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ナオライ代表取締役・三宅紘一郎さんが聞きたい、「自然から感謝されるメーカーのあり方」

ナオライ代表取締役・三宅紘一郎さんによる、「自然から感謝されるメーカーのあり方」の中間報告

カンバセーションズ第3期インタビュアーの一人として、「自然から感謝されるメーカーのあり方」の問いのもと、インタビューを続けているナオライの三宅紘一郎さん。これまでに3名へのインタビューを行ってきた三宅さんには、これらの対話を通じてどんな気づきがあったのでしょうか? 先日、カンバセーションズの第3期インタビュアー3組と、各担当編集・ライターの面々が一同に会して行われたオンライン中間報告会で、ライターの米山凱一郎さんが三宅さんに行ったインタビューの内容をお届けします。

三宅さんは「自然から感謝されるメーカーのあり方」を問いに掲げていますが、この背景にある思いを改めて聞かせてください。

三宅:ナオライでは、自分たちで無農薬で栽培したレモンを使った「MIKADO LEMON」や、日本酒の純米酒を原料にした「浄酎」などのお酒をつくっているのですが、生産の現場を知れば知るほど、そこで働いている人たちや自然の生態系が搾取されるようなものづくりが行われていることがわかってきました。自分たちは、酒造りにしても、農業にしても、やればやるほど自然を壊すのではなく、むしろ自然を増やしていくような企業でありたいという思いから、この問いを掲げています。

担当編集・ライターの米山凱一郎さん。

これまでのインタビューを振り返っていきたいと思いますが、最初に行ったようび建築設計室・大島奈緒子さんへの取材はいかがでしたか?

三宅:大島さんとは、私が共同代表理事を務めている瀬戸内の久比を拠点にした「一般社団法人まめな」で建築のお仕事をご一緒していたご縁などもあり、島の中ですれ違うようなことはしばしばあったのですが、これを期にじっくりお話をしてみたいという思いがありました。奈緒子さんは自然や木のことをとても大切にされていますが、それをあまり人に強要することはありません。それでも周りには自然を守る活動をしている人たちが集まっているんですよね。インタビューを通じてその秘密に迫りたいと思っていたのですが、お話を聞いてみて、自分が本当に楽しいと思っていること、幸せだと感じていることを示すことで、自然と人が集まってきていることがわかりました。ナオライは、「こうじゃなければいけない」と真面目になりすぎるところがあるので、奈緒子さんへのインタビューを通じて、まずは心から楽しいと思えることをやりきることが大切なのだと痛感しました。

ナオライの三宅紘一郎さん。

このインタビューの1ヶ月くらい後に、大島さん、三宅さんと一緒にお酒を飲む機会がありましたよね。その時も「社会課題の解決が前面に出ていて真面目すぎる」と大島さんにぐさっと言われていましたね。

三宅:そうですね(苦笑)。消費者の立場になって考えてみても、「こうあるべき」というものを示された時と、純粋に楽しいと感じている時では、後者の方がお金を払うということにも優しくなれるんですよね。逆に前者の場合は左脳的に消費にするようになってしまうし、お酒を飲むことも楽しくなくなってしまうかもしれない。そういう意味でも、「このお酒が飲みたい」と思ってもらえるような楽しさを伝えるが大事なのだと改めて思いましたね。以前に、社内で樽熟成によるお酒の味の違いをテイスティングする勉強会をしたのですが、これがとても楽しかったんですね。この楽しさをお客様にも体験して頂きたいという思いから、ナオライのお酒をみんなで飲むオンラインイベントなども始めました。

ようび建築設計室・大島奈緒子さんへのインタビューより。

次は、日本酒の伝統的な技法である「生酛造り」の第一人者・広島杜氏組合長/月の井酒造店杜氏の石川達也さんにインタビューを行いましたね。

三宅:石川さんは、自然から乳酸菌を呼び寄せて醸す「生酛造り」を追求されている酒造業界の神様のような存在です。私たちは浄酎をつくる中で、究極の純米酒は「生酛造り」だと考えるようになったのですが、驚くことに「生もと造り」の日本酒は全体のわずか約3%しかなく、残りのほとんどは人工的なプロセスによる速醸造りのお酒なんです。経済合理性や計画性を重視した酒造りが主流になっていく中で、石川さんは長い間「生酛造り」を研ぎ澄ましている方で、杜氏として初めて文化庁に表彰された方でもあります。

広島杜氏組合長/月の井酒造店杜氏の石川達也さんへのインタビューより。 Photo:福崎陸央

インタビューでは数々の金言が聞けて、頭がいっぱいになりました。このインタビューを通じて、三宅さんにはどんな気付きがありましたか?

三宅:これまでの僕らは自然というものと向き合い、どうすれば感謝される存在になれるかということを考えてきましたが、石川さんは人も自然の一部だと仰っていました。自然と人の間に境はなく、すべて自然の中にあるという捉え方をされていて、その背景にはこれまでの石川さんの経験や類まれな努力があるのだろうと感じました。菌や微生物に関しても、自然の中でどのようなあり方、生き方が最適なのかという観点を持たれていたことが印象的でしたし、自分自身がお酒になりたいというくらい自然に共感しようとされる人だからこそできる酒造りがあるのだろうと感じましたね。

微生物から酒蔵の道具まであらゆる存在に命を見出し、目に見えない存在と一体化してお酒を造ろうとする石川さんのご姿勢は、僕にとっても大きな学びがありました。3人目にインタビューした立命館大学の久保幹先生は、サイエンスの力を最大限に活かして自然を活性化させる農業のあり方を追求されている方でしたね。

三宅:そうですね。有機農業や発酵などは目に見えない世界でもあるので、その正しさや価値を証明することがなかなか難しい部分もあるのですが、久保先生は広島大学で遺伝子研究をされていた経験もある理系の博士です。そうしたバックグラウンドを持つ方に、なぜオーガニックである必要があるのかということを、「SOFIX」という独自の指標を用いて理論的にお話し頂けたという点で、とてもインパクトのあるインタビューになったと感じています。

立命館大学の久保幹さんへのインタビューより。

三者三様のインタビューを経た三宅さんはいま、自然から感謝されるためにどんなアプローチを取っていきたいと考えていますか?

三宅:石川さんの言葉にあったように、「自分たちは自然の一部になれているのか?」ということを意識していきたいと考えています。個人的な話になりますが、自分たちの家と職場にバイオトイレを導入してみたんですね。自分の排泄物や食べ残したものがエネルギーとしてどこにいくのか、草を刈ることで自然にどんな変化があるのかということなど、自分が自然の中でどうあるのかということを想像しながら日々を過ごしていきたいです。私一人が生きることが社会課題を生み出していないか、誰も搾取しない暮らしができているのか、ということに改めて向き合っていきたいと考えています。

最後に、今回のプロジェクトの今後の展望についてお聞かせください。

三宅:インタビューをすることによって、自分が興味を抱いている領域を突き詰めている方たちとグッと距離が近づける感覚があります。それは今後の私たちの活動にとって大きな資産になりますし、今後もインタビューを通じてそうした深い関係を築いていきたいですね。そして、お酒を造れば造るほど、飲まれれば飲まれるほど自然が増えていくような生き方を提示しながら、仮に自然を直接体験できなくても自然が大事だと感じて頂けるような人たちを増やしていくためのアプローチを模索していきたいですね。