インタビューアーにスポットを当てる新感覚インタビューサイト

RSS

Qonversations Twitter

環ROY

ラッパー

角田光代

小説家

今回カンバセーションズにインタビュアーとして初登場するのは、今年4月に4枚目となるオリジナルアルバム「ラッキー」をリリースしたラッパーの環ROYさん。ヒップホップの解釈を押し広げながら、精力的な活動を続けている環さんがインタビュー相手として指名したのは、「空中庭園」「八日目の蝉」「対岸の彼女」など数々のベストセラー作品を世に送り出してきた作家・角田光代さん。同じ言葉を操る仕事を生業とし、人生の先輩でもある角田さんに、果たして環さんはどんな質問を投げかけるのでしょうか?

4. 観察することに意識的ですか?

角田光代 

街を歩いていてイラッとした時のことを覚えておきます。その原因は自分にあって、相手の人は正しかったと考えるようにしています。

Q.角田さんの描写を読んでいて、日常に対する微細な表現が本当に巧みだなと感じました。乱暴に言うと、あるある感が半端ではない。これは観察するという行為から来るのでしょうか? そして観察には意識的ですか?

角田:そんなに意識しているわけではないですが、私は短気なので、街を歩いている時とかでも、ちょっとしたことでイラッとすることが多いんですね。その時にイラッとしたことを覚えておいて、その原因は自分にあって、相手の人は正しかったと考えるようにしています。例えば、往来で奥さんを大声で怒鳴りつけている初老の男性ってたまにいるじゃないですか。そういう人を見るともの凄く怒りを覚えるんですけど、そのおじいさんがそういう行為をするに至った理由や、奥さんとの関係性というものもあるだろうし、なるべくそういう要素をフラットにした上で、覚えておくようにしているんです。

Q.こっちからしたら完全に「ジジイ、悪いヤツ! ムカつく!」ってなるけど、そこに至った理由を考えてみたり、その行為を許容している奥さんの存在というのを、なるべく俯瞰して見てみるということですね。僕も自分のことを掘り下げる時にかなり近いことをしているので、共感します。特に自分のことだとウェットになりがちなので、なるべくそれを抑えてドライに、フラットにしていくというか。でも、ずっとそんなことばっかりやってきちゃったんで、最近はいい加減もうやめようと思っているんです。

角田:お互いに物事を後から客観視するところがあるんですね。その前段階として、何かが起きた直後は、自分が悪かったと考えるタイプですか?

Q.記憶が曖昧なくらい昔のことは自分が悪かったと考えることが多いけど、その場ではお前が悪いだろって思いがちですね。例えば、電車の中で電話しているヤツがいたらやめてよって言うし、並ばないヤツには並んでよって言う。その場でそれをやっちゃうから、クリエイトの種がどっかにいっちゃうのかもしれないけど(笑)。僕も角田さんと一緒で怒りん坊なんだけど、「僕が正当な手順をたどっているのに、お前はルールを無視していて許せない!」みたいな幼稚な衝動が働くんです。それは正義漢とかではなくて、どちらかというとルールを守るのが苦手な僕ですら社会にソーシャライズされているのに! という被害者意識だと思うんですね。社会に対して感じている窮屈さみたいなものがそういう時に出ちゃうんじゃないかなと。

角田:私も以前に、なんでもかんでも些細なことで怒っているという話を友達にしたら、それは世の中に対する信頼があるからだと言われたんです。その時はあまりピンと来なかったんだけど、いまの話を聞いていてわかった気がします。みんなが守っていることは当然であってほしいし、だから自分もやっている。でも現実は違うんだ、という時に信頼が裏切られたような怒りが沸き起こるのかも (笑)。

Q.良く言えばお互い、社会に対する解釈がピュアで、悪く言うとユートピア思想が過ぎるのかもしれませんね。僕は「ジャンプ」で育っているから、友情とか努力を大切にしてたら楽しく生きられるという思想が基盤にあるのかもしれません(笑)。だから、自分の好きな物語が傷付けられたように感じて怒っているんだと思います。<続く>

もっと知りたい人は…

  • 環ROY 

    環ROY

    ラッパー

    宮城県仙台市出身。東京都在住。2006年に1stアルバム「少年モンスター」を発表。以降、これまでにフルアルバム「BREAK BOY」「あっちとこっち」「ラッキー」を発表する。第15回文化庁メディア芸術祭大賞受賞作品「スペースバルーンプロジェクト」へ参加、楽曲提供を行う。FUJI ROCK FESTIVALをはじめとする様々な大型音楽イベントへ出演するほか、全国各地、屋内外、様々な場所にてパフォーマンスを行う。

  • 角田光代 

    角田光代

    小説家

    1967年、神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。90年「幸福な遊戯」で海燕新人文学賞を受賞しデビュー。96年『まどろむ夜のUFO』で野間文芸新人賞、98年『ぼくはきみのおにいさん』で坪田譲治文学賞、『キッドナップ・ツアー』で99年産経児童出版文化賞フジテレビ賞、2000年路傍の石文学賞、03年『空間庭園』で婦人公論文芸賞、05年『対岸の彼女』で直木賞、06年「ロック母」で川端康成文学賞、07年『八日目の蝉』で中央公論文芸賞を受賞。著者に『三月の招待状』『森に眠る魚』『くまちゃん』など多数。