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「問い」をカタチにするインタビューメディア

地域と関わる

ITONAMI(旧EVERY DENIM)共同代表・山脇耀平さんが聞きたい、「顧客と一緒に地域ブランドを育てる方法」

ITONAMI(旧EVERY DENIM)共同代表・山脇耀平さんが、
『d design travel』編集長・神藤秀人さんに聞く、
「『地域愛』と『モノへの愛着』の持ち方」

「デニムブランドが考える、“愛すること”の覚え方」という問いを掲げ、カンバセーションズでインタビューを進めていくデニムブランド・ITONAMIの山脇耀平さん。継続的なインタビューを通じてこの問いを深め、最終的なアウトプットとして新しいプロジェクトを生み出すことを目指します。最初のインタビュー相手として山脇さんが挙げたのは、『d design travel』編集長の神藤秀人さん。47都道府県をひとつずつ丁寧に特集していく同誌の誌面は、まさにその土地を愛し、土地に愛される人たちの物語で彩られています。これからスタートするインタビュー企画のキックオフとなる今回、神藤さんに「地域愛」や「モノへの愛着の持ち方」について伺いました。

Text:あかしゆか

山脇耀平
なぜ「その土地の人」であることが大事なのですか?

神藤さんには昨年の7月に『d design travel』の岡山号で取材して頂きました。その節はありがとうございました。

神藤:こちらこそ、ありがとうございました。

このプロジェクトは、「顧客と一緒に地域ブランドを育てる方法」という問いを掲げてスタートしたんですが、先日あかしさんともお話しして、製品をお客さんに大事にしてもらうブランドのあり方を探りたいということになり、「デニムブランドが考える、“愛すること”の覚え方」と、問いを変更することになりました。神藤さんは日本全国いろんな地域を取材されていて、都道府県ごとに1冊ずつガイドブックをつくっていますが、これはまさに愛がないとできないことだと思うので、今日は神藤さんの「地域愛」みたいなところを、ぜひお聞きできればいいなと思っています。

神藤:わかりました。よろしくお願いします!

まず僕は、『d design travel』が「取材対象者の選定基準」として掲げている5つの要素が、凄く好きなんです。

神藤:おお、ありがとうございます。

ちょっと、読み上げますね。

・その土地らしいこと。
・その土地の大切なメッセージを伝えていること。
・その土地の人がやっていること。
・価格が手頃であること。
・デザインの工夫があること。

これを最初知った時に、もの凄くいいなと思いました。特に、「その土地の人がやっていること」という3つ目のポイントには、編集部の強い意思があるのかなと思っていて。きっと「地域愛」の話にも結びつくと思うので、まずはこの辺のお話をお聞きしてみたいです。

神藤:そうですね。僕はかれこれ『d design travel』の取材で9年くらいあちこちを回っているのですが、最初の頃は、「その土地の人がやってない店を取り上げても良いだろう」と思っていたんですよ。

えっ、そうなんですか!

神藤:はい。たとえば、岐阜県を取材しようと思っていた時に、「愛知の人が岐阜のローカルな場所で素敵な喫茶店をやっている」という情報が入ってきたんですね。でも、そのお店は『d design travel』の方針に従うと、「その土地の人がやっていない」ので、取材対象にはならないんです。

はい、はい。

神藤:僕は当時、それって何でなんだろうと不思議に思っていて。めちゃくちゃかっこいいお店だし、地元の焼き物も使っているし、結構その土地らしくて良いじゃないかと。岐阜のことをとても好きな人だったし。でも、いろんな地域を旅しているうちに、「地元の人がやっていないと説得力がない」ということも一理あるなと思い始めてきたんですよ。

地元の人というのは、移住者も含め、「その土地に住んでいる人」ということですよね。

神藤:そうそう。その土地に住んでいる人だと、たとえば宿を営むにしても、料理の材料を近所のいろんなお店から買い付けるだろうし、布団など部屋のしつらえにしても、その地域のものを集めてくるようになると思うんです。また、地元の人じゃないと行かないような場所も自然に知れたりするはず。その地域に住んでいる人じゃないと、そこまで情報が入ってこなかったり、こだわり切れなかったりする。その土地に住むということはつまり、土地との繋がりがあるということで、それはとても大切なことだと思うようになったんです。

ああ、わかります。

神藤:山脇さんたちも、デニムをつくったりホステルを運営したりする中で、工場をはじめその土地のいろんなお店に行かれるじゃないですか。その関係性も、やっぱり土地にずっといないとつくられなかったものだと思うんですよね。がんばってお手紙なんかを書いて仲良くなることもできると思うんですけど、日々の暮らしの中で、「あいつ、またあそこにいるな」とか、「飲食店で山脇見たぞ」とか、そのくらいまで入り込んで初めて地域への愛着が深まったり、その土地らしさが出てきたりするものなのかなと。「その土地の人がやっている」とは、「その土地に愛されてる人かどうか」とも言い換えられると思います。

「こちらがその土地を愛する」だけではなく、「その土地の人からも愛される」必要があるということですね。それは凄く実感します。

神藤:山脇さんたちって、デニム業界に新しく入っていったわけじゃないですか。でも、デニムの産地に住んで6年間もブランドを続けられている。それって地域を愛し、地域に愛されている証拠だと思うんです。だから、山脇さんにまだお会いする前でしたが、その土地で場所を持ち、ブランドが6年間続いていると聞いた時点で、「きっとこの人たちは、もう『その土地の人』になっているから、取材して大丈夫だ」と安心できたんですね。それが、僕がこのシリーズづくりを8年間続けてきて身についてきた感覚というか。

ああ、ありがとうございます。僕たちは、創業したのが2015年で、しばらく拠点を持たずにやってきたんですけど、2019年に宿泊施設ができたことで、名実ともに児島という場所を拠点にできました。それからは、自分たちの感覚も凄く変わって。以前からお付き合いしていた工場の方ともより親しくなれた感じがしたというか、やっと本当の意味で同じ方向を向けた気がしたというか。やっぱり「仕事と暮らしを一体化する」ということは、その土地に愛着を持つ上でとても大切なことなのかなと、いまの話を聞いていて思いました。

山脇耀平
愛されるブランドの共通点は何ですか?

「その土地の人になる」って、いわば「土地が自分ごとになる」ことじゃないですか。「自分ごとになる」感覚って、地域だけじゃなくて、モノやブランドにもあることなのかなと思うんです。モノって、買った瞬間は愛着は薄いと思うんですけど、使っていくうちにどんどん自分のものになって愛着が湧いていく。神藤さんがいろんな地域で見られてきたブランドやプロダクトで、「これは愛着持っちゃうな」と思ったブランドに共通するものってありますか?

神藤:うーん、なんだろう。たとえば器で言うと、買った直後はまだまだ「自分のもの」という感覚が薄いけど、ちょっと落として傷をつけてしまったりして、そこでようやく自分のものになる感じってあるじゃないですか。デニムに置き換えると、ちょっとすり減ってダメージが出てくる感覚とかに近いのかな。新品すぎると、逆にあまり馴染んでくれない。そういう時に、「定番がある」ということが大事なんじゃないかなと思います。

定番、ですか。

神藤:「これはうちにずっとある商品だ」というものがあれば、もし履き潰しちゃったとしても、また買える。つまり、愛し続けることができますよね。これはブランドだけに限った話じゃなくて、料理屋さんに名物料理がひとつあるとか、名物店主がいるとか、そういうことでもいいと思うんです。定番がなく、いつも新しいものがあるっていう面白さもあると思うんですけど、そうすると「別にその店じゃなくていいや」ってなってしまうかもしれない。愛着は、いつもあるものに生まれるのかもしれませんね。

「長く続いている」ことについてはどう思われますか? 長く続いているって、やっぱり愛されている証拠なのかなと思ったりするのですが。

神藤:僕は、そこに関してはあまりそう思わないんですよ。長く続いてるけど、愛されていなかったり、良くないものあるので。「長く続いてるから良い」というより、「良いものだから愛されて、その結果長く続いてる」といった感覚なのかなと。そこの見極めはちゃんとしたいなと思っていますね。

『d design travel IBARAKI』の誌面より。

山脇耀平
取材をする時は何を大切にしていますか?

さまざまな地域を取材をする時に、神藤さんご自身が気をつけられていることがあれば教えてください。

神藤:「入り込みすぎない」ように気をつけています。取材をしていると、その地域のことが大好きになりますが、僕たちは同じくらい他の地域も旅してきているわけで、どこも同じくらい好きなんですよ。だから、「特別」になりすぎないように気をつけています。いつでも客観的な目線を持って、他の県とある種比べながら取り上げています。

客観的になることのメリットについて、もう少し具体的に教えて頂けますか?

神藤:「本当に良いもの」を見つけて、感動したことだけを読者に届けられることですね。例えば、「お金を出すからこの特集を組んでほしい」と言われたとしても、いろんな地域を見てきて、良いものをたくさん知っているからこそ、本当に取り上げる価値があるかどうかが判断できる。自分の中に判断基準ができるのは、とても良いことだと思います。

山脇耀平
本づくりに関わる前後で、考え方は変わりましたか?

最初に挙げ5つの編集方針の中で、神藤さんご自身が特に好きなものについてもお伺いしたいです。もちろん全部だとは思うんですが。

神藤:そうですね。編集方針に、「取り上げた場所や人とは、発刊後も継続的に交流を持つこと」というものがあるんですけど、これはとても好きです。他のガイドブックとか本にはない関係性なのかなと思って。たまに、テレビで「あの人は今」みたいな特集が組まれているのを見かけますが、『d design travel』は、常に「あの人は今」を気にしている本なんです。もちろんいろんな地域に行って、その地域の知識が得られる喜びもあるんですけど、それよりもその場所や人とずっと繋がっていられることの喜びの方が大きいですし、やりがいも感じられますね。

「関係を築き続ける」ことに重きを置いていることはとても素敵だなと以前から思っていました。僕らもブランドとして、自分たちがつくった製品がすぐに捨てられたり、着られなくなったりするのは凄く悲しいですし、願わくば、愛着が強い状態でずっと関係性を続けられるのが理想だなと考えていたので。

神藤:取材時に買ったITONAMIのワークウェアが部屋のハンガーにかかっているのを見ると、いつもデニム兄弟のことを思い出すんですね。デニムの技術などの知識もそうだけど、それ以上にふたりの顔が浮かんでくる。その愛着は、ずっとこれからも続いていくと思います。

『d design travel OKAYAMA』で紹介されたデニム兄弟。

うれしいです(笑)。お話を聞いていて、1回取材した人とずっと関係を持ち続けるとか、その土地らしさについて考えるとか、『d design travel』の編集方針ってまさに、その土地をちゃんと「愛する」ための指針なんだなと思いました。それに従っていろんな場所を取材していくと、物の見方がとっても変わりそうだなと思ったんですけど、神藤さんは、雑誌づくりに関わる前後で、ご自身の考えや暮らしで変わったことはありますか?

神藤:もう、めちゃくちゃ変わりましたよ。いままではどんなメガネでもよかったけど、鯖江の職人さんがつくっているメガネにこだわるようになったりとか、どこのものでもいいやと思っていた服や靴にしても、出会った方々のものを身に纏うようになったりとか。語れるものが増えたなと思いますね。 

それによって生活自体の幸福度って上がりましたか?

神藤:難しいところですね。前のままで良かったこともあると思うんですよ。ちょっとめんどくさくなったから(笑)。

(笑)。

神藤:でも、ちゃんと選んだものって捨てられないんですよね。逆にどうでも良いものって、簡単に捨てられちゃうから。こういうことって、生活のすべての過程に関わってくる話なのかなって。食べ物に関しても、どんな農家さんがつくっているのかっていう、その過程を知ってた上でいただくからこそ豊かだなと思う。どこでできたのかわからないものを食べていたら、もしそれが美味しくても記憶に残らないというか。そういう意味では、ちゃんと選べていることは幸せです。そういったストーリーを僕たちは本にしている。やりがいのある仕事だなといつも思いますね。

ああ、ますます『d design travel』が好きになりました。今後続いていくインタビューに向けても良いヒントがもらえた気がします。今日はありがとうございました!

(右上から時計回りに)d design travel・神藤さん、ITONAMI・山脇さん、取材に同席したライターのあかしゆかさん。

インタビューを終えて

ある土地に拠点を置いたり、店を始めるということは、その地に愛情を持つということ。愛を持って、せっせと過ごす。地元の人の好きなものを好きになったり、地元の人が当たり前だと思うことに新鮮な魅力を感じたり。愛を持って過ごした結果、いつか地元の人からも、外の人からも、その場所や自分が土地に馴染んでいると認識される時が来る。土地と人が、愛でつながる。神藤さんとの対話を経て、具体的な愛の形が見えたような気がしています。(山脇)

その土地の人とは、その土地に愛されてる人かどうか」という神藤さんの言葉には、ビビッとくるところがありました。私はいま岡山と東京で2拠点生活をしていますが、どうしても、岡山のことを知りきれない自分がいると感じていて、その土地に愛されるためには、まだまだ時間がかかりそうだと思いました。編集方針の5つのポイントは、まさにお店や事業においても当てはめられそうなことで、「愛する」ためのヒントをもらえたような気がします。(ライター・あかし)