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新津保 建秀

写真家

ドミニク・チェン

株式会社ディヴィデュアル

今回カンバセーションズに初登場となるのは、企業のための広告や映像の撮影、建築、文芸、音楽、情報デザインなど領域を横断したドキュメントと共同作業を多く手がけている写真家の新津保建秀さん。そんな新津保さんがインタビュー相手に選んだのは、インターネット上における表現活動やコミュニケーション、コミュニティのあり方などに関する数々の著作で注目を集めるドミニク・チェンさん。スマートフォンアプリの開発などを行う株式会社ディヴィデュアルの設立メンバーでもあり、新たな視覚共有アプリをまもなくリリースするというドミニクさんに、新津保さんが聞きたいこととは?

2. バランス感覚はどう培われたのですか?

ドミニク・チェン 

自分にバランス感覚が植え付けられたのは、フランスの教育によるところが大きい気がします。

Q.僕が写真で世の中と関わりが持てるかもしれないと思うようになったきっかけは、あるフランス人アーティストとの出会いだったんですね。彼は、ドット絵でドローイングの歴史をトレースする作品などをつくっていたのですが、彼やその周辺の人たちと交流していくなかでフリーウェアのソフトや、ネットを介した海外の研究者との共同作業など、興味深いものを色々と目にして、写真を巡る環境もこれから変わっていくんだと考えるようになりました。彼は非常にマニアックな人である反面、そこに陥らないところがあって、ドミニクさんと似ていました。そうした感覚はどうして培われたと思いますか?

ドミニク:フランスにいた頃は、オンラインゲームにハマり過ぎて、大学に行けなくなったりした戦友がたくさんいたんですが(笑)、そういう方向は少し違うかなと思っていて。いまはデジタル的なリアリティの中だけで生きていこうと思えば、結構できてしまいますよね。ただ、それらを受け取っているのは自分の身体の感覚器であるわけで、そこが主客反転してしまうと、感覚そのものがおかしくなってしまうんじゃないかと。オンラインゲームにしても、完全に向こう側に行ってしまうとそれは異質の体験になってしまい、いま自分が感じている楽しさみたいなものを研ぎ澄まされた感覚で味わえなくなってしまうんじゃないかと思うんです。

Q.僕の5才の娘はいまゲームが大好なのですが、没入し過ぎている時はとこっち側に連れて来ます(笑)。

ドミニク:要はバランス感覚みたいなものだと思うのですが、自分にそれが植え付けられたのは、フランスの教育システムによるところが大きい気がします。学校の授業で、クラス全員がゾンビに一人ずつ殺されていくという話を書いたことがあったんですが、そんな残酷な話を書くなと怒られることはなく、書き方の稚拙さや、物語の構造について指摘されたり、評価されたりします。要は、何を思うのかという部分は個人の自由なんですね。また、フランスの哲学の試験というのは、たとえば「戦争は悪か?」という一行の問題に対して、2時間通して答えを書いていくようなものなんです。もちろん、自分の意見を導くためのメソッドはあるのですが、どんな答えであろうと、どこまで自分に嘘をつかず、強度のあることを言えるかが何よりも重要。小学生の頃はファミコンやマンガ、写真や映画などのビジュアルに影響を受けたと言いましたが、高校・大学ぐらいの時期には、言葉の面白さというものに衝撃を受けました。

新津保建秀『\風景』 新津保建秀『\風景』 新津保建秀『\風景』

Q.僕が個人的に魅かれる写真家には、写真を専攻したからということで写真家になった人よりも、まったく別のことを経て写真に至った人の方が多いのですが、ドミニクさんの場合も、あらかじめあった器に自己を合わせていく感じでなく、その時々の選択が現在の作業へ自然に繋がっている気がしますね。

ドミニク:僕には常々、世界の豊穣さを感じたいという思いがあるんです。デジタルかアナログか、ビジュアルか言葉かということは、そのための経路にしか過ぎず、どちらも味わい深いものですし、驚嘆すべきことが世の中にはたくさんある。僕はこんな名前だし、国籍はフランスですが、文化的な影響は日本からのものが大きいし、さらに台湾やベトナムの血や文化も入っています。これは僕だけではなく、ハーフの人たちはみんな同じだと思うのですが、特定のコミュニティに対する帰属意識みたいなものが持ちにくいんですね。その中でどうにかバランスを保とうとするために、生々しさやリアリティみたいなものを追求しているところがあるのかもしれません。<続く>

インフォメーション

ドミニクさんが開発した視覚共有アプリ「Picsee」のダウンロードはこちらから。

もっと知りたい人は…

  • 新津保 建秀 

    新津保 建秀

    写真家

    映像、写真、フィールドレコーディングによる制作を行う写真家。近年の活動に、雑誌『思想地図β』誌上における、福島県およびチェルノブイリの取材、代官山ヒルサイドテラスと周辺地区のドキュメント《Hillside Scenery》などがある。著書に『\風景』(角川書店)、『Rugged TimeScape』(池上高志との共作、フォイル)、『Spring Ephemeral』(フォイル)など、関連書籍に『建築と写真の現在』(TNプローブ)、『MTMDF』(HAKUHODO DESIGN)などがある。

  • ドミニク・チェン 

    ドミニク・チェン

    株式会社ディヴィデュアル

    1981年東京生まれ。フランス国籍。博士(東京大学、学際情報学)。NPO法人コモンスフィア理事。株式会社ディヴィデュアル共同創業者。主な著書に『インターネットを生命化する〜プロクロニズムの思想と実践』(青土社、2013年)、『オープン化する創造の時代〜著作権を拡張するクリエイティブ・コモンズの方法論』(カドカワ・ミニッツブック、2013年)、『フリーカルチャーをつくるためのガイドブック〜クリエイティブ・コモンズによる創造の循環』(フィルムアート社、2012年)。