として推進しています。こうした文脈のもと、人と自然の調和やこれからの文明というものについて多くの人たちが考える機会になるもの、例えば自社メディアなどのアウトプットを出せると良いなと考えています。

最後に、今回のプロジェクトの抱負を聞かせてください。

三宅:メディアを通じて自分たちの問いと向き合い、ブランドをつくり上げていくような取り組みは初めてなので、とても楽しみです。僕は以前にもメディアの企画でインタビュアーをしていたことがあるのですが、それまで自分が知らなかった世界にインタビューを通じて触れることができ、驚きの連続でした。自分が知っている世界というのは、全体の1%にも満たないものだと思っています。今回のプロジェクトでも、自分がすでに知っていることに共感すること以上に、知らなかったことに衝撃を受けるようなインタビューができるといいなと思っています。