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「問い」をカタチにするインタビューメディア

問いから学ぶ

アート思考カタリスト・若宮和男さんが聞きたい、「日本社会の変化を促す、アートシンキングの可能性」

アート思考カタリスト・若宮和男さんが、
スマイルズ代表・遠山正道さんに聞く、
「アートが社会に提供できる価値」

アート研究や企業の新規事業立ち上げなどの経験をもとにした著書『ハウ・トゥ アート・シンキング』を上梓し、現在はアート思考の考え方をビジネス界のみならず、教育や地域の現場にも広げていくことを目指している若宮和男さん。そんな若宮さんが今回インタビューするのは、「スープストックトーキョー」「パスザバトン」をはじめ、ユニークな事業の数々を生み出してきたスマイルズ代表の遠山正道さんです。自らもアーティストであり、近年はアートの新しいあり方をつくるプロジェクト「The Chain Museum(ザ・チェーンミュージアム)」の取り組みにも力を入れている遠山さんに、若宮さんがさまざまな質問を投げかけました。

若宮和男
アートとビジネスに共通点はありますか?

遠山さんは、スマイルズでユニークな事業を多数展開し、さらには芸術祭に企業として出品するなど、まさにアートとビジネスを行き来し続ける稀有な存在で、リスペクトしています。まずは遠山さんの中で、両者がどのようにつながっているのかというところからお聞かせ頂けますか?

遠山:三菱商事に在籍していた20年ほど前に、絵画の個展を何度か開いたのですが、当時の体験というのは、起業して「スープストックトーキョー」などの事業を始めた頃に通ずるものがあり、自分がビジネスをしている理由にも直結するんです。ビジネスの世界には、売上があり、そこからコストを引いたものが利益になるわけですが、一方のアートというのは不思議なもので、仮にキャンバスや絵具などコストが同じだったとしても、それが30万円で売れることもあれば、3000万円になることもある。アートは、4コマ漫画のオチのようなわかりやすい何かを提供しているわけでもないし、つくっている本人すらよくわかっていないところがあります。そんなアート作品に価値が生まれるというのはどういうことなのか、企業活動を通して探ってみたいというのが入口にありました。ビジネスにおいては顧客や生活者という存在が、アートの世界ではコレクターや鑑賞者がそれぞれいるわけですが、果たしてこれらは重なり合うのかということを検証したかったんです。

さまざまな事業を展開してきた遠山さんですが、ビジネスとアートの共通点についてはどのように考えていますか?

遠山:いまお話ししたような意味において、ビジネスとアートは対照的です。でも一方で、何か新しいビジネスを生み出すためにブレストなどを通してアイデアを出し、その具現化に向けてチームでプロジェクトを進めていくというプロセスには、アート作品のつくり方やそこで得られる高揚感とほとんど変わらないものがあるんです。

アートの価値という話がありましたが、それに近いものをビジネスの世界でも生み出したいという思いがあるのでしょうか?

遠山:2017年に、「iwaigami」というプロジェクトを始めたのですが、これは指輪さえあれば成立するシンプルな結婚式のあり方を提案するプロジェクトなんですね。とても満足できるものができたものの、売り方がよくわからずほとんど売れていないのですが(笑)、それでも個人的には、ビジネスとしても、働き方としても良いモデルなのではないかと思っているんです。このプロジェクトは私が発案して、デザイン、指輪制作、マネジメントをそれぞれ別の会社が担い、共同出資で運営しているのですが、特定のオフィスは構えず、受注生産なので在庫を持つこともありません。言わば、細く長く続けていこうというプロジェクトで、こういうスタイルのビジネスが自分にはいくつかあるんですね。これをやりたいという気持ちをベースに、ひとつ売れたり、感謝されるたびにみんなで喜んだりしながら続けていくビジネスや働き方には、アートに近い面白さや価値があると感じています。

折り紙にインスピレーションを受け、日本的美しさを表現した結婚指輪と小冊をセットで販売し、「もっともシンプルな結婚式」を提案するプロジェクト「iwaigami」。

若宮和男
スマイルズはどんな会社ですか?

企業は費用対効果や短期的な成果を求める傾向がありますが、「iwaigami」はこれらの対極にあるようなプロジェクトですよね。とはいえ、さまざまな事業を展開されているスマイルズにおいて、当然利益というものも大切な要素ではあるはずで、そうした部分と遠山さんご自身の考え方、生き方とのバランス、あるいは企業の経営ということについてはどのように考えていますか?

遠山:最近、全身末期がんから生還した刀根 健さんによる『僕は、死なない。』という本を読んだのですが、表紙には「人生に奇跡を起こすサレンダーの法則」という言葉が書かれているんですね。ここで言うサレンダーというのは、「降伏」や「放棄」というよりは、大いなるものに「委ねる」「明け渡す」というニュアンスが強いのですが、要は「自我を持つこと」と「委ねること」のバランスが上手く取れたことでがんに打ち勝てたという話なんです。これは、経営者としての自分のスタンスにも通ずるところがあると感じています。私はお店でスープをよそったり、レジを打つことはできないし、経営だって自分より上手くできる人が社内にいる。人材の採用にしても最近は最終面接もしなくなったし、これまでも自分で落としたことはないんです。なぜなら、働く相手というのは一緒に仕事をすることになる現場の人間が選んだ方が良いと思うから。彼らが決めたことに委ねる、言わばサレンダーの姿勢が私の経営スタイルなんです。

2015年に開催された「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ 」に、スマイルズとして出品した作品『新潟産ハートを射抜くお米のスープ 300円』。Photo: Gentaro Ishizuka

この「サレンダー」の姿勢というのも、アートの考え方につながるものでしょうか?

遠山:アーティストというのは、会社の上司のようにあれこれ言ってくる存在がいないので、すべて自分で考える必要がありますよね。先にも話しましたが、自分ごととしてこれをやりたいという気持ちから始まることがアートの面白さなわけですが、会社の経営においても各々の発意に委ねる、明け渡すというのが私のスタンスなんです。仕事というのもアートと同じで、言われてやるのではなく、自分ごとで取り組むから面白い。スマイルズでは、現場のスタッフから経理までそれぞれが、自分がいなくなるとお店が回せなくなる、会社が潰れると思っているところがあります。社員一人ひとりが、自分に任せておけという意思を持ちながら、同時にスマイルズという会社を信頼し、あるところでは委ねられる。そういう関係性が理想だと思っています。ただ、そうなってくると自分の居場所というものがなくなってくる(笑)。だからいま僕は、「The Chain Museum」というプロジェクトに取り組んでいるんです。

自分起点というのはまさにアートシンキングでもキーワードですが、同時にあるべき理想の姿を規定しすぎないことも大切だと思っています。理想形を追求するとどんどん角が取れて丸くなっていきますが、本当はいびつなものの方が面白い。自分の中のいびつさを認め、それをいかに生かしていくのかというアートシンキング的な考え方がスマイルズにはあるように感じます。

遠山:スマイルズはスープ屋やネクタイブランド、リサイクルショップなど色々なことをしていて一貫性がないように見えるかもしれませんが、共通しているのはこれをやりたいという気持ちからスタートしていることです。会社と言えども、食べ物もファッションも好きで、映画を見たり、恋愛をする一人の人間と変わらないと思っていて、その時々の興味に正直にやってきたところがあるんです。

1999年に1号店がオープンし、現在は全国に50を超える店舗を展開しているスープ専門店「スープストックトーキョー」。
NEW RECYCLEをコンセプトに掲げたセレクトリサイクルショップ「パスザバトン」。

若宮和男
これからアートはどうなると思いますか? 

先ほどお話に出たThe Chain Museumが生まれた経緯についてもお聞かせください。

遠山:アートの世界には、オークション会社やディーラーなどが牽引するセカンダリーマーケットというものがありますが、ここで売買される作品は持ち帰って所有できるものばかりで、つまり現物主義なんです。一方で芸術祭に足を運んでみると、平面の絵画はほとんど見当たらず、インスタレーションやパフォーマンスなどが主流です。私は、お金で取引されている作品というのはアートにおける氷山の一角で、水面下にあるコンテクストやコミュニケーションといった部分にこそ面白さがあると感じています。こうした部分はオンラインで情報を得たり、専門家の意見を聞いたりしながら深掘りできた方が良いし、その上で現物を確かめたければ美術館などに足を運べばいい。そうしたサイクルをつくるために、オンライン上のプラットフォームを用意したり、現物が展示できる場を色々なところにつくっていこうというのがThe Chain Museumの活動なんです。

アーティストに直接支援をおくりながら、アート作品から受けた感動を気軽に残せるアプリ「ArtSticker」。

アートがインスタレーションやインタラクティブに拡張され、固定されたモノの売買だけを前提としたアートの世界の構造には徐々に無理が出てきている気がします。アーティスト側にはビジネスやお金の話に対する拒否反応も少なからずありますが、サブスクリプションなど新しいビジネスの形も出てきている中で、もう少し良いバランスで色々なものが還流していくようになると良いなと感じています。

遠山:そうしたサイクルについて私も考えていて、The Chain Museumでつくったアーティストを直接サポートできるアプリ「ArtSticker(アートスティッカー)」のあり方を考えるにあたって、「Be」「Do」「Communication」「Surrender」という4つのプロセスを設定してみたんです。まず第1コーナーにあたる「Be」は、誰がそれをつくるのかといったコンテクストの部分で、第2コーナーの「Do」は実際に作品をつくるプロセス。現物主義的なアートはここで完結しますが、社会とどう接続していくかというところまで関与していくのがこれからのアーティストのあり方だと思っています。そのため、第3コーナーを社会との「Communication」とし、第4コーナーでは「お金に魂を売った」みたいな話にならないように、「Surrender」つまり明け渡しのプロセスを置き、このサイクルによって初めて社会とアーティストが一体化できると考えているんです。

同時代を生きているアーティストだからこそ、後半のプロセスの価値について考えていくことが大切だと思います。

遠山:自分自身、20年間個展をしていないのは、作品を売って得られる金銭より、つくってくれたスープが美味しかったと喜んでくれるおばあちゃんの反応の方にやりがいや価値を感じるからなんですね。アーティストも作品を通してこんな気付きがあったと伝えられたらとうれしいはずだし、その延長で作品が売れることで再び第1コーナーに立てる。だからこそArtStickerでもコミュニケーションやコミュニティを大切にしていて、その上で作家が金銭的にもリターンを得られるような第4コーナーをつくっていきたいと考えています。

若宮和男
アート思考を社会に浸透させるには?  

僕は、よく「文化資源の六次産業化」という言い方をするのですが、作品としてのアートだけではなく、アーティストのクリエーションの感覚や能力、価値はもっと色々なところに活かせると考えています。例えば、コロナ禍によってライブハウスや劇場が閉まり、アーティストの表現の場がなくなっている中、オンラインでアーティストが出張ライブやパフォーマンスをしてくれる「#leap2live」というサービスをローンチしたのですが、オフラインの劣化版ではなく、オンラインだからこそ面白いコンテンツやパフォーマンスの可能性を、アーティストと一緒に企画から考えています。このようにアーティストと協働すると、価値観の「触発」が起こります。現地で果物をまるかじりするような「生のライブ」はもちろん最高ですが、ジャムに加工して流通させると全国にお届けできます。そんな風にアートとの接点を増やし、循環するかたちを模索していきたい。そして、絵画をオフィスに飾るだけではなく、アーティストと協働する機会ももっと増えていいと思います。そうしてアートに関心を持つ層が増えれば、アートの価値も高まっていくはずですし、ポストコロナでは、作品制作以外のアーティストの活動や提供価値について考えていく必要があると感じています。

遠山:「六次産業化」というのはわかりやすい言葉ですね。僕はアート業界から嫌われないように、「アートはビジネスではない」と言ってきましたが、本音を言えばビジネスだろうがカルチャーだろうが、アートは新しい領域にどんどん領海侵犯をして、実験をしていった方がいいと思っています。

アーティストをオンラインで招いてライブパフォーマンスを体験できる、新しいライブのかたちを提案する「#leap2live」。

いま、アート思考というのはバズワードになっていて、これで儲けようとしているコンサルなどビジネスサイドの人たちが少なからずいます。これに対してアート側には、自分たちを消費するなという拒否反応が起こるわけですが、こうした対立を避けるために、今後も僕はビジネスの側にアートの価値を伝える役割を担っていきたいですし、遠山さんたちのように両者をフラットにつなぐのりしろのような境界事例をつくっていくことも大切だと考えています。ただ、これは企業にいた時に感じたことですが、価値観や文化を変えるためにはちゃんと「認められる」こと、旧来型の価値観における成功を一度収めることが必要で、そこにジレンマも感じています。

遠山:たしかにスマイルズもスープストックトーキョーという成功事例をつくれたことで、話を聞いてもらいやすくなったところがあるので、The Chain Museumの活動においても、多くの人に納得してもらえるような実績を早くつくりたいという思いはあります。ただ、大切なことはコンサルや批評家的な立ち位置ではなく、当事者として小さくても何かしらのアウトプットを示していくことで、それが次のステップにつながるのかなと。アートとビジネスの重なり合うところでいくつか具体的なものを生み出していくと周りにもメッセージが伝わりやすくなるはずですし、自分の問題意識や強化すべき点もより明確になるのではないでしょうか。

なるほど。ビジネス的に成功をすることよりも、異質なものを形にして置いていくことが大切なんですね。次が最後の質問になります。今後僕はアートシンキングを教育の現場にも広げていきたいと考えているのですが、遠山さんは教育のあり方について、また教育におけるアートの意義についてはどのように考えていますか?

遠山:現在の美術教育にそれがどこまでできているのかはわかりませんが、アートというものが、その人の人生や職業の選択に影響を及ぼすきっかけをつくれると面白いなと思っています。例えば、少年時代にたまたま地元を訪れたプロ野球選手に、「良い素振りをしているね」と言われたことがきっかけでプロ野球選手になったという話のように、美術教育が、未来に発火する時限装置みたいなものをそれぞれに埋め込むようなものになったら良いなと思います。


インタビューを終えて

今回改めてゆっくりお話をして、遠山さんの言葉には「アート思考」が空気のように溶け込んでいて、それがスマイルズにも浸透しているからこそ、ユニークな事業がどんどん生まれているような気がしました。幼少期からアートや文化が身近にあり、遠山さん自身アーティストとして個展をした経験が原体験として深く根付いていて、言葉の説得力がすごい。アドバイスをいただいたように、きちんとひとつずつカタチにして成功事例をつくっていきたいと思います。いつか一緒にプロジェクトもしたいですね。