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「問い」をカタチにするインタビューメディア

問いから学ぶ

アート思考カタリスト・若宮和男さんが聞きたい、「日本社会の変化を促す、アートシンキングの可能性」

アート思考カタリスト・若宮和男さんが、
ホルグ代表・加藤年紀さんに聞く、
「地方公務員から変わる日本の未来について」

アート思考をビジネスの現場はもとより、教育や地域創生の領域にも広げていくことをテーマに、ビジネス、アート、教育分野のトップランナーたちにインタビューを続けてきた若宮和男さん。そんな若宮さんが今回話を聞くのは、地方自治体を応援するメディア『Heroes of Local Government(以下、HOLG.jp)』を2016年に立ち上げ、先進的な取り組みを行う地方公務員たちにフォーカスしてきた加藤年紀さんです。書籍『なぜ、彼らは「お役所仕事」を変えられたのか?』の刊行、「地方公務員が本当にすごい!と思う地方公務員アワード(以下、地方公務員アワード)」の開催に加え、自らも生駒市役所の人事改革担当として自治体の業務にも携わるなど、地方行政の現在を内外から見てきた加藤さんに、若宮さんがさまざまな質問を投げかけました。

若宮和男
なぜ地方行政に興味を持ったのですか?

このカンバセーションズのインタビューでは、地域の現場にアート思考を広めるということを当初からテーマのひとつに掲げてきました。いま、日本の地方都市の多くは、街として同じような顔つきをしているように感じているのですが、少子高齢化が進む日本において、今後は都市や自治体にもアート思考の根幹にある「ユニークバリュー」というものが大切になってくると感じています。その中で今日は、地方公務員の存在に光を当てたメディアやアワードを運営する傍ら、自らも自治体の中に入り込んで仕事をしている加藤さんに色々お話しを伺えればと考えています。まずは、加藤さんが地方公務員に着目するようになったきっかけからお聞かせ頂けますか?

加藤:私は新卒でネクストという会社に入り、インドネシアで子会社を立ち上げるにあたって単身現地にわたり、4年ほどを過ごしました。そこで粗雑につくられたボコボコの道路などを見る中で、日本にいた時は意識していなかった行政や公務員の仕事について思いを巡らせるようになったんです。ちょうどその頃、個人の名前を出して活躍されている地方公務員の書籍を目にする機会があり、地方自治体を応援するメディアを立ち上げることになりました。その背景には、評論・評価の対象になりやすい政治に対して、日の目を見る機会が少なかった行政の存在をもっと多くの世代、属性の人たちに知ってもらいたいという思いがありました。

おっしゃるように行政というのはある意味黒子的な存在とも言えますが、なぜそこに惹かれたのでしょうか?

加藤:世の中には、普通の状況をより楽しくするためのサービスはたくさんあって、例えば映画が大好きな人は月に1000円くらい払って動画配信サービスを契約したら、そこそこ楽しく生きていけますよね。一方で、不幸を脱するためのサービスというのはまだまだ不足していると感じますし、普通から幸せになることより、不幸から脱することの方が難易度が高く、しかも儲からないんですよね。つまり民間の組織が取り組みにくい領域なわけですが、そこで一生懸命セーフティネットをつくっている行政がかっこ良く感じられたんですよね。地方自治体の中で素晴らしい成果を出している公務員の取り組みを、多くの人が追随できるレベルまで噛み砕いて紹介していくことで、日本全体がより良くなればいいなという思いから、メディアやアワード、オンラインコミュニティなどを運営しているんです。

アート思考では、自らの偏愛を起点に、他の人が見えていないものを価値化していく「異化」という考え方があります。通常は黒子や透明な存在として見過されている地方行政や公務員を偏愛し、その価値を改めて見出しながらアップデートしていこうとされている加藤さんの取り組みは、ある種の「異化」だと思いますし、これまで見過ごされてきた価値だからこそ、大きな可能性を感じます。

加藤:約4年前にメディアの運営を始めてから、「加藤さんがやっていることは地方創生ですよね」と言われるようになったんです。もちろん広義にはそうした意味合いもありますが、自分にとって地方創生のイメージは、観光や移住のために人を呼びこんだりすることでしたので、あまりしっくりこなかった。というのも、自分は一貫して自治体や公務員の魅力を引き出したり、支援していくことへの興味が強いんです。

若宮和男
優れた公務員は何が違うのですか?

公務員というと、縦割り構造の組織の中でお役所仕事をしている人たちというイメージが強いですが、加藤さんの著書や運営されているアワードに登場する公務員の方たちは、驚くような仕事をされていますよね。そして、彼らの行動様式を見ていると、「偏愛」や「違和感」といったアート思考におけるキーワードが原動力になっているように感じます。

加藤:私の本やアワードに出てくるような新しいチャレンジをしている人たちは、公務員の中では非常に稀な存在です。彼らの中には、上司や同僚から反対されない理由をロジカルに組み立てて壁を突破していく人から、自らの思いや勢いで突っ走り、巻き込む仲間を増やしながら扉をこじ開けていくような人までさまざまなタイプがいますが、共通しているのは、まさにおっしゃるように偏愛や使命感にもとづく力強さを持っていることだと思います。

(左)加藤年紀『なぜ、彼らは「お役所仕事」を変えられたのか?』(2019年 / 学陽書房)、(右)「地方公務員アワード2020」受賞者

僕は、偏愛=いびつさだと思っているのですが、受験をベースとした学校教育の現場や企業という組織構造に身を置くことで、人間なら本来誰もが持っているいびつさを失ってしまう人が少なくありません。いびつさこそが独自の着眼点を生むはずですし、加藤さんが光を当てている公務員の方たちはこうしたいびつさを、プロジェクトにおける「着想」「実行」「継続」というステップを通じて保てているように感じています。

加藤:そうですね。そのステップで言うと、公務員として働く中で「本当はこうした方が良いのではないか?」という着想を得る人はたくさんいるはずなのですが、それを実行に移す段階で止まってしまうケースが多いのだと思います。実行に移す上で必要になる労力や、予想される抵抗などを考えて諦めてしまう人が多く、そのうちアンテナ自体を立てなくなっていく。それによって着想する力が落ちていくという流れができてしまっているように感じています。

自治体の職員は本来優秀な人が多いにもかかわらず、新しいチャレンジをする人がなかなか出てこないのはなぜだとお考えですか?

加藤:多くの地方公務員と接する中で感じていることは、自治体の文化が人の力を削いでしまっているということです。例えば、Googleのような企業に比べて、自治体のヴィジョンやミッションは明快ではないんですね。前者のような企業は、共通のゴールに到達するために各部署が連携し、業務にあたっています。それに対して、多くの自治体は長期的なヴィジョンを持たず、縦割り構造の中でそれぞれが目の前の仕事を作業的にこなしている状況なので、組織としての強みが発揮されにくいんです。また、心理的安全性が確保されていないことも問題です。これもいまの話とつながりますが、目指すべき方針が決まっていないと上司の指示が正義となり、建設的な意見交換もできないんですね。共通の目標を達成するために情報を共有したり、議論をする土壌がないから、若い人間が何かを物申そうとすることへのハードルが非常に高い。この心理的安全性のなさが、がんばろうとする力を削いでしまっていると感じます。

地方自治体を応援するメディア『Heroes of Local Government』。

若宮和男
自治体組織は変われますか?

僕は企業の新規事業のメンターなどをすることもあるのですが、イノベーションを起こすためにはまずは身体、つまり組織自体がしなやかでなければいけないと考えています。同じように自治体においても組織の体質を変えることさえできれば、公務員の力が一気に解き放たれるのではないかという期待感があります。

加藤:そうですね。最近は自治体の首長が変革の姿勢を示し、トップダウンで組織のあり方を変えようとする動きもありますよね。そうすると職員も最初は大変な思いをするのでしょうが、徐々に「こういうことをしても良いんだ」とマインドが変わっていくんですよね。まずは首長が「ユニークネス」を追求し、その姿勢が組織全体に浸透していくということは往々にしてあると思います。

たしかに最近は、コロナ禍において県独自の施策を打ち出したり、自治体独自の色を意識した政策を展開する改革派の首長も目立ちますよね。ただ、政治家である首長には任期があり、トップが変わることで急に方針が転換することも少なくないですよね。だからこそ、政策の実行部隊である自治体の職員が内側から組織を変えていくことも大切だと思うのですが、そこではどんなことが大切になるのでしょうか?

加藤:アート思考的な話からは離れますが、組織内営業力を磨くことが大切です。私はもともと営業出身なので、誰がどんな判断をすればこの案件が進むのかということを実地で学べましたが、公務員にはそういう学びの機会はあまりありません。この能力を高められると、職員個人が少しずつ組織を変えていけるようになるはずで、私の本でもそうした実例を紹介しています。日頃から「こいつが言うなら仕方がない」という信頼を組織内で培いつつ、いつ誰に何を言うのかという的確な判断をしていくことができれば、自分がしたいことが実現できる可能性はかなり高まると思っています。また、少し別の観点になりますが、公務員が個の力を発揮する意義を、外部のメディアなどから伝えてもらうことも大切だと思います。最近はNHKや全国紙などによる「地方公務員アワード」受賞者への取材が増えているんですね。個人の公務員が大きなメディアから取り上げられるようになっている近年の流れも、組織を変えていく後押しになるのではないかと期待しています。

外からの要因で組織が変わるという点では、自治体がアーティストを雇ったり、ひとつのプロジェクトでアーティストと公務員が協働することも有効な手段になり得ると思っているんです。いまアート×地域と言うと芸術祭が思い浮かびますが、アーティストや作品が客寄せパンダ的に一過性のものとして使われることも少なくありません。それだけだと地域に残るものは少ないし、アーティストの力も地域に活かしきれないという思いがあります。地域や自治体における異質の存在としてアーティストが入ってくることで、新しい価値観や行動様式がインストールされ、結果的に地域活性にもつながるという流れがつくれるのではないかと考えています。

加藤:とても面白いですね。自分が関わっている生駒市などでも何かできるかもしれないので、具体的なアイデアがあればぜひご提案頂きたいですね。自分に大きな力はありませんが…(笑)。

若宮和男
地域のコミュニティはどうなりますか?

いま多くの都市や街は本来の独自性を見出せず、どの地域にもある自然や歴史ばかり押し出している印象があります。こうした目に見える資産だけではない地域のユニークネスを掘り出していくことが大切だと感じていますが、この辺りについてはいかがですか?

加藤:今後地域の資産になり得るものは、一人ひとりの市民やそのつながりなのではないかと感じています。この街にはこの人がいるから面白いという事例がもっと増えていいと思うし、そうした市民の個性を活かし、価値が発信できると良いですよね。市民を資産ととらえると、これから先どんな資産を形成していきたいかという考え方のもと、自治体が特定の層に向けた意思表示をすることも増えてくると思うんです。「母(父)になるなら、流山市。」というコピーのもと、共働き子育て世代の誘致を進めてきた流山市は良い例ですし、例えば、「◯◯市は20代の移住を募ります」とか「独居老人にとって最高の街です!」といったメッセージを発する自治体が生まれても良いのかなと(笑)。

例えば、独居老人を募る街は万人向けではないけれど、独居老人に対するある種の「偏愛」があると思うんです。そうした偏愛に基づいたヴィジョンや目的に引き寄せられた人たちが地域のコミュニティを形成していく。そうやって、どんどん街がユニークになっていく。

加藤:そう思います。言い方は良くないですが、これまでの地域のコミュニティには業界団体などの利権がつきまとっていることが多かった。でも、時代は変わり、地域にはいま、もっとゆるくて楽しいコミュニティが求められていると感じます。生駒市の小紫雅史市長は、「市民を単なるお客様扱いせず、まちづくりに汗をかいてもらう」と仰っていて、これは同じ地域に暮らす仲間としていい街や、いいコミュニティを一緒につくっていこうというメッセージなんです。選挙のことを考えると、ずいぶん攻めた発言だなと感じますが(笑)、「ソーシャルキャピタル」という概念が世界で浸透してきている中、市長の発言は日本ではとても先進的です。いまは、経済活動が重視された高度成長期などに比べて地域の活動に関心を持つ人が増えています。だからこそ、自分の志向とマッチし、参加しやすいコミュニティが地域に増えていくことが望ましいと思っています。

オンラインで行われた「地方公務員アワード2020」の表彰式。

僕自身の経験から、コミュニティは常に循環していることが大切だと感じます。そういう意味でも、出身地だけにとらわれず、自分の関心とマッチする自治体や地域が選べることは良いことだと思います。一方で、地方公務員における人材の流動性についてはどう考えていますか?

加藤:私は、基本的に公務員もどんどん流動性を高めるべきだという立場です。それは他の自治体でもいいですし、民間企業へ転職することがあってもいい。その知見を持って再び公務員に戻ることがあってもいいですよね。公務員に限らず、ひとつの仕事から得られる知見は限定的なので、色々な現場で多様な経験をすることが大切だと思っています。

短期的な結果が求められる企業に比べて、長期的な視野から本腰を入れて物事に取り組めることが自治体のひとつの強みだとも感じます。そういう考えからすると、公務員の流動性が高まりすぎることはあまり良くないという意見もありそうですが。

加藤:それで言うと本当に問題なのは転職よりも、職員にとって負荷の大きな異動だと思っています。あまりにも畑違いな部署へ異動するケースが多い。少なくとも、それまでの仕事で培った能力の3~5割くらいは発揮できる環境に異動させるなど、地方公務員が常に、そして、長期的に力を発揮できる環境をつくっていくことが大切なのだと思います。これは異動や配置だけでは解決できないので、組織風土や人事制度の抜本的な刷新がもとめられているのかなと思っています。


インタビューを終えて

「加藤さんへのインタビューを通じて、地方行政においても、長期的な視野から「いま目に見えているものだけではない価値」をいかにとらまえていくかということが大きなテーマなのだと感じました。それはまさに、アート思考の考え方に通じるものです。加藤さんのご著書などを通じて、地方自治体の中にもアート思考的な行動を起こし、素晴らしい成果を出している人たちがいることは知っていましたが、今日お話を伺い、自治体という組織もいま転換期にあるのだなと感じました。インタビュー中に出てきた『20代に特化した街』など、独自の色を持った自治体が増えると、日本は凄く面白くなるだろうなと、とてもワクワクします。そのための触発として、アート思考やアーティストとの協働の機会を増やしていきたいです」