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太刀川英輔

NOSIGNER主宰
デザイナー

堀井秀之

東京大学i.school エグゼクティブディレクター

今回インタビュアーを務めるのは、NOSIGNERの代表として、プロダクト、空間、グラフィックをはじめ幅広い領域のデザインを手がける太刀川英輔さん。東日本大震災の直後には、被災地での生活を助けるさまざまなアイデアを集めるデータベースWiki「OLIVE」を立ち上げるなど、社会的に機能する無形のデザインを生み出すことを目指した活動で注目を集めています。そんな太刀川さんがいま興味を持っている分野はデザイン主導のイノベーション。デザインによるイノベーションのあり方を考える彼からの強い希望で、「イノベーションの学校」を謳う東京大学の教育プログラム「東京大学i.school」のエグゼクティブディレクターを務める堀井秀之先生へのインタビューが実現しました。i.schoolの公開ワークショップで講師を務めた経験もある太刀川さんが、独自の視点でその秘密を掘り下げます。

4. スティーブ・ジョブズを育てることはできますか?

堀井秀之 

もしスティーブ・ジョブズが必要なら、極端な話、調達してくればいいんです。

Q.生まれたアイデアを質の高いアウトプットに落としこむという部分については、どうしても個人のクオリティラインに左右されてしまうところがあるような気がしています。その段階で、オーナーシップが個人に戻ってしまうという葛藤が僕自身の中にあるんです。例えば、アップルの場合は、スティーブ・ジョブズという強力な個人がチェック機構になっていましたよね。

堀井:i.schoolは、スティーブ・ジョブズのような人を育てることが目的ではないんです。ゆくゆくはそういう人も出てくるかもしれないけど、私たちが目標にしているのは、創造的な課題が与えられた時に、どういうプロセスを踏めばそれをクリアできるのかということを設計できる人材を育てることです。その課題に必要な人や情報を集め、チームを作り、作業を進めてゆくというプロセスを設計することが大切なのです。ひとりのスタープレイヤーがいた時に、その人に何を組み合わせればよりスゴいものが生まれるかを考えることが課題であって、もしスティーブ・ジョブズが必要なら、極端な話、調達してくればいいんです。そもそも、育てようと思って育てられるようなものでもないですからね(笑)。

Q.「スティーブ・ジョブズは調達するもの」。これは名言ですね(笑)。課題解決のためのプロセスや定石のようなものが作れれば、あとはそれを色々なところにインストールしていけばいいわけですよね。それによって、誰もが優れたイノベーションを生み出し得る状況ができたら面白いですね。

堀井:一般的に、先ほど話したアブダクションというのは、無意識の内に行われるもので、言語化できないと思われています。過去の経験が記憶として蓄積されていて、ある目的を果たす手段を考える時に、直感的に必要なアイデアが思い付くという流れです。でも私は、無意識のうちに行われているアブダクションを言語化して、説明できるようにしたいのです。さらに言うと、その説明を使ってアイデアを思い付くというところまで持っていきたい。

自分の無意識の部分に意識を当てて言語化することで、無意識だけでは到達できない高みに上がれるというわけです。

Q.体験を言語化していくということですね。

堀井:例えば、イチローは、自分のバットスイングをすべて言語化するトレーニングをしているといいます。スポーツの世界では、言語化することは良くないと言われていて、いかにそれを無意識でやれるようにするかが課題という考え方があります。でも、イチローは、自分のその日のスイングを非常に精緻な記述で分析するのです。つまり、自分の無意識の部分に意識を当てて言語化し、それをぎこちなくなるまで練習することで、無意識だけでは到達できない高みに上がれるというわけですね。アブダクションの思考が起こる瞬間を順解析していくのは難しくても、それが起こった時の思考を、後から逆解析して言語化するということは可能だと思うのです。もしそれができれば、素人でもある程度の高みまでは上がれる可能性があるということですよね。アブダクションの思考においてアナロジー(類推)というのは間違いなく重要なキーワードだと思っています。 <続く>

インフォメーション

堀井秀之さんによる新著「社会技術論 ―問題解決策のデザイン」が7月25日に東京大学出版会より出版予定。
太刀川英輔さんが参加する、アジアの新興国の草の根にいるイノベーターを発見・体系化・啓蒙していくプロジェクト「Design For Freedom」が発足。

もっと知りたい人は…

  • 太刀川英輔 

    太刀川英輔

    NOSIGNER主宰
    デザイナー

    慶應義塾大学理工学部隈研吾研究室にて、デザインを通した地域再生と建築とプロダクトデザインの研究に携わり、在学中の2006年に「見えない物をつくる職業」という意味を持つデザインファームNOSIGNERを創業。社会に機能するデザインの創出(デザインの機能化)と、デザイン発想を体系化し普及させること(デザインの構造化)を目標として活動している。 平面/立体/空間を横断するデザインを得意とし、新領域の商品開発やコンセプトの設計、ブランディングを数多く手掛け、数多くの国際賞を受賞している。経 済活動としてのデザインのみならず、科学技術、教育、地場産業、新興国支援など、既存のデザイン領域を拡大する活動を続けている。災害時に役立つデザインを共有する「OLIVE PROJECT」代表。IMPACT JAPAN fellow。University of Saint Jpseph (マカオ) 客員教授。

  • 堀井秀之 

    堀井秀之

    東京大学i.school エグゼクティブディレクター

    1980年東京大学工学部土木工学科卒業、ノースウェスタン大学大学院修士課程・博士課程修了、東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻教授。東京大学知の構造化センター長、専門は社会技術論、安全安心研究。著書「問題解決のための『社会技術』」、「安全安心のための社会技術」。