イラストレーター・黒田潔さんが、
コラムニスト/マンガ家・辛酸なめ子さんに聞く、「時代とともに変わるアイドルのあり方」
アイドルの変化について感じることはありますか?
僕が辛酸さんの文章を最初に読んだのは、たしか「サイゾー」なんですね。大学を出てイラストレーターになろうとしていた時期、「サイゾー」が好きでよく読んでいて、最初に仕事の売り込みに行った雑誌でもあるんです。当時そこで辛酸さんがアイドルのことをよく書いていて、視点が面白いなと思って読んでいたんです。辛酸さんは、子供の頃に好きだったアイドルとかはいたのですか?
辛酸:中学生の頃は南野陽子とかが好きでした。見た目もキレイですし、気が強そうというか自分を持っていそうな感じがしたんです。あまり歌が上手くないところも良かった。あと、中森明菜や新田恵利も好きで、当時は自分の見た目とかは考えずに、アイドルみたいになれたらいいなと妄想しながら聴いていましたね。
南野陽子とかの時代は、本人の意志なんて無視されている感じだったんじゃないかなと思うんです。よく当時のアイドルがベスト盤を出す時に、ファンに人気があった曲に対して「実はあの曲は好きじゃなかった」とコメントしているようなことも多かった気がするし、自分の意志と反してやらされていたことも多かったんだろうなと思ったりします。
辛酸:ピンク・レディーにしても、盲腸の手術の後にコンサートをして傷口が開いたという話がありましたね。苛酷な仕事で給料も安いし、日本の男性にエネルギーを与える聖母というような自覚がないと、なかなか務まらなかったんじゃないかなと思います。
僕も辛酸さんと同じ世代なので、見てきたアイドルもほぼ同じだと思いますが、小学生くらいの頃は、昨晩テレビに出ていたアイドルの話とかが学校で飛び交っているような時代でしたよね。いまのアイドルもたまに見たりするんですけど、アイドルを取り巻くメディアというのも最近は大きく変わってきていますよね。
辛酸:そうですね。いまはみんなツイッターやGoogle+なんかをチェックしていますよね。ネットがない時代のアイドルというのは、ふたつくらいメディアを押さえておけばスキャンダルが出ないという感じだったと思いますが、いまはソーシャルメディアなどもあって、ネットで情報がすぐに見られてしまうので、アイドルの神秘性やカリスマ性というのがなくなっちゃったような気はしますね。
最近のアイドルは、例えば、ももクロとかも踊りがちょっと変だったり、未完成だったりして、大丈夫かなと不安に感じてしまう要素があって、それが一緒に応援したくなるファン心理につながっているのかなと思ったりします。
辛酸:そうですね。ひと昔前の基準からするとあまりアイドルっぽくない感じはしますよね。これまでみたいにアイドルを崇めるというよりは、ヲタの人たちが上に立って、育てたり応援したりするという形が多い気がします。
どんな視点でアイドルを見ているのですか?
最近はAKBの総選挙とかがあったりして、競争がものスゴく苛酷じゃないですか。自分に対する評価が順位になって出てきたり、結果がよりダイレクトに求められていますよね。
辛酸:男性社会の考え方を持ち込んだ感じですよね。これがなければ「密告」とかもなかったんでしょうね(笑)。
当時はまだ自分が若かったから単純に背後が見えていなかっただけなのかもしれないですが、昔のアイドルは、マイナスの要素やダークなイメージってあまりなかった気がするんですよね。でも、ネットが普及するにつれて、そういうアイドルの負の部分も見えてくるようになりましたよね。
辛酸:ですよね。私は十数年くらい前にSPEEDが好きで、その後ブリトニー(・スピアーズ)とかにいったのですが、ブリトニーがおかしくなっちゃった頃からは、そういう背景も込みで受け入れないといけないなと思うようになりました。たとえ本人がおかしくなっても、その後に出てくるCDが良ければ安心みたいな。
基本的にファン視点でアイドルを見ているんですね。
辛酸:そうですね。最近のファンは、そういう背景も込みで見ているところがあるんだと思います。それがさらに進むと、男と会っていないかをチェックしたり、風紀委員みたいな感じになってきて、例えば声優さんのブログにクリスマスの食事の写真がアップされていると、そのソースを見て写真の日付をチェックするような人もいるみたいです。それが半分楽しみになっちゃっているじゃないですかね。一方で、昔みたいに妄想する楽しさみたいなものはなくなってしまったのかもしれない。あゆ(浜崎あゆみ)みたいに結婚して離婚してみたいなストーリーがあればいいんですけどね。
自分の意志は関係なく、人形のように扱われていた昔のアイドルとは違って、いまは自分の意見は言えるけど、同時にファンの意見も入りすぎてしまって、あまり守られている感じがなくて大変そうですよね。
辛酸:それで恋愛禁止なんて言われた日にはという感じですよね。つんく♂なんかは、アーユルヴェーダのドーシャのバランスが乱れるという理由で日蝕を恐れていて、「日蝕禁止」にしちゃいましたからね (笑)。それが常軌を逸しているとツイッターとかでも話題になりましたよね。でも、恋愛禁止より日蝕禁止の方がいいですよね(笑)。
なぜピンのアイドルは減ったのですか?
YouTubeとかで昔のアイドルの映像を見るのが好きなんですが、当時キラキラ見えていて刺激的だったものが、いま改めて見ると意外とスカスカだったりするんですよね(笑)。とはいえ、昔の中森明菜のようなエネルギーを放っているアイドルっていまもいるのかなと思ったりします。当時のように一人のアイドルにみんなが向かっていくような感じはなくなってきていますよね。例えば、昔だと宮沢りえとか周りの友達のほとんどが恋をしてしまうような存在がいましたよね。
辛酸:最近はなかなかそういう人はいないですよね。これだけいっぱいアイドルがいると、またすぐ別の子を好きになればいいやと思ってしまうのかもしれないですね。それで一人のアイドルというのが少なくなったのかもしれない。そういう意味では、最近だと声優さんなんかが、これまでのピンのアイドルに代わる存在になっている気がします。
たしかにそうですね。武道館を満員にしたり、テレビで異常に盛り上がったりしていて、昔のアイドル像を体現しているのは声優さんなのかもしれない。
辛酸:平野綾とか完全にアイドルですよね。声優さんはある意味二次元の世界にいるとも言えるから、その入りたくても入り込めない距離感みたいなものがいいんでしょうね。
声優さんは、アニメのキャラクターを引っ張っているところがあるから、素の人間性があまり出ないのがいいのかもしれないですね。韓国のアイドルとかが、何を喋っているかわからないけど可愛いみたいところと通じるところがあるのかも。あと、個人的に最近興味があるのは、アイドルそのものよりも、つんく♂や秋元康などのプロデューサーなんです。彼らの女性観や見てきたアイドル像みたいなものが、確実に投影されている感じがして面白い。たとえば、秋元康はおそらく若い頃にモテていなくて、逆につんく♂はモテてたんだろうなみたいな(笑)。歌詞の内容などにも露骨にそれが出ていますよね。
辛酸:秋元康は処女性にこだわっていますよね。NMB48にも「ヴァージニティ」という曲があって、これが結構良いんですよ。ヴァージンを守らなきゃみたいな内容なんですけど、突然「パパには言えない」みたいな歌詞が出てきて、そこで突然現実に戻されるんです。小学生のメンバーもいるから、急に「パパ」って言葉が出てくると覚めちゃうんですよね(笑)。でもそれすらも狙いなのかなって。
ソーシャルメディアをどのように活用していますか?
ところで、辛酸さんが文章を書くようになったきっかけは何だったのですか?
辛酸:結構早い段階でWeb日記を書いたりしていたんです。日本でもインターネットがつながり始めて、まだアクセスポイントもそんなにないくらいの時期に、IT関係の仕事をしている知り合いに薦められてホームページを作ったんですね。そこで「女・一人日記」というタイトルで日記を書き始めて。当時は個人情報保護という概念が薄かったから、普通に地元の北浦和の駅で◯◯さんに会って何をしたとか、◯◯さんが初体験をしたらしいとか、そういう話を実名で平気に書いていましたね。
その頃に比べると、最近はメディアもだいぶ変わってきましたよね。誰でもツイッターなどで簡単に発信できるようになったけど、同時に常に誰かに見られている感覚もある。僕はそういうことを考えてしまうところがあって、ツイッターとかをするのが苦手なんです。ツイッターやブログはその人のセンスやユーモアがスゴく出るものだから、興味がある人のものはチェックしているんですが、いざ自分で書こうとすると色々考えてしまうんです。「今日も良い絵が描けなかった」とか「なかなか筋肉痛が取れない」とかネガティブなことを書きがちみたいで、すぐ周りの人に心配されてしまったりして(笑)。
辛酸:ネットって念とかが増幅してしまいますよね。以前にある男性のネガティブなつぶやきだけを集めた本が出ましたよね。その人は彼女も仕事もなくて、「彼女がいるやつ全員爆発しろ」とか「バイト先の女の子のお団子ヘアを食べたい」とか、色んな妄想をつぶやいていたんですけど、そこまで極められればいいですよね。私は、悩みとかネガティブな内容をツイッターに書いたりすることが、恋愛離れにもつながっている気がしているんです。普通だったら彼女や彼氏に話すことをツイッターに書いて発散して満足している人は多いと思うし、ソーシャルメディアは人間関係に変化をもたらしていますよね。一方でFacebookではみんな良いことしか言わないみたいで、子供の写真とかレストランに行った時の料理の写真とか、表層的に幸せな写真しか見せていない人が多くて、それを見て自分の生活に劣等感を感じてしまう人もいるみたいですね。
辛酸さん自身はソーシャルメディアをどのように使っているんですか?
辛酸:ツイッターに思いついたことを書いたりしていますが、誰もフォローはしていないし、あまり積極的には使っていないですね。例えば、台風が来た時とかに情報を得るために使ったりするくらいです。あと、たまにダライ・ラマのツイートを見たりします。芸能情報のサイトとかを結構見るので、それを見た後に魂を浄化するために見たりするのですが、その時間は俗世をちょっと忘れることができます。魂の成長とかについて書いているから神聖な気分になれるし、英語の勉強にもなるんですよ。
ダライ・ラマとヤンキーの共通点は何ですか?
今日はアイドルの話を中心にしてきましたが、アイドル以外で興味のあるテーマはありますか?
辛酸:私は埼玉出身なんですが、地元ではヤンキーが一番強くて、学生の時もカッコ良い人や可愛い子はみんなヤンキーのグループに入っていたんです。小学生なのに女番長がいるような土地柄で、当時はマンガの「ホットロード」なんかも流行っていて、ヤンキー雑誌も出ていたから私も憧れはあったんです。とはいえ、運動もできなかったし、ヤンキーになるだけの気力もなかったんですけど、いまもヤンキー文化への憧れからの流れでEXILEを聴いたりしています。最近だと、関東連合の話とかにも興味があって色々検索していますね。知り合いが関東連合の人にインタビューした時に、「カッコ良いヤツはいつも悪いんだよ」って言われたと話していましたね。
たしかに僕の中学とかでも不良やヤンキーの人はスゴくモテていて、クラスの中心的な存在でしたね。辛酸さんは、アイドルやヤンキー文化などに興味を持つ一方で、先ほどのダライ・ラマの話など宗教やスピリチュアルな方面も掘り下げていますよね。普通何かを掘り下げていくと、ひとつのものに加担してしまうところがあると思うんですが、辛酸さんはそのバランスや距離感を取るのがうまいような気がします。
辛酸:聖と俗じゃないですが、両方を取り入れていきたいなとは思っています。せっかく人間として生まれたからには、両方を知りたいという思いがあるんです。去年、ダライ・ラマが大震災のための法要で来日された時に私もイベントに行ったんですね。最初にダライ・ラマがお経を読んでいる時は雨が降っていたのですが、彼が外に出ると急に雨が止んで。やっぱり聖人のパワーは違うんだなと感じました。
共通しているのは、強いパワーやエネルギーのようなものに惹かれているところなのかもしれないですね。僕がアイドルを好きだったのも、強い力に惹かれてもっと知りたいと思ったり、自分に欠けているものを補いたいという気持ちがあったからなんだと思います。
辛酸:そうですね。ヤンキーとはちょっと違いますが、「ビッグダディ」とかも見ちゃうんですよね。あの生命力がスゴくたくましいなと思って。一方で、一般参賀とかに行くとロイヤルパワーみたいなものを感じるし、結局はそういう強いエネルギーに惹かれているところがあるんだと思います。
インタビューを終えて
自分にはないものや、強いエネルギーに惹かれるというのは、僕がアイドルを好きだった理由ともつながっていて、その辺は共通しているように思いました。いま僕は絵を描いていて、辛酸さんは文章などを書いていて、お互いに自分のエネルギーを向ける矛先がハッキリしていると思いますが、だからこそ辛酸さんが話していた聖と俗のバランスじゃないですが、変な気や邪気というものに対して敏感に考えていった方がいいんだろうなということを、話を聞きながら感じたりもしましたね