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植原亮輔

アートディレクター

平松正顕

天文学者

今回、カンバセーションズで初めてインタビュアーを務めてくれる植原亮輔さんは、デザインスタジオ「キギ」の代表を務めるアートディレクター。グラフィック、プロダクト、空間など幅広い領域のデザインを手がけ、さらに作品集の出版や展覧会でのプライベート作品の発表なども精力的に行う日本屈指のクリエイターである植原さんがインタビューするのは、国立天文台で働く天文学者の平松正顕さんです。星の形成や電波天文学を専門とし、南米・チリにある電波望遠鏡「アルマ望遠鏡」のプロジェクトにも関わる平松さんに、植原さんが聞きたいこととは?

4. 「謎」の向こう側には何があるのですか?

平松正顕 

みんなが重箱の隅を突いているように見えたとしても、あるところを突破するとさらに開けてくるというのは歴史上よくあったことですし、これからもそうだと良いと思っています。

Q.僕は、クリエーションというのは、常識と非常識のキワを攻めていく作業だと思っています。あまりにも非常識なものは誰にも理解されない一方で、常識というものはつまらない。その間にあるグレーゾーンのどこを攻めるかというのがポイントなんですが、白に近いグレーは日常に馴染んだもので、それはそれで社会にとって必要なものです。一方でもう少し黒に近いグレーというのが、面白いデザイン領域だと考えています。こうした領域でうまく表現ができると、それまで黒かった世界が徐々に白くなり、みんなが見慣れてきて、当たり前のものになっていくんです。非常識の黒が無限にあり、少しずつ白い領域が広がっていくという状況がクリエイティブの世界にはあり、これもまた宇宙に近いなと思うんです。

平松:研究もまさにそういうものだと思います。研究者の立場からすると、常識というものが自明のことで、非常識というものが未知のものになると思いますが、すでにわかっている白い部分を少しずつ押し広げて、それまでわからなかった黒い部分を白くしていくというのが、研究者がしていることです。例えば、いまからおよそ100年前にアインシュタインがつくった相対性理論は、当時かなり黒いゾーンにポンと置かれたものだったはずです。そこに対してさまざまな研究者が検証をした結果、相対性理論は実用化され、いまではだいぶ白い領域になっていると言えます。

Q.そういえば、アインシュタインは量子論があまり好きではなかったという話を本で読みました。

平松:量子論というのは確率で語られるところがあるのですが、アインシュタインは「神は賽を投げない」という言葉を残したという逸話があります。量子論もまた、それ以前の考え方とは相容れないもので、限りなく黒に近いグレーの領域にありました。でも、実験を続けていくと、こうした考えも受け入れないと世の中が理解できないということになり、いまでは物理における基本的な考え方になっています。僕自身も、そういうものだと思ってとらえていますが、完全に理解しているとは到底言い難いかもしれません。

Q.面白いですね。最近僕は写真を使ったある作品を制作したのですが、これは4人の人物の顔をある法則によって等分割し、混ぜていくという工程でつくられています。結果としては、混ぜ方を色々変えてみても、最終的にはすべて同じような顔になるんですね。人間というのは、情報や文化、知識など色々なものを交換して、混ざったり、つながったりしてきていて、これは人間の根本的な欲望だと思うんです。その結果、人間は発展してきましたが、同じような文化が世界中に広がってしまった。鎖国をしていた島国の日本には特殊な文化もありますが、世界的に見ると個性が失われつつある時代だと言えます。ただ、先ほどの「集合と拡散」の話に当てはめると、世界各地で多発的に拡散された文化が混ざり合っているいまは、融合の時代なんじゃないかと考えています。ひとつに集合しつつある時期というだけで、これから次の時代が来て、また面白くなるんじゃないかと。先ほど、各国が協働で開発したアルマ望遠鏡の話がありましたが、天文学の世界では、この辺りの話はいかがですか?

平松:世界のさまざまな場所から同じような理論が出てくるという状況はたしかにあります。一方で、変わったことをいう人も中にはいて、そういう芽を潰さないことが大切なのだと思います。例えば、相対性理論と量子論が出てくる以前には、物理学に残された問題はもはや3つしかなく、20世紀中に終わる学問だと言われていました。しかし、その「わずかなほころび」と思われていた問題を突き詰めていくことで、相対性理論と量子論が生まれ、科学が大きく広がってきました。そして新たな謎も生まれました。たとえみんなが一箇所に集まって重箱の隅を突いているように見えたとしても、あるところを突破するとさらに開けてくるというのは歴史上よくあったことですし、これからもそうだと良いなと思っています。<続く>

もっと知りたい人は…

  • 植原亮輔 

    植原亮輔

    アートディレクター

    2012年KIGIを設立。幅広くクリエイティブ活動を行う。主な仕事に、PASS THE BATONのVI、シアタープロダクツのグラフィックワークなど。D-BROSのフラワーベースは毎年新しいデザインを発表し、現在80種類以上のラインナップがある。また、滋賀県の伝統工芸の職人達と陶器、家具、布製品のブランド「KIKOF」を立ち上げたり、デザインワークの流れの中で作品制作をして展覧会をするなど、自在な発想と表現力であらゆるジャンルを横断しながら、クリエイションの新しいあり方を探し、生み出し続けている。東京ADCグランプリ、第11回亀倉雄策賞等受賞。東京・白金にキギのデザインしたプロダクトが並ぶショップ&ギャラリー「OUR FAVOURITE SHOP」をオープンさせた。

  • 平松正顕 

    平松正顕

    天文学者

    1980年岡山県生まれ。2008年、東京大学大学院理学系研究科天文学専攻 博士課程修了。博士(理学)。台湾中央研究院天文及天文物理研究所博士研究員を経て、2011年より国立天文台に勤務。電波望遠鏡を使って星の誕生プロセスを明らかにするための研究をしている他、アルマ望遠鏡をはじめとする電波天文学プロジェクトの広報担当として、講演や執筆活動を行っている。