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「ゆっくり おいしい ねむたいな」代表・熊野森人さんが聞きたい、「幸せを数値化する方法」

「ゆっくり おいしい ねむたいな」代表・熊野森人さんが、
EVERY DENIM共同代表・山脇耀平さんに聞く、
「クラウドファンディングを成功に導く秘訣」

「幸せの数値化」をテーマにカンバセーションズでインタビューを続け、現在は第一弾プロジェクトとなる「食べると幸せになるカレー」の製品化に向けて着々と準備を進めている「ゆっくり おいしい ねむたいな」代表の熊野森人さん。そんな熊野さんが今回インタビューするのは、瀬戸内エリアのデニム工場に眠る技術力を引き出しながら、オリジナル製品の企画・販売を行うEVERY DENIMの山脇耀平さんです。カレーの製品化にあたり、クラウドファンディングでの資金調達の実施を決めた熊野さんが、これまでに数々のクラウドファンディングにチャレンジし、先日は目標金額1000万円を掲げた宿泊施設「DENIM HOSTEL float」の資金調達にも見事成功した山脇さんに、クラウドファンディングに対するさまざまな疑問を投げかけました。

熊野森人
なぜクラウドファンディングを使うのですか?

EVERY DENIMはすでに何度もクラウドファンディングでの資金調達を成功させていますが、これまではどんなタイミングで活用してきたのですか?

山脇:僕らにとってクラウドファンディングは、資金集めという意味合いももちろんあるのですが、同時に自分たちの活動の発表も兼ねていて、何か新しい活動や大きなプロジェクトを始めるタイミングで活用するケースが多かったですね。クラウドファンディングには自分たちの気を引き締めてくれるところがあるんです。僕らのように個人で事業をしている立場からすると、クリアすべきハードルのようなものを自ら設定しなくてはいけないところがあるのですが、クラウドファンディングで宣言をしたら、それを実行しないといけないですよね。それに、数百人の方に支援してもらうというのは、銀行などからお金を借りたり、特定の個人に投資をしてもらうのとは、期待の背負い方が大きく変わってくると感じています。

EVERY DENIM共同代表の山脇耀平さん。

これまでにクラウドファンディング以外の資金調達を行ったこともあるのですか?

山脇:学生時代にビジネスコンテスト的なもので賞金をもらったことはありますが、特定の誰かに資金を出してもらったり、銀行からお金を借りたりしたことはありません。例えば、直近のクラウドファンディングでは、倉敷に新たにつくる宿泊施設「DENIM HOSTEL float」の資金を募り、宿泊チケットをリターンのひとつとして用意したんですね。結果、一口5000円の支援を100人の方がしてくれたのですが、オープン前に50万円が手元に入るというのは、キャッシュフロー的にも非常にありがたいんです。例えば、補助金などの場合は支払いがかなり先になることも多いのですが、クラウドファンディングの場合は、将来のお客さんからクイックに支援してもらうことができる。クラウドファンディングの良いところは、何かの事業やプロジェクトを立ち上げようとした時に、共感してくれる人たちさえいれば、力のある人に認めらたり、コンテストで勝つ必要がないところで、本来はそれこそが健全なんじゃないかと思っています。

クラウドファンディングサイトにはさまざまなものがありますが、これまでにどんなプラットフォームを使ってきたのですか?

山脇:国内のクラウドファンディングサイトの大手と言われているところはほぼすべて使ってきました(笑)。僕らも常にクラウドファンディングのことを考えているわけではないので、その都度どのサービスが良いのかを検討し、諸条件を鑑みた上で、その時々で最もフィットしそうなプラットフォームを選んできました。社会貢献関連のプロジェクトに強いところから、製品関連のプロジェクトに力を入れているところまで、プラットフォームごとに特性があるのですが、僕らの場合は、そのプラットフォームにどんなお客さんが集まりやすいのかということ以上に、窓口となってくださる担当者の方との出会いを大切にしてきたところがあるかもしれません。

「DENIM HOSTEL float」のクラウドファンディングでは、総額11,244,000円の調達に成功!

熊野森人
募集ページ作成のポイントは何ですか?

具体的にクラウドファンディングを始めるにあたって、考えるべきポイントを教えてください。

山脇:大きく分けると、まずプロジェクトページをつくること、次にリターンを考えること、そしてクラウドファンディングがスタートしてからいかに広げていくのかという3つが、考えておくべきポイントになると思います。

山脇さんがこれまでに実施したクラウドファンディングのページを見ていると、ビジネスやマーケット云々ということよりも、まずは自分たちがやりたいことやその背景にある思いを素直に、前面に押し出している印象を受けました。

山脇:そうですね。基本的にクラウドファンディングの実行者というのは、それぞれ叶えたい夢を持っています。クラウドファンディングのページ作成にあたっては、その夢を実現するためにこれだけのお金が必要なんだということを、できる限りわかりやすく表現することが大切なのかなと思っています。実行者の夢自体は主観的なものだからこそ、それをクリアにまとめながら、応援してくれる人たちに「自分の支援がその夢を実現するための大切なピースになる」と感じてもらったり、「お金を出して良かった」と実感してもらえるような伝え方ができるかが肝になるのかなと。

瀬戸内海を望む絶好のロケーションにある「DENIM HOSTEL float」。

全国をまわる移動販売車の購入資金を募ったクラウドファンディングのページでは、幼少期のご兄弟の写真とともにおふたりの生い立ちなども語られていましたが、夢を実現しようとしているのがどんな人なのかということを伝えることも大切になりそうですね。ちなみに、山脇さんご自身が他のプロジェクトを支援することもあったりするのでしょうか?

山脇:それもありますね。僕個人のことを考えると、実行者との心理的な距離というものに左右されている気がしていて、例えば、自分と全く関係がなさそうなプロジェクトだと、いくら良いと思っても支援することはありません。逆に自分の一票が何かしら影響を与えられそうなものに支援するようにしていて、やはり先に話したように、実行者になった時に考えるべきポイントはそこなのだと思います。僕らはクラウドファンディングを実施する時に、それぞれの支援者にどんな形でプロジェクトに関わってほしいのかを提案するようにしていて、例えば、普段ジーンズを履かない人たちに対してギフト向けのリターンを用意するなど、なるべく多くの関わり方の選択肢を用意することを心がけています。前回の宿泊施設の時は、支援の方向性を「泊まる」「着る」「応援する」「企む」という4タイプに整理したのですが、関わり方をこちらから定義してあげるということも、先ほどお話した「わかりやすく表現する」という部分につながるところかなと思っています。

上記クラウドファンディングのページには山脇兄弟の子どもの頃の写真も掲載されている。右が兄の耀平さん。

熊野森人
どうすれば支援者が集まりますか?

リターンの選択肢を用意することが、支援者の幅を広げることにつながるのですね。そのリターンを考えるにあたって、何か注意すべきことなどがあれば教えて頂きたいです。

山脇:例えば、本当に目標金額を達成することだけを目指すなら、自分が持っているあらゆるスキルや経験の中から、社会的、金銭的価値に還元できそうなものをとにかく切り売りするような形でリターンを用意することもできますが、個人的には、ある種のスマートさは残しておきたいと思っています(笑)。僕らが実際に用意したリターンの話をすると、「あなたの街に1ヶ月お試し移住」といった飛び道具っぽいものもありましたが、気をつけないといけないのは、リターンを実行する上での労力やコストですね。例えば、リターンのためにオリジナルグッズをつくるとなると当然その分のお金のことも考える必要がありますし、一方で、自分の身体を使うリターンに時間が割かれすぎてしまうと、本末転倒になりかねない。そういう意味で、何かしらのプロジェクトに参加できる権利など、原価がかからないリターンを上手く用意できると良いのかなと思っています。

クラウドファンディングがスタートしてからは、いかにそれを広げていくのかがポイントになるというお話でしたが、やはり各方面への根回し的なことも大切なのでしょうか?

山脇:僕らも初めてクラウドファンディングにトライした時は、絶対に達成しようと意気込んでいたので、予め周囲の知人などにメッセージを送ったり、直接会いに行って口約束的に支援をお願いをしたりしたのですが、2回目以降はそこまではしないようになりました。これにも色々な考え方があると思いますが、クラウドファンディングで支援をしてほしいと周りの人たちにメッセージを送ったりするのって、心理的に少しお願いしづらいところがあったりするんですよね(笑)。どんな人たちが自分たちのプロジェクトを支援してくれそうかということをある程度想定しておくことは大切だと思いますが、そこまで気にしすぎなくても良いのかなと。

熊野さんが製品化を進めている「食べると幸せになるカレー」。昨年開催されたカンバセーションズのイベントで参加者に振る舞われ、会に参加していた山脇さんも試食済み。

特に初めてクラウドファンディングにトライする時は、どうしても不安になってしまうところがあると思います(笑)。

山脇:そうですよね。僕は最近、支援のお願いメッセージを知人に送ろうかどうかモヤモヤ考えるくらいなら、支援をしてくれた方たちにしっかり感謝の気持ちを伝えて、クイックに拡散をお願いする方が効果的なんじゃないかと思うようになりました。支援者側もそれに対してイヤな気持ちを抱くことはないと思いますし、自分たちの考えや実行しようとしていることに共感してくれている人たちを何よりも大切にして、そこから支援の輪を広げていくというスタンスの方が、実行者側の心理的負担も少なくなると感じています。

ちなみに、ソーシャルメディア上の影響力が強い人ほど、クラウドファンディングでも支援を集めやすかったりするのでしょうか?

山脇:周りの人たちから広がっていくということを前提に考えると、やっぱりそれはあると思います。ただ、本質的には、ソーシャル上だろうとリアルの場だろうと、人に訴えかけるものさえあれば、支援は自ずと集まっていくものなのではないかなと。

熊野さん、山脇さんの出会いの場にもなった昨年のカンバセーションズのイベントより。

熊野森人
支援者はどんな存在ですか?

EVERY DENIMのクラウドファンディングの支援者には、どんな人たちが多いのですか?

山脇:僕らの場合は、柱としてデニムの事業があるので、以前から商品を買ってくださっていた方々や全国を旅する中で出会った人たちなど、何かしらの形でEVERY DENIMないし僕ら兄弟と接点があった方たちが最初に支援をしてくれたのかなと思います。先にもお伝えしたように、クラウドファンディングは周りの人たちから広がっていくというのが大きな特徴で、僕らの場合もEVERY DENIMチーム周辺の小さな輪から少しずつ広がっていった印象があります。だからこそ、普段よく話している人たちが面白いと感じてくれるようなプロジェクトは口コミで広がっていきやすいというのがあると思います。

クラウドファンディングで応援をしてくれる人たちというのは、「投資者」「ファン」「消費者」などさまざまな言葉で言い表すことができそうですが、EVERY DENIMにとってはどんな存在ですか?

山脇:そういう意味では、自分たちが提案したプロジェクトに共感し、同じ方向を向いて伴走してくれる「仲間」と言うのが良いかもしれません。先にも話したように僕が誰かの支援をする場合は自分が実行者の伴走者となるわけですが、どちらの側になる場合でも、ここに向かっていったら面白いそうだというものに対して、実行者が中心となって時には一緒に考えながらプロジェクトを進め、成果物をみんなで共有をするようなイメージなのかなと思っています。

実際に支援してくれた人たちとのコミュニケーションが、クラウドファンディング以外の場で発生することもあるのでしょうか?

山脇:そうですね。支援者の方が僕らがジーンズを販売している場に来てくれることもありますし、クラウドファンディングのリターンとしてご招待したパーティや発表会などで直接お話しする機会を持てることもあり、これもクラウドファンディングの良いところだなと感じます。また、倉敷の宿泊施設には、クラウドファンディングで支援してくれた方たちがリターンを使って泊まりに来てくれたのですが、彼らが残してくれたレビューがより多くの人たちに施設のことを知ってもらう非常に良いきっかけになり、このような形でリアルの世界に広がっていくこともあるんだなと。

今日はクラウドファンディングについて色々知りたいことがお聞きでき、とても参考になりました。どうもありがとうございました。最後に、EVERY DENIMの今後の展望についてもお聞かせ頂けますか?

山脇:僕らが最も大切にしていることは、普段お付き合いがある瀬戸内のデニム工場や産業がこれからも楽しく続いていくことなんですね。自分たちの製品を販売することや、宿泊施設をつくることというのも、最終的にはそこにつながるものですし、今後もしかしたら工場で働く若手の採用などを僕らが何かしらの形でお手伝いするようなこともあるかもしれません。さまざまな手段を使って、できる限り多くの人たちが瀬戸内エリアやデニムの産業に関わり、つくり手の思いに触れてもらえるようになると良いなと思っているので、これからもそのための行動を起こして続けていくつもりです。

当初は取材ではなく、打ち合わせの予定だったのですが、お話の内容が面白かったので記事として公開させていただきました。山脇さん、熊野さんご快諾ありがとうございました!

インタビューを終えて

クラウドファンディング初心者の僕たちに、山脇さんはとても優しくいろいろ教えてくださり、本当に感謝しております。
特に印象に残っているのが、クラウドファンディングをする方々を「投資者」でも「ファン」でも「消費者」でもなく、「仲間」とおっしゃったこと。これがすべてだなぁと感じました。
株主よりも、お客さんよりももっと距離の近い「仲間」。人を信じて委ねる感と、逆に人を裏切らない感というか、そういう本音の付き合いが大切なんだと教えていただきました。
格好つけすぎず、でも図々しくなく。優しく、太く、喜怒哀楽すべてがある。そう考えると、「若さ」はひとつ重要なポイントだと思いました。