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「問い」をカタチにするインタビューメディア

未知との出会い

アーティスト・松井えり菜さんが、
ブライダルファッションデザイナー・桂 由美さんに聞く、
「ウエディングドレスにこだわる理由」

今回でカンバセーションズには2回目の登場となるアーティストの松井えり菜さん。前回は世界的なバービーコレクターとして知られる関口泰宏さんにインタビューをした松井さんが、今回インタビュー相手として挙げてくれたのはブライダルファッションデザイナー、桂由美さん。日本におけるブライダルファッションデザイナーの草分けとして世界的に活躍する桂さんに、いま公私共にドレスに対して強い興味を示している松井さんが迫ります。

松井えり菜
ドレス作りの醍醐味は何ですか?

結婚式には、お花や演出などさまざまな要素がありますが、やっぱり式を最も華やかなものにする存在はウェディングドレスだと思うんです。そのなかでもあるブライダルイベントで初めて見た桂さんの作品は本当に輝いていたんです。例えば、私は現代アーティストなので、自分の描いた絵がどんなところに展示されるかを考えながら制作しているのですが、桂さんも自分のドレスが着られるロケーションなどは意識されますか?

桂:そうですね。私の場合は、結婚する人を最高に美しく見せたいという観点でドレスを作っています。やはり、ドレスを着る時には、どういうロケーションの下だと最も美しく見えるのかということを考えるべきだと思うので、まずはドレスを決めて、それから式場を選んだ方が良いと常々言っているんですね。この頃は早くから予約をしないと式場が取れないこともあって、場所を先に決めることが多くなっていますが、ドレスがはみ出してしまいそうなくらいバージンロードが狭くて短かったり、天井が低かったりするのは残念ですよね。だから、ドレスデザイナー何人かと一緒に、結婚式はまずはドレスありきということを伝えていく運動をしているんです。

桂さんは空間を感じながらドレスを制作されているということを以前に何かで読んで、とても共感できました。

桂:私はもともと演劇畑の出身で、中学から大学までの10年間、ドラマ作りに一生懸命取り組んでいたんですね。当時はまだテレビがない時代ですから、ドラマ好きの女の子がファッションをやろうと思った時に、すぐに繋がったのがブライダルだったんです。ブライダルには、結婚する人それぞれのストーリーやドラマがありますからね。私がドレスを作る時に一番はりきるのも、そういうストーリーを考えていくことなんです。

では、桂さんのドレスを着る方というのは、桂さんの劇場に出演させて頂くようなものなんですね!

桂:むしろ逆かもしれませんよ。私は、何よりもまず着る人のことを考えて作っているのですが、デザインをする段階では、誰が私のドレスを着るかはわからないので、こういう人に着てほしいということを想像するしかないんです。このドレスは大聖堂のようなところで着てほしいとか、海のほとりのチャペルならこんなドレスがいいとか、そういうことを思い描きながらデザインをしていて、それを現実の人たちが着てくれているということなんだと思います。

松井えり菜
なぜブライダルにこだわるのですか?

桂さんの作品はドレスだけではなく、ベールもとても素敵で釘付けになってしまいました。ティアラが要らないくらい作り込まれていますよね。

桂:昔はドレスというのは一着ずつ注文を受けて作っていたので、すべてがオートクチュールだったんです。既製服というものがなかったから、当然ベールも注文を受けた時に一緒に作っていました。ところが、いまは分業になっていて、ドレス屋はドレスばかり、ベール屋はベールばかりになっているんですけど、結局その方が安くあがるんです。例えば、生地を10m、100m、1000mそれぞれ仕入れるのでは単価は全然違うし、ベールばかり作っていた方が単価は安くなる。逆に私たちのようにすべて手作りでやっていると単価は高くなるのですが、ドレスとベールで違う花がついていたりするのは違和感がありますし、本来はこうあるべきだと思っているので、すべて作っているんです。

桂さんはブライダルへのこだわりというのも強いのですか?

桂:色々なファッションがあるなかでブライダルに特化するというのは、ビジネス的には損なことなんです。ウェディングドレスは一生に一度しか着ないものなので、いくらユミカツラのファンの方でも、シャネルのスーツのように何着も買うことはできないですよね。だから、有名になってビジネスを展開させていこうと思ったら、ブライダルを続けることは決して得なことではないけれど、それでもなぜ私がこの世界に特化しているのかというと、やはりそれは好きだということでしかないんです。常々私は「生涯現役」と言っているのですが、やはり好きな世界に自分を投入していると、それが長く続いていくのだと思っています。

桂さんは年齢を非公開にされていますが、それはなぜですか?

桂:その人が何歳だからこういうものが作れるということではないし、いつまでも少女っぽい人は少女っぽいですよね。アーティストやデザイナーに年齢は関係なく、もっと精神的な部分を見てほしい思うんです。アーティストやデザイナーはミステリアスな方が良いと思っているので、年齢を明かさなくてはいけない取材などはいつも断っていて、普段年齢を聞かれた時なども「ご想像にお任せします」と言ってるんですよ(笑)。だから、うちの社員も私の誕生日のことなんて忘れているし、誰もお祝いしてくれないんです(笑)。

松井えり菜
最近のブライダル業界はどうですか?

最近は、芸能人やモデルの方がプロデュースしたウェディングドレスもよく見かけますが、このような最近のブライダル業界の動きを桂さんはどう見ていらっしゃいますか?

桂:厳密に一着ずつ見ているわけではないですが、似かよった感じのものが多い気がするので、もう少し個性を出されるといいのになと思います。でも、例えば神田うのさんは、ブライダル業界に新しい風を吹き込んでくれたと思っています。特に初期のヒョウ柄のドレスはとてもインパクトがありました。着る人自身がモダンで個性が強い人ではないと似合わないでしょうが、いまは男性よりも女性の方が強い時代だし、こういうドレスを着たいと思う女性もいたのだと思います。

神田さんのドレスには神田さん本人の個性が反映されていますよね。

桂:それまでのブライダル業界では、個性の強さをそのまま出すことよりも、優しく見せるということを考えるのが普通でした。そこに着目したのだと思いますし、自分が結婚するとしたらこういうものを着たいと考えたんでしょうね。どうしても同じ業界にいると固定観念にとらわれてしまうところがあるので、その世界の外にある感覚を表現できるというのはいいことだと思います。

ユミカツラのドレスには、桂さんの気品やミステリアスさが反映されている気がします。私は、桂さんが魔法使いのように見えるんです。結婚式というのは女性にとってとても大事なイベントで、花嫁が主人公のドラマですよね。「シンデレラ」で魔法使いが現れてドレスを用意してくれて、その瞬間に普通の女の子がヒロインになるように、桂さんのドレスを着ることで魔法がかかるような感じがします!

桂:もしそうならとてもうれしいですし、ドレスによって女性が魔法のように綺麗になれたらといつも願っています。それで最近、日本の女性にもっとドレスを着て綺麗になってもらうことを目指して、太田光代さんや池田理代子さんたちと一緒に「around beauty club」という会を設立したんですよ。

私もぜひおじゃましたいです! …でも、そうそうたるメンバーなので、その会合を遠巻きにオペラグラスで見ることにします(笑)。ウエディングだけではなく、女性はもっと日常的にドレスを着るべきだなと本当に思います!

松井えり菜
インスピレーション源は何ですか?

私のパリの友人に、オートクチュールデザイナーをしているマウリツィオ・ガランテさんという方がいるんですね。マウリツィオさんは、忍者の鎖帷子をモチーフにした作品なども作っていて、日本からインスパイアされることも多いんですが、桂さんの作品にもヨーロッパのドレス文化と日本文化のDNAが混ざり合っている感じがします。

桂:最近私は友禅にこだわっていて、パリで発表し、販売も行っているんですよ。パリのお店はブライダルだけではなく、オートクチュールのお店なので、色んなことをやっているんです。パリには山ほどデザイナーがいるので、その中であえて私が何かをするなら、日本の伝統技術を活かしたものを作りたいと思い、友禅をやっているんです。

友禅のドレスにこんなフェザーがついているなんて斬新だし、パリジェンヌも好きそうですね! 桂さんは、スワロフスキーなどにしても現代的なものを使われていますし、素材に対するこだわりというのも見習わなきゃいけないなと思っています。伝統的でありながら、現代的でもあるというのが素晴らしいと感じるのですが、発想のもとにはどんなものがあるのですか?

桂:例えば、新しく開発された素材などに触れる機会がある時に、この素材をこう使ったらどうなるだろうとイメージを膨らませていくことは多いです。レンタルのドレスやプレタクチュールなどに関しては、接客をしている時や、ファッションショーでのモデルの反応などを参考にしながらデザインを考えていきます。これらはセールスのことを考えるという意味で大切なんですね。例えば、日本人はトレーンが長くゴージャスなドレスが好きですが、欧米だと結婚式の終わりにみんなでダンスをするので、踊りにくいデザインのドレスはなかなか売れない。マーケットというのはその国の習慣などによって変わってくるんですね。一方で、マーケットとは関係なく自分がやってみたいというのもあります。例えば、昨年LEDで光るドレスというものを発表したんですが、こういうものはたとえ売れなくても自分がやりたいことなんです。今年はこれをさらに発展させたものをシンガポールで発表する予定です。

オートクチュールというのは、人目を引いたり、華やかな気持ちにさせたり、既存服とは違う概念で作られていますよね。最近の現代アートはコンセプチュアルな作品が主流になっていますが、私の中には桂さんのドレスこそが現代アートだという印象があるし、その辺りに凄く惹かれているんだと思います。

桂:そういって頂けるとうれしいです。昨年LEDで光るドレスというものを発表したんですが、例えば、こういうものはたとえ売れなくても自分がやりたいことなんです。今年はこれをさらに発展させたものをシンガポールで発表する予定です。

このLEDのドレスなんかまさに現代アートと同じですね! 新作もとても楽しみにしています!


インタビューを終えて

今日のインタビューでは、一着のドレスを通して桂さんのクリエイティビティに触れることができ、とても感激しました!
『デザイナーはミステリアスでなければならない』。インタビュー中に最も感銘を受けた言葉です。
私も美術作家として、何かしらミステリアスな魅力を見つけられるように精進しようと思います!!