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鹿野 護

映像作家
アートディレクター

小川洋子

小説家

今回インタビュアーになる鹿野 護さんは、ヴィジュアルデザインスタジオWOWに所属し、さまざまな映像やインターフェースデザインを手がける傍ら、サイト「未来派図画工作」や展覧会などにおいて自らの作品を発表しているトップクリエイター。そんな彼がインタビューするのは、91年に『妊娠カレンダー』で芥川賞を受賞し、その後も『博士の愛した数式』や『薬指の標本』など数々のヒット作を世に送り出し、つい先日12年ぶりとなる書き下ろし長編小説『ことり』を発表した小川洋子さん。「映像」「言葉」「物語」「科学」「死」などさまざまなキーワードが飛び出す非常に刺激的な対話になりました。

5. 作品と作家はどう関係しているのですか?

小川洋子 

作者や出版社の都合を超越して、この作品はこう書かれたがっていたんだなと感じることはあります。作品が生まれるには何か必然があって、それを与えたのは作者だけじゃないんですよね。

Q.小川さんの小説は、物語の流れとディテールの描写のバランスがスゴく心地良く感じられます。そういうバランスは意識されていますか?

小川:それは持って生まれたリズムみたいなものなんだと思います。ただ、例えば締切が近いとか、体力的にくたびれているとか、こちら側の世界の事情には左右されないないように気をつけています。物語の中の登場人物には彼らの事情があるので(笑)。これは作家という仕事のありがたいところだと思うのですが、自分が本当に合わせなくてはいけないのは、登場人物の都合だけなんです。

Q.登場人物たちのリズムが、その物語のリズムになっているんですね。

小川:そうですね。『ことり』にしてもお兄さんと小父さんの間には、淡々とした独特のリズムがあるんですよね。例えば、これはチェスの世界の時間の流れ方とは違うし、自分の書きたい世界ごとにリズムやスピードというのがあって、それに合わせていく感じです。

Q.例えば、締切が近いというのは、物理的に最も大きなこちら側の事情で(笑)、僕もそれによって作品の制作に影響が出ることがあります。小川さんは、締切に対してはどう考えていますか?

小川:締切というのもなかなか良い働きをしてくれるんですよ(笑)。次にどうしたらいいかわからない時に、締め切りが迫ってくるとどうしても焦りますよね。そういう時は、登場人物たちに「助けてくれよ」という感じで問いかけるんです(笑)。要は、より集中していま書いている小説の世界に没頭して、耳を澄ませて、目を見開くということなんです。例えば、書き下ろしの小説と、季刊誌に3ヶ月おきのペースで書いた小説というのは、本になった時にやっぱり違うし、それがこの作品が持っていた巡り合わせだったんだなと感じることはよくありますね。

鹿野 護「Hotel Gadget」 鹿野 護「Poeple Forest」

Q.作品の運命は作者とはまた違うところにあるんですね。

小川:作者が書きやすいやり方とか、出版社の都合とかを超越して、この作品はこう書かれたがっていたんだなと感じることはあります。作品が生まれるには何か必然があって、それを与えたのは作者だけじゃないんですよね。『ことり』にしても、メジロの鳴き合わせ会のことを知ったのは偶然の力。その偶然を見過ごさないようにしたのは自分だけど、自分以外の力を借りないと書けなかったと思う方が気分としてもいいんですよね。

Q.作品の支配者ではなく、そこに居合わせて見届けるという感覚なのかもしれないですね。

小川:そうですね。私の小説には、誰にも認められずに世界の淵から落っこちそうなところにひっそり潜んでいる人に、ある事情で偶然出会うというものが多いんですね。彼らは、発したくも発せられなかった大事な言葉を抱えたまま無言で死んでいくのですが、その無言に耳を傾ける誰かがそばにいたはずだと。その人が無事に一生を終えて、あっちの世界に行くのを見届けるのが語り手であり、作家なんです。<インタビュー終わり>

インフォメーション

書き下ろし長編小説としては12年ぶりとなる小川洋子さんの新刊『ことり』は朝日新聞出版より発売中。

もっと知りたい人は…

  • 鹿野 護 

    鹿野 護

    映像作家
    アートディレクター

    WOWアートディレクター。プログラミングを用いた映像表現に取り組み、コマーシャル映像からソフトウェア開発まで様々な分野のビジュアルデザインを手がける。これまでV&A博物館(英)やメゾン・エ・オブジェ(仏)への出展など、インスタレーション作品を制作。近年では地域に主軸をおいたプロジェクトにも積極的に参加している。ウェブサイト「未来派図画工作」主宰。著書「Quartz Composer Book」。

  • 小川洋子 

    小川洋子

    小説家

    1962年生まれ。早稲田大学第一文学部文芸学科卒業。88年「揚羽蝶が壊れる時」で海燕新人文学賞を受賞。91年「妊娠カレンダー」で芥川賞、2004年『博士の愛した数式』で本屋大賞と読売文学賞、『ブラフマンの埋葬』で泉鏡花文学賞、2006年『ミーナの行進』で谷崎潤一郎賞受賞。作品に『完璧な病室』『アンネ・フランクの記憶』『沈黙博物館』『貴婦人Aの蘇生』『犬のしっぽを撫でながら』『物語の役割』『科学の扉をノックする』『原稿零枚日記』『人質の朗読会』『最果てアーケード』など多数。