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「問い」をカタチにするインタビューメディア

発想とカタチ

NOSIGNER代表・太刀川英輔さんが聞きたい、「進化思考を広め、創造性を発揮する人を増やすには?」

NOSIGNER代表・太刀川英輔さんが、
生物系統学者・三中信宏さんに聞く、
「系統樹思考の応用可能性」

生物の進化のメカニズムに発想やイノベーションを生み出すヒントを見出し、社会変革を行うイノベーターたちを育成するプログラム「進化思考」を体系化したデザインファーム・NOSIGNERの太刀川英輔さん。この進化思考の可能性や普及の方法を対話を通して探っていく本企画で太刀川さんが今回インタビューするのは、『進化思考の世界』『系統樹曼荼羅』をはじめ数々の著作を残している生物統計学者の三中信宏さんです。太刀川さんの進化思考に大きな影響を与えた生物学や系統学・分類学のスペシャリストである三中さんの目に、果たして発想法としての進化思考はどのように映るのでしょうか。

太刀川英輔
どんな研究をしているのですか?

僕はこれまでにさまざまな領域のデザインを手がける傍ら、イノベーション教育にも携わってきました。その中で、生物の進化とイノベーションや発明が生まれるメカニズムに共通点を見出すようになり、進化思考という発想法を体系化しました。進化思考を通して、進化論や系統学など生物学の知恵をもっと世の中に適用できないかと考えているので、今日はまさにその道の専門家である三中先生に色々お話を伺えればと思っています。まずは、三中先生がどんな研究をされてきたのかというところからお話を聞かせください。

三中:私は、昆虫少年の成れの果てとでも言うべきか、子どもの頃から虫を分類することなどにワクワクしていた人間でした。専門は統計学で、いまも農水省の研究機関で統計データ解析の仕事をしていて、それが言わば表の看板です。解析する対象というのは、DNAの配列からそれこそデザインにも通じるカタチの評価までさまざまなものがあるのですが、そうした情報を分類したり、系統を調べたりということを、裏テーマとして長年続けてきています。

進化思考では、発明のプロセスを生物進化になるべく近づけるために、ダーウィニズム的な進化のプロセスを参考に、「関係」と「変異」の繰り返しを取り入れています。生物学のリサーチ方法を参考に、「解剖」「生態系」「系統樹」「未来予測」の4つから社会の淘汰圧を理解する「関係」のプロセスと、さまざまなアイデアを生み出す「変異」のプロセスを繰り返し行っていくことで、強度のあるアイデアを生み出すことを目的にしているのですが、実際に企業などでワークショップを行うと、かなり強度のあるアイデアが出てくることがわかりました。

三中:生物にしても非生物にしても、進化のプロセスには必ず変異があり、それに対して淘汰圧がかかるという関係性があると思うので、「進化思考」の考え方は私としても腑に落ちます。生物であれば、自然環境からの淘汰圧がある中でいかに子孫を残せるのかということが命題になるし、一方で人工物の場合は、市場などが淘汰圧となり、試行錯誤しながら色々なバリエーションの製品などをリリースする中で、社会のニーズから大きく外れたものや時代の何歩も先を行ってしまっているものなどは消えていってしまうということなのだと思います。

系統樹にフォーカスした話だと、例えば車輪というのは紀元前35世紀頃に生まれたと言われています。一方で、現代では自動運転技術が開発されていますが、ここに至るまでの流れを乗り物の系統樹にすることで、「重いものを遠くまで楽に運ぶ」という普遍的な人類の願いや、それを叶えるための道具の進化の過程などが見えてきます。このような系統を読み解いていく作業は、これから生み出そうとするアイデアやモノの良し悪しを判断していく上でも大きなヒントになると思っています。

三中:ものの系統樹を描くことによって、さまざまなプロダクトに分岐する前の共通の祖先あるいは起源のようなものが何であったのか、そこにはどんな属性やニーズがあったのかということを理解でき、それをデザインやイノベーションに活かすことができるということですね。それはまさにその通りだと思いますし、JR九州の車両デザインなどで知られている水戸岡鋭治さんなんかも、同社の車両の系統樹を何年かおきに描いているんですよね。

太刀川英輔
なぜ分類が必要なのですか?

デザインの世界に大きな影響を及ぼした「バウハウス」は、フレーベルの幼稚園教育に着想を得ていると言われていますが、その背景にはゲーテらによる形態学などの存在がある。つまり、自然哲学にモダンデザインの源流があると思っています。バウハウス設立から100年が経ったいま、デザインは改めて自然に立ち返る時期なのではないかと感じていて、進化思考もそのような考えに立脚しています。先ほどもお話したように進化思考は、ダーウィニズムや生物系統樹などの影響を受けているわけですが、そもそも生物の分類や系統樹などの手法はいつ頃に確立されたのですか?

三中:系統樹については、19世紀にドイツの生物学者エルンスト・ヘッケルらが描くようになったことが知られていますが、分類という手法自体の起源はアリストテレスにまで遡り、彼は500以上の種の動物を階層的に分類しています。この分類方法は18世紀頃まで用いられていたのですが、その後植物学者のカール・フォン・リンネが動植物についての情報を整理して分類表をつくり、生物の学名を属名と種小名の2語で表す命名法を体系づけました。当時のリンネにとって切迫した問題は、たくさんの動植物をいかに整理し、構造化できるかということで、ここから分類学というものが体系化されていくことになります。

(左)エルンスト・ヘッケルの系統樹。(右)チャールズ・ダーウィン直筆の系統樹のスケッチ。

それまでバラバラに存在していたものを構造化することで、それぞれのつながりなども追いやすくなったわけですね。

三中:はい。我々人間がひとつの分野において覚えられるアイテムの上限は、およそ600と言われています。しかし、もちろん生物にはもっと多くの種が存在するわけで、何かしらのグルーピングやカテゴライズが必要だったんですね。分類というのはある意味人間にとってしなくてはならなかった行為で、グルーピングをすることによってより多くの生物を扱えるようになったんです。

進化思考では、変異のプロセスにもいくつかのパターンがあるのですが、その中に、脳の中で起こる自然現象としての「抽象化」という考え方があります。まさに分類の話につながるのですが、ゴールデンレトリーバーの◯◯ちゃんや柴犬の◯◯ちゃんに、「犬」という上位カテゴリを設定するためには、抽象化能力のようなものが必要ですよね。そして、この抽象化能力は人間に限らず、脳の性質としてさまざまな動物にあらかじめ備わっているものだと思います。例えば、鳥が障害物などにぶつからずに飛ぶことができるのは、さまざまな障害物を抽象化し、「影」として捉えているからだという話を聞いたことがあります。

三中:おっしゃる通り、分類というのは上位カテゴリをつくる行為だとも言え、「類」をつくっていかなければ物事の理解が進まないところがあるのだと思います。そして、生物の進化において、この抽象化能力やカテゴライズする力というのは、かなり早い段階から備わっていたものだと思います。なぜなら、厳しい自然環境の中で生き残っていくためには、これは美味しそうだ、これは危険そうだというようなことを、ある程度抽象化して把握しておかなければならないからです。

(左)『系統樹曼荼羅』著・三中 信宏、イラスト・杉山 久仁彦(2012年/NTT出版)、(右)『生物系統学』著・三中 信宏(1997年/東京大学出版会)

太刀川英輔
系統樹はどのように生まれたのですか?

分類やカテゴライズは物事を把握するために必要だったということですが、一方で系統樹のようなものが生まれた背景にはどんな目的があったと思いますか?

三中:分類というのはある意味平面的に世界を捉えたものですが、系統樹はそこに時間軸がプラスされていて、その背景にはチャールズ・ダーウィンが『種の起源』で示した進化という概念があり、いま目の前にあるものがどのように変わってきたのか、これから先どう変わるのかという問題意識があったのだと思います。系統樹というのは生物の進化のプロセス、変異の分岐を階層的に示しているものなので理解しやすいですが、一方で分類というのは、我々にとって受け入れやすいものとそうでないものがあるのではないかというのが最近の私の関心事です。近年、生物の分類は分子データをベースに行われていますが、そのように分類されたものに対して、心理的に受け入れられないものが少なからず出てくるのではないかと。

そもそも分類というものが、人間の抽象化能力によって行われていたというところに立ち返ると、たしかにそういうことも起こりそうですね。例えば、仮に犬と狼が同じ分類にされたとしても、人間からするとかたや自分たちと共に暮らしている存在であり、かたや危険をもたらし得る存在なわけで、心理的には同じ類だと受け入れ難いところがあるのかもしれません。

三中:自然科学だけをベースに分類をすることには限界があるように感じていて、今後分類学は心理学の世界にも足を踏み入れる必要があるんじゃないかと。現在の分類は、系統に基づいてなされることが一般的ですが、そもそも生物は分類のことなどを考えて進化してきたわけではないですし、分類をサイエンスの視点だけで行っていくと、問題が出てくるように感じています。

心理学にも配慮した分類を行う上では、人類の共通の望みを抽出していくような進化思考的な系統樹の知恵が使えそうな気がします。また、分類においては、リンネの話もあったように名前の付け方も重要ですよね。僕はもともと言語に興味があり、修士論文でもデザインと言語の類似性をテーマにしたのですが、生物の進化において、DNAはまさに言語性を伴った構造を持っています。そういった意味で、言語性を持った構造こそが進化をドライブさせてきた重要な要素だったのではないかなと考えています。発明と言語のつながりに関して面白い話があります。30年前から石器を使い続けてきた人類は、5万年ほど前に突然さまざまな道具を発明するようになったと言われていて、それは言語が生まれた時期と一致するんです。この事実が示しているのは、言語というものが発想のために使われているということだけではなく、むしろ言語性がある構造の存在によって、否が応でも発明という進化的な現象が生まれてしまうということなんじゃないかと思っています。例えば、言い間違いみたいなことも含め、言語の側に変異を生み出す要因があり、言語性によって進化がドライブしてしまうところがあるのではないかと。そんな言語主導型の進化論のようなものが、「進化思考」のベースにもなっているんです。

三中:もののつくり方のレシピのようなものが言語を通して伝承できるようになり、文化進化が始まったのだと思いますし、文化進化の研究者も必ずと言って良いほど言語の進化について言及しています。一方で生物は、言語のようなものであるDNAの配列情報を少しずつ変えながら進化してきている。つまり、生物と文化には言語を介して共進化してきた歴史があると言えるのかもしれません。

「進化思考」ワークショップ用スライドより。

太刀川英輔
もっと系統樹を活用できませんか?

発明や発想の領域においても、系統樹を描くことは物事の関係性を読み解き、社会の淘汰圧を理解していく上で有効な手段で、例えば、新しい教育サービスを考える人が教育の系統樹を描くことから学べることは多いはずです。さまざまな分野の系統樹が集まるデータベースがあるといいなと思ったりもするのですが、そういう意味で三中先生の『系統樹曼荼羅』をゾクゾクしながら読ませて頂いた記憶があります。

三中:あれは徹底的に調べましたからね(笑)。そうすると人工物の系統樹というのも色んな分野で出てくるんです。こういうものを集めていくことを専門にしている人はいないかもしれませんが、非常に調べがいがありましたし、学問としても面白い領域だと思います。

系統樹を発明に応用できると考えるようになった背景には、優れたクリエイターや経営者などは例に漏れず歴史に詳しく、文脈をハックすることで強度のある発想を生み出していると感じたからです。それにもかかわらず、系統樹的な知恵を応用した創造性の教育はほとんど行われていないように思います。三中先生はまさに系統樹の応用可能性について著書などでも語られていますが、デザインやクリエイティブの領域で何か事例をご存知ですか?

三中:デザインの世界だと、建築様式の系統樹を1世紀ほど前にバニスター・フレッチャーが描いていますし、トヨタ自動車も同社の車体デザインの変遷を系統樹のようにまとめています。少し違うところだと、「ジャンプ」や「マガジン」の漫画家のアシスタント、あるいは落語家の系統図などもあって、これらを見ていくことはとても楽しいですし、他にも事例は多々あると思います。ただ、どちらかというと考古学や文化人類学的な視点でまとめられているようなものが多く、系統樹を応用してこの先にどんなものを残せるのかという話はまだあまり語られていないように感じます。

「進化思考」ワークショップ用スライドより。

そう言えば面白い事例を思い出しました。僕はグッドデザイン賞の審査員を務めているのですが、2019年の受賞プロジェクトに富士フィルムの創薬支援サービス「drug2drugs」という応募作がありました。創薬は、時間とお金が非常にかかる世界ですが、このサービスではAIを用いた探索・設計シミュレーション技術を開発することで、新薬創出の可能性を劇的に高めたんですね。創薬というのは、仮に薬効が期待できる医薬品候補化合物が発見されても、毒性などの問題、つまり進化思考的に言うと淘汰圧によって実用化できないケースが多く、発売までたどり着ける確率は2万~3万分の1らしいんです。この技術は、薬効が期待できる1つの医薬品候補化合物の情報から、AIが新しい候補化合物を、近い効果が出そうな化合ルートの再設計によって生成してくれるというもので、結果として、500倍に創薬の可能性を高められるとのことでした。この話は、創薬における系統樹の「分岐」、進化における「変異」をハックするようなルート設計がポイントだったのかなと感じました。

三中:そうですね。わかりやすいところだと、ウィルスのように凄い速さで進化するものに対して、過去の進化の系統樹をたどりながら、この先に起こりうる変異を予測し、ワクチンをつくるということもありますよね。こうした話のように、系統樹的な考え方をどこまで社会に敷衍できるか、裾野を広げていけるかということにはとても関心があります。

ぜひ一緒に広げていきましょう! 系統的な思考プロセスは、人間の創造性を刺激し、新しい発想を生み出す上でとても有効な知恵だと思っています。それをしっかり定義付けし、社会に実装していくということに一緒に取り組んでいけるとうれしいです。今日はありがとうございました。


インタビューを終えて

進化思考のプロジェクトをスタートさせ、ネット検索をしたところ、真っ先に三中先生の『進化思考の世界』という本が見つかりました。「こりゃまずいな」と思いつつ、その本を開いてみると、全体構造としての類似はなかったのですが、特に系統の考え方について自分が考えていたことに非常に近く、また共感できる内容がたくさん書かれていました。そして、以前から素晴らしい本だと思って所有していた『系統樹曼荼羅』の著者も、この本と同じ三中先生だったので、「この方に話を聞かねばいけない!」と思ってインタビューさせて頂きました。
僕が体系化した進化思考が、進化生物学のプロの視点から見ても矛盾や違和感がないものなのかということは以前から確認したいと思っていたので、今回三中先生とお話することは、進化思考を世に広めていくにあたって、生物学視点における最終試験的な意味合いがありました。もしかしたら、すでに著書で「進化思考」という言葉を使われていた三中先生に怒られるのではないかと内心ビクビクしてインタビューに臨んだのですが、共感して頂ける点が多く、自信を得ることができました。
また、お話を伺う中で、文化の進化を系統的に記述するアカデミックな方法論がまだ体系化されていないということもわかりました。現状描かれている人工物の系統樹などは、アーカイビングや分類を目的にしたものがほとんどで、開発などに活かされていないということも非常にもったいないと感じましたし、わかりやすい形でそれを提唱していくことも進化思考の大きな役割なのだと思いました。
最近は、進化思考をベースにしたコンサルティングを色んな企業で行う機会も増えてきていますが、今後は企業の先端開発とブランディングを並行して進めていくようなプロジェクトで、系統樹を描くワークショップなどの機会があれば、ぜひ三中先生とご一緒してみたいなと思いました。