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新津保 建秀

写真家

ドミニク・チェン

株式会社ディヴィデュアル

今回カンバセーションズに初登場となるのは、企業のための広告や映像の撮影、建築、文芸、音楽、情報デザインなど領域を横断したドキュメントと共同作業を多く手がけている写真家の新津保建秀さん。そんな新津保さんがインタビュー相手に選んだのは、インターネット上における表現活動やコミュニケーション、コミュニティのあり方などに関する数々の著作で注目を集めるドミニク・チェンさん。スマートフォンアプリの開発などを行う株式会社ディヴィデュアルの設立メンバーでもあり、新たな視覚共有アプリをまもなくリリースするというドミニクさんに、新津保さんが聞きたいこととは?

5. 新作はどんなアプリなんですか?

ドミニク・チェン 

家族や親密な人同士をITで結ぶというテーマでブレストをしていくなかで、このアプリの基が固まっていきました。

Q.先日、荒神明香さんらによるユニット「目(め)」の新作展、その後に『バルテュス』展を見る機会がありました。その少し後に、ドミニクさんたちが開発中のアプリにテストユーザーとして関わらせてもらって、このアプリを日々使っていくなかで、表現におけるフレーミングの意味を改めて考えていました。

ドミニク:いま作っているものは、言葉よりも速く、たくさん伝わるというコンセプトで、クローズドなグループのメンバー同士がまるで同じ一台のカメラを使っているかのように、互いに撮影した写真が手元に保存される視覚共有アプリです。このアプリのきっかけとなったのが、僕と妻のあいだで娘が生まれてから写真を撮る機会が一気に増えて、10ヶ月あたりでふたりが撮った写真が合計で8,000枚ほど溜まっていたのですが、それを1カ所に集めるのがかなり大変だったんですね。やっぱりそれぞれの視点で撮った娘の写真を見たいわけですよ(笑)。DropboxやAppleのPhoto Streamといったツールもありますが、ITに詳しくない人にはまだまだ使いづらかったりするんです。そこで、僕と奥さんがそれぞれのiPhoneで撮った写真がバーチャルに同じ場所に入っていって、いちいち送信する必要なく記憶を保存できるものがあるといいなぁと。

ドミニクさんたちが開発した新作アプリ。

Q.実際にこのアプリを使ってみて、自分が知っている誰かに対して写真を撮るということは、普段のように不特定多数の人に向けて撮ることとはだいぶ感覚が違うんだと感じました。また、僕らはいま3人のグループで使用していますが、3人の視点によってつくられた目に見えないフレームみたいなものがあって、それを通して世界を見ることで、自分にはない感覚が立ち上がってくるところがあるんです。このアプリは色々な可能性を秘めていると感じるし、多くの人に使ってほしいと思います。

ドミニク:はい、アプリを作り始めてからすぐに、これは家族に限定されない、多様なシチュエーションで広く使ってもらえる可能性があることに気付きました。例えば、新津保さんたちとのグループでのやり取りでは、送られてきた写真に対して、言葉ではなく写真で返事をしていくような、純粋にビジュアル感覚でコミュニケーションを行うのがすごく面白いですね。このアプリには、新津保さんがおっしゃるように、不特定多数の人が見るFacebookやInstagram、Twitterみたいなパブリックなネットサービスでは自分を飾り立ててしまうことで削ぎ落とされてしまう、ある種の生々しい官能的な感覚があります。LINEでは言葉でコミュニケーションが始まり、スタンプや写真が付随しますが、 このアプリでは逆で、写真や動画がコミュニケーションの主体で、言葉はキャプションやコメントとして付随するものなんですね。特定の相手と日常的に写真を撮り合うことで、言葉がだんだん不要になってくるプロセスがとても気持ち良いんです。このアプリを介して多くの人の間で非言語的な親密さが伝播していけばうれしいですね。

Q.ひとりの人が世の中に投げかけた創作物が、数年かけて色んな人たちに影響を及ぼし、そこに込められた思想が社会に広がっていくということがあります。かつては思想家や芸術家らが担ってきた役割だったのかもしれませんが、現在は、研究者や独創的なビジョンを持った法人もこれに当たるんじゃないかなと思うことがあります。

ドミニク:そうですね。僕たちが目指しているのは、コンピューターに人間が合わせていく世界ではなく、人間の自然に近いコンピューターをつくることなんです。このアプリもそうですが、人間の身体的な感覚とつながっているテクノロジーというのが自分たちの目指している方向性なんです。先日、(スティーヴン・)ホーキング博士がインタビューに答えていたのですが、いま人類にとって最大の危険は人工知能だと。人間が理解することのできない人工知能によって、情報社会に生きる人間の存在が規定され始めているというんですね。僕としては、人間が人間として鋭敏な知覚で面白いものに接し続けられるような情報社会をつくりたいですし、そのためにもプログラミングというものが脱幻想化されて、より多くの人に情報サービスをつくることに参加してほしいという思いがあります。 ビジネスマンとして教育を受けた人なら、いかに効率よくプロダクトをリリースして、利益を上げるかということを第一に考えると思いますが、それは理念を社会実装していくことでもちろん重要なことです。でも、それがすべてではないですし、情報の力が過多に喧伝される今日だからこそ、時には非合理的だったり情感的だったりする人間世界の豊穣さや深さから新しいコミュニケーションの在り方を考えていきたいんです。<インタビュー終わり>

インフォメーション

ドミニクさんが開発した視覚共有アプリ「Picsee」のダウンロードはこちらから。

もっと知りたい人は…

  • 新津保 建秀 

    新津保 建秀

    写真家

    映像、写真、フィールドレコーディングによる制作を行う写真家。近年の活動に、雑誌『思想地図β』誌上における、福島県およびチェルノブイリの取材、代官山ヒルサイドテラスと周辺地区のドキュメント《Hillside Scenery》などがある。著書に『\風景』(角川書店)、『Rugged TimeScape』(池上高志との共作、フォイル)、『Spring Ephemeral』(フォイル)など、関連書籍に『建築と写真の現在』(TNプローブ)、『MTMDF』(HAKUHODO DESIGN)などがある。

  • ドミニク・チェン 

    ドミニク・チェン

    株式会社ディヴィデュアル

    1981年東京生まれ。フランス国籍。博士(東京大学、学際情報学)。NPO法人コモンスフィア理事。株式会社ディヴィデュアル共同創業者。主な著書に『インターネットを生命化する〜プロクロニズムの思想と実践』(青土社、2013年)、『オープン化する創造の時代〜著作権を拡張するクリエイティブ・コモンズの方法論』(カドカワ・ミニッツブック、2013年)、『フリーカルチャーをつくるためのガイドブック〜クリエイティブ・コモンズによる創造の循環』(フィルムアート社、2012年)。