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「問い」をカタチにするインタビューメディア

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ナオライ代表取締役・三宅紘一郎さんが聞きたい、「自然から感謝されるメーカーのあり方」

ナオライ代表取締役・三宅紘一郎さんが、
Environmental Bamboo Foundation代表・アリーフ・ラビックさんに聞く、
「これからの先進国に必要な『再生経済』とは?」

カンバセーションズでのこれまでのインタビューを通じて、「自然から感謝されるメーカーのあり方」という問いと向き合ってきたナオライの三宅紘一郎さん。この問いを抱くようになったきっかけは、2017年に訪れたバリ島・ウブドでの経験にあったといいます。5人目となる今回のインタビューでは、そのウブドを拠点に東南アジアで竹の植林と竹産業の振興に取り組むNGO「Environmental Bamboo Foundation」代表のアリーフ・ラビックさんにお話を伺いました。アリーフさんの活動を通じて、これからの先進国のあり方や、目指すべき経済の形が見えてきました。

Text:米山凱一郎
通訳:佐藤真美(Earth Company)

三宅 紘一郎
「1000 Bamboo Village Project」とは何ですか?

「自然から感謝されるような人や企業のあり方」という問いを持つようになった大きなきっかけは、2017年にインドネシアのバリ島・ウブドを訪れ、一般社団法人Earth Company(以下アース・カンパニー)主催のソーシャル・イノーべション・プログラム「Impact Bali」に参加したことでした。ウブドの先進的な取り組みの数々に感銘を受けて以来、2020年からはアース・カンパニー共同代表の濱川明日香さん、濱川知宏さんにナオライのImpact Advisorにご就任いただくなど、アース・カンパニーには事業づくりにおいて大きな力をいただいています。本日は、アース・カンパニーが優れた社会起業家を支援する事業「IMPACT HERO 2021」に選出されたアリーフ・ラビックさんにお話を伺う機会をいただきとても嬉しいです。よろしくお願いします。

アリーフ:はじめまして。よろしくお願いします。

まずは自己紹介をお願いします。

アリーフ:インドネシアで「Environmental Bamboo Foundation」(以下EBF)というNGOの代表を務めています、アリーフ・ラビックです。私は名誉と責任のあるこの立場を、実の母親でインテリアデザイナーのリンダ・ガーランドから受け継ぎました。彼女は1993年にEBFを創業した、環境保護活動のパイオニアでした。以来、私たちはインドネシアにおいてとても身近で用途が広い「竹」を活用して、自然環境を再生し農村地域の経済を活性化する事業を行っています。

インタビューに応じてくれたアリーフ・ラビックさん。

具体的にはどのような取り組みをされているのでしょうか?

アリーフ:2015年からインドネシアの環境林業省や政府機関とともに「Bamboo Village Initiative」という取り組みを始め、土地の荒廃による影響を受けている農村地域やへき地の農村地域の人々に対して35年間の農地利用権をしっかりと保証し、竹を中心とした持続可能な農業を支援しています。なぜ竹を活用するかというと、丈夫な根を持つ竹を他の植物たちと一緒に植えることで、さまざまな長さの根が土の中で広がって水をきちんと蓄えられるようになり、荒廃した土地を肥沃な状態に戻せるからです。現在は、国内1,000ヶ所で竹の植林と竹産業の振興に取り組む「1000 Bamboo Village Project」を進めており、2029年までに世界9カ国に普及することを目指しています。

とても壮大な取り組みですね。「1000 Bamboo Village Project」によって、どのような効果が期待できますか?

アリーフ:環境面では、インドネシア国内の約200万ヘクタールの荒廃した土地や熱帯雨林を再生することで毎年1億トンのCO2を吸収し、気候変動緩和のために大きく貢献することができます。また、収穫した竹などの農作物を地域内で加工・販売する仕組みをつくることで、100万人以上の雇用を生み出し、最大40億円のマーケットが創出できます。自然環境が回復し、社会的・経済的に弱い立場にある農村地域の人々が収入や雇用機会をきちんと得られるようになれば、失われつつある彼らの尊厳や伝統的な知識が守られ、土地を離れてしまった人々もやがて戻ってくるはずです。そのためにも、過小評価されてしまっている豊かな自然環境や竹を守り、生かし、新たな価値につなげていきたいと考えています。

素晴らしい活動に感動しています。新たに創出されるマーケットにおいて、竹はどのような製品に生まれ変わるのでしょうか?

アリーフ:既存の木材に代わる資材がメインですね。竹を木材の代わりに建築材等に用いることで、二酸化炭素排出量の減少にも大きく貢献します。また、再生可能エネルギーとしての活用も重要だと考えています。生活の中で必要な物資やエネルギーをすべて竹で賄うことができれば、竹を中心とした地域の生態系がより活性化し、持続可能な地域づくりに貢献できると期待しています。

インタビュアーを務めるナオライの三宅紘一郎さん。

三宅 紘一郎
現在はどんな課題に取り組んでいますか?

この度は世界17カ国・65名のエントリーの中からアース・カンパニーの「IMPACT HERO 2021」に見事選ばれましたこと、あらためて本当におめでとうございます。選出から約1年間を振り返ってみて、いかがでしたか?

アリーフ:ありがとうございます。この1年間はかなり集中的に事業に取り組む時間となり、非常にワクワクする毎日をアース・カンパニーとともに過ごしてきました。

「IMPACT HERO 2021」にエントリーされた理由についてお聞かせください。

アリーフ:竹の活用に関する専門的な知識については自信があるのですが、EBFの運営や「1000 Bamboo Village Project」の実行にあたって、特にマーケティングや関係者とのコミュニケーションに関してまだまだ課題があると感じていたためエントリーしました。これらの困りごとに対して、アース・カンパニーは非常に細やかに支援をしてくれています。

具体的にはどのようなサポートを受けているのでしょうか?

アリーフ:私たちの活動はとても複雑かつ専門的なため、どうやって世間の人々に理解してもらうかがカギになると考えています。住民参加型の林業「ソーシャルフォレストリー(社会林業)」の推進や関係団体とのパートナーシップの構築はとても時間のかかることなので、シンプルで分かりやすい伝え方について日々アース・カンパニーと話し合っています。

それは心強いですね。

アリーフ:私たちのビジョンを実現するためには、インドネシア国内だけでなく、国際的な機関や組織ともパートナーシップを築くことが大切です。アース・カンパニーが持つネットワークを活用させていただくことで、国内外のさまざまなパートナーとつながることができています。多くの人にとっては、社会課題解決のための活動の優先順位は未だ高くありませんが、私たちはこれらの活動こそ最優先されるべきだと強く信じ、世界中の農村コミュニティとともに環境保全や産業振興の新しいモデルを広げていくことを目指しています。

三宅 紘一郎
「本当の先進国」はどうあるべきですか?

お話の中で、土地や熱帯雨林が荒廃してしまっている事実に驚きました。本来は自然が豊かなはずのインドネシアで、どうして荒廃地が広がってしまっているのでしょうか?

アリーフ:経済発展に伴う森林破壊が大きな原因です。もともと広大な森林面積を保有していたインドネシアは、森林資源や地下資源に大きく依存しながら発展を遂げてきました。また、森林伐採をした後の土地で焼畑農業を行い、その後畑を放棄・移動する農法が広がったことも土地の荒廃が進む大きな原因となっています。

そうなんですね。それはきっとインドネシア国内だけの問題ではなく、世界の経済のあり方に原因があると想像します。以前、アース・カンパニー代表の濱川明日香さんが「『先進国』と『途上国』という言葉に疑問を持っています」とお話をされていました。それに大きな衝撃を受けて以来、何をもって「先進」と呼ぶのかを考えるようになったのですが、アリーフさんはいわゆる「先進国」の経済やビジネスのあり方をどのように見られていますか?

アリーフ:経済のあり方には、2つの相反するパラダイムがあると思っています。一つは、何かを搾取することでモノやサービスをどんどん生み出す「搾取的経済」。そしてもう一つが、いま私たちが取り組んでいる、自然環境の再生と循環によって成り立つ「再生経済」です。世界中で課題となっている格差や環境破壊などの問題は、これまでの先進国による「生産性」や「発展」が、労働力や資源の搾取と結びついていたことが原因ではないでしょうか。これは日本でも起きていることだと思います。

強く共感します。そして、再生経済というのはとても素晴らしい言葉であり、考え方ですね。

アリーフ:再生経済は、生物学や地理学、化学などの多面的視点から地球の生命維持システムについて考え、私たちの幸福や安全を長期にわたって守っていく社会のあり方です。複雑で多様性に満ちた地球環境を尊重し、それらの相互作用を重視することで、搾取的経済から再生経済へとシフトしていく必要があると考えています。

アリーフさんは「本当の先進国」をどうお考えですか?

アリーフ:自然環境に目を配るだけでなく、人々が自分たちのアイデンティティやプライド、文化をしっかりと認識し、それぞれが持つ能力を十分に発揮できる多様な社会こそ、先進国としてのあるべき姿ではないでしょうか。たとえば、職人など伝統的な技術や知恵を持っている人たちの価値がきちんと評価され、その力が発揮されること。自分たちが暮らしてきた土地に対して、帰属意識を持てること。インドネシアには約570の民族が暮らしていますが、その多くが消滅の危機にあります。彼らが持つ伝統的な知恵や価値観を、AIなどの新しいテクノロジーによってこれからも生かし、文化的にも多様で持続的な社会をつくっていくことが大切だと思います。インドネシアには「Unity through Diversity(多様性の中のつながり)」という概念があるように、多様性を尊重し、お互いが生かし合う社会を目指していきたいです。

三宅 紘一郎
日本からできることはありますか?

アリーフさんの考えや活動はどれも素晴らしく、学ぶことがたくさんあると感じます。EBFの活動や「1000 Bamboo Village Project」に対して、日本からはどのような関わり方ができるでしょうか?

アリーフ:私たちの活動は何よりもまず人ありきなので、政府機関や企業、民間など、さまざまな組織や団体とのパートナーシップが欠かせません。そのため、農民たちがいまどういう状況にあるのか、社会の課題がどこにあるのかを社会全体で広く共有し、エンパワーされた農民や地域の人々が中心となってムーブメントを起こしていくことが大切です。ぜひ社会課題に関心を持って声を上げていくことから始めていただければと思います。

具体的な支援の方法は他にありますか?

アリーフ:もしも私たちのプロジェクトに直接的な支援をしたいと思ってくださる方がいらしたら、Webサイトから寄付も受け付けていますので、そちらもウェルカムです。

私は、アース・カンパニーのビジョンである「この地球は、先祖から継承したのではなく、私たちの子供たち、子孫から、借りているのである」という考え方が本当に好きなのですが、最後にアリーフさんから未来に向けたメッセージをいただけますでしょうか。

アリーフ:私の竹に関する知識や自然に対する思いやりは、すべて母から受け継いだものです。「1000 Bamboo Village Project」を進める上でも、農村地域の女性たちが持つ思いやりの心や愛情が、活動においていかに重要かを日々実感しています。いろいろな国や地域の女性たちがリーダーシップを発揮し活躍できる場をもっとつくることが大切であり、老若男女さまざまな人々を巻き込みながら一緒に活動を進めることが私の思い描く未来のビジョンです。

世界中の社会起業家が集まるウブドから、世界を変えていくアリーフさんのお話を伺うことができ、大変光栄な時間となりました。貴重なお話をありがとうございました。

アリーフ:ぜひBamboo Villageでお会いしましょう。ありがとうございました。

(左上から反時計回りに)ナオライ三宅さん、アリーフ・ラビックさん、アース・カンパニーの樋口実沙さん、今回通訳を担当してくれたアース・カンパニーの佐藤真美さん、担当編集・ライターの米山凱一郎さん、カンバセーションズ原田優輝。

インタビューを終えて

壮大なお話の数々の中で、「再生経済」という考えがとても印象的でした。搾取ではなく、再生する経済のあり方。アース・カンパニーの濱川明日香さんのお言葉を借りると、これこそが「本当に最先端の先進国」の考え方なんだなと思いました。
また、「Unity through Diversity(多様性の中のつながり)」という、多様なものが一つになって進んでいく考え方は、酒造り・浄酎造りにもつながるものなので、ナオライの事業における一つのキーワードにしたいと思いました。