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大和田良

写真家

平野啓一郎

小説家

大和田良さんは、雑誌、広告媒体などで活動する傍ら、写真集や展覧会などでコンセプチュアルな作品を発表し、写真界の次世代を担う存在として期待されている、いま注目の写真家です。そんな彼が、「いま話を聞きたい人」として名前を挙げてくれたのは、京都大学在学中に『日蝕』で芥川賞を受賞し、その後も数々の注目作を世に送り出してきた小説家・平野啓一郎さん。実はこの平野さん、東川町国際写真フェスティバルで選考委員を務めるなど、写真への造詣が深いことでも知られているんです。そんな平野さんに、写真のことから小説のことまで、大和田さんが独自の視点でインタビューを行いました。

2. 小説と写真にはどんな違いがありますか?

平野啓一郎 

すべてを意図しなくても、ある一定量の情報が入ってしまうというのは、写真が小説と決定的に違うところだと思います。

Q.平野さんがやられている文学と写真の決定的な違いを挙げてもらうとしたら、どんなものがありますか?

平野:写真は、小説などと違って時間をかけずに見ることができるじゃないですか。例えば、小説だとひとつの作品に何日も費やして、その間に色々考えたりもするから、一回読むだけで好きになったり、深いところまで理解できることも多いと思いますが、写真の場合は、あまり何も考えずに写真集を一冊見終えることができる。写真だけではないですが、鑑賞時間が短いというのは、この時代においては決定的だと思うんですね。とにかくいまはあらゆるジャンルで余暇の時間の壮絶な奪い合いになっていますよね。そのなかで小説というのは、特に時間コストに対する報酬意識が、読者の中でものスゴく強い。先ほどの読みごたえの話じゃないですが、難解な現代アートの作品が目の前にあっても、3分間見てわからなければそれで終わりますが、小説でわけのわからないものを1000ページくらい書いたら、やっぱり読者は怒るんですよね。

大和田良「prism」 大和田良「World of Round」

Q.たしかに写真集の場合はすぐに全部見ることができてしまいますからね。

平野:その分、いかに簡単に通り過ぎられないものを作るかという問題はあると思います。また、すべてを意図しなくても、ある一定量の情報が入ってしまうというのは、写真が小説と決定的に違うところだと思います。例えば、震災後にアーティストが被災地をどう描くかという問題があった時に、小説であれば作家が書こうと思なければ入らない情報も、写真の場合は映ってしまう。震災以降は、日常の素晴らしさというものにフォーカスが当たったと思うんですね。その時に、なんてことのない日常を撮っていて、それまではどうでもいいと思っていた写真の中に、実はこれは重要なんじゃないかと思えるようになったものもあって。例えば、震災後の復興にあたって、街を元通りにするのか、新しく作り直すのという議論がよくありますが、個人的には新しくした方がいいと思っているんですね。いくらモニュメンタルなものだけを再現しても、結局日常というのは、いつも通っている道路にひびが入っていたとか、そうしたどうでもいいような細部が積み重なったものだと思うんです。写真というのは、そうした細部が映るものなんですよね。最近は、誰もが見ているようで、実はその写真家にしか見えていなかった風景が、高い技術で表現されているものはやはりいいなと感じるようになりました。

Q.写真が持つ特性や力は、この時代においてどう作用していると思いますか?

平野:僕は8ヶ月になる娘がいるんですが、子どもの写真を結構撮っているんですよ。すでに、自分が20歳になるまでに撮った写真よりも、まだ8ヶ月しか生きていない娘の写真の方が多いくらい(笑)。これだけ密に記録が行われていると、自分のアイデンティティというものが、写真や映像で埋め尽くされていっている気になるんです。自分自身や、自分が見たものをとにかく残したい、それを人に伝えたいという欲求が、いまの人は強いと思うんです。そこには、現代人の寄る辺のなさや、自分が存在しているという手応えが得にくいという時代背景があるんじゃないかなと。写真というのは、そういう部分に深くアクセスしているように感じます。また震災の話になりますが、家族を亡くしただけでなく、写真まで全部なくなったというのは、被災者のショックに追い打ちをかけたと思います。他方、いまはライフログが膨大になりすぎていて、その人が死んだ後に、残しておきたくない写真データなどをどうするのかという問題があって、そこはまだ真剣に話し合われていないような気がします。<続く>

インフォメーション

平野啓一郎さんが現在『モーニング』で連載中の長篇小説『空白を満たしなさい』の単行本は講談社より11月刊行予定。 大和田良さんは現在、11月刊行を目指し、写真雑誌『ShINC.MAGAZINE』を編集中。

もっと知りたい人は…

  • 大和田良 

    大和田良

    写真家

    1978年仙台市生まれ。東京工芸大学大学院芸術学研究科メディアアート専攻修了。主な著書に『prism』(青幻舎)、『ノーツ オン フォトグラフィー』(リブロアルテ)、『FORM』(深水社)、『伝わる、写真。」(マイナビ)等。2011年、日本写真協会賞新人賞受賞。

  • 平野啓一郎 

    平野啓一郎

    小説家

    1975年愛知県生れ。京都大学法学部卒。1999年在学中に文芸誌「新潮」に投稿した『日蝕』により第120回芥川賞を受賞。以後、2002年発表の大長編『葬送』をはじめ、数々の作品を発表し、各国で翻訳紹介されている。著書は『滴り落ちる時計たちの波紋』、『決壊』、『ド-ン』、『かたちだけの愛』『モノローグ(エッセイ集)』、『ディアローグ(対談集)』など。