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「問い」をカタチにするインタビューメディア

発想とカタチ

NOSIGNER代表・太刀川英輔さんが聞きたい、「進化思考を世界にインストールする方法」

NOSIGNER代表・太刀川英輔さんが、
New Stories代表・太田直樹さんに聞く、
「日本の組織を変革する方法」

種を次世代に残すための「変異」と、外界との「関係」によって起こる淘汰を繰り返してきた生物の進化のプロセスを、デザインやイノベーションに応用する創造教育のメソッド「進化思考」を提唱するデザインファーム・NOSIGNERの太刀川英輔さん。この進化思考を社会に広めていくことをテーマに、今回彼がインタビューするのは、ボストンコンサルティングの経営メンバー、総務大臣補佐官などを経て、現在は地域でテクノロジーを軸にした事業開発やまちづくりを行う「New Stories」の代表を務めている太田直樹さんです。行政や企業で未来の戦略を描く仕事に長らく従事し、近年は進化思考を用いたワークショップをさまざまな現場で実践しているという太田さんに、進化思考の可能性について伺いました。

太刀川英輔
日本の未来をどう捉えていますか?

今日は、かつて総務大臣補佐官を務め、現在も総務省政策アドバイザーとして霞が関で働きながら、ご自身で地域開発の会社を経営するなど、日本の未来の戦略を描く立場にある直樹さんにとって、進化思考がどう見えているのかということを聞いてみたいと思っています。まずは、直樹さんはいま、日本の未来をどう捉えているのかというところからお話し頂けますか?

太田:僕は、ボストンコンサルティングで20年近く働き、多くの経営者と仕事をしてきました。その後、3年ほど総務大臣補佐官として国の中枢で働いたのですが、企業にせよ国にせよ、短期的なイシューに追い立てられ、中長期的なヴィジョンがほとんど語られない現状を目の当たりにしてきました。また、これまで僕は、テクノロジーが社会を良くするという思いのもと、主にデジタル領域の仕事に従事してきたのですが、現在あるいは未来のテクノロジーは本当に人を幸せにできるのだろうかと感じているところがあります。そして、若者論などでよく語られるように、日本には未来に希望を抱いている若者が少ないことも気になっています。だからこそ、5年ほど前に英輔さんと会った時に、「未来は自分たちでつくれる」と真剣に話していたことが印象に残っているんです。

すでに直樹さんは進化思考を使ったワークショップなどをさまざまな場所で実践してくれていますが、どんなところに可能性を感じてくれているのですか?

太田:最近、歴史家のニーアル・ファーガソンが書いた『スクエア・アンド・タワー』を読んだのですが、この本では階層制組織である国や企業を「タワー」、組織や地域を超えた草の根のネットワークを「スクエア」と表しているんですね。歴史というのは、一握りのリーダーたちのもと階層制の秩序で動かされてきたように考えられがちですが、宗教革命や産業革命など社会が大きく変わる出来事の背景には、組織や地域を超えたネットワーク、つまりスクエアの力学が大きく作用していたという話など、僕がこれまでに考えてきたことに近い内容がこの本に書かれていました。例えば、コンサルが立てる戦略というのは、タワー側の最適配分的な側面が強く、もちろんそれらが求められる局面はあるのですが、いま必要なのはイノベーションによって未来をつくっていくことで、進化思考はそのための素敵な武器になるんじゃないかと思っているんです。

マクロの視点で物事の構造を捉え、タワーにおける意思決定者に戦略を提案していくコンサルティングファームなどの方法論に対して、進化思考というのは進化させたい対象をミクロな視点で解剖し、内部の構造を理解したり、周辺にある生態系に目を向け、つながりを理解していくという点で、たしかにネットワーク的と言えるかもしれません。

太田:そうですね。自分自身、タワーの限界を感じるようになってからは、理事を務めているCode for Japanなど、草の根的なネットワークを育む活動に時間を費やすようになったのですが、ネットワークにおける武器というのは意外に少ないんですね。本来、ソーシャルネットワークにはその役割があったはずなのですが、いま僕らはフィルターバブルの中にいるように、むしろ分断を生み出すものになっています。一方で進化思考は、境界を超えたネットワークを育んでいくことと非常に相性が良いと感じているんです。

太刀川英輔
進化思考を使ってみていかがですか?

進化思考において、内部の構造や周辺の関係の観察を行う目的は、そのものを成り立たせている上位の目的や意思を掴むところにあります。セグメントされた社会では、それぞれに別の目的があると錯覚しがちですが、上位のレイヤーにある目的や意思に目を向けることで、多くの人が共感できる目標や願いが見つかり、領域を超えてつながるという状況が起こりやすくなると思っています。

太田:最近、未来の学びをテーマに、学校の先生たちと進化思考を用いたワークショップをしたのですが、例えば「椅子」を進化させたい対象にして「解剖」のワークをしていくと、背もたれというパーツには、集団学習を円滑に行うために生徒たちを同じ方向を座らせるという目的が見えてきたりして、こういうことに先生方は身を乗り出して興味を示すんです。例えば、「これからはITを使った個別最適学習だ」という話をいくらそれを理詰めで伝えてもテクノロジーという境界を超えられず、あまり届かなかったりするのですが、上位にある「WHY」を考えていく進化思考では、そこにある種の「願い」や「愛」が見出され、芯を食ったパンチになることが少なくないんです。

進化思考のワークをすると、過去の人たちからの応援や未来の人たちに向けた呼びかけなど、さまざまな願いが発酵したような強度のある目的が出てくることが多く、これらが人を動かしたり、自分を鼓舞する原動力になるのだと思います。

太田:そうですね。最近は「関係」のワークで出てきたこうした目的や願いを、多くのアイデアを強制的に出していく「変異」のワークにいかにつなげていけるかが、自分のテーマになっています。

進化思考は、「関係」と「変異」のワークを行き来しながらアイデアの強度を高めていくものなので、2週目、3週目と両者の行き来を繰り返していくことがポイントになると思います。

太田:なるほど。それに近い話だと、過去2年にわたって、英輔さん、ドミニク・チェンさんらとともに会津で3日間にわたるハッカソンを行っていますが、ドミニクさんのウェルビーイングのワークと、進化思考のワークは非常に相性が良いと感じています。ドミニクさんは、個人の中にあるLIKEとPAINを「偏愛マップ」「ペインマップ」に書き出すというワークをしているのですが、これをしてから進化思考のワークをすると良いアイデアが生まれやすくなるんですよね。

それぞれが見ている歪みのある世界を肯定することがウェルビーイングにつながるというのが、ドミニクの考えですよね。自分の歪みと世の中の差分から出てくるものにこそ、世界を変える要素があるかもしれないという観点から、ここに進化思考のワークを組み合わせていくと、たしかに解像度が高いアイデアが生まれやすいんですよね。

太田:企業のマーケティングではペルソナを設定することがありますが、ウェルビーイングと進化思考の組み合わせでは、より大きな個人の「願い」を導き出すことができる。例えば、雨のペインとして、「一緒に歩いていた人との距離が離れてしまう」というものが出てきたとして、そのコンテクストを受け継いで、進化思考で「傘」を変異させていくというのは非常に良い流れだと感じています。

太刀川さんが、ドミニク・チェンさんらとともに参加し、南会津で開催されたハッカソン。

太刀川英輔
組織の変革には何が必要ですか?  

先ほどのタワーの話に戻ると、僕個人としてはやはり日本が好きですし、日本のタワーに変わってほしいという願いがあるのですが、そのためにはどんな手段が必要になると思いますか?

太田:「タワー」の対比として「スクエア」を考えると、草の根のネットワークというのはすべてフリーランスの人がつくり出していると捉えてしまうかもしれませんが、決してそんなことはなく、「タワー」の中にもスクエア思考の人はいて、そういう存在をバウンダリースパナー、越境人材などと呼ぶわけです。最近は企業が副業やリモートワークを認める流れなども強まっている中で、大企業や役所の中にいるそうした人たちに、進化思考のようなツールを渡していくというのは、タワーを変えていくためのひとつの作戦になるのかなと思います。

タワー内の階層と関係なく、対等に接することができるという点で、外部の人間の役割も大きいですよね。それこそ、タワーの意思決定者と並走する機会も多いコンサルタントというのは、立場的にも外部のバウンダリースパナーになり得る気がします。

太田:実際に色々な企業と一緒に仕事をしているコンサルタントというのは、企業間にブリッジをかける存在にもなり得るので、そういう側面はたしかにあります。とはいえ、コンサルも産業として巨大化し、縦割り構造になってきているので限界があるかもしれません。

最近は、コンサルティング会社がデザインファームを買収する流れも見られますが、これも従来のコンサルのやり方では限界があるというこれまでの話につながっていくのでしょうか?

太田:かつてのコンサル会社というのは、企業の現状と世の中のベストプラクティスの差分を因数分解していくことで戦略やソリューションがつくれていましたが、世界が複雑化したいま、ベストプラクティスというものが見えなくなってきているんですよね。そういう状況の中で新しい提案をしていく上で、デザイファームあるいはデザイン思考というものが使えるのではないかという目論見があったのだと思います。実際にそれがどこまでできているかはわかりませんが。

ユーザーの共感からアイデアやテーマを発想するようなデザイン思考のプロセスは、進化思考における「生態系」の分析に通じるところもありますが、見ている範囲が非常に狭いと感じます。最近では、「誰一人取り残さない」というSDGsの考え方などがようやく重視される時代になってきましたが、その生態系の中で問い残されているものや、届けられていない相手がいないのかということをもっと考える必要があると思っています。

太田:企業のマーケティングの多くは、非常に狭い視野で機械的に生態系を見ているようなところがありますよね。安価で品質が良いものをつくればたしかに消費者は喜ぶかもしれませんが、その製造過程の中にどんなペインがあるのかというところまで見ていかなければいけないし、製品開発などにおいても機能性向上という軸でしか「進化」を考えていないところがある。企業やコンサル会社が言うエコシステムやロードマップというのは、進化思考が見ているネイチャーとは似て非なるものだと感じています。

太刀川英輔
どうすれば進化思考は広がりますか?  

進化思考は自然観察の手法をもとにしているので、必然的に系全体がどうなっているのかという視点になっていくんですね。一方、四半期目標、年度目標などがある企業の場合、系や仕組み全体を意識し、これから50年の流れを考えていくようなことがなかなか難しいのもたしかですよね。

太田:そうですね。養老孟司さんと宮崎駿さんによる『虫眼とアニ眼』という本の中に、頭だけではなく、五感すべてを使って時空間を知覚することが大切だという話があるんですね。いまは偏ったインプットしかできていない企業や行政などの組織、あるいは日々の暮らしを送る個人が多いから、なかなか新しいものが生まれてこないのではないかと感じています。圧倒的な自然の中に行くと、時間も空間も豊かに感じられるところがありますが、まさに自然や生物を着想を得た時空分析を行う進化思考というのは、自然との相性が良いと思っています。

なるほど。だから先ほど話に出たワークショップも会津で行ったんですね。

太田:進化思考のワークショップというのは、隣に役員室などがある会社の一室よりも、自然に囲まれたところでやった方が成果が出やすいんです。自然や生物をアナロジーにしているからこそ、本当にインパクトを出そうと思うなら、そうした環境づくりも大切になるのではないでしょうか。

例えば、日常的に自然と触れられる場所に、進化思考の学校のようなものをつくれるといいのかもしれませんね。

太田:それは面白いと思います。実際に、進化思考はどこで勉強したらいいのかということもよく聞かれますしね。進化思考を学ぶことができる場所ができ、さらにいま太刀川さんが執筆されている「進化思考」の本も出れば、一気に広がりが出そうですね。それらがタワーを変えていくゲリラたちのための聖地、聖書となり、大企業や役所の中にいるバウンダリースパナーたちの間に草の根的に広がっていくというのはとても面白い気がします。

ぜひそうした動きを一緒につくっていけるとうれしいです。今日はありがとうございました。


インタビューを終えて

直樹さんとは、「コクリ!プロジェクト」の仲間として一緒にいろんなことをやっていたので、頼れる紳士な兄貴といった距離感で仲良くしているのだけれど、考えてみれば雑草育ちの僕とは違って、直樹さんは産業界から政治まで日本の本物のエグゼクティブとつながり、トップコンサルタントとして活躍していた人なので、本当にさまざまなケースを知っている。そんな彼がなぜ進化思考に深く興味を持って実践していて、既存のコンサルティングメソッドとどう違うと感じているのか、改めて聞いてみたいと思ったのが今回のインタビューのきっかけでした。
彼と話していて、19世紀の自然科学の影響を強く受けて生まれた20世紀産業の発展の歴史を思い出しました。20世紀の産業が成熟して自重で身動きが取れなくなったタワーの時代には、それを壊してつくり替えるために原点である自然から学ぶクリエイティビティが必要で、それが僕が進化思考で実現したい道筋なんじゃないか。その可能性の予感をさらに一歩確信に近づけてくれる、いい時間でした。
直樹さんありがとうございました!