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「問い」をカタチにするインタビューメディア

問いから学ぶ

CINRA代表・杉浦太一さんが聞きたい、「第三の教育の場のつくり方」

CINRA代表・杉浦太一さんによる、
教育事業立ち上げに向けた中間報告

創業当初からの夢だったという教育事業の立ち上げに向けて、昨年6月から教育分野のトップランナーたちにインタビューを続けてきたCINRA代表の杉浦太一さん。このカンバセーションズでの企画を皮切りに、先進的な取り組みを行う全国各地のサマーキャンプやヨーロッパの教育機関の訪問など精力的にリサーチを重ねてきた杉浦さんですが、今年の3月には、マイナビとCINRAの共同プログラムとして、大学1、2年生を対象にした講座の企画、運営を行いました。そこで今回は、この取り組みについて杉浦さんに振り返って頂くとともに、いよいよ実現が間近に迫ってきた教育事業開始に向けた今後のプロセスについても語って頂きました。

今回大学生向けにイベントを行うことになった経緯から聞かせてください。

杉浦:昨年のカンバセーションズのリニューアル記念イベントの時に、同じく第一期インタビュアーの熊野森人さんのゲストとしていらっしゃっていたマイナビの方たちとお話をする中で、「MY FUTURE CAMPUS」というプロジェクトのゼミ企画として、大学1、2年生を対象にしたプログラムを企画することになりました。今回は、3組のクリエイターを講師としてお招きし、全3回の講座を行ったのですが、3回目のゲストで来て頂いたのも第一期インタビュアーの市原えつこさん。まさにカンバセーションズのつながりによって実現できた企画でした。

それは素晴らしいですね! 早速、全3回の講義をそれぞれ振り返って頂けますか?

杉浦:まず、1回目はストリートアーティストのSIDE COREのおふたりを講師にお招きしました。この回では、組織ではなく、個人という単位で社会に変化を起こしていく方法としてアートを定義した上で、最初におふたりから、バンクシーやJRなどのアーティストの作品事例を紹介して頂きました。それを踏まえて、参加者それぞれに、自分が気になること、社会に対して感じていることから、アートアクションをプランニングしてもらいました。1時間でプランを考え、発表するというなかなかの無茶振りだったのですが(笑)、面白いアイデアがたくさん出てきてとても驚きました。

ちなみに、参加者の人数や属性などについてはいかがでしたか?

杉浦:全3回の講座に通しで参加して頂く形だったのですが、最終的におよそ20人の学生に参加してもらうことができました。今回の受講者は、文章を書いている人、バンドをしている人、LINEスタンプをつくっている人、マスコミの仕事がしたいという人など、文系の学生が中心でした。

第1回の講師を担当したSIDE COREの松下徹さん。

2回目の講座についても聞かせてください。

杉浦:Homecomingsというバンドでギター、作詞を担当している福富優樹さんに京都からお越し頂きました。SIDE COREさんが社会に対してアウトプットすることをテーマにしていたことに対して、福富さんに考えてもらったプログラムは、自分の内面を掘り下げていく類のものでした。具体的には、自分がどういう時に寂しさを感じるのかということについて振り返った上で、それをひとつのストーリーにして表現するという内容でしたが、深夜に感じる寂しさをテーマにしたストーリーや、男性があえて女の子という設定で書いた物語など、この回もさまざまなアウトプットが出てきました。

どの講座もなかなか難易度が高そうですが、途中で手が止まってしまうような受講者はいなかったのですか?

杉浦:驚くほどそういう人がいなくて、ちょっと異常なのではないかと感じるくらい、みなさん素晴らしかったですね。そもそも、大学1、2年生のうちからこうしたイベントに能動的に参加する人というのは、高い意識を持ち、普段からアンテナを張っているような方が多いとは思いますが、今回は大阪から毎回夜行バスで来てくれた受講者もいらっしゃいました。

Homecomingsの福富優樹さんが講師を務めた2回目は、CINRAのオフィスが会場になった。

カンバセーションズでもおなじみの市原さんは、どんな講座をされたのですか?

杉浦:参加者それぞれに、自分が偏愛しているものや実現したいアイデア、さらに嫌いなものや違和感があるものを次々と書き出していってもらった上で、それらを掛け合わせて生み出したアイデアを元に、100年後の新聞記事を書くという講座でした。そして、その記事を壁に張り出し、自分が良いと思うものには赤いシール、あまり好きではないものには青いシールを貼っていき、自分の記事に貼り付けられた赤と青のシールの数を掛け合わせることでポイント化してみました。ここで肝になるのは、赤いシールの数が多ければ多いほど良いということではなく、赤(好き)と青(嫌い)両方の反応があることが大切だということです。すべての人に好かれるだけでは問題提起にならないし、逆に嫌われすぎても見てもらうことができない。賛否両論があることが重要だという考え方は、アート以外の領域にも転用できそうだと感じました。

3回目のゲストは、カンバセーションズでもおなじみの市原えつこさん。

今回の講座の内容は、講師の方がそれぞれ考えられたのですか?

杉浦:今回は、専門的なスキルではなく、自分なりの視点を見つけたり、身につけることをテーマにしていたので、お声がけした講師の方々にもその前提を共有した上で、プログラムの内容をご提案頂くようにしました。それをもとに、必要に応じてブラッシュアップをしながら、当日の講座に臨みました。

講座に参加した人たちの反応はいかがでしたか?

杉浦:講座の後に毎回アンケートに答えてもらったのですが、おかげさまで90~95%はポジティブな反応でした。人生が変わるかもしれない体験だったという声など、うれしい感想も多かったです。また、講座の中で自分の内面を書き出したりしていたこともあってか、参加者同士も徐々に打ち解けて仲良くなっていたように見えましたし、もともと仲間を見つけたいというのを参加動機のひとつにしていた人も少なくなかったのかもしれません。

今回のイベントを通して、CINRAの教育事業が目指すべき方向性はより明確になりましたか?

杉浦:これまでカンバセーションズの取材などで色々な人に話を伺ったりする中で、自分たちのヴィジョンはすでに明確になっています。それは、以前にサマーキャンプに伺ったGakkoの担当者が話されていたことにも通ずるのですが、人生において予期しなかったターニングポイントになるような機会を提供することです。教育事業の目的自体がブレることはないのですが、今回のイベントを経て、自分たちが提供するものを学びとしてとらえてもらうのか、あるいは遊びとして捉えてもらうのかということはしっかり考えないといけないと、強く思うようになりました。

「学び」と「遊び」の違いについて、もう少し詳しく教えてください。

杉浦:今回は、アートや音楽が好きな大学生を対象に参加者を募ったのですが、最終的に自分たちが学びの機会を提供していきたいのは、より広い属性の人たちです。今回の受講者のモチベーションは、アートや音楽への興味や、学びへの意識だったと思いますが、仮に募集対象を広げたり、年齢層を下げた場合は、もう少し遊びの要素を強める必要がある気がしています。CINRAで検討している教育サービスでは、第一線で活躍する大人から何かを学ぶということが大きなテーマになると思いますが、そこにはエンターテインメント性も必要で、単純にやっていて楽しいから続けるという状況をつくることが理想です。そういうワクワクする要素を担保しながら、教育的価値も訴求していくような見せ方をしていく必要があるなと思っています。この辺はややマーケティングっぽい話になってしまいますが(笑)。

全3回の講座を通して、たしかな手応えを感じ取っていたCINRA・杉浦さん。

現時点で、その他に課題に感じていることはありますか?

杉浦:自分たちの教育事業で講師になって頂きたいと思っている方たちは必ずしも教育のプロではないので、講師とは別にファシリテーターとなる人材を育成をしていく仕組みを整備する必要があります。おそらく、いまファシリテーターという存在が世界的に不足していて、こうした人材を育てること自体が一大ビジネスにもなるのではないかと感じています(笑)。

教育事業の立ち上げに向けて、今後はどのようなプロセスを想定していますか?

杉浦:今回の講座は大学生向けでしたが、次は高校生を対象にしたプログラムを自社で行う予定です。そこで、先に話したような課題に対する何かしらのヒントが得られればと思っていますし、普段は点数で判断されがちな高校生たちに、いつもの授業とは異なる新鮮な体験をしてもらいたいです。今回、大学生たちが真剣に考えつつも、楽しそうに講座に参加している状況を目の当たりにして、「そうだ、自分はこういうことがしたかったんだ」と改めて実感できました。今後も引き続きテストを繰り返しながら、自分たちの教育事業をサステナブルなものにしていくためのビジネスモデルや社内体制を整えていくつもりです。現時点ではまだお知らせできないことも多いのですが、夏頃には何かしらの形でみなさんに発表できるのではないかと考えています。