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「問い」をカタチにするインタビューメディア

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ナオライ代表取締役・三宅紘一郎さんが聞きたい、「自然から感謝されるメーカーのあり方」

ナオライ代表取締役・三宅紘一郎さんが、
NOMON代表取締役・山名慶さんに聞く、
「100年ライフに必要な『知識』としてのサイエンス」

「自然から感謝されるメーカーのあり方」を問いに掲げ、カンバセーションズでインタビューを重ねてきたナオライの三宅紘一郎さん。その問いは、自然と直接関わり合う自らの感覚と、客観的に観察・評価する科学の視点を行き来しながら、着実に深まってきています。4人目となる今回のインタビューでは、ヘルスケアの分野において最新の科学技術を用いたサプリメントや食品を開発・販売するNOMON株式会社の山名慶さんにお話を伺いました。人間の健康やこれからのライフスタイルについて考える中で、三宅さんの思考は少しずつ未来へと向かっていきます。

Text:米山凱一郎

三宅 紘一郎
どうして「老化」に注目されたのですか?

山名さんとは、NOMONが事務局を務める「プロダクティブ・エイジング コンソーシアム」(歳を重ねることを前向きに捉え、生まれてから最後の日まで自分らしい人生を全うしていくことを目指す団体)にナオライとして参加させていただいたときからのご縁となります。あらためて、本日はよろしくお願いします。まずは自己紹介をお願いできますでしょうか?

山名:よろしくお願いします。私は、マテリアル事業とヘルスケア事業を2本柱とする帝人株式会社で薬の研究に20年ほど携わった後に、現在はヘルスケア事業統括補佐として事業全体を見ながら、同時に研究主幹としてヘルスケアの新しい研究にも携わっています。また、2019年に帝人の子会社として立ち上がったNOMON株式会社の代表取締役として、薬や食の領域を中心に、人が生まれてから最後の日まで楽しく過ごすための事業をエビデンスをベースに展開しています。

数多くの事業や研究に関わられている中で大切にされていることを教えて下さい。

山名:すべての事業や研究は「人がいかに毎日楽しく過ごせるか」という問題意識から始まっています。自分自身も毎日楽しく過ごしていきたいので、現在はサプリメントと食ですが、いずれは運動や睡眠など一見儲からなそうな領域においても、日常生活に介入しながら新しいビジネスをつくっていくことに挑戦していきたいと考えています。

インタビューに応じてくれた山名慶さん。

帝人さんは、街中で大きな看板を見かけることもある身近な企業ですが、繊維や医療機器のイメージが強くありました。健康食品の領域にも事業を展開されていった経緯をお聞かせください。

山名:人工繊維をつくる会社として戦後に成長した帝人は、2018年に100周年を迎えました。その節目に際して、「次の100年はどうしようか」「100年後はどんな未来になっているだろうか」と、グローバルな規模で話し合い、9つのプロジェクトをつくりました。そのうちの一つが、私がいま取り組んでいる「加齢・老化」に関するプロジェクトだったんです。昨今は人生100年時代と言われ、120年、150年という話までありますが、100年後の未来では介護の問題などがなくなっていてほしいという願いがあります。科学的には老化に伴って起きる症状や機能の低下をかなり抑制できることが分かっている中で、そんな未来を見据えて、「加齢・老化」に関するプロジェクトを9つのプロジェクトの中の第一弾として事業化することになりました。

2019年の創業から2年が経ちましたが、手応えはいかがでしょうか?

山名:創業直後に新型コロナウイルスによるパンデミックが起きて、重症化率が高い高齢者や基礎疾患をお持ちの方ほど危機感を抱いたと思います。超高齢化社会の日本は、健康に対する意識や関心はもともと高かったと思いますが、コロナ禍がそれをさらに押し上げたのではないでしょうか。結果として我々の製品の売上も上がっていますし、健康に対するニーズの高まりは国内外を問わず強く感じているところです。最近訪れたある国には未だに生活習慣病という概念がなく、病気を予防する習慣もありませんでした。そのような国は世界中にまだまだ多くあり、私たち日本人がやってきたことを教えてあげるだけで国が良くなると思うので、視野を広げて活動をしていきたいと考えています。

インタビュアーを務めるナイライの三宅紘一郎さん。広島県大崎下島 久比浄溜所より

三宅 紘一郎
どうすればサイエンスがもっと身近になりますか?

あらためて、NOMONの製品について教えてください。

山名:薬には化合物からつくるものと天然成分を生かしたものが半々くらいの割合であり、私は後者を専門に、ビタミンやホルモンなどもともと体の中にある物質について研究をしてきました。これらは失われると病気になり、補充すると元気になるというのが基本原理です。同じように、歳を取るほど足りなくなっていく物質があり、それが老化の原因になっているのではないかと考えられてきたのですが、やがてそれが「NAD(ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド)」という物質だということが解明されました。「NAD」は細胞がエネルギーを生み出す際に必要な物質なので、弊社はこれを体内で増やすための栄養素である「NMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)」をサプリメントとして販売しています。
その次に開発・販売したのが、すりおろしたての日本のわさびにしか含まれていない抗酸化・抗炎症物質「わさびスルフォラファン™」でした。いずれも、化合物でもなければ薬でもなく、事業化・実用化する研究者や企業がほとんどいなかったのですが、私たちは自然の力を体の中に入れることで健康を維持・向上させたいという考えのもと、事業化に踏み切りました。

長年の研究を経て、栄養素としてのNMNを手軽に取り入れることを可能にしたサプリメント「NADaltus® 」。

山名さんのお話を伺っていると、歳を取ったら病気になって入院をするという、多くの人が持っているであろう固定概念が覆され、人が100歳を超えても健康に生きられる可能性を想像できる気がしてきます。そのようなメッセージを意識して研究や発信をされているのでしょうか?

山名:そうですね。日々僕らが受け取る情報やメディアが発信する情報にはネガティブなものが多い印象がありますが、一方で、プロアスリートの選手寿命が伸びていたり、80歳を超えても毎日元気に運動をしている方もいらっしゃるので、明るくポジティブなニュースにも注目していきたいと思っています。また、「サイエンスは難しい」「面倒くさい」と思っている方が非常に多い気がしていますので、サイエンスのエッセンスを楽しく届けたい気持ちもあります。そもそもサイエンスの語源は「知識」で、特別なものではありませんから、健康についても身近に楽しみながら知ってほしいと思っています。

たしかに、サイエンスというと研究者や病院の先生だけが扱うイメージがあって、距離を置いてしまっている人も多いかもしれません。身近に感じるためには、具体的にどのようなアプローチが考えられますか?

山名:やはりまずは面白がることが大事なので、日常生活の中で「なんでそうなっているんだろう?」と疑問を持ってもらうところが起点になると思います。弊社では、「健康寿命」を延ばすために役立つ情報を発信するメディアとして『LIFE IS LONG JOURNAL』を運営しており、この10月からは、身近な事例で科学を学ぶ新規コンテンツ『イノチのカガク』の公開もスタートしました。

『イノチのカガク』は、かわいいイラストとともに科学に関するさまざまな解説がされていてとても面白そうです。

山名:このコンテンツには実在する研究者やサイエンスライターが登場し、その中に私もいます(笑)。たとえば、「どうして私たちは息をして、食べ物を食べないと動けないのか」といったテーマについて、科学的に最先端で正しい内容を、子どもが読むものと大人が読むものに分けて解説していて、会話やイラストを追っていくうちにいつの間にか理解が深まるサイトになっています。半分遊びのようなもので会社の売上には直結しないのですが、こういったコンテンツをきっかけに子どもたちがサイエンスを楽しんだり、大人たちがサイエンスに触れ直すことができたらいいなと思っています。

身近な事例で科学を学ぶスペシャルコンテンツ『イノチのカガク』。

三宅 紘一郎
企業は次世代に何を残せますか?

市場がないがゆえになかなかビジネス化できない領域にこそ、社会において大切なものがあると社会起業家の方々と話すことが多々あり、『イノチのカガク』のお話には大変共感しました。山名さんはサイエンスを事業として社会実装していく上で、どのようなことを大切にしていますか?

山名:サイエンスと同じくらい、人類がこれまでに培ってきた知識も大切だと思っています。おばあちゃんの知恵袋や、具合が悪い時に氷枕やお粥を用意してくれるお母さんの看病などを「サイエンスじゃないから価値がない」「サイエンスと一緒にされては困る」と退ける人も多いのですが、たとえばコロナ禍の初期のようにワクチンも治療薬もない状況では、マスクを着用するなど人類の知識・知恵の中から行動を選択するしかありませんでしたよね。ほかの例で言えば、白血病にかかるとほとんど人が亡くなっていた一昔前と比べて、現代はその原因を分子レベルまで突き止めて取り除くことができるようになりましたが、そもそも全員が白血病になるわけではありません。一方で、老化に伴う病気にはほとんどの人がかかるので、一部の天才科学者が特定の病気を治すことと同じくらい、私たち一般人が日頃からできる健康法が色々あると思うんです。「サイエンスではないけど価値があるもの」とサイエンスの接点が、僕は重要だと思っています。

すごく面白いお話ですね。

山名:今年のノーベル物理学賞の受賞者は、地球温暖化と二酸化炭素の関係について研究したプリンストン大学上席研究員の真鍋淑郎さんでしたが、研究が始まった当初は誰も注目していなかったんですよね。新しい領域や世界をつくる人は「そんなのサイエンスじゃない」という声に晒されているはずですし、最先端の科学はサイエンスとサイエンスでないものの接点にあるのではないかとも思えてきます。だからこそ、サイエンスを社会実装するような僕らのような立場はその両方を見ることが大事で、「いい加減なことを言うな」と言われることを恐れていたら何もできません。

「健康寿命」を延ばすために役立つ情報を発信するメディア『LIFE IS LONG JOURNAL』。

ブランドをつくる上でもとても大切なお話です。後になって「やっぱり正しかったんだね」と言われるブランドや事業には大きな価値があると思いますし、山名さんがNOMONでいまやられていることが、未来では当たり前のことになっているかもしれませんよね。先ほどご説明いただいた「わさびスルフォラファン™」についても、すりおろした瞬間にしか出ない成分があるということに驚きましたが、それはもしかしたら未来の当たり前であり、過去の当たり前だったのかもしれません。

山名:そうですね。わさびは温故知新の典型で、わさびは昔、すった後に醤油にはつけず、そのまま食していましたが、あれは成分を維持するためにも正しいんです。そのように、昔から人が経験上良いと思って続けてきたものにはやはり価値があるのだと思いますし、それをサイエンスで紐解くことは非常に面白い作業ですね。

サイエンスの力で商品を体により良いものにアップデートしていくことは、私たちナオライのお酒である「浄酎」でも取り組みたいなと思っています。一方で、現状の日本酒業界はどれだけたくさん売るかが勝負になっている世界でもあり、時間をかけて醸す伝統的な酒造りが衰退していってしまう危機感があります。

山名:私も三宅さんも経営者ですから、事業を続けるためにも売上を立てなければいけないわけですが、次世代の子どもたちが暮らす社会に何を残せるかという話と、どれだけ売ったのかという話は全然関係ない。そう思いませんか?

本当にそうですね。将来評価され得ることにいまから取り組むことこそが業界や社会のためにも大切なことであり、ひいては「自然から感謝される企業」であるための鍵となるかもしれません。

山名:だから収益性だけでなく、「次世代に何が残せるか」「いまの人たちにどういう価値を提供できるか」を軸に事業をする人たちがいても良いんじゃないでしょうか。売上は確保しつつ、同じ未来を共有する仲間やパートナーたちとともに文化をつくり、一緒に成長していきたいと思っています。

運動習慣のない中高年の認知機能の一部である判断力や注意力を向上させる機能を持つ本わさび由来の「6-メチルスルフィニルヘキシルイソチオシアネート」が含まれた「WASAbis」。

三宅 紘一郎
未来のライフスタイルをどう描いていますか?

NOMONの商品を見ていると、未来の人は何を食べてどういう飲酒行為をしているのか気になってきます。山名さんは未来に生きる人々のライフスタイルをどこまで想像されながら事業を営まれているのでしょうか?

山名:多くのSF作品が、未来の世界を味気ないものとして描いていますよね。美味しい料理はなくなり、体に必要なものだけを機能的に取り入れる世界です。しかし、それではつまらないですよね。フィジカルは満たされても、メンタルは満たされないかもしれません。サプリメントを販売している私が言うのはおかしいかもしれませんが、普段食べている食事だけで必要な栄養素を取り入れられる社会がおそらく一番良いと思っています。弊社がカプセルで売っている「NMN」が、ひとかけらのブロッコリーを食べるだけで摂取できるならその方が良いはずです。まだ現在の科学ではそれができないので、間を埋める手段としてサプリメントや薬は必要だと思いますが、美味しい料理やお酒を楽しむ気持ちはなくならないのではないでしょうか。同時に、楽して健康になりたいという心理も変わらないはずですから、楽しむための食事も万能な薬も両方存在しているんじゃないかなと想像しています。

山名さんが共著で出された『老化はこうして制御する 「100年ライフ」のサイエンス』には、「人は今よりももっと上手に老化と付き合って100年ライフを過ごしている」と書かれています。一方で、地球全体で見ると未だかつてないほど人口が増え、地球や自然環境に対して明らかに人が優位な状況が生まれてしまっていると感じます。これからの人は、自然界においてどのように生きていけば良いのでしょうか?

山名:なかなか面白い質問ですね。統計学的には、生活水準が高まると人口の増加は収まるので、いずれは人口の増加も落ち着いてくるとは思います。それでも地球において人が優位な種であることはたしかですが、それは必ずしも悪いことではないのではないでしょうか。むしろ、良いことをすれば人数の分だけそのエネルギーは大きくなるわけですから、課題解決にも繋がるはずです。いまは環境破壊が問題だということにみんなが気づいていて、全体としては良い方へ変えていこうとしているわけなので、そのエネルギーは生かされていくと思います。問題は、何が社会の課題なのかをちゃんと理解できない、受け止められない人が出てくることなので、教育などを通じてみんながしっかりと知識を持つことが大事ですね。

樂木宏実 監修『老化はこうして制御する 「100年ライフ」のサイエンス』(2020年/日経BP)

なるほど。まさにサイエンスの語源である「知識」を持つことの大切さが、今日のインタビューを通じてわかりました。

山名:思い込まないことが大事だと思うんです。「絶対これはこうなんだ」と思い込むと何でも間違った方向に行ってしまうので、「本当にそうなんだっけ?」「なんでこうなってるんだっけ?」と言えるようにしておくのが大切ですね。たとえば、紙のストローを使ったり、海岸のゴミ拾いに行くことって、量だけを見たらあまり意味がないと感じてしまうかもしれませんが、それが環境のことを考えるきっかけになるわけじゃないですか。健康法にしても、ひとつ試して効果がなかったからといって無意味だったわけではなくて、それをきっかけに全体を見直すことができるはずなので、小さな行動をバカにしない文化が育まれると良いと思っています。

一人のワンアクションをバカにせずに周りの人がサイエンス的視点を持って応援することで、すごい発明が生まれていく。そんな社会であってほしいですね。明るい未来が想像できるインタビューとなり、私も仲間やパートナー、そしてお客様と未来を共有できるブランドをつくっていきたいと思いました。本日はありがとうございました。

山名:三宅さんの活動には僕自身もすごく影響を受けていて、その思いにとても共感しています。このインタビュー企画も素晴らしいと思うので、こうやっていろんな仲間が繋がっていけたらとても素敵ですね。頑張ってください。


インタビューを終えて

山名さんのお話を通じて、サイエンスというものをとても身近に感じました。言動に一貫性がある方で、『LIFE IS LONG JOURNAL』や『イノチのカガク』でサイエンスについて発信されながら、おばあちゃんの知恵袋にも目を向けて常にフラットに話されるその姿勢に、「ブランド」と「人間性」がイコールになる企業のあり方を学びました。
また、「自然から感謝されるメーカー」であるためには、「どんな未来になったらいいか」をまず考えて、それをしっかりと伝え、協力者や仲間をつくっていくことが大事だと思いました。人が増え過ぎた世界について、私はこれまでネガティブなことばかり考えていましたが、良いことをする人が増えれば地球もどんどん良くなるという山名さんの視点から、非常にポジティブな未来をイメージできたのは大きかったです。
「どうしたら感謝される人になれるか」という反省的な思考だけではなく、「人ってこんなに面白いことができるんだよ」とポジティブなメッセージも伝えていくことで、同じ未来を共有する人とのつながりやコミュニティが生まれ、社会や自然に対して良いことをする人を増やしていけるメーカー・ブランドになれるかもしれないと感じました。ワンアクションをバカにせずに、一緒に楽しんで考えていく企業のあり方を実践していきたいと思います。