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「問い」をカタチにするインタビューメディア

発想とカタチ

ファッションデザイナー/アーティスト・ヌケメさんが、
ミュージシャン・テンテンコさんに聞く、
「アイドル活動を終えて変わったこと」

今回インタビュアーとしてカンバセーションズに初登場してくれるのは、シュールなフレーズが刺繍されたキャップ「ヌケメ帽」や、ミシンの作動データにバグを生じさせる作品「グリッチ刺繍」をはじめ、ファッションをベースに、アート、テクノロジー、音楽などさまざまな分野と密接に関わりあいながら、多彩な活動を展開するヌケメさん。そんな彼がインタビュー相手に選んだのは、今年の7月に解散したアイドルグループBiSのメンバーとして活動をしてきたテンテンコさん。テンテンコさんとはBiS以前から面識があったというヌケメさんが、現在DJテンテンコ名義で音楽イベントなどへの出演を重ねている彼女の、アイドル時代には語られなかった知られざるバックグラウンドに迫ります。

ヌケメ
どんな青春時代を過ごしましたか?

テンテンコさんのBiSとしての活動を知る人は多いと思いますが、まずはそれ以前のお話から聞かせてください。

テンテンコ:生まれは北海道の釧路で、その後高校3年までは札幌で過ごしました。小学生の頃は北海道を転々としていたのですが、私立の中高一貫校に進み、この時期が人生で一番楽しかったですね(笑)。6年間同じ友達と過ごすことができたし、校舎も変わることがなかったので、環境の変化に左右されず、好きなことに没頭することができたんです。何にも縛られることなく友達とライブに行ったり、好きなものを貸し合ったりしていて、そのすべてが新鮮でした。また、「天井桟敷」など演劇の色んなことを教えてくれる現代文の先生や、一年間「源氏物語」しか教えない古典の先生など、学校の先生にも自分の好きなものを貫いている人が多くて、そうした環境の影響は大きかったと思います。キリスト教系の学校だったのですが、世界のさまざまな宗教を学ぶ授業などもとても楽しかったですね。

その辺りは大学で学ばれていたという民族学にもつながっていきそうですね。

テンテンコ:はい。大学進学を機に上京し、文学部で4年間民族学を学んだのですが、見世物小屋をはじめ、空間に関わる芸能について研究していました。大学2年生までは落語研究会にも所属していて、その後はバンドに入って高円寺などでライブをしていた時期もありました。大学を卒業してからは、面白い人たちが集まっていそうだと感じていた秋葉原の「ディアステージ」というライブバーで働くようになりました。そこで初めてアイドルというものをちゃんと知ることができ、色々なことがわかってきた頃に、BiSのオーディション情報がTwitterで流れてきて、運良く加入することができたんです。BiSに在籍していたのは1年余りで、私が加入してからちょうど400日後に解散しました。

BiS解散後はフリーで活動すると宣言し、DJテンテンコとしてイベントなどに出演していますよね。DJをするようになったきっかけは何だったんですか?

テンテンコ:以前にDJをやってみないかというお誘いがあったことがきっかけで、その時に初めてDJテンテンコと名乗ったんです。当時は、自分が本当に好きな曲をかけるというスタイルだったのですが、最近は自分で曲をつくりたいという欲求が強くなっていて、自分の曲を流して、マイクで歌うということをしています。まだひとりになってから1ヶ月程なので、毎回試しながらやっている段階ですが、最終的には自分がつくった音楽だけでやっていきたいと思っているんです。

ヌケメ
音楽への意識は変わりましたか?

テンテンコさんはBiS加入前からバンド活動もしていましたし、現在もこうして音楽を続けていますが、音楽に対する考え方はこれまでに色々変わってきているのですか?

テンテンコ:そうですね。BiSにいた頃は、誰かがつくった曲を私たちが歌って踊って、お客さんが盛り上がって、自分もさらに楽しくなるという感じでした。BiSのオーディションを受けた頃は、ダンスなんかまったくやったこともなく、むしろ苦手な分野だったんですが、歌はずっと好きだったし、最終的には、一度はこんなところで歌ってみたいと思っていた横浜アリーナで歌い切ることもできて、とても良い経験になりました。ただ、自分が好きな音楽というのは明確に私の中にあったし、BiSの後にまた別のグループに入るという選択肢はなく、次は自分でやるしかないんだなということはBiSの頃から薄々わかっていたところがありました。

音楽が本当に好きだからこそ、仕事として割り切るのではなく、100%良いと思えるものを自分で表現していきたいということですよね。それを自ら鼓舞しようとしているのかなということは、テンテンコさんの最近のブログからも感じました。

テンテンコ:いまの心境としては、「売れたい」とか「有名になりたい」ということよりも、自分がやりたいことを大切にしたいという思いが強いんです。BiSにいた頃は、まずは多くの人に見てもらわないと意味がないと思っていたし、しっかり影響力を持ちたいという意識がありました。もちろんいまもその気持ちがないわけではないんですが、それ以上にしっかりつくっていく時間を増やして制作に集中したいと思っています。極端な話、他の仕事をしながらでも音楽をつくっていきたいなと。

ヌケメ「グリッチ刺繍」 Photo: Dorita

本当ですか? でも、せっかくやるからにはやっぱり売れた方が面白いというのはありますよね。

テンテンコ:もちろんそうなんですけど、だからといって売れるものをつくりたいかというと、そういうことではないんです。やりたいことをやるということと、売れるものをつくるということはちょっと違うと思うし、両方を上手くできるほど器用な方ではないと思っています。やっぱりある程度有名になると、周りに色んな人たちがついてくるんですね。もちろんありがたい面もあるのですが、みなさんビジネスとしてやっているので、私だけ好きなことをやっていいというわけにはいかない。でも、私としては、自分のやりたいことは曲げたくないんです。

わかります。僕の場合は、売れるものをつくるというより、つくったものを売る方法を全力で考えたいと思っています。売れるものがつくれるほど器用ではないというのもありますが、売れるはずのないものが売れるということが面白いんですよね。

ヌケメ帽

ヌケメ
好きな音楽は何ですか?

テンテンコさんはこれまでどんな音楽を聴いてきたのですか?

テンテンコ:もともと父が音楽好きだったこともあって、実家に色んなレコードがありました。凄く変わったものがあるわけではなかったんですが、細野晴臣さんや戸川純さんのレコードがあって、子供の頃にそういうものを聴いて、良いなと思うようになりました。中学生の頃には、ライブやフェスなどにも足を運ぶようになり、もっと色々な音楽を聴きたいと思い、YouTubeやニコニコ動画などで探しまくりました。その中で電子音楽のパイオニアと言われるブルース・ハークの存在を知ってカッコ良いと思ったり、当時通っていた札幌の「ウィアード・メドル・レコード」というレコード屋さんにオススメされたザ・レジデンツなどに衝撃を受けたりしました。

テンテンコさんの音楽というのは、細野さんや戸川さんのようなメロディやコード、リズムが複雑で、転調もあるような音楽とはまったく違い、聴いていると脳みそがスーっと溶けていくような独特の気持ち良さがあります。やはりアンビエントやドローンなど、リズムやメロディが希薄な音楽に興味があるのですか?

テンテンコ:そうですね。私が好きになる音楽には、ちょっと暗い感じのものが多いみたいです(笑)。自分としてはアゲアゲのつもりでかけていたりするんですけど…。もちろん細野さんや戸川さんのようなしっかり聴く感じの音楽も好きなんですが、ただそこにあるだけで気持良くなるような音楽に惹かれるんです。あと、もともと私がDJに興味を持ったきっかけは根本敬さんなんです。実際のDJは見たことがないですが、DJプレイの音源を聴いて凄くカッコ良いと思ったんです。どんどん音楽がつながっていくから聴いていて面白くて、そういうところからDJに興味を持ち始めたので、いわゆるクラブDJとは入口が違うのだと思います。

普通DJというのは人の気分を高揚させるためにプレイしますし、ロックにしてもパンクにしても観客を煽るという要素があると思うんですが、テンテンコさんの場合は、そういう無理矢理でもアゲていこう! みたいな感じが一切ない(笑)。でも、家でボーっとしている時とかにも平常心のまま気持良く聴いていられそうだし、そういうどんな気分の時にでも聴ける音楽が個人的には好きです。テンテンコさんの音楽を例えるなら、自分の部屋で音楽を聴いている時に、外を宣伝カーが通っていくような時の体験に近くて、聴いている音楽と環境音が同時に聞こえてるような感じ。音の空間的な広がりを感じます。

テンテンコ:私は音楽制作の専門的な勉強もしていないし、本当に感覚でしかつくっていないんです。ただ、今回はこういうイメージにしようという大まかなテーマだけは決めていて、イベントに出る際には出演者の楽曲をひと通り聴いて、自分なりに合わせていくということをするようにしています。例えば、先日のイベントでは「宇宙旅行」をテーマに決め、「鉄腕アトム」の足音などをつくっていた大野松雄さんなど、自分なりに宇宙を感じさせる曲をかけて、歌を歌ったりしたのですが、今後もテーマはしっかりつくっていきたいなと考えています。

ヌケメ
アイドルと非アイドルの境界はどこですか?

現在はアイドルとしてではなく、アーティストとして活動されていると思いますが、テンテンコさんの中で、アイドルとそうではない人の境界線は明確にありますか?

テンテンコ:難しいですよね。基本的には、自分にどんな肩書きをつけられたところで私自身がやることは変わらないですし、曲をつくって歌えていればいいと思っています。ただ、あえて線を引くとしたら、自分で曲をつくっているかどうかというところが大きいのかなと思います。もちろん自分でつくっていてもアイドルとして活動している人もいるので一概には言えないですが、誰かがつくった音楽を与えられて、それを受け入れていくのか、自分でつくって発信していくのかというところかなと思います。

BiS『うりゃおい!!』(2014/avex trax)

与えられた立場や、お客さんからの受け入れられ方など、すべての面でアイドルであることを受け入れた上で何かを表現するということなんですかね。

テンテンコ:やはりアイドルでいる限り、窓口を広くして、色々なものを受け入れないといけないと思うんです。そういう私は、実は心の窓口がとても狭いんですが(笑)。でも、そういう意味では、少し特殊だったかもしれないけど、やっぱりBiSもアイドルだったと思います。ただ、一言にアイドルと言っても、自分にとっての心の拠り所的なアイドルというのは、みんなそれぞれ違いますよね。そう考えると誰もがアイドルになり得ると思うし、私もそういう存在にはなりたいと思います。

ヌケメバンド Photo: kaerugeko

テンテンコさんにはどうしても元アイドルというイメージが残っているので、今後もアイドルのように受け入れられていく部分はある程度避けられないのかなと感じるのですが、今後のスタンスはどう考えているんですか?

テンテンコ:握手会やチェキ撮影会など、いわゆるアイドル商法的なことはもうやらなくていいかなと思っています。こういうものは、お客さんからしたらアイドルと一緒に写真が撮れて、運営側からしたらCDを売ることができ、お互いにメリットがあるからこそ成り立っているものだと思いますが、どうしてもそこにはお金儲け的な側面があるじゃないですか。もちろんお金も大事なんですが、いま私は自主イベントの企画などもしているなかで、出演者さんのギャラや場所代など最低限必要なお金は、がんばればチケット代でまかなえると思っているし、さらにみんなの時間を削ってまで、そういうことはしなくてもいいのかなと思っています。

BiS『FiNAL DANCE / nerve』(2014/avex trax)

ヌケメ
今後はどうしていきたいですか?

僕は、BiSのひとりラジオの時からずっとテンテンコさんのつくるものに興味がありますし、ライブもとても面白いと思っているので、そうした方向を今後も伸ばしてほしいと思っています。BiS時代を知らない人の中にも、DJテンテンコを見て良いと思う人はたくさんいると思いますし、今後はそうした音楽性の部分をしっかり届けていけるといいですよね。

テンテンコ:私もそうしていきたいと思っているんです。ただ、私にDJをやってほしくて依頼してくださる方たちに対しては、やっていることがDJからだいぶ離れてしまっているので申し訳ない気持ちもあります…。私は自分の活動を説明する時に、BiSというアイドルグループにいて、いまはひとりでDJをさせてもらっていますと伝えるのですが、それを鵜呑みにされてしまうと困ってしまうところもあって…。すでに完全なDJイベントのようなところに呼ばれている仕事もあって、大丈夫かなと心配なんです。

せっかくフリーになったわけですし、道場破りじゃないですけど、どんどん自分をぶつけてくるしかないですよね。元アイドルということがあまり意識されなくなって、いまやろうとされている音楽表現や制作物に対してオファーが来るようになれば、溝はなくなるのかなという気もしますが、しばらくは自分がやりたいことと求められることの溝をどう埋めていくのかがテーマになるかもしれませんね。

テンテンコ:まだ深い溝がありますよね…。一回そこをはっきりさせないとダメだなと思っています。

これからインターネットを使って制作物を発表したり、音源を出すなどして、DJテンテンコがどんなものなのかを伝えていければ、そうした溝はなくなってくるんじゃないかと思います。あとは、大喜利ではないですが、与えられたオファーに対して、主旨から外れない範囲でいかに面白い答えを出していけるかということの繰り返しだと思うんですよね。僕はテンテンコさんに対して、その大喜利の答えの出し方の部分に凄く期待しています。時には、限られた時間の中で反射神経的に対応しないといけない時もあると思いますが、そこで力を発揮できるための筋肉みたいなものを、黙々と音楽をつくることによってつけておくのが大事なのかなと、自分のことに置き換えて想像したりしました。僕もバンドでライブをしたりするので、他人事だと思えなくて、毎回凄いなと思いながらパフォーマンスを見ています。

テンテンコ:そうですね。家でひとりで黙々とつくることは大好きです(笑)。まだ本当に始めたばかりで、BiSを終えてから人前でライブをした回数も数えるほどしかないですからね。今後はどんどん音楽をつくって、ネットなどを使いながら多くの人に届けていけたらいいなと思っています。


インタビューを終えて

『元々面識があって…』とさっくりまとまっていましたけど、つい最近までテンテンコさんと会ったことがあるということはすっかり忘れてました。4年前にお会いした時にはもちろん『テンテンコ』じゃなかったし、BiSの加入までも3年くらい空いていて、頭の中で全然繋がりませんでした。
BiSが解散した後、テンテンコさんに『会ったことありますよ』って教えてもらって、CULTIVATEの記録写真を見返したらたしかにそこに写っていて、それで一気に思い出すことができたんですけど、なんというか、記憶が逆流したような、いままでにしたことないタイプの不思議な体験でした。
DJや音楽については『感覚でしかない』とインタビュー中にもありましたけど、僕はその"感覚"に興味があるんだと思います。
テンテンコさんのDJもそうですが、オリジナル曲には特に、音が音楽になる直前の段階にある面白さみたいなものがあると思います。それは例えば、絵を描いている途中、色を全部塗ってしまう手前にある『なんかいまキレイだな』という瞬間に立ち止まれる感覚、そういう"このイイ感じ"を捕まえたまま完成させてしまえる感覚のようなことではないかな、と思ったりします。
全然違うのかもしれないですけど。どうでしょう?
BiSとしての活動を通して見せてくれた生き様の格好良さと、それによって生まれた熱狂は人生の財産だと思います。
でも、もし仮にBiSとしての活動がなかったとしても、テンテンコさんはいまみたいな音楽をつくったり、何かを表現したりしていたと思いますし、僕はたぶんその活動をどこかで知って興味を持ったと思います。
だから現在の活動というのは、4年前に会った時すでにテンテンコさんの内にあった衝動が形になったものだと思うのです。今回のインタビューを通して得られたその確信が、いまと、4年前と、BiSだった時を1本で繋いでくれるような気がしました。
忙しいなか取材に応じてくれたテンテンコさん、取材の機会をくれた上に僕のめちゃくちゃな質問を編集して文章にまとめてくれた原田さん、ありがとうございました。楽しかったです。今後ともどうぞよろしくお願いします。