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原田祐馬

デザイナー

小川さやか

文化人類学者

大阪を拠点に活動するデザイナーの原田祐馬さん。グラフィックデザインをはじめ、空間デザイン、展覧会/イベント企画などジャンルを越えてさまざまなプロジェクトを展開している彼が、今回インタビュー相手として指名してくれたのは、タンザニアの路上で古着を売り歩き、タンザニア人の人間関係や処世術を調査した「都市を生きぬくための狡知」で、サントリー学芸賞を受賞した小川さやかさん。現在、「瀬戸内国際芸術祭 2013」の小豆島・醤の郷+坂手港エリアで、町の人たちとともにプロジェクトを進めている原田さんが、「関係」をテーマにさまざまなお話を聞きました。

4. 人間は分かり合えると思いますか?

小川さやか 

人には分かり合えないことがあって、それをすべて分かることができる、分かりあうべきだという考え方は傲慢だと思うし、そういう人が相手との力関係に無自覚だと嫌だなと。

Q.タンザニアにいる時は現地の言葉でコミュニケーションを取っていたのですか?

小川:はい。ただ、日本でスワヒリ語の勉強を少ししていたのですが、タンザニアに着いた直後は全然喋れなかったですね。

タンザニアの古着の行商人(2001年撮影)

Q.拙い言語でやり取りするコミュニケーションの方が、お互いが相手のことを理解しようとするからいいのかもしれないですね。

小川:すれ違いや喧嘩もしまくりましたけどね(笑)。ロボットやアンドロイドの研究に「不気味の谷」という言葉があるのをご存知ですか? ロボットやアンドロイドが人間に近づいていく過程で、ふと不気味に感じる段階があるんです。その「谷」を超えると不気味ではなくなるのですが、フィールドワーカーにもその「不気味の谷」のようなものが訪れるんですよ。最初は、相手からしたら異文化から来たフィールドワーカーにわからないことやできないことがあっても不思議ではないロボットみたいなものなので、こっちが的外れなことを聞いても、大抵の場合は優しく教えてくれるか、しようがないと黙認してくれる。でも、徐々に色んなことがわかり、だんだん現地の人に近づいてくると、不気味な存在になるんです。同じことをしているのになんか違う、何かが変だと言われて、些細な間違いや行動にも厳しくなってくる。でも、そうなった時がフィールドワークの一番スリリングな瞬間なんですよ。それを超えてしまうと、何も不思議なことがなくなるのでうまく生活はできるけれど、研究ができなくなってしまう。

原田さんが携わる小豆島のCreator in Residence “ei”にて。 原田さんが携わる小豆島のCreator in Residence “ei”にて。

Q.深い(笑)。一周回ってからが面白くなってくるんですね。小川さんのお話を聞いていて、小豆島のプロジェクトは、大阪から3時間程度の距離だから、通いながらいかに町の人たちと一緒に環境を作っていけるかという新しい仕組み作りに挑戦しているのかもしれないなぁと。関わり始めて1年半、時々、意地悪なことを言われて暗くなることもあるのですが(笑)、最初はがむしゃらだったけど色々な話を進めていくうちに、他者である限り分かり合えないことに気がつきました。そこからお互いがすべてを冗談だと捉えるくらいの意識で楽しもうと思うようになり、自然とチームの皆が力を寄り添わせる関係になってきている。厳しさを超えると関係が一周周り、まだまだ問題も抱えてはいますが、プロジェクトがドライブし始めてきた気がしています。

小川:なるほど。文化人類学の教科書には、「文化相対主義」という考え方が出てきます。文化には優劣がなく、自文化の物差しで異文化を評価すべきではないという考え方です。一見正当な考え方ですが、この考え方を純粋に推し進めると、例えば「女子割礼」などの生命や人権に関わる深刻な問いを呼び起こす慣習に対しても、異文化を尊重すべきだという観点から反対したり批判したりできなくなります。ここで、「いやいや、人間は同じなのだから、女子割礼の危険性や問題をちゃんと話し合えば、現地の人々と私たちは同じ考えに到達する」と信じて「100%理解」を目指す立場も、「人間は所詮みなバラバラで、環境や文化が違えば理解し合えないし、だから仕方ない」と諦める「0%理解」に留まる立場もきっと間違っています。私自身は人には分かり合えないことがあって、それをすべて分かることができる、分かりあうべきだという考え方は傲慢だと思うし、そういう人が相手との力関係に無自覚だと嫌だなと思います。だけど理解し合えなかったら、どうすることもできないというのもおかしな話です。日常的には分からないからこそ人は付き合うことができているからです。人はよく知らない相手とも恋に陥るけれど、超能力で相手の心がよく分かったら多分大混乱に陥る。相互理解は行為に先立つ前提や付き合いの目的ではなく、付き合いの過程で生じたり薄れたりを繰り返すもので、それが完璧ではないからこそ協働も納得も生みだされるのだと思うんです。

Q.僕たちもプロジェクトの途中で、理解といって良いのか解らないですが、そのことに気がつき始めて本当に良かったです。これからも町の人たちとお互いに冗談を言い合いながら、一対一で何ができるか、僕らと自治体、僕らと島で何ができるのかを考えていきたいし、そのためのヒントが今日のお話の中にたくさんあったような気がします。これからも小川さんの勉強会を毎週やって、みんなに伝えたいくらいですよ(笑)。<インタビュー終わり>

インフォメーション

原田さんが、エディトリアルスタジオ「MUESUM」と共同企画している「瀬戸内国際芸術祭2013」小豆島・醤の郷+坂手港プロジェクト「観光から関係へ」 の夏会期が7月20日からスタート。また、原田さんが実行委員を務める「DESIGNEAST04」が9月14日〜16日まで名村造船所跡地で開催される。

もっと知りたい人は…

  • 原田祐馬 

    原田祐馬

    デザイナー

    1979年生まれ。UMA / design farm代表。2002年京都精華大学芸術学部デザイン学科建築専攻を卒業後、インターメディウム研究所(IMI)7期生として入学。2005年まで在籍。2005年より京都造形芸術大学非常勤講師。2007年、UMA/design farmを設立。アートディレクター/デザイナーとして、ブックデザイン・グラフィックデザイン・エキシビジョンデザインなどを手がける。2009年より「DESIGNEAST」ディレクター、2013年よりULTRA FACTORY/studio ZZZディレクターを務める。

  • 小川さやか 

    小川さやか

    文化人類学者

    1978年生まれ。京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科を指導認定退学。博士(地域研究)。学術振興会特別研究員、国立民族学博物館機関研究員、同博物館助教を経て、立命館大学先端総合学術研究科准教授。主な著書『都市を生きぬくための狡知―タンザニアの零細商人マチンガの民族誌』(第33回サントリー学芸賞)。