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大和田良

写真家

平野啓一郎

小説家

大和田良さんは、雑誌、広告媒体などで活動する傍ら、写真集や展覧会などでコンセプチュアルな作品を発表し、写真界の次世代を担う存在として期待されている、いま注目の写真家です。そんな彼が、「いま話を聞きたい人」として名前を挙げてくれたのは、京都大学在学中に『日蝕』で芥川賞を受賞し、その後も数々の注目作を世に送り出してきた小説家・平野啓一郎さん。実はこの平野さん、東川町国際写真フェスティバルで選考委員を務めるなど、写真への造詣が深いことでも知られているんです。そんな平野さんに、写真のことから小説のことまで、大和田さんが独自の視点でインタビューを行いました。

3. プロとしてやっていくって、どういうことですか?

平野啓一郎 

その本を読む人をそれまで形作っていたものが、強烈な読書体験によって変容していくということが大切だし、そういう作品を発表し続けられるということが、おそらくプロとしてやっていくということなんじゃないかなと。

Q.最近はカメラのツールとしての機能性が高まっていて、少しお金をかければプロとほぼ同じ画質で撮れてしまう時代になっています。プロとアマの間に技術や画質における面での差がなくなってきた時に、プロとしてどんなことが大切になってくると思いますか?

平野:その問題は文学にも共通することで、毎日たくさんの人がツイッターやブログを書き続けていますよね。とはいえ、そのなかでも小説というのはクオリティや体験の強度は全然違うものだと信じたいですし、小説家や写真家などのプロの作り手がいなくなって、日々膨大に素人が生み出すものだけで人が満たされていくかというと、そうは思えない。やはりハイクオリティなものを求めるということ自体はなくならないと思うんですね。わかりやすいところで言えば、写真にはプリントのクオリティというものがあるし、みんなが携帯で撮っている写真とは違う強度の体験を提供するという点では、大きな武器になりますよね。

平野啓一郎「葬送」(左)、「ドーン」(右)

Q. 「体験」というのは平野さんの中で重要なキーワードになっているんですね。

平野:例えば、最近のアメリカ文学で、メキシコからアメリカの国境を越えようとする人たちの苦難をテーマにした物語などがある。それをルポルタージュのように精密に調査して書く方が、社会を改善するためにはいいんじゃないかという考え方はある。でも、読んだ人がそれを知識として得ることと、それ自体がひとつの体験になっているということは、まったく違うことなんです。文学として描くということを考えた時に、その本を読む人をそれまで形作っていたものが、強烈な読書体験によって変容していくということが大切だし、それが芸術体験というものだと思うんです。そういう作品を発表し続けられるということが、おそらくプロとしてやっていくということなんじゃないかなと。即物的に言うなら、そこにどれだけお金を払ってくれる人がいるのかということですよね。また、基本的にアート表現には賛否両論あるものだと思いますが、例えば小説の場合、1万部売れて賛否が半々に分かれることと、10万部売れて半々に分かれることでは、全然意味が違う。10万人のうち5万人が良いと言っているならそっちを見ていれば良い気がするし、1万人のうち5000人がダメと言っているならそっちを気にしないといけないように感じる。賛否両論あること自体はいいのですが、その時に規模の問題を考える必要が出てくるんじゃないかなと思います。

Q.平野さんはどのくらいの規模の読者に作品を届けたいと思っていますか?

平野:内容によっては、大きなところに届かなくていいと思って書くものもありますが、例えば人間がどう生きるのかといった大きなことを考えた時に、それを読む人が日本の人口の0.01%しかいないみたいな状況はなんか虚しいというか。日本の人口が1億3000万人だとして、せめて0.1%くらいの人にはリーチしたいし、作品がある程度の影響力を持って、文学の外側にいる人にも届いてほしいとは思っています。<続く>

インフォメーション

平野啓一郎さんが現在『モーニング』で連載中の長篇小説『空白を満たしなさい』の単行本は講談社より11月刊行予定。 大和田良さんは現在、11月刊行を目指し、写真雑誌『ShINC.MAGAZINE』を編集中。

もっと知りたい人は…

  • 大和田良 

    大和田良

    写真家

    1978年仙台市生まれ。東京工芸大学大学院芸術学研究科メディアアート専攻修了。主な著書に『prism』(青幻舎)、『ノーツ オン フォトグラフィー』(リブロアルテ)、『FORM』(深水社)、『伝わる、写真。」(マイナビ)等。2011年、日本写真協会賞新人賞受賞。

  • 平野啓一郎 

    平野啓一郎

    小説家

    1975年愛知県生れ。京都大学法学部卒。1999年在学中に文芸誌「新潮」に投稿した『日蝕』により第120回芥川賞を受賞。以後、2002年発表の大長編『葬送』をはじめ、数々の作品を発表し、各国で翻訳紹介されている。著書は『滴り落ちる時計たちの波紋』、『決壊』、『ド-ン』、『かたちだけの愛』『モノローグ(エッセイ集)』、『ディアローグ(対談集)』など。