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「問い」をカタチにするインタビューメディア

CINRA代表・杉浦太一さんによるサマーキャンプレポート(Gakko、HLAB、Life is Tech)

新たな教育事業の立ち上げに向けて、カンバセーションズで教育分野のさまざまなプレイヤーたちにインタビューを続けているCINRA代表の杉浦太一さん。
そんな杉浦さんがこの夏、国内で行われた3つのサマーキャンプを訪問しました。いま、サマーキャンプの現場では何が行われているのでしょうか? 現地の様子を、杉浦さん自らがレポートしてくれました。

Text:杉浦太一(CINRA)

現場に触れてみたい!

CINRAでこれから始める教育事業を構想するため、カンバセーションズ上でインタビュー連載を進めさせてもらっています。これまでのインタビューでは、実際に教育にまつわるサービスや活動をしていらっしゃる方々にお話を聞いてきました。

お話を聞くにつれ、実際に子どもたちがいる現場に触れてみたくなったので、この夏、国内で行われた3つのサマーキャンプにお邪魔してきました。

その様子を番外編としてご紹介したいと思います。

1. Gakko/世界中の情熱が凝縮した、ここにしかない深い体験

まずはじめにお邪魔したのは、岡山県の山奥で開催されていたサマーキャンプ「Gakko(ガッコー)」です。

Gakkoは、代表の古賀健太さんが、2012年イエール大学在学中に始めたサマーキャンプです。世界中の高校生(Kohai)が参加者で、世界中の大学生や20代のヤングプロフェッショナル(Senpai)がメンターとなり、彼らにまたとない体験を提供します。

これまでGakkoのサマーキャンプは、日本、アメリカ、ルーマニア、フランスなど世界中で開催されてきました。代表の古賀さんやカントリーマネージャーの小島レイリさんなど一部の方々を除けば、すべて外国の人々によって組織されている、完全にグローバルな新たな教育を創造しているクリエイティブファームです。

サマーキャンプ以外にも、2018年に第一弾としてニューヨークに開設された常設スペース「Gakkoハウス」や、デジタル学習ツールを開発・販売する「Gakkoデジタルラーニング」など多彩な事業を展開しています。

今回お邪魔させてもらったGakkoキャンプ、岡山空港から車で1時間弱の山奥で開催されていました。

Gakkoが開催された岡山県赤磐市小鎌。

今回のキャンプの高校生参加者は30人。なんと、17カ国からの参加です。日本人はそのうち2、3名。この時点で多様すぎます……。もちろん、言語は英語です。

Gakkoのサマーキャンプは、「すべてのキャンプは、新たな実験の場である」と定義されています。その言葉通り、2度と同じ内容のキャンプはありません。

毎回、Senpaiとなる大学生がキャンプ開催の2週間前に世界中から集まり、徹底的に議論し、プログラムを構築していきます。時には涙を流しながら議論していくほど、そのプロセスは本気で、クリエイティビティに満ちたものになっているのだそうです。

例えば、今回のキャンプで実施されていたワークショップは、自分たちでゼロからつくりあげる障害物競争や、自分の国をつくってみようというワークショップ、自分にとって一番大切なものは何かを議論していくものなど、大学の特定の授業科目のようなものではなく、自分自身と深く向き合い、新たな自分を発見していくようなものが多く見受けられます。

Kohaiがワークショップで書いた「How to tie a friendship(友情の築き方)」を掲示。

そんなGakkoキャンプを支える大切な時間の一つに、「ファミリータイム」というものがあります。毎日夜、チームである「ファミリー」で集まり、深い対話をする時間です。例えば、誰にも言えなかった性の悩みや孤独を打ち明けたりすることもあります。

チームごとに暗号を解いてチームビルディングを学ぶワークショップ。

今回迎えてくださった日本のカントリーマネージャーの小島さんは、参加者の選考から、入国するまでのビザの手続きや現場準備など、あらゆる業務を担当なさっていました。

小島さん:今回シリアのKohaiが2人参加しているんですけど、万全な準備をしていたにも関わらず、関西国際空港で止められてしまって。結局入国するまでに51時間もかかりました。あらゆるところと連絡を取り合い、なんとか、この場まで連れてくることができました。この場所に着いたらもう完全にみんなのヒーローになっていて、武勇伝を語ってくれましたよ(笑)。私たちは、シリアのように入国が簡単ではない国の子たちも受け入れたいし、本当の意味での多様性を大切にしています。だからこそ、絶対に追い返すようなことはしたくない。51時間かけて日本に来て、あと10メートルのところで引き返すようなことがあったとしたら、それはシリア人である彼らの一生のトラウマになります。私たちが呼んだ子たちにそんな想いをさせるわけには絶対にいかないんです。そのためにはどんな苦労も惜しみません。

シリアから来たKohai2人。自国の旗や調味料や観光マップを持ってきて、熱心にシリアについて説明してくれた。
今回の食事はすべてビーガン。「みんなで食卓を囲う」ことを大事にするGakkoは、宗教ごとに食べられないものが多いため、ビーガンメニューで食事が提供される。どれもすごくおいしい!

同じく今回お世話になった、キャンプコーディネーターの清水イアンさんは、Gakkoについてこう語ってくれました。

清水さん:Gakkoは、参加者が視野を広げる場所です。一般の学校は、特定の分野に絞られた教育を、テキストをベースに実践します。また、外からの情報をインプットすることにフォーカスします。ある意味では視野を狭めていくけど、Gakkoでは、その真逆と言える教育を実践します。あらゆる分野に精通した Senpai のメンターシップのもと、興味や関心、自己肯定感を内側から発掘していきます。

この年齢(13〜18歳)の子たちは、周りの環境に敏感です。例えば、僕らが面倒くさそうにやっていたら、それが彼ら、彼女らにそのままうつるし、僕らがオープンに接すれば、彼らも自分をさらけ出してくれるんです。こういった雰囲気づくりには、細心の気配りをします。

左から、清水イアンさん、小島レイリさん、杉浦。

Gakkoから学んだことは、プログラムをつくる上でのクリエイティビティです。

毎回まったく異なる、10倍もの倍率をくぐり抜けた世界中の大学に通うSenpaiがつくるプログラムが、面白くないはずがありません。彼らのバックグラウンドは、数学、心理学、演劇、アートなど本当にさまざま。彼らが、時間を惜しまず、徹底的につくり上げていくプログラムには、アイデアとクリエイティビティと情熱で満ちています。それは必ず、Kohaiにとって一生忘れられない時間になるはずです。規定のフォーマットが存在しない、一回性の体験を生み出す情熱を学びました。

2. HLAB OBUSE/グローバルな教育事業が持つ地域活性の可能性

次にお邪魔したのは、『HLAB(エイチラボ)』です。

東京、長野県小布施、宮城県女川、徳島県の4か所で開催されていますが、私は小布施にお邪魔してきました。小布施は、長野駅からローカル線で30分程度のところにある、緑豊かで、街の景観がとても良い街です。

カンバセーションズの連載で代表の小林さんにインタビューさせて頂いたので、HLABのコンセプトや事業内容についてはぜひそちらをご覧ください。

Gakkoと異なり、HLABの参加者は日本の高校生。メンターとなるのはGakko同様、世界中の名門校に通う大学生です。基本的にプログラムは、日英の2言語で進んでいきます。

今年で6回目となる、HLAB OBUSE。参加者50名のうち、県内が半数、県外が半数という割合で、開催地である小布施在住の高校生も6名が参加しています。

開会式の様子。

HLAB OBUSEで行われるのは、メンターである大学生が教える少人数講義形式の「セミナー」や、外部ゲストを招いた「フォーラム」、自分の得意なことを披露する「タレントショー」、自由にチームで語らう「フリーインタラクション」など、多彩なプログラム。

全プログラムを通して大切にしていることは、「授業ではなく、人からの学び」。サマーキャンプという生活空間で、人と人との関わりによって生まれるピア・メンターシップこそが、リベラルアーツのあるべき姿と考えるのが彼らのポリシーです。

初日のアイスブレークの様子。

私がお邪魔したのは、開催初日だったため、まだ参加者の緊張の糸はほぐれきっていませんでしたが、それでも海外から集まってきたメンターたちのテンションの高さのおかげか、ウェルカムディナーの時間には和気あいあいとした空気が流れていました。

ウェルカムディナーの様子。
HLAB OBUSE2018のプログラム責任者を務めた百瀬あすみさん。
HLABのグローバルボードメンバー。
セミナーの様子。

HLAB OBUSEで学んだことは、「教育がもたらす地域活性の可能性」です。

小布施での開催はこれで6年目とのことですが、現在HLAB OBUSEの主催は「長野県教育委員会」。共催が「長野県小布施町」、そして「一般社団法人HLAB」となっています。「初回は、県教育委員会も含め、プログラムの意義を理解してもらうことだけでも一苦労でした」と語るのは、HLAB OBUSEを長年支えてきた大宮透さん。

HLAB OBUSE 大宮透さん。

いきなり1週間、世界中の外国人が街を訪れるとあって、開催当初は地元の方々とのすり合わせも難しい出来事が多かったのだとか。例えば、服装の違いです。日本の大学生と比べて肌の露出が多い海外の大学生。その服装を見た地元の方々が大宮さんに苦言を呈されたようですが、それに対して「それ自体、セクハラですよ」と正面きって返したのだとか。

大宮さん:県が教育をグローバル化していくということであれば、そこに住む人たちの感覚も世界と目線を合わせなければなりません。地元に合わせるべきは合わせ、世界に合わせるべきは自分たちの考え方も変えていく必要がある。こうした少しの感覚のズレを放置しておくと、ゆくゆくもっと大きな問題になってしまう。お互いに尊重し合いながらも遠慮せず、丁寧に議論してきました。

小布施町は、町長であり、HLAB OBUSEの開催を強く後押ししてきた市村良三さんや、地元の方々のオープンで前向きな気質のおかげで、HLABだけでなく、東京大学や慶應義塾大学など、多数の研究機関を招き、様々な取り組みを行なっていることでも知られています。

小布施町役場内にある東京大学先端科学技術センターの研究室。

大宮さん:小さな町ですから、外の世界を見たいと思う子どもたちも少なくありません。しかし、こうして世界中の大学生がこの街を訪れて、口々に小布施の素晴らしさを語ってくれることで、小布施や長野の子どもたちが地元の素晴らしさに気づき、将来、世界で活躍しながらも地元のことを大切に思ってくれる人に育ったり、いつか地元に帰ってきて力になってくれたら、こんなに良い地域活性はないと思いませんか?

一般的に地域活性と言えば、観光や雇用促進、移住者増による新産業創出などが語られがちですが、グローバルな教育交流が持つ、より持続的で本質的な可能性に気づかされた機会でした。

HLAB開催会場裏の学校の校庭。

3. Life is Tech! /圧倒的なサービス精神でモノづくりやITの楽しさを伝える

最後に訪れたのは、中高生向けのプログラミング・ITキャンプ『Life is Tech!(ライフイズテック)』。2011年のスタートから、延べ28,000人もの中高生が参加している、国内最大級のサマーキャンプです。

毎年、東京や大阪など全国で複数箇所開催されているサマーキャンプですが、私が訪れたのは東京大学構内で行われていたもので、参加している中高生は約130人。

iPhoneアプリ、Androidアプリ、Unity、映像、Webデザインなど、多数のコースが用意されており、各コースごとにチームに分かれ、各チームに大学生メンターがついて、キャンプ中に自分だけのオリジナル作品をつくっていきます。

5日間のキャンプで私がお邪魔したのは、初日と最終日でした。
初日は子どもたちもかなり緊張している様子。それを解きほぐしていくのが、社員さんとメンターである大学生たちです。「人生で一番楽しかった!」という極上のエンターテイメントを目指すのがモットーであるLife is Tech !。オープニングセレモニーでは、演出、MC、映像、すべてにおいてショーレベルの完成度で、メンターたちが合いの手や掛け声で盛り上げます。これまでの2つのサマースクールとはまったく趣向の異なるものでした。

ユーモアあふれるオープニングセレモニーの様子。

初日はアイスブレークも兼ねて、キャンプオリジナルの謎解きゲームを実施。緊張気味だった子どもたちの目の色が一気に変わります。内容は大人でも難しいレベル。私も真剣に参加したのですが、結果は中高生に惨敗...(笑)。みんなの賢さにたまげました。

2日目以降は、コースごとの作品づくりである「開発」が主な時間となり、それぞれに作品制作が進んでいったようです。

そして最終日、5日間かけてつくった作品を披露するプレゼン。発表会には親御さんの参加も多く、子どもたちも緊張しつつも、初日にはなかった連帯感が生まれていて、表情がゆるく暖かくなっているのが印象的でした。

中には、中高生とは思えないレベルの作品もありましたが、それ以上に印象的だったのは、もっと荒削りな作品です。初めて自分でプログラミングして作品ができたという喜びは、将来プログラマーやクリエイターになるかどうかに関わらず、子どもたちの「自分で何かを社会に生み出す」という貴重な体験になっただろうと思います。

クロージングセレモニーもオープニング同様、演出からMCまで、やはりすさまじい完成度でした。

Life is Tech !から学んだのは、「圧倒的なサービス精神」でした。

Life is Tech !が他の2つのキャンプと異なっていたのは、「参加者に選考がない=誰でも参加できる」ことと、半数近い子どもたちの参加のきっかけが「親御さんからの勧め」があったということです。

GakkoとHLABのように、自分で参加したいという自発性を持ち、かつ選考に選ばれた子どもたちは、ある意味ではそれだけで何かの条件をパスしているのだと思います。いわばクラスの中では少数派、であるはずです。

Life is Tech !の場合ももちろん、プログラミングやアニメーションが好きで自発的な参加もあるとは思いますが、選考がなく親御さんからの勧めであるとすれば、そこには「よくわからないけど来てみた」という参加者も多いはずです。

それゆえに、彼らにあまねく「来てよかった」と思ってもらったり、一生ものの経験を提供するには、主催者側が彼らに歩み寄り、自信を持たせ、よき体験をつくりあげなければなりません。そのために、圧倒的なサービス精神で、彼らの感動を創出する手助けをする必要があるのだと思います。

おわりに

今回訪れた3つのサマーキャンプ。それぞれ、理念、形態、対象者、すべてが異なるものでした。CINRAでこれから行う教育サービスが、どういった人たちを対象とし、どんな価値を提供し、どれくらいの事業規模にしていくことを目指すべきか、とても参考になる貴重な時間でした。

迎え入れてくださった3つのキャンプのみなさま、ありがとうございました!

Writer's Profile
杉浦太一
1982年東京生まれ。2003年大学在学時に創業し、2006年株式会社CINRAを設立。官公庁や自治体、大手企業や教育機関のブランディングやデジタルマーケティングに従事する。自社事業としては、アートや音楽などのカルチャーメディア『CINRA.NET』の運営や、シンガポールやタイ、台湾などアジアを中心とした多言語クリエイティブシティガイド『HereNow』など、多数の自社メディアを運営。