「ゆっくり おいしい ねむたいな」代表・熊野森人さんが聞きたい、「幸せを数値化する方法」
「ゆっくり おいしい ねむたいな」代表・熊野森人さんが、
慶應義塾大学 教授・前野隆司さんに聞く、「『幸せになるカレー』の可能性」
「幸せの数値化」をテーマに掲げる熊野森人さん率いる「ゆっくり おいしい ねむたいな」が、第一弾プロジェクトとなる「幸せになるカレー」の試作をついに完成させました(カレー制作レポートはこちら)。この試作をもとにカレーの商品化を目指す熊野さんとともに先日、カンバセーションズのインタビューにも登場してくれた慶應義塾大学・前野隆司教授のもとに伺い、カレーの試食をして頂きました。はたして幸福学の研究に取り組んでいる前野先生は、このカレーについてどのような感想を抱いたのでしょうか? 今回は番外編として、前野先生のカレー試食レポートをお届けします。
“夜口”カレーはいかがですか?
僕たちは以前に前野先生にお話を伺った後も、さまざまな角度から人間の幸福や感情について研究されている先生方にインタビューを続けてきました。その中で、幸せの指数を測るためには、まず媒介となるものをつくった方が良いのではないかと考えるようになりました。そして、改めて食事というところに立ち返り、カレーをつくることにしたんです。きっかけは、「カレーを食べると幸せになる」という俗的な話なのですが(笑)、カレーに使われるスパイスというのは、もともと薬のように使われてきたところもあるんですね。そこで、東洋医学や薬膳、栄養学、スパイスのことを学びながら、単に美味しいカレーではなく、幸せに効くカレー、心を癒やしてくれるポジティブカレーをつくるために半年ほど試作を重ねてきました。今日はぜひ前野先生からフィードバックを頂きたいと思い、試作のカレーをお持ちした次第です(笑)。
前野:そうか、今日は試食をするんでしたね。すっかり忘れていて、ちょうど先ほどお昼を食べてきちゃいました。
なんと(笑)。ところで前野先生、カレーはお好きですか?
前野:好きですよ。ただ、カレーと一緒にごはんを食べすぎてしまうんですよね。炭水化物は太るからあまり取りたくないので、カレーとラーメンは好きだけど、健康を気にして食べ過ぎないように気をつけていますね。
わかります。カレーには辛口、甘口などがありますが、今回つくったのは夜にいただくカレー、題して”夜口”カレーです。カレーを朝昼晩いつ食べるのが、いちばんリラックスできるのか、幸福を感じやすいのか、を考えると自ずと夜だよね、という話になりました。また、夜食べることを推奨しているカレーは知る限りなかったので、夜口をコンセプトにすることに決めました。また、さきほどの健康の話ともつながりますが、夜にカレーを食べると胃がもたれてしまうという人もいると思いますが、このカレーにはその心配がいらないんです。早速ですが、まずは召し上がってみてください。お好みでオレンジの果汁をかけて頂くと、酸味が加わってよりさっぱりいただけると思います。
前野:個性的な味がしますね。たしかに色々なスパイスが入っている感じがします。オレンジがあるから爽やかさもありますね。
はい。ハーブ類も色々入っています。
前野:たしかにこれは胃にもたれなさそうですね。カレーにオレンジをかけたのは初めてですが、なかなか良いんじゃないでしょうか。凄く美味しいかと聞かれるとわらないけど(笑)、とても個性的で、これが幸せに効くと言われると納得できるところがあるかもしれません。
マインドフル・イーティングって何ですか?
ありがとうございます。「幸せになるカレー」と言うとよくある健康食品のようなものと思われそうなので(笑)、この試作をもとにアンケートを取ったり、身体データをセンサリングしたりしながら、何かしらのエビデンスとともに発信していくことで問題提起をしていきたいと考えています。
前野:アンケートを取ることはできると思いますが、そう簡単には幸福度は上がらないような気がします。カレーが美味しかったかと言われたら答えやすいですが、幸福度が上がりましたかと聞かれても…。
なかなか難しいかもしれないですね。
前野:もしかすると、マインドフル・イーティングをしてみるといいかもしれないですね。レーズンなどで行うことが多いのですが、「これを一生で最後の食事だと思って心から味わってください」と伝えて、食べることだけに意識を集中してもらうんです。そうすると雑念が取り払われて、マインドフルな状態になれるんですね。ハーブティーなんかでやってみると、色々なハーブの味や香りもしっかり味わえてリラックスできる。マインドフルな状態だと副交感神経が優位になり、ストレスもなくなるので、幸福度や創造性、生産性が上がるということが科学的にも証明されています。こうしたマインドフルな状態をこのカレーを通してつくっていくというのは面白いかもしれないですね。
なるほど、それは面白いですね。ちなみに、データを取るとしたらどのくらいの人数で検証を行うのが良いのでしょうか?
前野:カレーを食べた人と食べなかった人で幸福度に差が出るということが検証できれば良いので、明らかな差が見られるのであれば10人でもいいんです。ただ、人数が少ないとそううまくはいかないでしょうし、100人くらいのデータが取れると、説得力という面も含めて良いのかもしれないですね。……このカレー、なかなか癖になりますね。気づいたら全部食べてしまいました(笑)。
マインドフル・イーティングの効果ですかね(笑)。
前野:食と健康というのはつながりが見えやすいですが、一方で幸せというのは心の問題でもあるので、そういう意味でマインドフル・イーティングはひとつの方法として良いのかなと思いました。他にも何か良いアプローチがあるといいのですが。
健康と幸せという観点で言うと、以前に同じ慶應大学医学部の教授で、腸やホルモンと幸福の関係を研究されている伊藤 裕先生にお話を伺ったんですね。その時に伊藤先生は、一番大切なのは自己の現状を把握すること、自分のことをしっかりスキャンすることだと仰っていました。
前野:カレーというのはスパイシーだから体内に入っていく感覚が得やすいし、たしかに自分の身体がスキャンできる感覚はありますよね。マインドフルネスにおける瞑想では、自分の呼吸に意識を集中させたりしますが、これも自分をスキャンする行為に近いかもしれない。そういう意味では、食べたカレーがいま自分の身体のどこにあるのかということに意識を集中させていくカレー・マインドフルネスみたいなものがあっても面白いかもしれないですね。漢方もマインドフルネスもそれぞれの効能は検証されているので、これらをうまくエビデンスとして使いながら、このカレーには人を幸せにする効果があるということを伝えられるといいかもしれません。ちなみに、これはレトルトとして販売する予定なんですか?
まだ迷っているのですが、より広く食べてもらうという意味でもレトルトが良いのかなと考えているところです。これまでインタビューさせて頂いた方々の共通見解として、万人に共通するような一律的な幸せというのはあり得ないという話もあったので、ベースとなるカレーをレトルトで用意しておいて、そこに漢方の処方ではないですが、それぞれの人の状態に合わせて調合できる追いスパイスのようなものをふりかけることで、その人の状態が良くなるようなカレーがつくれると面白いなと思っています。今日のお話を通してたくさんのヒントを頂けました。お忙しいところ、そして満腹の状態の中、お付き合い頂きまして、どうもありがとうございました。
インタビューを終えて
マインドフルネスとカレーの掛け合わせで、新しい食べ方ができるのではないかというアイデアもいただくことができました。今後データを取る上でも、夜にいただくカレーという意味でも、通常のカレーとは違う方法で食事することもパッケージとして考えていきたいと思います。あとはデータを取る方法を固めて、2020年には、いよいよカレーをリリースしたいと考えております。