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環ROY

ラッパー

角田光代

小説家

今回カンバセーションズにインタビュアーとして初登場するのは、今年4月に4枚目となるオリジナルアルバム「ラッキー」をリリースしたラッパーの環ROYさん。ヒップホップの解釈を押し広げながら、精力的な活動を続けている環さんがインタビュー相手として指名したのは、「空中庭園」「八日目の蝉」「対岸の彼女」など数々のベストセラー作品を世に送り出してきた作家・角田光代さん。同じ言葉を操る仕事を生業とし、人生の先輩でもある角田さんに、果たして環さんはどんな質問を投げかけるのでしょうか?

2. 壁にぶつかったことはありますか?

角田光代 

30歳を過ぎた頃に、自分の中で限界が押し寄せてきたんです。このまま誰にも伝わらないものを同世代に向けて書いていて何になるんだろうと。

Q.日常の生活や暮らしを書こうとしていた時期が”あった”ということですけど、その後モードが変わっていったんですか?

角田:そうですね。日常を書くことが増え、自分の得意分野みたいになっていくにつれて、徐々に窮屈になっていったんです。それで、対極的なことをしようと思い、いままでとは違うことを書いたりするようになりました。

Q.それはいつ頃のことだったんですか?

角田:32,3歳の頃ですね。それまでは自分の世代に興味があったんですが、当時私の周りの友だちには就職している人が少なくて、みんなフリーターだったんですね。ちょうどバブルが終わった頃だったんですが、バイトしながら好きなことをするような人が多くて、そういう人たちのことを「文体とは何か?」と考えながら書いていました。ただ、30歳を過ぎた頃に、「もうフリーターを書くには若くないな」と感じるようになり、自分の中で限界が押し寄せてきたんです。

(右)「空中庭園」(2002)、(左)「対岸の彼女」(2004)

Q.いま自分も同じくらいの年齢なので、30を過ぎてからの変化というのは強く共感するところがあります。文体にこだわるということにしても、結局純文学という、あまり大きくない枠の中に回収されるだけで、みんなには伝わらないじゃん、みたいなお話しですよね。僕もラップという定型的な様式の中で、みんなに分かってもらえないということをだんだん感じるようになっていきました。そうなると、生活の近くにあることを書きたいなと思えてくるし、普遍性について凄く考えるようになりました。

角田:まさにそうなんですよ! それまでは分かる人だけ分かってくれればいいと思っていたし、年上の人に「こいつ分かってないな」とか言われても、「けっ!わからなくていいよ!」って感じだったけど(笑)、だんだんそれが言えなくなってくる実感があって。私の場合は、仕事も極端に減ってきたということもあり、このまま誰にも伝わらないものを同世代に向けて書いていて何になるんだろうと。やっぱり一番怖いのは仕事の場が失われることですからね。

Q.僕も最近、意識して歌詞の内容を変えたりしています。100人中90人くらいが楽しいと思ってくれるような方法はないだろうかって模索していますね。まさに角田さんが仰る通り、仕事の場を失わないようにするための進化、変化というのは、凄く意識しています。

角田:私は32,3歳で意識的に変えようとしたんだけど、なかなかうまくできずに2年くらい苦しみました。34,5歳くらいでなんとなくやり方がつかめて、そのために必要なことも分かってからずっと頑張ってきて、いままた息切れしてきた感じです(笑)。<続く>


もっと知りたい人は…

  • 環ROY 

    環ROY

    ラッパー

    宮城県仙台市出身。東京都在住。2006年に1stアルバム「少年モンスター」を発表。以降、これまでにフルアルバム「BREAK BOY」「あっちとこっち」「ラッキー」を発表する。第15回文化庁メディア芸術祭大賞受賞作品「スペースバルーンプロジェクト」へ参加、楽曲提供を行う。FUJI ROCK FESTIVALをはじめとする様々な大型音楽イベントへ出演するほか、全国各地、屋内外、様々な場所にてパフォーマンスを行う。

  • 角田光代 

    角田光代

    小説家

    1967年、神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。90年「幸福な遊戯」で海燕新人文学賞を受賞しデビュー。96年『まどろむ夜のUFO』で野間文芸新人賞、98年『ぼくはきみのおにいさん』で坪田譲治文学賞、『キッドナップ・ツアー』で99年産経児童出版文化賞フジテレビ賞、2000年路傍の石文学賞、03年『空間庭園』で婦人公論文芸賞、05年『対岸の彼女』で直木賞、06年「ロック母」で川端康成文学賞、07年『八日目の蝉』で中央公論文芸賞を受賞。著者に『三月の招待状』『森に眠る魚』『くまちゃん』など多数。