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「問い」をカタチにするインタビューメディア

地域と関わる

「bollard」店主・五十嵐 勝成さんが、
岡山市議会/サウダーヂエンタテインメント・森山幸治さんに聞く、
「DJから市議会議員になった理由」

去る10月15日、岡山のcafe moyauさんをお借りして開催した公開取材イベント「QONVERSATIONS TRIP OKAYAMA」。岡山に移住もしくはUターンされた方がインタビュアーとなり、岡山で長く活動してきた方々にインタビューするというテーマのもと開催されたイベントのダイジェスト版をお届けします。
「SESSION2」では、1年半前に東京から岡山に移住し、ご夫婦でデザインスタジオ「fift」を運営し、今回の企画のコーディネーションにもご協力頂いた五十嵐勝成さんが、岡山市議会議員であり、「サウダーヂな夜」や「城下公会堂」などの飲食店の経営者でもある森山幸治さんに話を聞きました。

五十嵐 勝成
岡山でどんなことをしてきたのですか?

僕は東京から1年半前に妻と移住してきてデザイン事務所をやっているんですが、誰も知り合いがいない状態で岡山に来て、最初にできた友だちが森山さんだったんですね。もともと僕らは、自分たちの暮らしを考えた時に、近い将来東京以外の地方都市に住むという選択肢は考えていたんですね。結果的には、3.11が大きなきっかけにはなったのですが、移住を考えていたのは、普段の仕事もやりながら、自分の暮らす街となるべく近い距離やスケールで、街のことにも関わっていきたったからなんです。それは、森山さんがキーワードにされている「自治」というところにもつながってきますよね。

森山:そうですね。まず簡単に自分の紹介をさせて頂くと、いま僕は岡山市議会議員をやりながら、飲食店やライブハウスなどを経営していて、その他にも野外イベントや音楽フェス、お祭りなどを企画させて頂いているんですね。また、「自治」と言うと少し固く聞こえるかもしれませんが、NPO法人を立ち上げ、どうやったら自分たちの街をもっと面白くできるかということも並行してやっています。

森山さんは、大学在学中にアパレルのお店を始めて、その後は飲食店の経営をしながら、1年半前から議員になられましたよね。そうした仕事の変遷のなかで、常に岡山の街と向き合いながら自分の人生を考えてきているような気がするんですね。そうした森山さんの現在に至るまでのお話を聞かせてもらってもいいですか?

森山:大学の時に、倉敷にあるDJバーに足繁く通うようになったんですね。実は僕はお酒が一滴も飲めないんですけど、最初は大学の先輩に連れて行かれて、バーテンの人に何が飲みやすいのかを聞いて杏露酒を注文して (笑)、3、4時間かけて氷が溶けるのを待ちながら、DJのプレイを聴いているのが楽しかったんです。そこから音楽に興味を持ち始めて、倉敷にあったレコード屋さんの店長に何を聴いたらいいのかを教えてもらい、買ったレコードをそのDJバーでかけてもらうようになりました。そのうち、DJバーのマスターに、人が足りないから手伝ってくれと言われて、それが当時の森山少年には大きな転機になったんです。そのDJバーでの原体験が、その後のアパレルのお店や、飲食店経営をはじめいまやっていることのすべてにつながっています。

当時そういうお店は岡山市内にはなかったのですか?

森山:以前は「CLUB JAM」というお店が表町の方にあって、そこでも夜遊びというかクラブ活動に勤しんでいました。でも、お酒が飲めないコンプレックスがずっとあったので、コーヒー一杯だけでも音楽が楽しめて、カッコ良い人たちが集まってくるような、よくわからないけどギャンギャンしている店があったらいいなと思い、12年前に作ったのが「サウダーヂな夜」なんです。オープン当初はカウンターに立っているだけで色んな体験ができてとても面白かったですね。

「サウダーヂな夜」店内の様子。

五十嵐 勝成
なぜ議員になろうと思ったのですか?

森山さんは、色んな人が行き交う「サウダーヂな夜」のカウンターに立ちながら、岡山の街というものを見てきたのかなと思うんですね。僕も移住をしてから岡山の歴史は勉強しましたが、街や商店街というのはこの10年くらいでどう変遷してきたんですか?

森山:表町の商店街の近くに「アルチザン珈琲店」というみんなが集まっていた老舗の喫茶店があったんですが、そこが7年くらい前になくなってしまったんですね。そこはネルドリップで味わう岡山コーヒーの源流を受け継いでいたお店でした。僕は岡山のコーヒーが大好きなんですけど、「アルチザン珈琲店」はまさに岡山の宝とも言える喫茶店だったんです。ちょうどそのくらいの時期にスターバックスなどもオープンして、流れが大きく変わっていきました。それを機にオシャレな人や粋だなと思う大人の行き交う姿が減ってきて、お店がひとつなくなるだけでこんなにも街は変わっていくんだということを実感したんです。特にこの3、4年というのは、街というのは人が作っていて、それが変わることでどんどん変化していくものなんだと強く感じるようになりましたね。

森山さんは以前から議員になりたいと思っていたのですか?

森山:いや、最初は学校の先生になりたいと思っていたんです。大学でも教育実習に行ったのですが、教員採用試験に筆記で落ちてしまって。それで、当時働いていたDJバーの社長にお店をやらないかと言われていたこともあって、洋服屋を始めたんです。負け惜しみじゃないですが、当時は「教壇に立つだけが先生じゃない」「今回は落ちたけどいまに見とけ」みたいな思いがありましたね。

議員になったきっかけは何だったんですか?

森山:とにかく街は面白い方がいいだろうという思いがまずはあったんですね。街には、アーティスト肌の人から職人タイプの人まで、本当に面白い人たちがいっぱいいるんですよね。でも、僕は職人タイプではないし、クリエイティブな発想を持っているわけでもなくて、何が向いているのかわからなくて悩んでいた時に、ある人から「君は知っている人を知っているね」と言われたんです。たしかに僕はスゴく発想力のある人や、職人肌の人たちをたくさん知っていたんですね。それは20歳の頃から継続してやっていたDJにもつながるのですが、DJは演奏しないけれど、世界中の素晴らしい音楽や、もうこの世には存在していないアーティストをフロアに連れて来られるんですね。そういうものをつないでいくことでお客さんを楽しませたいという志向が昔からあったんです。おこがましいかもしれないけど、アーティストや職人的な人たちを、社会とつなげるということが僕にはできるんじゃないかと。

DJにおけるフロアが、森山さんにとっての街になったということですね。

森山:いまもそういうイメージで仕事ができればいいなと思っています。「サウダーヂな夜」を始めて8年くらい経った時に、旧日本銀行の跡地をどうやって使っていくかという話があって、そのプロジェクトの理事をやっていた人に誘われて、初めて自分のお店以外で街に関わる仕事をしたんです。それがきっかけとなり、いまの議員の仕事などにつながっていきました。

森山さんの議員当選パーティ。

五十嵐 勝成
政治の面白さは何ですか?

議員になるまでの流れには大きく2パターンあると思うんですね。若い頃から議員を目指していて、なるべくしてなったような人と、何かをきっかけにそれまで他のことをしていた人が政治の道に入っていくパターン。そういう意味で森山さんは後者ですよね?

森山:そうですね。自分も含め商店主の人たちというのは、お百姓さんに例えるなら種をまいて、水や肥料をあげるように企業努力に努め、芽が出ることを待ち望むんですね。これまでは、その芽が出ないでダメになってしまった場合は、自分を責めるしかないと思っていたんですが、街に関わる活動をするようになってからは、それまで飲食店をやってきた自分の活動を俯瞰して見られるようになったんですね。そうすると、実はまいている種ではなくて、土の方に問題があるんじゃないかということが見えてきました。それがつまり行政や公共ということだったんです。

僕が岡山に移住してきたのは、森山さんが当選した2、3ヶ月後だったんですが、かなり変わった選挙戦を展開されていたようですね。

森山:結果はさておき、若い連中がなんかワッショイワッショイやっているというのもいいんじゃないかと思い、自分たちなりの選挙戦というのを考えていきました。例えば、選挙カーは無意味にうるさいからイヤだなと思っていたのですが、選挙活動中に、全然知らないタクシーの運ちゃんが応援したいと言って事務所に来てくれたんですね。じゃあその人に手伝ってもらおうということになったんですが、どうせ車を回すなら、もともと僕はDJをやっていたし、音楽をかけながら街のお店を紹介して回ろうと思ったんです。ボブ・マーリーをかけながら、クワイエットビレッジのカレーはスゴく美味しいとか、自分で選曲をしながら街に住む素敵な人たちを紹介して回ったんです。

先ほどクリエイティブな才能がないと話されていましたが、ありきたりの方法ではなく、それを上回るものを模索しながら実践をしていくことはクリエイティブな行為ですよね。

森山:クリエイティブなのかバカなのか紙一重だと思いますが(笑)、常に楽しみたいというのがあるんです。与えられたものに甘んじるのではなく、こういう抜け道があるんじゃないか?と考えていくのが好きなんですね。何か抗うものがあった時に、そこで諦めるのではなくて、「この野郎!」とか思いながら、別のやり方があるんじゃないかと考えていくんです。

選挙戦というのは、何かしら仮想敵を設定して展開していくイメージがあるんですが、森山さんにとってそういう敵は何かあったのですか?

森山:敵というのとは違うかもしれませんが、もともと僕は、先ほども話したように自分が何に向いていて、どこに属するんだろうという思いがずっとあって、「サウダーヂな夜」にしてもそういう孤独な人たちの受け皿になっているところがあったんですね。そこには、居場所のないバラバラな連中がひとりずつ集まってきて、ひとつのコミュニティが形成されていく感覚があって、これからはひとつのジャンルで閉じるのではなく、もっとみんなが横断していかないといけないと思うようになったんですね。でも、いざ市議会に入ってみると、議員の大半はずっと政治の世界でやってきた人たちなんです。それが悪いとは言わないけど、決して多様ではないですよね。だから、僕がそこに入るということはひとつの突破口になるんじゃないかと思っています。いままで僕は経営者としてやってきましたが、人がご飯を食べて、セックスをして、排泄をして生きていくということは、すべて政治と直結していて、その中には文化も芸術も含まれるはずなんです。だからこそ、そこを横断していかないとつまらないんじゃないかと。政治というのはそんなにたじろぐほどのものではないし、本当に面白いものだから、これからも胸を張って活動していきたいなと思っています。

森山さんが主催した音楽フェス。

五十嵐 勝成
こんなイベントに出て大丈夫なんですか?

議員になってから気づいたことがあれば教えてください。

森山:確信を得たのは、政治は政治家だけがするものじゃないということですね。もっと色んな人が関わってくるものだし、僕みたいに街中を普通に歩いているような人が議員をしていることで、30~40代の現役の人たちが政治というハードルをヒョイと超えられるようになったらいいなと。また、町内会という存在もやっぱり無視できないんですね。地元の高齢者の人たちとの関わりというのは、「サウダーヂな夜」などではなかったのですが、この秋からは町内会の活動を積極的にやらせてもらっているんです。

どんなことをしているんですか?

森山:体育協会のバドミントンとかをしていますよ。議員になる前まで、「地縁」「血縁」がスゴく重んじられるコミュニティで、僕らのような若い人間はそこに参加させてもらえない雰囲気を感じていたんですね。若者には県外から来ている人も多くて、そこには大きな壁があり、それにどう向き合っていくのかはずっと課題だと思っています。僕は、「地縁」「血縁」ではない「縁」についてずっと考えてきているのですが、僕が考えている第三の縁というのは、趣味趣向の縁みたいなものなんですね。先ほど話した選挙活動の時もそうだったんですが、そうした縁が「地縁」「血縁」に勝るとも劣らないものなんだということをそれぞれが自覚して、それを行動に移していければ「地縁」「血縁」と喧嘩しない形で地域の輪が作られて、それがニュー町内会みたいになっていくんじゃないかなと。

町内会とは少し違うかもしれないですが、森山さんは「マチナカギカイ」というものもやっていますよね。

森山:これは、シンプルに街中にも議会があったらいいじゃんという発想で、岡山市政に関わることを街中のカフェや喫茶店などで市民の人たちと一緒にやっています。次回は、岡山中心部に関わる課題について、街の人が市の職員と一緒にワークショップを行う予定です(※編注:10月26日に開催済み)。岡山市側にも思いはあるのですが、それを市民に伝えていく術が市政だよりくらいしかないので、ひとつの実験としてスタートしたんです。

マチナカギカイの様子。

こういうことをやっている議員というのは、自分が知っているなかではほとんどいないんですね。例えば、今日のようなイベントに出て普通に話されたりするのは問題ないのかなって思ったりもします(笑)。

森山:結構ギリギリの線のことをやっているとは思います(笑)。でも、それを僕がやらないと意味がないと思うんですね。せっかく当選させてもらったのに、「先生」になってもしようがないし、もっとつなげていかないともったいないですからね。

やっぱりギリギリだったんですね(笑)。次の市議会選まで2年半くらいありますが、これからもどんどんギリギリのことをやってもらえることを期待しています。

森山:よく「申し訳ないけど君が当選するなんて夢にも思わなかった」と言われるんですが(笑)、地方議員というのは街の人の代弁者であるべきだと思うんですね。地域ごとに色々な課題があると思いますが、こうして僕は中心市街地で生きているから、そこでの課題を解決するために自分たちの世代を代表して声を届けていくということをやっていきたいなと思っています。2年半後には、もっと色んな考えや価値観を持ったグループが出てきているといいと思うし、そのためにも「面白いあんちゃん」だけで終わらないように勉強していかないといけないなと思っています。