MENUCLOSE

「問い」をカタチにするインタビューメディア

地域と関わる

ITONAMI(旧EVERY DENIM)共同代表・山脇耀平さんが聞きたい、「顧客と一緒に地域ブランドを育てる方法」

ITONAMI(旧・EVERY DENIM)共同代表・山脇耀平さんに聞く、
「愛することを覚えるためのプロジェクトづくり」

当初掲げた問い「顧客と一緒に地域ブランドを育てる方法」を、「デニムブランドが考える、愛することの覚え方」に変更し、ライターのあかしゆかさんとともに二人三脚でインタビューを続けてきたITONAMIの山脇耀平さん。対話を続ける中でモノを愛することの輪郭をつかむことができたという山脇さんは、カンバセーションズでの取り組みの成果物についてどのような構想を持っているのでしょうか? これまでの取り組みを振り返ってもらうとともに、今後の目標やそれに向けたプロセスについても語って頂きました。

まずはITONAMIの近況を教えて下さい。

山脇:ITONAMIでは、個人から回収したデニムを再生して製品化する「FUKKOKU」というプロジェクトを昨年から展開してきました。現在、回収したデニムからつくった生地でオリジナルの製品やコラボレーションアイテムなどを製造している段階で、来春には大きな販売の機会を設ける予定です。また、DENIM HOSTEL floatの方はこの冬で3周年を迎えたのですが、多くの方にお越し頂き、だいぶ地域に根づいてきている実感があります。

以前のインタビューで語ってくれた「地域にとって大切な存在になる」という目標は、実現されつつあるようですね。

山脇:そうですね。最近では、倉敷市とともにデニム産業を盛り上げるイベントを企画したり、移住者や2拠点生活者を増やすための岡山県の取り組みに参加したりしています。こうした行政のイベントに誘って頂けていることは、地域に根ざすということがある程度実現できている証だとポジティブに捉えています。一方で、宿泊業を始めた動機のひとつである、児島のデニム産業を知ってもらうという点では、宿泊者をものづくりの現場にお連れするようなところまでには至ってないのが現状です。ただ、最近はデニム工場で働いている方々にfloatで食事をして頂くようなこともあり、つくり手と消費者をつないでいくために少しずつ歩みを進めています。

コロナ禍によって地域での活動に変化はありましたか?

山脇:もともと僕たちは、地域の事業者や近隣のお店ともっと手を組んで、街や地域を盛り上げていきたいと考えていました。ただ、この数年間はイベントなどハレの日をつくるようなことが難しかったこともあり、デニムの販売や宿泊業を淡々と続けてきました。児島を訪れる人たちの入口のような存在になることが地域における自分たちの役割のひとつだと思っているので、その点では思い描いていたような活動ができているかなと。

「地域において大切な存在になること」とともに、「顧客に長く愛される製品を届けること」もITONAMIの大きなテーマですよね。カンバセーションズでは、「デニムブランドが考える、愛することの覚え方」という問いのもとでインタビューを続けてきましたが、現時点で答えはどの程度見えていますか?

山脇:インタビューをすればするほどわからなくなってきたというのが正直なところかもしれません(笑)。もともとこの問いの背景には、長く愛着を持てるモノがあることが人生を豊かにしてくれるのではないかという価値観がありました。そして、インタビューを重ねていく中で、モノを愛するという現象の輪郭はだいぶつかめてきた感覚があります。人はどんな気落ちでモノと出会うのがいいのか、つくり手側はどのようにモノを届けるのが理想なのかという点について色々学びがありました。一方で、僕らの製品を手にしてくれた人たちに対して、どのような働きかけをすれば愛着が持続するのか、大事にしてもらえ続けるのかというところの明確な答えは得られておらず、いまも考え続けているところです。

2022年にDENIM HOSTEL floatでスタートしたアウトドアサウナ「浮サウナ」。エストニアから輸入したバレルサウナからは、​瀬戸内海が一望できる。

山脇さんの問いを変更するきっかけをつくり、その後もインタビューに伴走してくれたあかしさんの存在も大きかったように思います。

山脇:そうですね。あかしさんはブランドの外側にいる人たちの中で僕らのことを最も理解してくれている存在で、どんな人に話を聞くのがいいのかということから、具体的な質問事項に至るまで一緒に考えてくれました。僕らは、一人ひとりのお客さんにとってブランドとしてどうあるべきか、どうやって製品のプレゼンテーションをしていくのがいいのかということを常に試行錯誤しながら発信を続けてきましたが、どうしても受け手側の気持ちになりきることは難しいんですね。あかしさんが消費者の代弁者として、客観的に意見してくれたことはとてもありがたかったですね。

「ラブビギナーズ」という言葉も生まれましたが、「愛することの覚え方」という問いをあかしさん自身が自分ごと化できていた点も非常に良かったのではないかと感じました。

山脇:そうですね。最初にお誘いした時点では自分でも気づいていなかったのですが、実はあかしさんが、僕らの思いを届けたい対象のペルソナだったんですよね。あかしさん自身、昨年児島に本屋をオープンして、いまはお店が子どものように愛を注ぐ対象になっているようなのですが、愛することのきっかけのようなものを彼女自身もつかみ始めているのかもしれないですね。

山脇さんの伴走者としてプロジェクトに参加したあかしさんが2021年にオープンした本屋「aru」。

今回はものづくりという大きなテーマのもと、ITONAMIの他にも2組のインタビュアーたちがそれぞれの問いを探求してきましたが、同期メンバーの存在についてはいかがでしたか?

山脇:まずCIALに関しては、デザイナーという立場から地域や対象と真摯に向き合おうとする姿が勉強になりましたし、彼らのようなスタンスのデザイナーが増えてほしいと強く思います。また、ナオライの三宅さんについては、自分たちよりもクリアに未来を描き、そのためにいますべきことを明確にして動かれていることがとても印象的でした。それぞれ取り組んでいることは異なりますが、ものづくりの基本的な考え方や地域との向き合い方には近いものを感じましたし、同期のメンバーたちを見ながら、自分たちももう少し大きなスケールで物事を描いていきたいと思うようになりました。

カンバセーションズでの取り組みの成果物として現時点で思い描いているものがあれば聞かせてください。

山脇:問いに対する明快な答えというのはなかなか見えてこないかもしれませんが、たとえ100%の答えではなくても、小さな実験の機会を設けることでその時なりの答えが見えてくるだろうと思っています。少し前までは、自分たちの製品を手に取ってくれる人たちのコミュニティをつくり、愛着というものがどのように変化していくのかということについて見ていきたいと考えていたのですが、これにはコミュニティの主体性が不可欠です。どこまで前向きに楽しんで参加してもらえる場をつくれるのかというところに自信が持てず、なかなかスタートのタイミングを見つけられずにいました。そんな折に、自分がゼミに関わらせてもらってきた某大学の研究室で、カンバセーションズでの取り組みに関心を持ってくれる学生と出会ったんです。これまでカンバセーションズで追求してきたテーマについて、そのゼミの人たちと一緒に継続的に考えていける場をつくっていけないかという話をいままさに進めているところです。

以前に山脇さんが大学のゼミで講義をした際の様子。

そうした活動の一環で、ITONAMIの顧客やこのプロジェクトに興味を持ってくれている消費者の方たちが関われる機会もつくれると良さそうですね。

山脇:そうですね。道のりは長くなるかもしれませんが、僕らとしてはいずれ自分たちが展開するサービスやプログラムのβ版をつくる意識で取り組んでいきたいと考えています。これまでに自分たちは、「服のたね」や「fukuen」、「FUKKOKU」など消費者の方たちに服づくりの工程に関わってもらうためのプログラムを実施してきました。一方で、製品を手に取ってくれた先のプロセスに関わるプロジェクトやプログラムはまだつくれていないですし、周りも見回しても先行事例があまりないように感じています。だからこそ、なんとかして自分たちでこのプロジェクトを形にしていきたいという思いが強いです。それが、ものづくりをする企業としての責任を果たすことにもなりますし、先ほど話した人生の豊かさにもつながるはずだと思っています。

今後の展開を楽しみにしています。

山脇::ありがとうございます。いまお話ししたゼミの学生もまさにそうなのですが、カンバセーションズに参加することで、自分たちが掲げる「問い」に興味関心を持ち、同じ問いについて考えてくれる人が増えた感覚があり、それはとても面白いなと感じました。また、こうしたひとつの「問い」について1年以上考え続けることは簡単なことではないですし、抽象度が高い「問い」ほど忙しい日々の中でいつの間にか忘れてしまうようなことも多いと思うんですね。カンバセーションズというメディアがあるからこそこの問いについて考え続けることができましたし、それは本当に感謝しています。

2022年8月に東京で開催されたデニム回収再生プロジェクト「FUKKOKU」のイベントの様子。

カンバセーションズに参加して

カンバセーションズでの取り組みをスタートした時期は、ちょうど私自身がどうすれば上手くモノを愛せるのかということを考えていた時期でした。革製のお財布を大切に使ったり、毎日水をあげて植物を育てたり、ひとつのモノを大事にするということを始めたばかりで、私自身がまさに「ラブビギナーズ」だったんです。
鈴木晶先生にインタビューした際に伺った、「愛する対象にまで自分が拡張していく」という話がとても印象に残っていて、いまも時折思い出します。昨年、岡山でaruという本屋さんを始めた当初は、自分の所有物であるお店そのものが、愛を注ぐ対象でした。でも、それから1年半ほどが経ち、お店が色々な人に愛されていったり、顔が見えるお客さんが増えていくことで、「この人たちのためにこういうお店にしていきたい」と思うようになりました。愛を注ぐ対象がお店という空間から、お店を通じてつながるさまざまな関係性へと派生し、どんどん愛の対象が広がっていったんです。
何かを大事にすることで自分自身も大事にされる感覚を持てたり、誰かを愛することによって幸せがどんどん広がっていくと感じられるようになったのは、この1年における私自身の大きな変化であり、少なからずカンバセーションズでの経験が影響しているのだと思います。(ライター・あかしゆか)