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「問い」をカタチにするインタビューメディア

未知との出会い

知財図鑑・出村光世さんが聞きたい、「新しい『知財』カルチャーのつくり方」

「知財図鑑」・出村光世さんが、
CINRA代表・杉浦太一さんに聞く、
「メディアを成長させるために必要なこと」

企業などが保有しながら、活用機会に恵まれない「凄い知財」を掘り起こし、クリエイターやビジネスリーダーなど非研究者にその価値をわかりやすく伝えることで、オープンな社会からイノベーションが生まれる状況を生み出すことを目指す「知財図鑑」。この知財図鑑で共同代表を務める出村光世さんが、業界にパラダイムシフトを起こす新しい知財文化を醸成していくためのヒントを得るべく取材を続けている本企画で今回インタビューするのは、以前にカンバセーションズにインタビュアー側として参加し、10代向けのオンラインラーニングサービス「Inspire High」を立ち上げたCINRA代表の杉浦太一さんです。学生時代に仲間とともに起業し、メディア事業を軸にビジネスを拡張している杉浦さんに、ゼロから立ち上げたメディアを成長させるための秘訣について聞きました。

出村光世
CINRAはどのように生まれたのですか?

知財図鑑は、僕が代表を務めるコネルのプロジェクトを通してさまざまなテクノロジーやそれにまつわる特許の情報に触れる中で、世に知られていなかったり、応用の仕方が考えられていない知財が多いことに問題意識を持つようになったことをきっかけに立ち上げた会社であり、メディアです。僕たちが運営しているメディアでは、知財ハンターと呼ばれるメンバーたちが、クリエイター目線でさまざまな知財を解釈し、多くの人たちを触発するようなコンテンツにして発信することで、その活用を促進することをテーマに据えています。最近は、企業の知財活用のコンサルティングや広報物の作成など受託の案件も増えつつあるのですが、メディア単体でしっかり収益を上げていくということが目下の課題です。そこで今日は、メディアづくりの先駆者である杉浦さんに色々お話を伺えればと思っているのですが、まずは改めてCINRA立ち上げの経緯から聞かせて頂けますか?

杉浦:僕は学生時代にバンドをやっていて、この道で食べていこうと思って大学を休学した時期があったんですね。でも、結局その夢はこっぱみじんに砕け散ってしまい、それからしばらくは眠れない日々が続いたのですが、ある時にこれからは素敵なアーティストやカルチャーを広めていく側になろうと決心したんです。そして、大学2年の頃に仲間たちとCINRAというメディアを立ち上げ、40~50名くらいの学生たちでボランティア団体のように運営をするようになり、大学卒業のタイミングで僕が代表に、もうひとりの仲間が取締役になり、会社を設立しました。

CINRAというメディアを完全にゼロから立ち上げたわけですが、「ゼロ」が「イチ」に変わったと感じたタイミングはいつ頃でしたか?

杉浦:その頃はあまり自覚していなかったと思いますが、いま振り返ってみるとメディア事業単体で収益化できた時ですかね。いまの『知財図鑑』も近い状況かもしれませんが、僕らはしばらく受託の仕事で得た利益でメディアを運営していたところがありました。当初は受託案件の規模も小さく、なかなか厳しいところもあったのですが、チーム内でバチバチ議論を重ね、メディアの収益化に本気で取り組んだ結果、3、4年くらいでそれが実現できました。学生からスタートしていたこともあり、ある種ウォーミングアップの期間を長く取れたことはラッキーだったかなと思います。

当時のメディア事業の収益源は何だったのですか?

杉浦:展覧会や音楽フェスなどカルチャー関連のタイアップコンテンツですね。最初はもちろん1円も儲からない状態からメディアをスタートし、記事を書かせてもらうことで多少のお金を頂けるタイアップ記事がつくれるようになり、徐々にその単価が上がっていったという感じです。そこから、1本平均数十万円規模のタイアップ記事を月に何本こなせるかというところで戦っていた時期がしばらく続いたのですが、レバレッジがききにくいモデルなので、自分たちの製作コストを確保するだけで精一杯なんですね。会社として利益を出して新たなチャレンジをしていくというところに関しては、やはり受託の仕事に収益を頼っていた時期もしばらくありました。

出村光世
どうやってメディアを成長させましたか?

そこからメディア事業がブレイクスルーしたきっかけは何かあったのですか?

杉浦:徐々にメディアとしての認知度が高まり、CINRAと一緒に何か取り組みをしたいという依頼を企業から頂けるようになったことですかね。それによって記事だけではなく、イベントなど複合型の施策ができるようになり、仕事の規模が大きくなっていきました。また、広告代理店で働いていた知人に声をかけてもらい、話題になる企画を展開できたことがきっかけで、代理店経由でナショナルクライアントの仕事も少しずつ増えていきました。

CINRA.NET

広告戦略的な話になりますが、CINRAではいわゆるシンプルな純広告のようなものは取り扱っていないのですか?

杉浦:もちろんバナー広告などが掲載できる枠も用意していますが、その収益は全体の1割程度です。この辺はメディアとしての戦い方の話になってきますね。

なるほど。知財図鑑では、知財の流動性を高めていくことを掲げていますが、それとセットで知財を生み出した人にフォーカスした人材マッチングなども今後行っていきたいと考えています。そういう意味でも求人サイトの「CINRA.JOB」の話も伺ってみたいです。実はコネルでもCINRA.JOBに求人を出させてもらったことがあるのですが、良い意味で自分たちが想定していなかった変な方たちがたくさん応募してくれたんです(笑)。現在コネルには、フリーランスに近い形で参画してくれている人たちが結構いるのですが、そういう人たちが一気に増えたきっかけにもなりました。

杉浦:CINRA.JOBを始める以前から、クリエイティブ系の求人サイトを運営していた方が近くにいて、僕らもそこから着想を得ながら手探りで求人サイトを立ち上げたのですが、おかげさまで初月から黒字化ができました。世の中にはCINRA.JOBより大きな求人サイトもたくさんありますが、大きなサイトほど利用者はさまざまで、必ずしもそのすべてが企業側が求めている人材ではないはずです。まさに出村さんが話してくれたこととつながりますが、CINRA.JOBはある程度の方たちから認知されながらも、大きすぎない規模だからこそ、応募してくれる方にもある程度のフィルターがかかっていて、そこにマッチするクライアントに使い続けてもらえているのかなと感じています。

CINRA.JOB

出村光世
どうすれば業界トップになれますか?

知財図鑑では、先にも話したように知財の流動性を高めてオープンな社会からイノベーションが生まれる状況をつくることを最終のゴールに掲げています。一方、直近のマイルストーンとして、知財業界No.1メディアというわかりやすい立ち位置を獲得するという目標があるのですが、知財業界でトップクラスのPV数を持つメディアと自分たちを比べた時の最も大きな差は、ニュースなどの情報量だと感じています。CINRAも多くのニュース配信されていますよね。

杉浦:そうですね。コンテンツの量を爆増させてSEOによる流入を獲得するというアプローチはたしかにあります。その時にはロボットに認識されやすいサイト構造になっていることも重要なのですが、これらを満たすことができれば、PVを増やしていくことは可能なはずです。実際にCINRAもコンテンツの量を担保するためにニュース記事を1日15~20本くらい配信しています。これらによって日本のカルチャーシーンでいま何が起こっているのか発信していくことと同時に、そのニュース記事を入り口にサイトに来てくれた人たちに、他のインタビュー記事なども読んでもらえるといいなと思って続けています。

知財図鑑もポータルサイトとまではいかずとも、必要とされている知財に関する情報をもっと発信していくことで、サイト内の回遊性を高めていくことが必要なのかなと感じています。

杉浦:PVを稼ぐという観点ではそれも必要なのかもしれませんが、業界トップのメディアをベンチマークにして、コンテンツを量産していくためには相当なコストや時間がかかる気がします。知財図鑑が登るべき山は本当にそこなのかという気もしますし、競合優位性という観点で考えると、業界トップのメディアをチェックしているだけでは満たされないニーズをしっかりフォローしていくことも大切ですよね。少なくとも現在の知財図鑑が持っている強みや他にない価値というのは、ユニークな知財を見つけて業界外の人たちに向けて翻訳をしたり、新しい可能性を示していける部分だと思いますし、メディアの特性的にもデータベースとしての有用性やユーザービリティというのが何よりも求められる部分なのかなと。

まさにおっしゃる通り、どの山に登るべきなのかということは、自分自身もまだ見えきっていないところが正直あります。一方でメンバーのモチベーションを高めていくという意味でも、トップを獲ろうということをよく皆に言っていて、僕自身それができないようでは業界にパラダイムシフトを起こすなんていうことを言う資格はないのではないかという思いもあり、なかなか難しいところです。

杉浦:先に話したような知財図鑑の強みを求めている具体的なプレイヤーというのは少なくないはずで、彼らに響くものを発信することで業界が動いていくこともあると思います。例えば、R不動産というメディアは、スペックを中心とした従来の不動産情報ではなく、ひとつの物件を主観的に紹介することでそれまで光が当てられなかった不動産の価値を顕在化させていますよね。もちろんこうした主観的な語り口は万人に届くわけではないですが、共感してくれる人たちは少なからずいるし、既存の業界に対して疑問を投げかけていくようなこともメディアとして重要な姿勢だなと思います。

知財図鑑が特別企画として開催した「超・自由研究アワード2020」。子供たちの自由な視点による研究をリスペクトし、ひとつの知財として正当に評価することをテーマに、全国の小学生による研究・作品を募り、最優秀賞をはじめ4つの入賞作を選出した。

出村光世
何かコラボレーションできませんか?

メディアとしての語り口という話で言うと、外部のライターも多く関わっているCINRAでは、どの程度そうした語り口やトーン&マナーをコントロールしているのですか?

杉浦:立ち上げ当初はずっと編集長を務めている柏井(万作)と僕で、メディアとしての方向性やトーン&マナーをしっかり共有するようにしていました。当時から柏井が口酸っぱく言っていたのは、「What」ではなく「How」を大切にしようということでした。要は、コンテンツが「What」ばかりになると、その分野を知っている人しか興味を持てないものになる可能性が高いから、その魅力をいかに伝えるかという「How」の方に注力しようという話です。こうしたことを徹底してきた結果、最近では外部のライターさんにもトンマナが共有されていますし、それこそ新しく入った社内の編集者に対して、外部のライターさんがCINRAのトンマナを教えてくれるという状況も生まれていて、本当にありがたい限りです。

少し話は変わりますが、知財図鑑のメンバーの多くがクリエイターということもあり、音楽やアートなどとテクノロジーをつなげるような知財の扱いが多くなっています。そういう意味で、CINRAさんとは何か協働できそうな気がしています。

杉浦:そうですね。CINRAだけではなく、いま我々が運営に携わっている『CUFtURE(カフチャ)』というメディアなども相性が良さそうです。これは、渋谷未来デザイン渋谷区観光協会KDDIなどが進めている「渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト」の活動の認知を広げることが当初の目的なのですが、単なるPRではなく、テクノロジーとカルチャーを横断する最先端の事例を紹介・応援するメディアをつくることをこちらから提案し、現在の形になりました。こうしたメディアの中で一緒にコンテンツを企画していくことも面白そうだなと思いました。

CUFtURE

とても良いですね。まさにこのメディアのテーマのように音楽などのカルチャーをテクノロジーがアップデートしていくという流れは今後ますます強まっていくはずですし、企業の外に出ていない技術を、音楽やアートなどと掛け合わせていくことにはクリエイターという立場からも強い関心があります。例えば、カルチャー×テクノロジーによって起こり得る未来のコンテンツを提供し、興味を持ってくれた人たちに知財の世界にも入ってきてもらうような流れがつくれるといいですし、この話に限らず、知財ハンターたちが「知財図鑑」の外に飛び出し、難しい知財についてわかりやすく伝えていくような役割を担っていけないかと考えています。

杉浦:良いですね。僕らは自社事業としてではなく、クライアントさんのメディアも運用させて頂いていて、都市文化のアップデートをテーマにしたメディアや、大企業の新規事業部などで働く人たちというニッチなターゲットに向けたメディアなどもやっています。こういうメディアの中で「知財図鑑」に連載を持ってもらったり、知財ハンターの方たちにメディアのコミュニティに関わってもらえたりすると、そこから新しいビジネスチャンスなども生まれそうな気がします。

ぜひやリたいです! お話をしていて色々やりたいこと、やらなくてはいけないことが増えました(笑)。ぜひまた打ち合わせをさせてください。今日はどうもありがとうございました。

「知財図鑑」の知財ハンターたち。

インタビューを終えて

今回のインタビューは、「今日から使える学び」が大漁でした。0→1→100~を地で成し遂げてこられている杉浦さんの説得力は大きいですし、あまのじゃくな僕でも驚くほど素直に勉強させていただきました(笑)。学生時代のバンド活動など個人的にリンクする面も多く、未来に対して持っている視座も共感できるので、近い将来なんらかの形で交差していきたいです。