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毛利悠子

美術家

坂田和實

古道具坂田

今回インタビュアーを務める毛利悠子さんは、独自の機械装置を用いたインスタレーション作品を得意とするアーティスト。先日開催されたアートフェア東京でも、若手現代美術家に贈られる「ベーコンプライズ2014」を受賞するなど、各方面から注目を集めている毛利さんがインタビュー相手に挙げてくれたのは、1973年に目白で「古道具坂田」をオープンし、世界各地の日用工芸品、美術品などを収集・販売し、2012年に渋谷・松濤美術館で開催された展覧会や、ご自身の著書などで広く知られている坂田和實さん。当代きっての審美眼を持つ坂田さんに、毛利さんが聞きたいこととは?

5. 自己表現をされていますか?

坂田和實 

やればやるほど「只」にはならない。そう考えると、逆にどんどん自己表現をしていくことしか道はないんじゃないかと思えてくるんです。

Q.坂田さんが選んでいる道具は、佇まいひとつとっても、かつてあったものとはまた違う魅力が表現されているように感じます。現代的な感覚で見ると、遊び心のあるハッカーたちが既存のシステムをハッキングしてしまう行為に近いんじゃないかと感じたりもするのですが、坂田さんにとってご自身のお仕事は自己表現と言えるんでしょうか?

坂田:自己表現というものをどう考えるかというのは、とても難しい問題ですよね。僕は、民藝運動から大きな影響を受けた人間なんですが、日本には千利休、柳宗悦というふたりの大天才がいて、彼らに影響を受けている人がこの世界にはとても多いんですね。でも、民藝から影響を受け、自分こそが真の民藝だと言う人がいたとしたら、それは民藝から一番遠い考え方なんじゃないかという気がするんですね。それは、柳宗悦が提唱していた自分の直感でモノを見るということや、「用の美」という概念から離れてしまう。民藝的な美を意識して表現していけばいくほど、それは土産品に近いものになってしまうのではないかと心配しています。

千葉県にある美術館「as it is」。 as it isでは10月5日までT氏個人コレクション展『my Foolish Heart』が開催中。

Q.では、やはりモノがモノとしてあるという状態こそが理想なんですか?

坂田:うちは千葉にある「as it is」という小さな美術館も運営しているんですが、この名前は、柳宗悦が世界工芸者会議というところで自分の美学を発表する時に書いた原稿に由来しています。原稿自体は日本語で書かれているのですが、その内容を英語一言で表現した「as it is」という言葉が、その原稿用紙に書きつけられていたそうです。僕はそれをたまたま雑誌で読んだんですが、柳宗悦の思想の中心にあったその言葉を使わせてもらうことにしたんです。日本語では「只」、禅の言葉だそうです。美しい/醜い、強い/弱いといった二元論の世界にこだわっている間は、本当の美しさは見つけられないと柳宗悦は言っていて、そういうものに拘らない世界でつくられたものこそが美しいと考えていたんです。

Q.坂田さんのお店や美術館のベースには、そうした考え方があるんですね。

坂田:とはいえ、as it isでは展示替えもよくしていますし、それを見ていた妻に、只そのままが良いと言っているのに、やっていることは自己表現じゃないかと言われてしまって(笑)。実際に、展示にしてもこの店にしても、これはここに置いた方が絶対に美しくなるといったことに非常にこだわっているんです。結局、やればやるほど「只」にはならない。「只」という仏教的な境地に到達するということは、生前の柳宗悦の願望でもあったんじゃないかと。そう考えると、逆にどんどん自己表現をしていくことしか道はないんじゃないかと思えてくるんです。例えば、華道家が最終的には投げ入れの一輪の花が最も美しいと感じるようになったり、踊り手が手の動きひとつですべてを表現できるようになるということがありますよね。そこまで抜け切れるのは、そこに至るまでの自己表現の積み重ねというものがあるからだと思うんです。<インタビュー終わり>

インフォメーション

坂田さんが運営する千葉県の美術館・as it isにて、T氏個人コレクション展『my Foolish Heart』が10月5日まで開催中。(金・土・日曜のみ開館)。7月19日〜9月28日まで開催される『札幌国際芸術祭 2014』、7月26日〜9月15日まで国際芸術センター青森で開催される『MEDIA/ART KITCHEN AOMORI ユーモアと遊びの政治学』に毛利さんが参加予定。

もっと知りたい人は…

  • 毛利悠子 

    毛利悠子

    美術家

    1980年神奈川県生まれ。日用品やジャンクと機械部品を解体・再構成した立体物を展示環境に寄り添わせることで、磁力や重力、光、温度など、目に見えない力をセンシングするインスタレーション作品を制作している。主な個展に「ソバージュ 都市の中の野生」(Art Center Ongoing、2013年)、「サーカス」(東京都現代美術館ブルームバーグ・パヴィリオン、2012年)、主なグループ展に「MEDIA ART/KITCHEN」(インドネシア国立美術館、ジャカルタ、2013年)、「アートと音楽 新たな共感覚をもとめて」(東京都現代美術館、2012年)など国内外多数。

  • 坂田和實 

    坂田和實

    古道具坂田

    1945年福岡県生れ。1973年、東京・目白に古道具屋を開く。以来年に数回、海外へ仕入の旅に出かけ、ヨーロッパ、アフリカ、朝鮮、日本、南米など、さまざまな国の品物を扱う。1994年、千葉県長生郡長南町に「museum as it is」を開館(設計=中村好文)。2012年、渋谷区立松濤美術館で「古道具、その行き先ー坂田和實の40年」展を開催。著書に『ひとりよがりのものさし』(新潮社)、共著に『骨董の眼利きがえらぶ ふだんづかいの器』『日本民藝館へいこう』(新潮社とんぼの本)。