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発想とカタチ

メディアアーティスト・市原えつこさんが聞きたい、「来訪神をリデザインする方法」

メディアアーティスト・市原えつこさんと振り返る、
「仮想通貨奉納祭ができるまで」

カンバセーションズの第一期インタビュアーのひとりとして、「来訪神」や「奇祭」をテーマにした新作発表を見据え、さまざまな領域のスペシャリストたちにインタビューを続けてきた市原えつこさんが、2019年11月、東京・中野の川島商店街を舞台に、「仮想通貨奉納祭」という形でついに作品発表に至りました。その後も松戸、シンガポール、東京など各地で巡回イベントや展示が続き、早くも各所で反響が巻き起こっている「仮想通貨奉納祭」ですが、改めてカンバセーションズが市原さんに並走した1年半を振り返るべく、これまでのインタビューやクラウドファンディング、作品制作の舞台裏などについてお話を聞きました。

昨年開催された「仮想通貨奉納祭」からすでに3ヶ月ほどが経ちましたが、改めて振り返ってみていかがでしたか?

市原:祭り前日の深夜まで制作に取りかかっていて、当日も寝不足の中でバタバタの進行になりましたが、予想以上に面白いものになりました。毎年秋に川島商店街で行われている東京行灯祭との共催という形になったのですが、何も知らずに来ていた地元の方たちも楽しんでくれたようで、特に子どもたちがブチ上がっていましたね(笑)。2日間の開催だったのですが、初日はたくさんの人にお越し頂き、「ニコス・オーケストラボ」のみなさんもお囃子隊として古家電を魔改造した楽器を用いた電磁祭り囃子で神輿行列を大いに盛り上げてくださり、お祭りとして非常に賑わいました。2日目は日曜夜だったこともあり、後夜祭的なゆるいムードだったのですが、1980YEN(イチキュッパ)というユニットによる楽曲『電子通貨』の「現金、現金、現金、捨てろ!」というラップを爆音で流しながら神輿を運んでいたので、仮想通貨奉納祭というよりも、「現金捨てろ祭り」感が強かったかもしれません(笑)。

2019年11月、東京・中野の川島商店街で2日間にわたって開催された「仮想通貨奉納祭」。 Photo: 黒羽政志

1日目と2日目で雰囲気やメッセージが変わるのもお祭りならではですね。

市原:そうなんです。今回はお祭りという間口が広い形を取ったことで、多くの方たちがそれぞれの形で参加してくれました。重いお神輿をみんなで一生懸命担ぐ中で、人のうねりや集合的無意識のようなものが働いていたようにも感じましたね。

サーバー神輿というアイデアは、カンバセーションズで最初にインタビューした和田永さんとの話の中で出てきたアイデアでしたね。

市原:はい。当時はネタ的なイメージでスケッチを描いたのですが、まさかそれが実際に形になるとは(笑)。和田さんへのインタビューでは他にも、多くの人を巻き込んでいくコミュニティ型の制作プロセスの話など、今回の制作に直結したものが多かったような気がします。次の民俗学者の畑中章宏さんのインタビューでは、「自然霊と祖霊」「個人霊と集合霊」といった話をお聞きでき、今回自分がフォーカスしたいのは共同体の名もなき祖霊、集合的無意識のようなものなのだということが明確になりました。いま振り返ってみると、最初の2つのインタビューで、作品の方向性がだいぶ定まったように感じます。

和田永さんへのインタビューの直後に、市原さんから届いたアイデアスケッチ。

その後、山中俊治さん久保田晃弘さんにはバイオテクノロジー、バイオアート関連の話を中心に聞きました。

市原:おふたりは教育者でもあるため、アーティストとしてのスタンスや心構えなど、長いスパンでタメになりそうなお話もたくさん伺えました。久保田先生に伺ったカルスの培養は仮想通貨奉納祭の会場に設置した「バイオ奉納コーナー」で少し展示したのですが、今回はクラウドファンディングのリターンにもなっていたサーバー神輿の制作が最優先だったこともあり、バイオ方面はこれからしっかり育てていきたいですね。ちなみに、バイオ奉納コーナーでは、クラウドファンディングで支援してくださった発酵デザイナーの小倉ヒラクさんが奉納してくれた「奇酒」も展示のかたちでおそなえし、2日目にみんなで「直会」として空けたのですが、今回無事故で終われたのはこの奇酒のおかげだったと本気で思っています。

発酵デザイナー・小倉ヒラクさんが奉納してくれた「奇酒」。
久保田晃弘さんへのインタビュー時に話に出たカルスも「バイオ奉納コーナー」で展示されました。

いまお話に出たクラウドファンディングについてはいかがでしたか?

市原:楽しくも、相当大変だったというのが正直な感想です。その辺りの話はnoteにまとめているのですが、クラファンの最大の目的は資金集めではなく、仲間集めだという話は本当だったと実感しました。クラウドファンディングで支援してくれる方たちというのは、文字通り身銭を切ってくださっているので、社交辞令ではなく、本気で応援したり、一緒に何かをやりたいと思ってくれている人たちなんですね。特に、お金を払った上で祭りで神輿を担ぐという労働までするという謎のリターンを選んでくれた方たちの中には、専門的な技術を持ち、各分野で活躍されている方が多かったこともあり、気兼ねなくコラボレーションの声がけなどができましたし、クラウドファンディングは今回のプロジェクトの重要なハブになったと感じています。

クラウドファンディングを開始する前には、修験者でもある日本テレビの宮下仁志さんにもインタビューしましたね。

市原:宮下さんも今回のプロジェクトにおけるキーパーソンでした。インタビューでは、修験者としても活動している宮下さんの口から、神様は杓子定規な存在ではなく、楽しいことが好きなんだという話を聞くことができ、それ以降はかなり発想が自由になりましたし、クラウドファンディングページでは「いまどき稲かよ」というインタビュー中に出たパワーワードも引用させて頂きました(笑)。開催場所に関しても、漠然と神社が良いだろうと考えていたのですが、聖地は必ずしも特定の場所に紐付いているわけではないという話を聞いたことで、むしろ人が集まって楽しんでいるところに神が宿るのではと考えられるようになりました。

Photo: 小宮山たかし

そして結果的に、商店街という場所に行き着いたわけですね。

市原:はい。このインタビューの後に京都の御金神社や下鴨神社、伊勢神宮などさまざまな場所にリサーチに行ったのですが、これまた宮下さんのご紹介で、伊勢神宮の広報課の方をつないで頂き、江戸時代の瓦版から現代のWeb、Instagram、YouTubeなど伊勢神宮の広報も時代に合わせてかたちを変えていて、その柔軟さがあるから2000年以上も続いてこられたという興味深いお話を伺うこともできました。そうこうしているうちに、「仮想通貨奉納祭」という名前が降りてきて、 場所に関しても色々動いた結果、イベントの趣旨や作品のテーマ、神輿行列のしやすさ、集客メリット、利用要件、これまでの信頼関係などあらゆる面から総合的に判断し、川島商店街で開催させて頂く運びになりました。

まさにプロジェクト名にもなった「仮想通貨」をテーマにした斉藤賢爾さんへの取材が最後のインタビューになりました。

市原:そうですね。この時点ではすでに作品の骨組みはほぼ固まっていたのですが、お金や資本主義、贈与経済とは何かといった概念や思想的な部分のお話が聞けて非常に良かったです。自分の中で気になっていたさまざまなトピックが系統立てて理解できたし、資本主義経済の行く末には、専門未分化だった狩猟採集社会に近い贈与経済的な世界があるのではないかというお話を伺う中で、今回の祭りを考える上で漠然と抱いていた仮説があながち間違ったものではないと自信を持つこともできました。自分の作品を言語化していくという意味で非常に有意義なインタビューになったと感じています。

仮想通貨を奉納できる「サーバー神輿」。ビットコインの着金に応じて発光し、5回以上着金すると「ワッショイ・セレブレーション」機能が発動する。 Photo: 黒羽政志

このインタビューの後、晴れてクラウドファンディングも目標額を達成しましたね。

市原:はい。クラウドファンディングの締め日に行ったライブ配信に、先ほどもお話した小倉ヒラクさんが電話で出演してくださり、「全く共感できないことをしているからこそ支援した」とおっしゃっていたことがとても印象に残っています。この話を受けて、今回担当してくれた「READYFOR」の廣安ゆきみさんが最近noteに書かれた「2020年代のクラウドファンディング論」でも、今後は共感ベースのものよりも、共感はできないしよくわからないけど面白そうなプロジェクトへの支援が増えてくるのではないかということが書かれていて、それは私も強く実感したところでしたね。

READYFORで行われたクラウドファンディングでは、目標額の100万円を大きく上回る1,411,600円の調達に成功。

この後は100BANCHに入居し、本格的な制作フェーズに入っていきましたね。

市原:昨年8月に神輿の土台をメルカリで購入したのですが、自宅に放り込んでみてあまりの大きさに絶望し、100BANCHに移動させ、そこからテクニカル・ディレクターの渡井大己さんと一緒にゾンビのようになりながら追い込みモードで制作に励みました。今回は海外プロモーションも意識していたので、合間にアルス・エレクトロニカでも前作「都市のナマハゲ」の展示をしたりしていて、相当カオスな状態でした。運営については商店街の方々にも多分にご協力頂きましたが、当日のスタッフ募集、記録リソースの確保、協賛集め、クラファンのリターン、商店街との打ち合わせ、PRなどさまざまなことを同時進行かつほぼワンオペで行い、いま振り返ると狂気の沙汰だった気がします。

当初話していた東京に長く続く奇祭にしていくためのハードルというのは、なかなか高そうですね。

市原:個人のアーティストが持ち出しで続けることには無理があるので、企業などとも上手くタイアップしながら、収益化モデルをつくらないといけないなと思っています。ただ、お祭りというのは、純粋な作品をつくって発表するよりもさまざまな社会との接点があるので、人もお金も集めやすいと感じています。また、そもそもの話になりますが、私は作品を完全なフィクションで終わらせるのではなく、社会に実装し人々のフィードバックを得たいという欲求が強いんですね。祭りというのはそれが実現しやすいフォーマットでもあり、お宝を見つけたという印象があります(笑)。今回も奇祭を通して人のうねりをつくるという目的はかなり達成できましたし、白昼夢のような異次元の光景が見られたことにはとても満足しています。

100BANCHでの制作風景。

一方で課題に感じたことや、やりきれなかったことはありますか?

市原:やはりアーティスト個人によるワンオペの運営体制ではやりきれない企画も少なからずありましたし、運営体制の強化に加え、先ほども話したバイオアート方面はもっと広げたいですね。先日、バイオアーティストの清水陽子さんと対談する機会があったのですが、そのご縁もあって彼女が使っていたバイオ機材を譲り受けることができたので、これから本格的にバイオにも取り組み、作品を進化させていきたいと考えています。

仮想通貨奉納祭を終えてから、すでにいくつかの巡回展示やイベントなどをされていますね。

市原:松戸市の重要文化財・戸定邸で開催された「科学と芸術の丘」というフェスティバルではサーバー神輿を展示し、なんと松戸副市長や名誉館長にも担いで頂きました(笑)。他にも、ICC主催のグループ展に参加し、シンガポールと東京で展示を行いましたし、今後も京都で行われる国際フェスティバル「KYOTO STEAMー世界文化交流祭ー」のプログラムとしての京都市京セラ美術館での展示や北九州での展示、「Media Ambition Tokyo」でのイベントなどが控えています。さらに、企業などからさまざまなイベントや企画などのご相談も頂いており、発展性を感じています。また、今回の祭りでは海外の人を巻き込みきれなかったので、アルスエレクトロニカなどの海外フェスティバルにも持っていき、日本勢を中心にパレードのような派手な催しができないかと目論んでいます。

49日を共生できるロボット「デジタルシャーマン・プロジェクト」の「仮想通貨奉納祭」特別仕様ヴァージョンとして、アニマトロニクス研究者の中臺久和巨さん制作の特製天狗マスクを装着した天狗ロボットも展示されました。 Photo: 黒羽政志

今回のプロジェクトは、制作プロセスや発表形態なども含め、市原さんにとってひとつのターニングポイントになりそうですね。

市原:そう思います。今回のようなプロジェクトは、純粋なアート作品の発表よりも広がりが大きいと感じていますし、今後は奇祭プロデューサー、フェスティバルプロデューサーのようなポジションも狙っていきたいなと密かに思っています(笑)。

最後に、カンバセーションズに1年半参加された感想をお願いします。

市原:昨年末のカンバセーションズのイベントでもお話ししましたが、好きな人との対話をメディアの記事としてアーカイブしてもらえることは非常にありがたく、それ自体が重要なリファレンスになりました。また、インタビューさせて頂いた方とその後コラボレーションすることになる確率も異常なほど高く、色々な面で効能があるメディアだなと感じました。今回はカンバセーションズのインタビューをはじめ、制作プロセスからダダ漏れ感が強かったのですが、これまでの経験上、途中から色々情報を出していったプロジェクトの方が世の中に波及しやすいと感じていますし、そうしたつくり方が自分には向いているのだろうなと改めて感じました。

今後も何かしらの形で関係を継続させていければと思っています。1年半ありがとうございました。

市原:こちらこそ、本当にありがとうございました。

昨年11月、「仮想通貨奉納祭」直後に開催したカンバセーションズ第一期インタビュアーのプロジェクト報告会。