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「問い」をカタチにするインタビューメディア

地域と関わる

ITONAMI(旧EVERY DENIM)共同代表・山脇耀平さんが聞きたい、「顧客と一緒に地域ブランドを育てる方法」

ITONAMI(旧・EVERY DENIM)共同代表・山脇耀平さんが、
企業のサービスを育てる人たちに聞く、
「製品を愛してもらうために、企業側ができることは?」

「デニムブランドが考える、“愛すること”の覚え方」という問いを掲げ、インタビューを進めているデニムブランド・ITONAMIの山脇耀平さん。継続的なインタビューを通じてこの問いを深め、最終的なアウトプットとして新しいプロジェクトを生み出すことを目指します。前回の鈴木晶先生への取材では、人が愛を覚えるために必要な要素について気づきを得た山脇さん。次は、「自社の製品を愛してもらうために、企業側から個人にアプローチできること」を考えるべく、企業でサービスの成長や育成に携わる株式会社SmartHRの大久保 志朗さん、note株式会社のディレクター・平野太一さんにお話を聞くことにしました。

Text:あかしゆか

山脇耀平
どのようにモノを愛しますか?

今日はおふたりと、「自社の製品を長く愛してもらうために、企業側から個人にアプローチできること」について一緒に考えていきたくて。本題に入る前に、ふたりの個人的な「モノの愛し方」の特徴について教えてもらえますか?

大久保:僕は、一度好きになったモノを長く使い続けるタイプですね。モノも人も、どちらかというと長い付き合いが多いです。モノに宿る思想やバリューに共感して好きになることももちろんありますが、酔っ払っている時に友達と一緒にノリで買った謎の500円の雑貨を長く使ったりと、モノを手にした時のエピソードを含めて愛することもあります。いろんな入り口の愛し方があるので、家にはモノがとても多くて、全然捨てられないです(笑)。

インタビュアーを務めるITONAMIの山脇耀平さん。

平野:大久保さんと僕は長い付き合いなんですが、たしかに大久保さんって、大学時代の友達とも飲みに行ったりしていますもんね。僕、それがほとんどないんですよ。良くも悪くも、新しいものや自分にないものを求めがちなので、自分がすでに持っているものや自分と似た人とは、次第に離れていっちゃいます。

大久保:たしかにそうですよね。でも、平野くんはモノを長く使ってるイメージがあるけどなぁ。

平野:事前に調べ尽くしてから買うので、それを超えるモノがなかなか出てこないんですよ。デザインとか形とか機能とか、そのモノに対するこだわりを感じる瞬間がとても好きです。

インタビューに答えてくれた株式会社SmartHRの大久保 志朗さん。

最近だと、どんなモノを長く使っていますか?

平野:objcts.ioというレザーブランドのバックパックや、「ほぼ日」と水沢ダウンがコラボしてつくったダウンなどは、3~5年使っています。これを超えるものを常に探し続けているんですけど、今のところこれ以上がないんです。

大久保:「これを超えるものはない」と思える基準って、機能なのか、ビジョンなのか、はたまた企業側のサポートなのか、企業が生み出すコミュニティみたいなものなのか……。いろいろポイントがあると思うけれど、どういう点を重視してるんですか?

平野:僕にとってはあんまりコミュニティとかは関係なくて。デザインとか形とか、細かいところまで気を配っているなぁっていう、ものづくりに対して尊敬の念を抱けることが一番大事ですね。objcts.ioのバックの何が好きかって、内側の間仕切りのところがぴったりKindleが入るサイズになっていたり、細部にまでこだわりが宿っているところなんです。つくっている人が知り合いなので、「この人がつくってるんだったら間違いないだろう」といった安心感を抱いているのもあると思いますが。

同じくインタビューに答えてくれたnote株式会社の平野太一さん。

なるほどなぁ。おもしろい。

平野:この間、ローランドさんのYouTubeを見ていたんですけど、「僕は同じジャンルのモノは2つ以上買わない」と言っていたんです。たとえば、スーツは1着だし、スニーカーも1足だけ。その理由は、「2つ以上買っちゃうと、その中で順位をつけてしまうから」だと。「僕は自分にとっての1位のモノしか買わない」と言ってて、すごくかっこいいなと思いましたね(笑)。

常に全力というか、一点主義みたいな感じなんですね。

山脇耀平
企業側の努力は、ユーザーの「愛」に影響を与えますか?

モノの愛し方って人それぞれ全く違うと思うんですけど、企業側が「愛させてくれた」というか、「企業側のこういうアクションがあったから、このプロダクトは長く使い続けられている」ものってありますか?

平野:僕は、自分の好きなモノやサービスをつくっている人が、定期的に発信してくれると愛着が増すかもしれません。最近K-POPが好きなんですけど、K-POPのグループって、2、3ヶ月ごとに定期的に新曲を出すんですよ。なんでかなと考えたら、それってやっぱり忘れられないようにするためなのかなと思うんです。

大久保:「アップデートがある」「近況がわかる」ことが愛着につながるという点はすごく共感します。僕も、自分が好きなものって、つくり手の方が定期的に手紙を送ってくれたり、「最近どうですか?」みたいな感じでSNSで連絡をくれたりすることが多い。直接やりとりしなくても、SNSでその人のアカウントをフォローして頻繁に更新されていたら、やっぱりブランドの良さが伝わって素敵だなと思いますね。その点では、山脇さんがつくっていて、僕も愛用しているITONAMIのデニムも当てはまると思います。

このインタビューの後、ITONAMIが運営する「DENIM HOSTEL float」による新しいコミュニティ「offloat」がスタートすることが発表された。

つくり手側からのアクションはたしかに大切ですよね。では、つくり手ではなくて、他のユーザーの使い方などを見て、気持ちが盛り上がることはありますか?

平野:うーん。多分、世の中の多くの人は、他のユーザーの「使い方の事例」みたいなものを求めているように思います。けど、僕はそういうの全然興味ないですね(笑)。自分で考えるのがとにかく好きなので。ファッションでも自分なりのコーディネートを考えたいし、サービスでもそう。たとえば、僕はNotionというサービスが好きなんですが、その理由は、自由度が高いからなんです。なんでも自分でつくりたいようにつくれるものが好きで、人のテンプレートを使うと窮屈な感じがしちゃうんですよ。

あぁ、なるほど。

平野:自分が気に入ったものをいろんな人にオススメするんですが、その時に高確率で言われるのは、「平野さんにオススメされたものは、どうやって使ったらいいか分からない」ということ。たしかにそれも理解できるんです。真っ白なキャンパスを「はい、どうぞ」って渡されても、どこからどう手をつけていいのかわからない。だから、noteではお題企画や、コンテストを開催することで投稿テーマのヒントを提示したり、アイキャッチに使える画像を提供するなど、なるべくクリエイターが投稿しやすい状況をつくっています。こちらからある程度絞ったテーマを提案する方が、投稿しやすいとクリエイターに感じてもらえることが多く、結果的にサービスを愛してもらいやすくなるんだろうなと思いますね。

noteでは、「#リモートワークの実態」「#業界あるある」「#部活の思い出」「#SDGsへの向き合い方」などさまざまなお題にもとづいた投稿を募集している。

山脇耀平
自分自身で愛せる人と、サポートが必要な人の違いは何ですか?

真っ白なキャンバスの方が愛せる人と、ある程度サポートがあった方が愛しやすい人。両者の分岐点ってどこにあるのでしょうか?

平野:うーん。そのサービスやプロダクトを通して何かやりたいことがある人にとっては、ある程度使い方が見えた方がわかりやすいんだろうなと思います。たとえば、Notionを例に挙げて話すと、僕はサービス自体が好きなので、それを使っていろいろ試すこと自体が好きなんです。「どうやって使おうかな」と考える時間そのものが楽しいと思える。でも、「読書記録をつくりたい」とか「日記を書きたい」みたいに目的があってNotionを使う人は、その目的を達成するためにサービスを使うから、いろいろ試すのが面倒くさくなっちゃうんだろうなって。

大久保:なるほどなぁ。僕は「PARK」というSmartHRのユーザーコミュニティを運営しているんですけど、コミュニティに参加している人たちを見ていても、目的って人それぞれなんだなと思いますね。コミュニティに参加する理由が「他社ユーザーによるSmartHRのカスタマイズ方法を知りたい」という具体的な人もいれば、「同じ人事・労務同士で情報交換したり、横の繋がりがほしい」という人もいる。目的の違いによって、サービスや場所に対するスタンスは変わりますよね。SmartHRのコミュニティは各参加者のニーズに広く対応できるような設計にしています。極論、別にSmartHRのプロダクトの話をしなくてもいいと思っています。

SmartHRのユーザーコミュニティ「PARK」では、オンライン/オフラインの双方でさまざまなイベントを開催している。

おもしろい。どうしてそういう風にしているんですか?

大久保:コミュニティ運営において、“Don't sell to the community, sell through the community”という考え方があって、これをベースに場づくりしているからですね。これは、AWSのコミュニティを運営していた小島英揮さんの本『ビジネスも人生もグロースさせる コミュニティマーケティング』に書かれている言葉。コミュニティの人たちに直接サービスを売ろうとするのではなく、コミュニティの人たちが本当に喜ぶものを提供し続けて、参加している人たちが結果的にサービスの価値を広めてくれたらいいよねと。だからとにかく、目の前にいるお客さんが何を求めているか、ある意味第三者的な視点に立って、フラットに課題解決をしていくことを心がけていますね。そのため、コミュニティの場では、「この話題やテーマについてしか語ってはいけない」といったルールは設けていませんし、SmartHRの直接的なセールスプロモーションは行っていません。

壮大だなあ……。お客さんの目的や思い、スタンスを一度受け止めることが大切だということですよね。デニムに置き換えて考えてみると、たしかに何も言わずともデニムが育つのを楽しんでくれる人と、こちら側からのサポートがないと飽きてしまう人がいる。そういうのをまるっと受け止めるコミュニティみたいなものをつくってみるのは、ひとつ方法としてあるのかもしれません。

2021年末に開催された「PARK」の忘年会より。

山脇耀平
つくり手やユーザーの「集い」は大切ですか?

衣類のブランドをやっていて難しいなと思うのは、「集まりづらい」ことです。たとえば飲食だったら、「ごはんを食べましょう」という名目で集まりやすいし、食を好きな人同士がそれについて話す時間を一緒に過ごせる。さらにはごはんは食べるとなくなるものだから、何度でも会える。でも、衣類に関しては、お客さんが服を買った後の持続的なコミュニケーションが取りづらくて、そこにはずっと課題を感じてますね。

大久保:山脇さんのプロダクトって長く使うものだから、リペアの部分に定期的なコミュニケーションが生まれるんじゃないですか?

そうなんですけど、本当にみんなリペアが必要になるまで使ってくれているのか? という疑問があります。たくさん使って、ほつれたから直したいですっていうところまで継続して使用してくれることが僕たちとしては理想的なんですけど、多分そこまで使い込んでくれるのは一部の方なんじゃないかなと。だからこそ、ずっと使い続けてもらうためには定期的に、つくり手やお客さん同士が「集う」ことが大切なんじゃないかと思うんです。

大久保:「集う」と聞いて思い出しましたが、数年前に行った、noteのミートアップは楽しかったですね。noteって創作する喜びをつくるサービスじゃないですか。僕はnoteに投稿することが多いのですが、文章と向き合うのって結構孤独な作業なので、同じように一生懸命書いたり、書くことに楽しみを覚えている人たちと話せるのはうれしかった。そこにいた人たちの雰囲気が良かったから、noteの話もするけど、それ以外の話もして。その後、モチベーションが上がってnoteを書く頻度も上がりましたね。

過去に行われたnoteのミートアップイベントの様子。

デニムも、服を着るという行為はすごく個人的なことで、自分とモノの一対一の関係だから、そこを共有する喜びを感じられるといいのかもしれないですね。

平野:ITONAMIのユーザー会みたいなものを定期的に開催するのはどうですか? ただ集まるだけじゃなくて、デニムを使うことの豊かさを感じてもらうために、ちゃんと毎回写真で撮ったりして。写真を撮るという行為があることで、集う理由にもなると思います。

大久保:たしかに、定期的に集まって、それぞれどうデニムを育ててきたかを見せ合う、記録に残すのは面白いですね。2、3回集まったらそれが習慣化してくると思うんですよ。話を聞いていて、ジーンズとSaaSは少し似てるなと思っていて。どちらも売り切りではなくて継続的に使っていくものだし、育てて一緒に良くしていくもの。継続的・定期的に集まれるコミュニティの場があって、そこで価値を見出してもらえたら、きっとその体験が先々その商品を選び続ける理由にもなるだろうし。

いまだけの楽しみじゃなくて、先々も楽しいということを伝えられたらいいな、お客さんと一緒に楽しんでいけたらいいなという気持ちは強くあります。たしかに、「写真を定期的に撮る」といったコンテンツのあるコミュニティだったら、衣類でも集まりやすいのかも。その中で、僕たちのデニムと共に過ごしていく時間が、お客さんにとってかけがえのない特別なものになる瞬間が来たらいいなぁ。もう少し考えてみます。おふたりとも、今日はありがとうございました!

(左上から反時計回りに)SmartHRの大久保さん、noteの平野さん、担当編集・ライターのあかしゆかさん、ITONAMIの山脇さん、カンバセーションズの原田優輝。

インタビューを終えて

大久保さんと平野さん。僕と同世代のお二方ですが、それぞれに自分の信念が貫かれた意見を持っていたのが印象的でした。記事の中にもあるように、デニムを通じて「集う」きっかけをつくることが、永く愛してもらうための鍵になる。ITONAMIにはそれができると背中を押してもらうことができ、自信を持ってユーザーさんたちをお誘いしていくことができそうです。(山脇)

モノそのものを愛する人と、モノを使うことに目的がある人で愛し方が異なる、というのは新しい気付きでした。もしかしたら私は、目的ベースでモノを選んでいたから、愛するのが下手だったのかも? デニムとSaaSが似ているという話もおもしろく、今回のアウトプットとしてのコミュニティの形が見えた気がしました。(ライター・あかし)