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ITONAMI(旧EVERY DENIM)共同代表・山脇耀平さんが聞きたい、「顧客と一緒に地域ブランドを育てる方法」

ITONAMI(旧EVERY DENIM)共同代表・山脇耀平さんによる、「デニムブランドが考える、愛することの覚え方」の中間報告

「デニムブランドが考える、愛することの覚え方」を問いに掲げ、カンバセーションズでインタビューを続けているデニムブランド「ITONAMI」の山脇耀平さん。すでに3組へのインタビューを終えた山脇さんは、これらの対話を通じて何を得ることができたのでしょうか? 先日、カンバセーションズの第3期インタビュアー3組と、各担当編集・ライターの面々が一同に会して行われたオンライン中間報告会で、ライターのあかしゆかさんが山脇さんに行ったインタビューの内容をお届けします。

耀平くんは、「デニムブランドの愛することの覚え方」を問いに掲げてインタビューを続けていますが、まずは改めてこの問いを立てた背景について聞かせてください。

山脇:僕らは創業当初から、デニムをつくって届ける以上は、長く愛着を持って頂きたいという思いを持っています。そして、一ブランドとして製品を販売した後にできることはあるのか、ということをずっと考えてきたのですが、なかなか具体的な提案ができずにいました。実は僕自身、学生時代はひとつのモノを愛着を持って長く使うようなことはあまりなく、次から次へと消費を続けていたのですが、ブランドを立ち上げてから思いが変わりました。愛着を持ってデニムと長く一緒に過ごしていくことによって、生活がより楽しく、豊かになるような体験をつくるにはどうしたらいいのかという問題意識が、今回の問いの着想になっています。

担当編集・ライターのあかしゆかさん。

これまでの取材を順番に振り返っていきたいと思います。まずは、『d design travel』編集長の神藤秀人さんへのインタビューはいかがでしたか?

山脇:この取材では、47都道府県のロングライフデザインとして、長く続いていくデザインを紹介してきた『d design travel』の神藤さんに、長く愛されている物事の特徴を伺い、産業や文化が続いていくためのヒントを探りたいという思いがありました。僕たちは岡山に拠点を置き、瀬戸内地域のデニム産業に携わっていますが、ここで長くものづくりをしていくためには何が必要なのかということを伺いたかったんです。

ITONAMI・山脇耀平さん。

神藤さんにお話を伺った時は、実はまだ現在の問いは立てられていなかったんですよね。

山脇:はい。当時の問いは、「顧客と一緒に地域ブランドを育てる方法」でした。自分たちのアイデンティティとして、地場産業に関わっていることは重要なので、そうした観点からブランドを長く続けていくためにはどうしたらいいのかということを考えていました。そこからあかしさんと対話をする中で、もう少し顧客視点に立った問いに変えることにしたんですよね。問いを再定義し、このプロジェクトを推進してくれているあかしさんには、本当に感謝しています。

そういう意味で神藤さんへのインタビューは、「Vol.0」と言えるものでしたね。続いて、問いを変更してから最初に行った取材についても聞かせてください。

山脇:同じくカンバセーションズにインタビュアーとして参加しているCIALの戸塚佑太くん、TETOTETO Inc.の井上豪希さん、クラフトジンを作っている堀江麗さんの3人に、「愛することの喜び」をテーマに座談会形式でお話を聞きました。この取材では、特定の対象に愛を持って接することができている身近な友人たちに話を聞くことで、今後自分たちがカンバセーションズで何をテーマに取材していったら良いのかということのヒントを探りたいと考えていました。実際に話を伺ってみると、本当に愛する対象を見つけて楽しんでいる人たちだと改めて感じましたし、スタートの段階でこの3人のお話が聞けて良かったですね。

「愛する喜びはどこにある?」をテーマにした座談会より。

この座談会を通じて見えてきた仮説のようなものはありましたか?

山脇:愛における知識の必要性を感じましたね。何かの対象を見つけて長く愛していくためには、前提となる好奇心はもちろんですが、貪欲に知識を得て、自ら実践をするという経験を重ねていくことが大切なのだということを3人から教えてもらいました。

モノを愛することで生きやすくなったという話を聞く中で、何かを愛することは自己肯定感につながるのかもしれないという仮説が自分の中に生まれました。この取材を踏まえて次にお話を聞いたのは、エーリッヒ・フロムの著書『愛するということ』の訳者である鈴木晶先生でした。

山脇:愛するということ』には、愛というのは偶然でも運命でもなく、自分の経験と技術を持って能動的に成し遂げていくものだということが書かれています。フロムはこの本で、愛というのは、相手からの見返りを期待するようなギブ・アンド・テイクの関係の上に成り立つものではなく、まずは自分が与えることが大切なのだということを訴えています。その上で、資本主義社会における等価交換の原則が、「愛する」ことを難しくしていると指摘しています。鈴木先生は、本が出版されてから65年以上が経ち、インターネットやテクノロジーによって人と人のふれあいが希薄になっている現代は、愛にとってますます難しい時代になっていると仰っていましたね。

洋服を愛することは、自分自身を愛することに近いという話もとても印象的でした。

山脇:そうですね。これまで僕は、デニムというのは自分とは別の存在であるペットのように愛でるものだと考えていたところがあったのですが、鈴木先生は、衣類は愛するモノの対象として特殊なもので、自分自身の一部として認識されてきた歴史があると話されていましたよね。愛することがしっかりできている人は、自分の衣類や持ち物などにまで自己を拡張しているという話には大きな気付きがありました。たしかに自分の実体験に照らし合わせてみても、愛が大きくなるほど、自分の持ち物も大切な人も自分自身のように思えるところがあるので、とても納得できました。

鈴木 晶さんへのインタビューより。

これまでの取材を経て、今後はどんな人たちにインタビューをしたいと考えていますか?

山脇:使っていくうちに、自分自身が拡張していくようなモノを提供している人たちに話を聞いてみたいと思っています。手帳などはその良い例だと思っていて、購入したときはどれも同じ状態ですが、使っていくうちにどんどん自分のものになっていく感覚がありますよね。そういう体験を提供しているプロダクトをつくっている人たちにぜひインタビューしたいですね。

最後に、カンバセーションズでのアウトプットについて何かイメージがあれば聞かせてください。

山脇:大まかな方向性として、みんなでデニムを愛する機会のようなものをつくりたいと考えています。例えば、みんなが同じタイミングで新品のデニムを手にして、日々大切にしている記録や感覚をシェアしていくことで、愛する喜びを覚えたり、これまでモノを大事にできていなかった人たちが何か気づきを得られるような場やコミュニティがつくれるといいですね。成果が見えるのはかなり先になりそうですが、ITONAMIのデニムを通じて初めてモノを愛する喜びを覚えたり、モノを長く使うようになるといった変化が生まれるような取り組みにしたいと思っています。