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「問い」をカタチにするインタビューメディア

地域と関わる

ブックコーディネーター・内沼晋太郎さんが、
東京カルチャーカルチャー店長・横山シンスケさんに聞く、
「人が集まるお店のつくり方」

本とアイデアのレーベル「numabooks」の代表として、ブックコーディネートをはじめ、本にまつわるさまざまなプロジェクトを手がけている内沼晋太郎さん。そんな彼が今年の7月に、博報堂ケトルとともにお酒が飲めるブックショップ「B&B」を下北沢にオープンすることになりました。B&Bでは、なんと無謀(?)にも毎晩ゲストを招き、トークライブを開催する予定とのことで、今回内沼さんが話を聞きたい人として指名したのは、過去に新宿・ロフトプラスワンのプロデューサーとしてさまざまなイベントの企画・運営に携わり、現在はお台場にある人気のイベントスペース・カルカルこと「東京カルチャーカルチャー」(運営:ニフティ)の店長を務める横山シンスケさん。カルカルオープン当初、創作おにぎりユニット・ニギリズムとしてイベントに出演した経験もある内沼さんが、"イベントの神様"・横山シンスケさんに、いま本当に聞きたいこととは?

内沼晋太郎
なぜイベントの企画・運営を仕事にしたのですか?

今度博報堂ケトルさんと一緒に、「B&B」(ブックアンドビアー)という本屋を下北沢にオープンすることになりました。そのお店では、本の著者を招いたトークイベントなどを毎晩やろうと思っています。そこで今回、”イベントの神様”である横山さんに、色々相談させてもらいに伺いました。

横山:ライブハウスは地獄ですよ。ようこそ、地獄へ(笑)。

横山さんがイベント企画の仕事をするようになったきっかけは何だったのですか?

横山:もともとはテレビの仕事をしていたんですよ。基本的にテレビというのは、数字が取れる企画じゃないとダメなんですが、僕個人としては、テレビの企画としては成立しないような人たちの方がトガッていて面白く感じたんです。いつかそういう人たちをみんなにちゃんと見せられたらいいなと思っていて。僕が30歳になる前くらいの頃に、新宿のロフトがトークライブハウスを作ったという話を聞いて、バイトで雇ってもらったのがいまから17年くらい前ですね。もともとテレビのAD時代に鍛えられていたから、出演者の交渉が得意だったこともあって、『裏モノJAPAN』などトンガッた雑誌や出版社にFAXとかを送って、「おたくの本のイベントをうちでやってください」という交渉をしていました。そういう人たちをブッキングしていくうちに、プロデューサーをやれということになり、そこからずっとこういう仕事をやってきてます。内沼くんのお店もそうだと思うけど、本を出したばかりの人は当然その宣伝をしたいわけだから、一番イベントを作りやすいんですよね。

本屋とトークライブというのは、親和性があると思うんですよね。いま、30坪程度の敷地で新しく書店をやるといっても、なかなか成立させるのは難しいと思うので、本、トーク、お酒のすべてをひっくるめて、本屋というモデルを更新していけないかなと思っているんです。

横山:そのフレーズいいなぁ。僕もパクらせてください。「ライブハウスというモデルを更新したい」。…いや、やっぱりもうしたくないかな(笑)。

東京カルチャーカルチャーは開店後5年が経ちますが、その間に良い時期悪い時期の浮き沈みはありましたか?

横山:基本的にはずっとキツいです。「リアル脱出ゲーム」をやっているSCRAPなんかは、ここでイベントをやった次の年には3万人規模のイベントをやっていて、分かりやすく出世しているけど、なんでオレは全然立ち位置が変わらないんだろう? みたいな(笑)。まだ無名だった頃から出てもらっていたリリー(・フランキー)さんの『東京タワー』の時のような経験も一度はしてみたいという思いもなくはないけど、結局これしかできないんですよね。最後は、CBGBみたいなライブハウスのおっさんでもいいのかなって(笑)。自分にとって明確なゴールがあるわけではないけど、コンテンツというものがなくなることはないと思うんですね。ネットの影響もあって、表現者というのはいまも増え続けているし、常に新しい人は出てくるので、そういう人たちを最初におさえながら、絶対に楽しい現場にしていこうという意識でやっています。

内沼晋太郎
イベント企画の秘訣は何ですか?

まだ無名の新人を発掘するということに興味があるのですか?

横山:そうかもしれないですね。「デイリーポータルZ」の林(雄司)くんと出会った時に、面白いことしかやらないという姿勢とか、ネットだけではなくリアルでも面白いことをやっているところとかが破壊的に面白かったんですね。それ以降林くんと一緒にイベントをやるようになって、ネット界隈の有名人なんかも呼ぶようになったんですが、それがとても面白くて。やっぱり新しい表現者に会うというのが、やっていて一番楽しいんです。大槻ケンヂも言っているけど、お金にはならなくても好きなことはできる、というのを地で行っている感じですね。このお店の話も、7年前くらいに「デイリーポータルZ」の人から、ニフティがリアルの場を作りたがっているという話を聞いて、僕が企画書を書き、林くんたちのプッシュもあって実現したんです。それで、東京カリー番長とか、内沼くんたちがやっていたニギリズムとかを呼んだイベントなどをやるようになって。うちのひとつのコンセプトとして、現場に来ないと体感できない三次元の要素をひとつ足すというのがあって。これ、たぶん大事なポイントですよ。

リアル脱出ゲーム

三次元の要素というのは、食べ物以外にはどんなものがあるんですか?

横山:例えば、前に林くんが、一番好きな匂いをみんなで持ち寄るという「いい匂いナイト」というのをやっていましたね。爪の垢とかを持ってきたヤツがいてキツかったけど、面白かった。あと、ロフト時代からやっている「デモ評議委員会」というイベントがあって、デモ音源をこの場で聴いて、プロのミュージシャンがアドバイスをするというものなんですけど、好きなアーティストの意見を目の前で聞けるというのはいいと思うし、実際にスカウトされてデビューした人もいます。さっき話した「リアル脱出ゲーム」なんかもメチャクチャ面白いですよ。3年前に池尻のものづくり学校で初めて参加した時に、ショックを受けるほど面白くて。彼らが面白いのは、音楽で例えると(セックス・)ピストルズを見た客がみんなバンドを始めた時のような、「オレにもできるんじゃないか」と思わせる可能性を秘めていること。最近は面白いインディーズ団体がいっぱい出てきていて、それを一生懸命誘致しているんです。そろそろ表舞台に出てくるかなという人たちにイベントの場を提供して、当たってきたらその人たちに一週間ここでずっとイベントをやってもらうということをしています。いま自分が謎解きイベントなどの参加型イベントにシフトしているのは、目の前のお客さんが変わっていくことが見ていて一番楽しいからなんです。イベントって、もう目の前のカリスマを見ているだけじゃ物足りなくなってきているんですね。この分野は新しいシーンになりつつあって、それを自分たちで作ろうといま必死になっているところなんですよ。

デモ評議委員会

ブッキングはどのようにやっているんですか?

横山:基本的には出てもらいたい人の事務所を探して、正攻法でオファーしてます。友達づてに交渉したりすると、しがらみが生まれてしまったりするからあまり好きじゃないんです。ちなみに、人選のためのネタ探しとして僕が一番使っているのは本屋です。面白い人たちは、まずネットで情報発信をしていて、そこで有名になったら本を出し、さらに人気が集まるとテレビに出る。この流れは昔から変わっていないと思うので、ネットで検索をしたり、本屋に行ってイベントに出てほしい人を探しています。本屋で色んな棚を見ては、「このジャンルにはこんな人いるんだ」とメールをするふりをして携帯にメモをしてます(笑)。ただ、オーケン(大槻ケンヂ)やリリー(・フランキー)さんのように、しゃべりもうまくて本も面白いという人は稀なので、そこは見極めてやっていくしかないし、結局自分たちが司会としてコンシェルジュ的な立場を担わざるを得なかったりするんですけどね。でも、イベントに出てくれた人たちが有名になっていくのはうれしいですよね。オレが有名にしたんだと自慢もできるし (笑)。

内沼晋太郎
イベントスペースに個性は必要ですか?

30人規模のイベントを毎晩やると公言してしまったのですが、すでにブッキングだけで心が折れそうになっています…。

横山:あまり「毎晩」とか言ってハードルを上げない方がいいと思いますよ。毎日やるということは大切なことだけど、それでノイローゼになって体を壊した人をたくさん観ているので(笑)。あと、著者にもよると思うけど、30人お客さん呼ぶというのはそんなに簡単ではないから、出演者にもTwitterやブログなどを通して告知してもらうということも大事ですね。出演者本人が汗をかいていないとすぐにバレてしまうし、リスクはお互い持つようにした方がいいと思いますよ。ちなみに、店長は別に誰かを立てるんですか?

はい。

横山:それならとりあえず毎日開けておくというのはいいかもしれないですね。イベントを企画できる店員さんを増やしていくといいと思います。「何かやりたいんですよね、何かを…」と言っている若い子をどんどん入れていくのは重要ですよ(笑)。ロフトの時もバイトでイベントやってみたいと言っていたヤツをすくい上げていったら、結局ブッキングマンが5人くらいになっていましたからね。

カルカルのイベントは、「○○ナイト」というタイトルが付いているものが多いですが、何かこだわりがあるのですか?

横山:わかりやすさとポップさですね。そして、実は何も言っていないという(笑)。ロフトにいた時は、上から「○○ナイト」というネーミングを禁止されたことがあって、その時のストレスは大きかったですね(笑)。そういう店にはしたくないという理由で、もっと「○○を考える」とか「○○とは何か」みたいなタイトルにしろと言われたんですけど、自分としては、そういうメッセージ性はあまり重要じゃなくて、所詮飲み屋での楽しいイベントだと思ってやっているところがあるんですよね。あと、やっぱり「○○ナイト」のルーツは(大貫)憲章さんの「ロンドンナイト」。パンクな感じがしていいし、なんかワクワクするじゃないですか。「○○ナイト」とネーミングにできるかどうかを基準にイベントを考えているところがあるかもしれないですね。例えば、「卵かけごはんナイト」だったら、食べ物も出せるし、いろんなことができるなとイメージができたら、出てもらいたい人たちに依頼をするんです。でも、前に「自転車ナイト」っていうのをやったら、あまりにもザックリしすぎていて、あまり人が来なかった(笑)。何も言わないにもほどがあるだろと (笑)。

東京カルチャーカルチャーやロフトプラスワンのようなライブハウスをやっていると、良くも悪くも「カルカルっぽいイベント」とか「ロフトっぽいイベント」という色がついてくると思うんです。僕がこれからイベントの運営をしていくにあたって、「B&Bっぽいよね」と言われるようになるブッキングを心がけていくべきだと思いますか? ある一定のイメージが付いた後、もしそのイメージが古いものになったら、長続きしないんじゃないかという気もします。自分の色というのは出すべきなんでしょうか?

横山:それは出した方がいいと思いますよ。店には人格を持たせた方が良いです。うちは基本的には何でもアリにしているけど、どこかで線引きしているところがあるんです。例えば、下品なものはやりたくないという思いがあるんだけど、何をもって下品とするかというのは僕という個人にしかわからない。あと、「左利きナイト」とか「血液型B型総決起集会」とか、客が集まらないのはわかっていてもやるイベントというのもあるんだけど、100年後に、横山シンスケという人がすでにこんなイベントをやっていたんだと言われたいという思いもどこかにあったりする。林くんともよく話すんですけど、僕はいままでサブカルという言葉が大嫌いだったけど、震災以降変わったところがあって、やっぱり好きなことは好きと胸を張って言おうよと思うし、そういう自分の色や思いがないと、「何のためにやっているんだろう?」ということになってしまうんですよね。

内沼晋太郎
お酒や食べ物はどうすればいいですか?

ライブハウスを運営していて、一番キツいことは何ですか?

横山:睡眠時間と酒(笑)。それは昔の僕の話でもあるけど、実際ストレスやプレッシャーで倒れた人はたくさん見てきてます。「休肝日を作る」というのは結構重要なアドバイスかもしれない。でも、「お酒が飲める本屋」というのは良いコンセプトだと思いますよ。僕はこれまでサブカルの発展に労力を費やしてきて、ずっと趣味のない人生を送ってきたんですけど、40を過ぎて急に趣味がほしくなってロードバイクを始めたんです。これがもう楽しすぎて、1日150キロとか走ったりしていて、いまはイベントのブッキングの方がおろそかになっているんですけど(笑)、もし何か自転車のイベントをしようという時に、ある程度その場に関連本が並んでいて、お酒飲みながら自転車の話ができたら最高だと思います。自転車関連の出版社にも乗っかってもらえたらさらにいいですよね。

「ダミアンさんとベルナールさんのベルギーポテトナイト!」

そうですよね。この本屋のコンセプトも、博報堂ケトルの嶋(浩一郎)さんと「本屋でお酒が飲めたらいいよね」という話をしていたことがきっかけになっていて、買おうか考えている本を積んで、お酒を飲みながら読んでもらえるような空間にしたいと思っているんです。ちなみに、イベントは20時から22時までで、その後24時まではゲストの人にも残ってもらって、バータイムにしようかなと思っています。食べ物は出した方がいいと思いますか? ただ、出すなら出すで、ある程度こだわったものにはしたいです。

横山:出した方がいいと思いますけど、そこにお金がどれくらいかかるのかも知っているだけに、難しいところですよね。最初は、ミックスナッツとか軽めのものだけでやってみましょうか? …って、完全に中に入ろうとしてる (笑)。それこそ、ニギリズムでおにぎりを出したらいいんじゃないですか? ニギリズムのコンセプトはいまだに素晴らしいと思うし、どうですか? キング・オブ・ファストフード。

たしかにそれはいいかもしれないですね。

横山:僕からアドバイスできるのは、「休肝日」「おにぎり」「ハードルを上げ過ぎない」というところかな。あ、あと最近『サブカルで食う』という本を出したオーケンの名言で、「必要なのは運と才能と継続」というのがあって。運と才能はどうしようもないところなので、結局は継続をやめないヤツが残るという。意外とライブハウスってつぶれていないんですよ。継続をやめなければなんとかなっちゃうもんですよ。ただし、中は地獄ですけどね(笑)。


インタビューを終えて

「横山さんがインタビューで終始おっしゃっていたのは、イベントを続けてやることの大変さということだったと思います。僕自身、3年前くらいに、1ヶ月間毎日トークイベントを開催する『MAGNETICS』というプロジェクトを企画したり、Ustreamやトークイベントの企画・出演というのはこれまでに何度もやってきていたので、その大変さをある程度はわかっていたんですが、10年以上にわたってそれを続けてきた横山さんから直接話をしてもらうことができたことはとても良かったですね。でも、決して頭ごなしに『絶対無理だからやめておけ』と言われなかったのは救いだったし、大変だけどできると言われているような気がしました。 『休肝日を作れ』とか『ハードルを上げすぎるな』という話もまさにその通りだと思ったんですが、まずはどんな形であろうとも、毎日やるということにはこだわってみたいと思っています。でも、僕がまだ経験したことのないことなので、横山さんのおっしゃっていたことを100%はわかっていないんだと思うし、いずれそれを痛感する時が来るんだろうなという気はしています(笑)。そういう意味でも、今日は神様からのありがたいお言葉を頂けたという感覚がありますね。その他にも、ここには掲載されていないリアルな数字の話などを含め、色々と相談に乗って頂くことができて、とても参考になりましたね」