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「問い」をカタチにするインタビューメディア

地域と関わる

ITONAMI(旧EVERY DENIM)共同代表・山脇耀平さんが聞きたい、「顧客と一緒に地域ブランドを育てる方法」

ITONAMI(旧EVERY DENIM)共同代表・山脇耀平さんが、
モノを愛するプロフェッショナルたちに聞く、
「愛する喜びはどこにある?」

「デニムブランドが考える、“愛すること”の覚え方」を問いに掲げ、インタビューを進めていくデニムブランド・ITONAMIの山脇耀平さん。継続的なインタビューを通じてこの問いを深め、最終的なアウトプットとして新しいプロジェクトを生み出すことを目指します。「愛することを覚える」ためには、まずは「愛する喜び」を知るところから始める必要があると仮定した山脇さんは、色々な物事を愛している人たちと座談会を行うことに。TETOTETO Inc.の代表を務める食のクリエイティブディレクター・井上豪希さん、クラフトジンの企画やノンアルコール飲料の商品開発などを行っている堀江麗さん、さらに山脇さんと同じくカンバセーションズにインタビュアーとして参加しているCIALの戸塚佑太さんの3者の「愛する喜び」には、果たして共通点はあるのでしょうか?

Text:あかしゆか

山脇耀平
どんな時に愛する喜びを感じますか?

僕はいまでこそ、「モノを長く大切に使いたいし、使ってほしい」と思っているんですけど、学生の頃は全然そんな感じじゃなくて、物欲が凄く強かったんですよ。その根底には、「そのモノが本当に欲しい」というよりは「大人として見られたい」という思いがあって、「大人が持つべきブランドAtoZ」といったカタログを見ては、それを順番に買っていくという感じでした。

戸塚:えぇ、そうなの? 意外。

うん。その頃は買っても買っても満たされずに次のモノが欲しくなって、一つひとつに対して愛着を持てずにいました。

堀江:変わるきっかけは何だったの?

デニムの生産に関わるようになった時に、「一度物欲を我慢して、目の前のひとつのジーンズに向き合ってみよう」と思って。そうしたら使うたびに変化する色や質、どんどん「自分のモノ」になっていく感覚が楽しくて、モノを育てる魅力に気づいて向き合い方が変わりました。みんなは、どういう時に愛する喜びを感じますか?

戸塚:僕は、生活に関わるモノを色々雑多に買うタイプなんですが、それらを使っていく中で、自分にとっての好きなポイントやフェチを見つける瞬間が好き。それを繰り返していく中で段々と自分の好きの輪郭がはっきりしていくから。「好きだから買う」というより、「好きかどうかを探るために買う」ことが多いかな。

山脇さん同様にカンバセーションズ第3期インタビュアーでもあるCIALの戸塚さん。

例えば、最近愛してるものはある?

戸塚:最近だと将棋かな。好きすぎて、木を削って駒をつくり始めた。

井上:ヤバイね(笑)。

戸塚:最初はつくるつもりなんてなかったんだけど、駒のタイポグラフィや、駒をパチンと置いたり、ひっくり返したりする瞬間やその時の手つきの格好良さがめちゃくちゃ好きで。将棋というより駒が好きなんだと気づいて、だったらつくってみようって。実際につくってみると、「駒の表裏の厚さのわずかな違いが、あの気持ちの良い音を生み出しているんだ」と、自分のフェチの裏側がどんどんわかるんです。そういうのがうれしくてたまらない。

戸塚さん自作の将棋の駒。

井上:おもしろいな(笑)。僕はもともと自分の性質としてストーリーやコンセプトが好きだから、好きだと思えるものに出合ったら、歴史を調べまくって「なぜ好きなのだろう?」「どこが好きなのだろう?」と本質を探る癖があります。本質に共感できたモノは、歳を重ねるごとに自分に馴染んでくれるから、ずっと大事にできるしね。

堀江:私はものを愛する時に複数のパターンがあるかも。戸塚さんと同じように、「使っている中で愛着を持てるポイントを見つけていく」パターンもあって、ジンはまさにそれ。もともとお酒は苦手だったけど、「ジンはメディテーションにも相性が良い」という気づきを得た瞬間に凄く好きになって、より知ろうとする中で、どんどん好きが重なっていったの。
でも、自分が日常的に使うモノや身の回りのモノはもっと割り切って向き合っていることが多いかな。「形が好き」とか「自分の舌に合っている」といった条件さえクリアしていれば、背景については知らなかったり共感できていなかったりしても愛せてしまう。自分が生活する上で囲まれているものは割と低いハードルで愛を感じられるな。

クラフトジンの企画やノンアルコール飲料の商品開発などを行う堀江さん。

山脇耀平
愛する喜びを覚えるためには何が必要ですか?

みんな、「フェチ」や「コンセプト」「育てる楽しみ」など、「自分なりの愛する理由」があるんだなぁ。

井上:「自分なりの愛する理由がある」っていうのは、愛することを楽しむためには必要かもね。その理由にオリジナリティがあればあるほど、愛は強くなる。僕は、いいなと思ったものが他の人にあまり知られていなかったりすると、余計に誇らしくなったりするから(笑)。逆に自分にしか見つけられない愛するポイントを探すことすらあるよ。

戸塚:それは相当ストイックですね(笑)。

井上:モノだけでなく、人に置き換えて考えてみてほしいんだけど、やっぱり「自分しか知らない一面」を知ると、相手に対してより結びつきを感じられるじゃない。モノに対しても、自分にしか理解し得ないフェチズムを探しにいくことで、より愛せるようになるんだと思う。

TETOTETO Inc.の代表を務める食のクリエイティブディレクター・井上豪希さん。

たしかに、パートナーからありきたりな褒め方しかしてもらえなかったら悲しいですよね。「私のどこが好きなん?」と聞いた時に、「かわいいから」と言われても……。

堀江:もっと欲しいですよね、それが愛ならば(笑)。でも私は、「自分なりの愛する理由がある」のと同じくらい、「苦手」という感覚にも、愛するためのヒントが隠されている気がするんです。

ほう。

堀江:「苦手」って、裏を返すと「強い興味」でもあると思う。苦手だと思っていたことに対して、自分なりの新しいアプローチを発見したり、自分がすでに持っている価値観の枠組みにうまくはめられたりすると、苦手が一気に「愛」に転じることがあると思うの。
例えば、私は昔、心理学が凄くスピリチュアルで主観的な感じがして嫌いだった。でも、「なんでこんなに嫌いなんだろう」と疑問に思って色々調べてみたら、ちゃんと客観的で科学的な学問だということを知ったり、自分の生き方への活かし方がわかったり、心理学が扱っている「人」というものには自分は興味があると気づけたりして、それ以来心理学が凄く好きになって。苦手なものには、「本来好きなのに、アプローチが間違ってしまっているだけ」のものが含まれていると思う。

井上:たしかに、適切な知識は凄く大切だよね。

堀江さんが企画プロデュースを行うクラフトジン「HOLON」。

戸塚:おもしろいなぁ。最近ぼくは、「“何かを面白がる”とはどういうことなのか」をよく考えていて。愛するって、そのものを面白がることから始まると思うから。

うんうん。

戸塚:考えた結果、面白がるためには、ディテールを知ることが必要なのでは、と思うようになった。ディテールを知るためには観察が必要で、「リサーチ」という言葉があるけど、観察というのは「自分の視点で調べ直す(=re-search)」ということなんじゃないかと思うんです。つまり、自分自身で、繰り返し研究することが必要なのかなって。リサーチをするとディテールが見えてきて、「嫌いだと思っていた部分は実はこういう意味だったんだ」などと理解できるようになって、それが次第に面白くなり、愛につながるんじゃないかなって思う。

山脇耀平
「愛の総量」に違いはありますか? 

僕は、「愛の総量」は人によって違うのではないかと考えているんです。そして、ここにいるみんなは愛の総量が多いんだと思うけど、「総量がとても少ない人」や、もしかしたら「ない人」もいるのかもしれないな、と。愛の総量について、みんなはどう考えますか?

参加メンバーにさまざまな「問い」を投げかけるITONAMI・山脇さん。

戸塚:僕は理想主義的なので、単にいまは気づいていないだけで、何かを愛するポテンシャルは全員にあるんじゃないかなと思います。もちろん、その対象がモノである人もいれば、「名声」や「評価」だという人もいると思う。形は違っても、人それぞれ愛を持てる領域やモノが絶対あると思うし、その総量は変わらないんじゃないかな。

井上:僕も、もともと持っている愛の総量にはあまり違いがないと思うけど、愛するためには「蓄積」が必要なんじゃないかなと。さまざまな人に会って、色々なものをつくってみて、インプットやアウトプットを重ねていくと、愛せる可能性のある母数が増えるので、必然的に愛せるものが増えていく。限られた狭いコミュニティの中だけで生きていると、愛せるものに出合えない可能性は高いよね。

凄くわかります。

井上:だから、いかにさまざまな経験の蓄積をして、「注意を払える量」を増やしていくか。愛の総量って、その注意を払える量にも近いと思うんだよね。例えば、こだわってつくられた醤油は普通の醤油の3~4倍の値段がする。料理人からすれば、その醤油を使えば、料理全体が3~4倍美味しくなることがわかるので、愛する理由になる。でも、料理をしない人や舌が肥えていない人からすると、「なんで醤油にそんなお金をかけるのかわからない」ってなるでしょう? その違いって、経験と知識の蓄積なんです。

戸塚:ああ、わかるなぁ……。

(左上から時計回りに)井上豪希さん、ライターあかしゆかさん、山脇耀平さん、堀江麗さん、戸塚佑太さん。

堀江さんはどう思いますか?

堀江:愛せるポテンシャルはある程度はみんな一緒なのかな、と思います。ただ井上さんが言うように、経験や知識の差によって、入口の有無や大小は変わってくるなって。また、愛に気づいたとしても、その愛に対してのマインドシェアをどのくらい割けるかは状況次第だなとも思います。

と言うと?

堀江:歳を重ねるごとに出会いも増えるし、大切にしたい人も増えていきますよね。旧友や家族に加えて、新しい出会いの中で「いいな」と思う人が増えていく。出会いを繰り返すと、状態によっては愛がパンクしちゃいそうになる時もあるの。みんな好きだし、会いたい。けど、「いまはこういう人たちと一緒にいたい」と愛の矛先を選ぶことも必要だと思う。

井上:あぁ、たしかになぁ。でもそれは、恋愛とか友情とか、人間関係だからこそ当てはまることかもしれないよね。可処分時間や心のシェアはその時々で無限ではないから、コントロールの必要がある。でも、モノに対してはあまり関係ない気もします。

堀江:なるほど。これは、対人間だからなのかな。

井上:人間は、話をしたり、双方向のやりとりが必要ですよね。アガペー的(≒無償の愛)に愛することはなかなか難しくて、相手からの見返りがないとやっぱり苦しくなる。だからこそ、時間が有限のように感じるけど、モノは少し違うよね。(モノは)一方的に与え続けても苦しくないから。

「人とモノでは愛の総量の捉え方が違う」というのはおもしろい視点ですね!

「美しいを瓶詰めにする」をコンセプトにした井上さんの新プロジェクト「nin」。

山脇耀平
愛する喜びを覚えたことで、変化はありましたか?

最後の質問になるのですが、愛する喜びを覚える以前と以後で、考え方や生き方などに変化はありましたか?

井上:一言で言うと、愛する以前と以後では「豊かさ」が違います。愛するモノが増えたことで、色々なディテールが見えるようになって、自分が幸せかどうかを測る尺度が凄く細かくなった。普通に生活をしていても、なぜそれを大切に思うのかが解像度高くわかるから、うれしいよね。

堀江:私は、自分自身の価値観が多様になって、寛容になったと感じます。もともと私は、周囲に対する期待値が高いから、色々なモノに対して勝手なレッテルを貼ってしまいがちなんです。以前は、「その方が楽」「それが自分を守る方法だ」と考えていた節があったと思う。
でも、愛するということは、自分がいままで貼っていたレッテルを剥がしてディテールを知っていく行為でもあって。それは私にとってとても勇気のいることだったけど、その体験はとても気持ちが良かったの。それからは本当に偏見がなくなったな。先に自分の価値観を決めるのではなく、「知ってから、自分としての向き合い方を決めていこう」と思えるようになりました。

みんな素敵だなぁ。僕自身のことを話すと、情報に振り回されなくなったと思う。モノを大事にする、愛するためには「自分なりの選び方の基準」が必要になることが分かったから、「いまはこれが流行っている」「これは買うべきだ」ということを聞いても、惑わされなくなったというか。それによって自分に自信がついた気がする。「自分に必要なものは自分の価値観でちゃんと選べる」という感覚が身についたことは、自己肯定感にもつながったなぁ。

堀江:自己肯定感の話、凄く素敵だね。

回収したデニム製品を、新たなデニム生地に生まれ変わらせるITONAMIのプロジェクト「FUKKOKU」。6月30日までの回収期間に3000本を超えるデニムが集まった。生まれ変わったデニム生地は、ITONAMIの製品や回収拠点との共同企画アイテムなどに使われる予定。

戸塚さんは?

戸塚:僕の好きなジャスパー・モリソンというデザイナーが、とある作品集の中で「Working with historical typologies to keep them fresh and alive」という言葉を書いていたんです。いまを生きている人々は、長い長い歴史の先端で仕事をしていて、その先端をフレッシュでアライブなものにしているのだ、という考え方です。それを知ってから、自分がものをつくる時も、苦しくなりすぎずに済むようになった。
それからはまったく新しいものを生もうとするのではなく、「自分がつくっているものは、歴史の上ではどういった意味を持つのか」ということに注力できるようになりました。愛を持って知識を得る中で、「歴史の中で見るととてもちっぽけだけれど、これまでの人もそういうちっぽけなことを積み重ねてきたんだ」と気づけたというか。好きなものの歴史を知るたびに、生きるのがとても楽になっていくんだよね。

めっちゃ良いね。色んなことを知り、愛する喜びを覚えることは、もしかしたら「生きやすさ」にもつながるのかもしれないなぁ。みなさん、今日はありがとうございました。

みなさまご協力ありがとうございました!

インタビューを終えて

お話を伺って、みなさん率直に愛し方が上手だなぁと思いました。自分なりの愛する理由を持っていたり、物事に対してフラットで好奇心旺盛だったり、ちゃんと知識を携えていたり。それぞれが愛することを楽しんでいらっしゃる。戸塚さんの将棋駒の例では、本質を突き詰めようとする行為の中に備わっている、愛のパワーを教えてもらいました。愛するものを持つ3人の魅力を十二分に感じる機会でした。みんなの実践を体系化できるよう、次のインタビューへと進みます。(山脇)

愛することは知ろうとすることであるという話、知識と経験の蓄積が愛を生むという話、そして、何かを愛することで自己肯定感や存在意義の捉え方が変わって「生きやすくなる」という話など、なるほどと思うことばかりで取材中に何度も膝を打ちました。一方で、今回は「知識」が絶対的な存在として話されていたけれど、中には「知らない方が愛せる」こともあるのではないかな、とも思います(特に人間関係においてはなおさら)。次回のインタビューでは、学術的な視点からもっと考察を深めていければいいなと思いました。(ライター・あかし)