走ることをテーマにした『BORN TO RUN』や、瞑想のことなどについて書かれた『マインドフル・ワーク』などの書籍も出されていますが、これらの本と、デジタル・テクノロジーを扱った本というのは、松島さんの中でどのように結びついているのですか?
松島:いまお話したように、デジタル・テクノロジーというのは60年代のカウンターカルチャーの思想と密接につながっています。例えば、スティーブ・ジョブズがスタンフォード大学でスピーチした「Stay hungry,Stay foolish」という有名なフレーズがありますが、この引用元は『ホール・アース・カタログ』というカウンターカルチャーのバイブル的な本なんですね。この本には、キャンプ用品からDIYツール、コンピュータまでがまさにカタログのように載っているのですが、その背景にあるのは、経済が急成長する中でいかに自然と調和して人間らしく生きるかという思想です。当時は、テクノロジーというものは、身体に内在している自然性に回帰するためのツールだという考え方もあったんです。そうしたデジタル・テクノロジーの捉え方は、『FREE』『MAKERS』の著者であるクリス・アンダーソンがかつて編集長を務めていた雑誌『WIRED』などに継承されていくわけですが、人間本来が持っている可能性をいかに自然に引き出せるかという問題意識は、『BORN TO RUN』や『マインドフル・ワーク』などの書籍にも共通してあるものなんです。
松島:そうですね。インターネットが普及し、SNSなどによって人々が繋がったことで、60年代に人々が見ていたいくつかの夢は実現しつつあります。一方、『BORN TO RUN』で書かれているトレイルランにしても、山の中を100キロ、100マイル走るというのは無茶な話に聞こえるかもしれませんが、険しい環境の中を一昼夜走ってでも、もう一度自然に回帰したい人々の意識が背景にあるんです。そしてそれは、制度化・商業化されたランニング・ブームに対するカウンターでもある。60~70年代に自然回帰の思想を持った人たちが、いまこうした動きをつくり出していて、直紀さんの家に『GO WILD』と『MAKERS』の2冊が偶然入っていたことも、これらがつながっていることを証明しているような気がします
鎌倉暮らしはいかがですか?
僕らはワークショップをよくやっているのですが、他の人たちにも自分の手でものをつくる感覚を共有したいという思いがあって、つくり方などをシェアしているんですね。最初はレーザーカッターを使っていたのですが、機材を使わずに簡単につくれるものはないかと色々探してる中で、『BORN TO RUN』で描かれていたメキシコの先住民・タラウマラ族が履いているサンダル「ワラーチ」が良いんじゃないかと気づいたんです。今日のワークショップで松島さんにもワラーチづくりに参加して頂きましたが、これなら自分の足に合わせたものをアナログ作業でつくれるし、特に鎌倉の人たちは3月から10月くらいまでサンダルを履いているからちょうどいいなと(笑)。
松島:そうですね(笑)。僕もワラーチを履いて鎌倉でよく走っているのですが、こっちに引っ越してきたのはいまから2年半ほど前なんですね。東京生まれ東京育ちの僕は、それまで職住近接派だったんです。仕事をはじめた当初は、「編集者は山手線の中に住んでいないとダメだ」という間違った情報を吹き込まれていて(笑)、それを律儀に守って山手線内で引っ越しを繰り返していました。でも、『BORN TO RUN』や『GO WILD』などの本を手がけ、自分でも山を走りたくなった時に、都内から手っ取り早く行けるのは高尾山か鎌倉くらいしかないんですね。東京にいる時は、自宅から近かった品川の運河沿いなどを妻と一緒によく走っていたのですが、鎌倉までトレイルランをしに行こうと妻に言っても、「電車に1時間も乗ってまで走りに行くなんてありえない」とついて来てくれなかったんです(笑)。だから、ひとりで鎌倉まで走りに行っていたのですが、やっぱりそのために電車に乗るのは大変ですよね。また、100マイル走るようなエクストリームな世界だけではなく、もっと多様な楽しみ方をライフスタイルとして取り込んでいけることが大切だなと思い、鎌倉に引っ越すことにしたんです。