インタビューアーにスポットを当てる新感覚インタビューサイト

RSS

Qonversations Twitter

新津保 建秀

写真家

ドミニク・チェン

株式会社ディヴィデュアル

今回カンバセーションズに初登場となるのは、企業のための広告や映像の撮影、建築、文芸、音楽、情報デザインなど領域を横断したドキュメントと共同作業を多く手がけている写真家の新津保建秀さん。そんな新津保さんがインタビュー相手に選んだのは、インターネット上における表現活動やコミュニケーション、コミュニティのあり方などに関する数々の著作で注目を集めるドミニク・チェンさん。スマートフォンアプリの開発などを行う株式会社ディヴィデュアルの設立メンバーでもあり、新たな視覚共有アプリをまもなくリリースするというドミニクさんに、新津保さんが聞きたいこととは?

4. なぜプロダクト開発が面白いのですか?

ドミニク・チェン 

アートは完成したものを提示する場合がほとんどですが、プロダクトやアプリケーションは、自分たちの計画からはみ出ていくところが面白いんです。

Q.会社を立ち上げてからはどんなことをされてきたのですか?

ドミニク:最初は、一緒に会社を立ち上げた遠藤がもともとプロトタイプをつくっていた「TypeTrace」というアプリのウェブ版を開発していたのですが、その途中で夏休みの課題的に、うちのスーパークリエイターの山本興一を中心につくった「リグレト」というアプリがあって、1週間で1万人くらいの人たちがユーザー登録してくれたんですね。それからはこちらに集中しようということになり、3、4年ほどコミュニティの運営をメインに行ってきていますが、メディアアートの作品をつくることとはまったくプロセスが違うんですね。カスタマーサポートに対応し続けたり、自分もデータベースの中に入って検証してはアルゴリズムを変えたりと、ありとあらゆることをしています。アートというのは、基本的にあるビジョンに基づいて完成したものを提示する場合がほとんどですが、プロダクトやアプリケーションは、自分たちの計画からはみ出ていくところが面白いんです。逆に作り手の計画通りに使われるようなものは、プロダクトとしてよくできていると言えるかもしれませんが、そこから化けることはありません。意図されない使われ方をすることを、意図的に考えていくという矛盾が面白いんです。

「リグレト」 「TypeTrace」 「TypeTrace」

Q.写真を撮影する時も、現場のすべてをコントロールしようとすると上手く回らないんですね。最初に決めたことにこだわってしまうとどんどん振幅がなくなり、出来上がるものも死んでしまう。逆に、その場で起きている偶発的なことに対して、波乗りをしていくような感覚で身を開いていくと、予想していなかったものが立ち上がってきます。

ドミニク:完全に制御したり、把握しようとする発想自体に一種の傲慢さがあるんじゃないかという考え方にリアリティを感じていて、色々研究していくと、ノーバート・ウィーナーという数学者が20世紀半ばに書いた『サイバネティックス』という本に出会いました。彼は、弾道ミサイルの計算や義足の設計などをしていた天才的な数学者なんですが、同時代のジョン・フォン・ノイマンという人がつくったCPU処理系統がある現代のコンピューターの構造やゲーム理論を批判しているんですね。ノイマンという人は、指示と制御による世界を目指していたのですが、それは世界の複雑さを切り落としていくことにもなりかねない。ウィーナーの考え方は違っていて、その観点を発展させていくと、新津保さんがおっしゃるように、システムの構成要素に指示するのではなく、各自が自律的に動けるように動きを整合させていくという有機的な方法につながっていったんです。

Q.2011年にある講座で、1年間にわたって写真の講評をする機会を頂いたのですが、その時に意識したのは、作家性を偏重しないで、写真の可能性を探りたいということでした。作家性に基づいて凄く強度のあるものを撮って作品とするのではなく、そこからこぼれてしまうものの可能性が探れたらと考えていました。そういう意味で、ドミニクさんの今回のアプリの背後にある考え方には色んなヒントがあるような気がしています。

ドミニク:僕には変なこだわりがあって、物事がフェアかどうかということを異常に気にするんです。そういう意味では、特権的なものというのはフェアじゃないと思いますし、そういうものはつまらない。例えば、芸術や哲学の世界には、「この人がつくった作品だ」とか「最初に考えたコイツが偉い」みたいな風潮がありますよね。でも、偉いものがたくさんある文化はつまらないし、それを破壊する動きが出てくるのが健全なことで、同じようなことがいま情報の世界においても起こっていると思います。いまだにプログラマーは機械的に考える天才だという風潮がありますが、全然そんな特権的なことではないし、非常に人間的な感性こそが重要になってきている。いま僕たちがつくっているものにしても、「作者」や「作品」という概念はありません。そもそもユーザーが来てくれないとドライブしないという状況の中で、会話をしながら自然に流れていくようなリアリティというものをつくりたいんです。<続く>

インフォメーション

ドミニクさんが開発した視覚共有アプリ「Picsee」のダウンロードはこちらから。

もっと知りたい人は…

  • 新津保 建秀 

    新津保 建秀

    写真家

    映像、写真、フィールドレコーディングによる制作を行う写真家。近年の活動に、雑誌『思想地図β』誌上における、福島県およびチェルノブイリの取材、代官山ヒルサイドテラスと周辺地区のドキュメント《Hillside Scenery》などがある。著書に『\風景』(角川書店)、『Rugged TimeScape』(池上高志との共作、フォイル)、『Spring Ephemeral』(フォイル)など、関連書籍に『建築と写真の現在』(TNプローブ)、『MTMDF』(HAKUHODO DESIGN)などがある。

  • ドミニク・チェン 

    ドミニク・チェン

    株式会社ディヴィデュアル

    1981年東京生まれ。フランス国籍。博士(東京大学、学際情報学)。NPO法人コモンスフィア理事。株式会社ディヴィデュアル共同創業者。主な著書に『インターネットを生命化する〜プロクロニズムの思想と実践』(青土社、2013年)、『オープン化する創造の時代〜著作権を拡張するクリエイティブ・コモンズの方法論』(カドカワ・ミニッツブック、2013年)、『フリーカルチャーをつくるためのガイドブック〜クリエイティブ・コモンズによる創造の循環』(フィルムアート社、2012年)。