MENUCLOSE

「問い」をカタチにするインタビューメディア

発想とカタチ

メディアアーティスト・市原えつこさんが聞きたい、「来訪神をリデザインする方法」

メディアアーティスト・市原えつこさんが「来訪神をリデザインする方法」について聞きたい理由

故人の痕跡をロボットに憑依させ、死後49日間だけ遺族とともに時を過ごすことができる「デジタルシャーマンプロジェクト」で、第20回文化庁メディア芸術祭 エンターテイメント部門で優秀賞を受賞した市原えつこさん。日本独自の風習や信仰、風俗に目を向け、社会が忘れ去ろうとしているものたちを先端テクノロジーの力で現代にアップデートする作品の数々で注目を集めている彼女が、次回作に向けて構想を進めているようです。民俗学、仮想通貨、バイオテクノロジーなどの分野に精通する人たちへのインタビューを画策している市原さんの次回作のテーマは、「来訪神のリデザイン」。この新作のリサーチとして、市原さんが各界のエキスパートたちにインタビューをしていきます。

まずは市原さんの自己紹介をお願いします。

市原:メディアアーティスト・妄想インベンターの市原えつこです。日本的な文化・習慣・信仰に強い関心があり、それらをテクノロジーによって現代にアップデートするような作品づくりをしています。過去には、センサーがつけられた大根をさすると女性の喘ぎ声がする「セクハラ・インターフェース」、家庭用ロボットに死者の痕跡を宿らせ、49日間だけ遺族と共生できる「デジタルシャーマンプロジェクト」などの作品をつくってきました。

今回カンバセーションズでインタビューしてみたいテーマについて教えてください。

市原:以前に、秋田で200年以上続いてきたナマハゲを都市部に実装する作品を制作したのですが、次はそれを発展させる形で、日本の奇祭や来訪神をテーマにした作品をつくりたいと考えています。ただ、現時点ではかなり漠然としたイメージしかないので、制作に向けたリサーチとして、作品テーマにまつわるお話をさまざま方たちに伺ってみたいと思っています。

そもそも、なぜ奇祭や来訪神に興味を持ったのですか?

市原:2016年に、世界各地の民族衣装や儀式、祭礼などのコスチュームを撮影しているシャルル・フレジェというフランス人写真家の「YÔKAÏNOSHIMA」という展覧会を見たことがきっかけです。この展覧会で彼は日本固有の仮面神や鬼たちの姿を撮影していたのですが、これを見て一気に奇祭や仮面などへの関心が高まりました。人間じゃないものに化けるために用いる仮面というツール自体への個人的な興味もありますし、これだけデジタルツールが発達して便利になった時代でも、きっと人間というのは本能的に異物や異形の者を求める気持ちがあるんじゃないかなと思うんです。そんなことを考えている時にISIDイノラボさんからお声がけ頂き、日本の奇祭や祝祭をテーマにした作品として、「都市のナマハゲ」をつくることになったんです。

「都市のナマハゲ」展示風景 at ICC

「都市のナマハゲ」はどんな作品だったのですか?

市原:作品をつくるにあたって、秋田県男鹿市の方々にヒアリングしてみると、ナマハゲというものが集落における総合監視や治安維持など社会的なシステムとして機能していることがわかってきました。ナマハゲというのは、人々が集団としてまとまって生きていくための知恵として継承されてきた側面があることに気づき、ナマハゲが持つ機能を分解し、現代に合わせて新しくつくり直したらどうなるかという思考実験をしたのがこの作品です。ナマハゲというのは集落ごとに姿が異なるということも聞いたので、さまざまな分野のクリエイターに協力して頂き、秋葉原をはじめ東京のさまざまなエリアのナマハゲを制作し、映像作品として発表しました。

この「都市のナマハゲ」を受けて、次はどんな作品をつくりたいと考えているんですか?

市原:この作品づくりを通じて、来訪神という概念が面白いと感じるようになったんです。来訪神というのは年に一度やって来る異形の姿をした神のことで、住民に豊穣や幸福をもたらすとともに、一年間の行いを思い起こさせたり、悔い改めさせたりして去っていくものです。来訪神で検索すると色々出てくるのですが、ひたすら泥を投げつけてくる宮古島のパーントゥや、ナマハゲに類似したふるまいをする鹿児島のトシドン、撮影したら命の保証がないと言われている沖縄八重山列島のアカマタ・クロマタなどが有名です。また、サンタクロースを来訪神と捉える向きもあるなど、世界各地に来訪神という概念はあって、かなり奥深そうなので研究の余地があるなと。「都市のナマハゲ」の時は、先に話したようにナマハゲの機能面にフォーカスしたのですが、今回は合理的には理解できない呪術性の部分などにも踏み込んでみたいと思っています。

「都市のナマハゲ」展示風景 at ICC

作品制作にあたって今回インタビューしてみたい人や分野を教えて下さい。

市原:まずは妖怪や来訪神、祝祭の成り立ちなど、作品テーマの核になる部分について聞いてみたいです。先に話したシャルル・フレジェの展覧会の図録に、先日『21世紀の民俗学』という本を書かれた畑中章宏さんが寄稿されていて、今回のテーマに関わることに言及されていたので、ぜひその辺りを掘り下げて聞いてみたいと思っています。また、今回はギャラリーなどで展示する作品というよりも、来訪神が登場する祝祭のような場自体を設計したいという思いがあるんです。そうした点で、私が大きな影響を受けたアーティストであり、先日「エレクトロニコス・ファンタスティコス!」というご自身のプロジェクトのお祭りを3日間に渡って開催した和田永さんにもお話を伺いつつ、あわよくばコラボの提案なんかもできないかと目論んでいます(笑)。そして、キュレーターやプロデューサー的な役割の方もお話しを伺い、作品を形にしていく上でのアドバイスや客観的な突っ込みなんかもいただけると最高ですね。

興味のある分野として、仮想通貨を挙げて頂いていますね。

市原:先日、VALUで炎上騒動が発生してしまいましたが、私も実際にVALUに登録したり、ビットコインやアルトコインなどの仮想通貨を売買してみたりして、バーチャルにお金が動くシステムはとても面白いと感じましたし、何かやりたいことがある時に、滑らかにお金が回っていくプラットフォームというのはクリエイターにとってかなり良いものなんじゃないかと。今回の作品に関して言うと、色々な人たちの貢献によって成り立っている祭りというものは仮想通貨と相性が良さそうだなと直感的に思っています。例えば、仮想通貨を用いて賽銭奉納できるシステムみたいなものをつくって、祭りという超ローカルなものに世界中からアクセスして投げ銭ができたりすると面白そうなので、仮想通貨に精通している方の話もぜひ伺ってみたいんです。

他に興味がある分野はありますか?

市原:私は今回の作品におけるテクノロジーの役割を、生命に付随するものと集合知に付随するものに大きく分けて考えているんですね。いまお話した仮想通貨というものを、人の流れやエネルギーを表象するためのテクノロジーとして祭りや儀式に紐付けることを前提にしている一方で、バイオテクノロジーやロボティクス、AI、人工生命などを、生命に付随したテクノロジーとして来訪神に紐付けることを検討しています。ただ、現時点ではバイオテクノロジーに関する知識があまりなく、かなり漠然としたイメージしか持っていないので、もっと勉強しないといけないなと思っています。私が拠点にしているこのシェアオフィス(FabCafe MTRL)には「バイオラボ」という施設もあるので、ワークショップに参加するなど活用していきたいなと考えているところです。

来訪神、祭り、バイオテクノロジー、仮想通貨などのさまざまな要素がどのように作品に落とし込まれていくのか、いまから楽しみです。

市原:闇鍋のようにこれらを全部入れて煮詰めたらどうなるか、という感じですね(笑)。特に今回のようなお祭り的な作品は、経過をオープンにしながら色んな人たちを緩やかに巻き込んでいった方が面白いと思うし、カンバセーションズでのインタビューが作品プロセスを発信していける場にもなるといいなと思っています。