MENUCLOSE

「問い」をカタチにするインタビューメディア

暮らしの更新

「greenz.jp」編集長・兼松佳宏さんが、
ランドスケーププロダクツ代表・中原慎一郎さんに聞く、
「面白いコミュニティのつくられ方」

今回インタビュアーとして登場するのは、「あなたの暮らしと世界を変えるグッドアイデア」を紹介するウェブマガジン「greenz.jp」編集長の兼松佳宏さん。先日出版された書籍「ソーシャルデザイン」でも大きな注目を集めた兼松さんがインタビュー相手として選んでくれたのは、インテリアショップ「Playmountain」や、喫茶店「Tas Yard」などを運営し、住宅や店舗、オフィスなどのデザインも手がける「ランドスケーププロダクツ」の代表、中原慎一郎さん。近年は故郷・鹿児島でも精力的に活動し、異色の鹿児島ガイド本「ぼくの鹿児島案内」などの出版も手がけている中原さんに、兼松さんが聞いてみたいこととは?

兼松佳宏
日本の未来は素敵だと思いますか?

「greenz.jp」をスタートした2006年頃は、社会起業家のような人たちは、ちょっと変わり者のように扱われていたところがあったんですね。でも、最近は憧れの職業になりつつあるように感じています。彼らが向き合っているのは、政治や環境といった大きな問題だけではなくて、それぞれの身近なところにある自分にとっての問題で、『こういう世界になったら良いよね』ということを思い描きながら活動をしている人が多い。ソーシャルメディアの普及もあり、小さな活動が共感の輪に乗ってどんどん広がっていきます。僕にとってはこれこそ新しい時代の芽であり、大きな希望を感じています。一方で、マスメディアでは日本の未来に対して悲観的な論調も多いですよね。そこでまず、「日本の未来についてどう思いますか?」ということから伺いたいと思っています。

中原:将来に関しては、基本楽観的なので(笑)、良くなるだろうとしか思っていないというか、そう思って色んな活動をしています。社会全体がどこまで良くなるのかはわからないし、同時にすべてが良くなっていくというのはなかなか難しいと思うので、まずは自分の身近なところから良くしていけば、それが連鎖していくんじゃないかという考え方ですね。現時点で言うと、僕にとってはそれが南九州の話になるので、東京からではなく、南の方から、日本全国どこでも取り入れられるようなことを提案していきたいなと思っています。とにかく僕は、自分の周りを楽しくすることがスゴく好きなんですよ。もちろん、楽しくするために苦労もするんですけど、それ自体も楽しくできるようなデザインをしようと心がけています。

「日本=自分の周り」ということですね。スゴく共感します。素晴らしいなと思うのは、プレイマウンテンから始まり、Tas YardやCHIGO、最近では鹿児島での動きなど、中原さんのプロジェクトに関わった若い世代がどんどん巣立ち、コミュニティが広がっているところです。

中原:そうですね。それも鹿児島で活動を始めてから実感するようになりました。東京だと、あくまでも「雇う」「雇われる」の関係なんですけど、鹿児島に行くと、自分が思うことに対して人が自然と集まってきてくれて、得意な人が得意なことをやっていくという良い連鎖ができていくんですね。そこには土地柄みたいなものもあると思いますが、いまこのタイミングに、こういうことに敏感に反応する若い子が増えている気はします。良い意味で真似ができる子たちだし、お互いにリスペクトしながら次々に新しいことを考えて、実践するという土壌ができつつあるように思います。

具体的には鹿児島でどんな動きが起きているのですか?

中原:お店などを中心に若い作り手たちがつながり始めています。彼らが地域のデザインや工藝について考え始めて、僕らが始めたクラフトフェアを自主的に運営するようになりました。また、僕らが以前作った喫茶店みたいなものをはじめ、みんながコミュニケーションできる場が鹿児島にも増えていて、そこから色んなコミュニティが生まれているのがよくわかるし、さらに枝葉分かれしていくような期待感がありますね。それはやはりソーシャルメディアなどの力が大きいのかなと。これまでは雑誌など東京から送られて来るものを見ていただけだったけど、いまはネットでリアルタイムにすべて確認できるから地域差がなくなっているし、自分の働き方や暮らしぶりに変化が現れている人も多い。鹿児島の人たちが「自分たちの方が豊かなんだ」と実感できるようになってきているんです。東京というのは、色んなものが流通される市場として大事な場所ですが、震災によって実はすべて地方のもので成り立っているという脆弱性も見えましたからね。

兼松佳宏
どんな気持ちで地元に関わっていますか?

震災以降、「コミュニティ」という言葉がよく使われるようになり、その重要性が語られるようになりましたが、中原さんは以前からご自身の著作などで「コミュニティ」ということについて言及されていますよね。

中原:その本(『僕らのランドスケープ』)の中では、「コミュニティ」というものを、規模の大小は関係なく、自立している人間同士の集まりで、それぞれの役割を自覚しながら、お互いが心地良くなれる関係性といったイメージで書きました。実際に面白いコミュニティというのはそうやって作られていくということを実体験してきたところがあったし、自分が田舎育ちだからこそそういうコミュニティ観が備わっているのかなということを、独立してからより考えるようになりましたね。海外などでも感じることですが、最近はそういうことを意識しながら、実践的に形にしようとしている人たちが多いですよね。そこから色々学ばせてもらいながら、自分の地域だったらどのやり方が当てはまるかなと考えたり、自分たちの会社や友達でやれる規模で実践している感じです。

鹿児島で開催したイベント「GOOD NEIGHBORS JAMBOREE」。

中原さんの出身地である鹿児島での活動には、どんな気持ちで関わっていますか? 僕は秋田出身なのですが、いつか「故郷に錦を飾りたい」という思いが漠然とあるような気がします。

中原:実はあまりそういうものではないんですよね。自分がそれをやりたいかやりたくないかということがまずは重要で、自分がやった方が楽しくなるんじゃないかという思いから始めていたりするので。だから、特に鹿児島に限定はしていないし、実際に最近は九州全体のネットワークも強まっていて、福岡など他県の仕事も増えていますね。

今回の取材場所としても使わせて頂いた千駄ヶ谷の「Tas Yard」。
今回の取材場所としても使わせて頂いた千駄ヶ谷の「Tas Yard」。
鹿児島のスペシャルティコーヒー専門店「ヴォアラ珈琲」の豆が使われているコーヒースタンド「BE A GOOD NEIGHBOR coffee kiosk」。

.僕は大学の時に上京したのですが、とにかく秋田を出たくて「とりあえず東京」という感じでした。いまでこそ素敵な活動が秋田にも生まれつつありますが、当時の僕には他の選択肢がなかったんです。いま鹿児島にいる若い人たちはいかがでしょうか?

中原:自分でどこまで認識しているかは別にして、みんな(地元を)好きだと思います。これまではそれをアピールするということまでは考えていなかった人たちが多かったんですが、最近は少しずつ変わってきているなと感じます。僕も若い頃は兼松さんと同じような意識で東京に出てきたのですが、いまの子たちは(東京に)出てこないですからね。鹿児島でお店を始めたくらいの時期にちょうど悩んでいた若い子たちが、僕らの活動を見て、鹿児島で自分のお店を開いたりしているんですね。自分たちの小さな活動がちょっとずつ注目されて、若い人たちが地元を選択してくれるというのはうれしいことです。僕らがやっていることを見て、自分たちだったらこれができそうかなと思い浮かべることができたんじゃないかなと思っています。

一昔前まで、極端に言えば、上京した後に地元に戻る=「夢破れて都落ち」のような、あまりポジティブではないイメージがあったように思います。でも、最近は僕の周りも含めて前向きに地元に戻る人も増えていますね。出戻り組がまた新しい風を吹き込んで、どんどん面白くなっているように思います。

中原:そうですよね。先ほどのコミュニティの話じゃないですが、地元だと自分の役割みたいなものを実感できると思うんですね。東京にいると、どうしても競争社会のなかに降り立つという感覚になってしまいますよね。僕らもそれをなくしたいから喫茶店などを作って、街の役割を背負っていきたいという思いがあるんです。自分がやっているお店をすべての世代に利用してもらうのはなかなか難しいけど、集まってきてくれる人たちに対しては、自分の役割みたいなものをちゃんと感じることができますからね。

兼松佳宏
「ソーシャルデザイン」には何が必要ですか?

中原さんがランドスケーププロダクツを始めてからすでに十数年経ちますが、最近変わってきている部分などはありますか?

中原:変化は色々あると思います。自分の年齢のせいもあると思いますが、起業してがむしゃらにやっていた時から、リーマンショックや震災など色々な社会的な出来事もあるなかで、いくつか節目のようなものはあったと思います。社会というものをどのくらいの範囲でとらえるかはさまざまですが、近所や隣人のためという意識も含めてやっていきたいなと思うようにはなりましたね。特に強い使命感があるわけではなく、こうした方が自分も楽しくなるからということなんですが、自分たちのお店などに関しても、その辺の意識はだいぶ変わってきたところですね。

モノを買う側としての生活者も変わってきているように思います。ただ何となく話題のものを買っていれば満足できた時代が終わって、流されずに納得いくものを選ぶ。自分にとっての大事なものを改めて見つめ始めているように思います。

中原:そうですよね。そういうなかで、いま日本人もコミュニティのことを考え始めているように感じます。最近、当時適当につけた「ランドスケーププロダクツ」という社名についてよく考えるようになったんですね。僕らの活動のベースには、自分の周りの景色をまず良くしたいという思いがあるんです。それは目に見える景色もそうだし、全体の空気感や雰囲気なども含めて良くしていくための集団なんだということは最近特に思いますね。そのために「デザイン」という方法を使うこともあるし、場合によっては単純に人と人の間に入っていく役割を担うこともあるという感じです。

兼松さんが編集長を務める「greenz.jp」では、社会の課題を解決するさまざまなグッドアイデアが紹介されている。
2012年1月に出版されたグリーンズ初の書籍『ソーシャルデザイン』。

ある本屋さんでは専門の棚が設置されるなど、「ソーシャルデザイン」というキーワードが注目されています。その言葉についてどう思われますか?

中原:僕自身の話をすると、「ソーシャルをデザインする」というよりは、「ソーシャルがデザインを利用できる」という感覚が好きなんだと思います。自分が考えるソーシャルにいる人たちが、いかにデザインを利用できるかという考え方です。「ここはデザインという手段に頼った方がいいかどうか?」という判断が自然にできる環境や空気感が作れるといいなと。地方に行って実感したのは、デザインだけですべては解決できないんだということなんですね。むしろデザイン力がある人ほど警戒されたりする(笑)。一緒に顔を付き合わせて色んな話し合いに参加することが大事だったり、本当にここに根付く気があるかどうかという部分が優先されたりするんです。もちろん、興味を持って寄ってきてくれる人たちもいて、そういう理解者のような人たちとまずは実績を作っていくことが大切。そういう人たちと、もともとそこにあったものをいかにデザインによって再編集していけるかということが鍵なんだと思います。

兼松佳宏
価値とお金の関係をどう考えていますか?

「もともとあったものを再編集する」という話が出ましたが、そういう意味でも鹿児島のガイドブックは素晴らしかったですね。

中原:この本は、ぼくらの趣旨を理解してくれる人たちの中からスポンサーを募ったんですね。少人数で作っている本なので、そんなに大きな出費はないのですが、印刷費や諸経費をどのくらいずつ払えばペイできるのかということを理解してもらった上で、この本を大切だと思ってくれる人たちにスポンサードしてもらうという献金的な考え方ですね。だから「自分も仲間になりたい」と思ってもらえるかどうかが大切なので、関わってくれる人たちがみんな主体者になれるようにしたかったんです。もちろん利益が出るということも大切で、たとえば、この本は卸価格を低く設定しているんですね。そうすると利益が1割の本に比べて利益が残るから、みんな一生懸命売ったり仕入れたりしてくれる。また、スポンサーになってくれた人たちには、赤字が黒字に転じてからはその利益を還元していくという仕組みを目指しています。出版して終わりじゃなくて、折り返し地点からまた面白いことが始まるみたいな感覚ですね。

(左)岡本 仁「ぼくの鹿児島案内」、(右)岡本 仁「続・ぼくの鹿児島案内」(ともにランドスケーププロダクツ)

それこそ資本主義の次のステージかもしれませんね。最近だと、クラウドファンディングのように、あるプロジェクトを応援したい人から先にお金を集めてものを作るというやり方もありますし、多くの人には価値を感じられなくても、価値がわかる100人がお金を支払うことで、特定の生産者を支えることもできるかもしれない。一方で、いまは富裕層だけが良いものを買うことができ、お金が潤沢にない人たちはそういうものに触れる機会すらあまりないという現実もあります。言うなら「目利き」の格差が広がっているというか。僕自身「今は買えずとも、いつか手に入れたい!」という思いで、いろんなお店に出かけたりしますが、中原さんは、若い人たちでもちゃんと手のかかったものに接したり、気に入ったものを買えるようになるためにはどうすればいいと思いますか?

中原:少しでも多くの人が伝える能力を持つということが重要だと思います。例えば、美味しいものを美味しく伝えられる人もいれば、ただ「美味しかった」としか言えない人もいますよね。何度でも同じ説明ができて、それを食べたくさせるような能力というのはあって、それを面と向かって人間的な雰囲気も含めて伝えられる人もいれば、普段はおとなしくも文章で表現できる人もいる。そういうことが上手に伝えられる人とモノが良いタイミングで出会うことが幸せだと思うし、僕自身もそうありたいなと思っています。

価値を発見するためのストーリー作りが大切なんですね。価値を見つけることができるようになると、自分自身の価値も高まっていくのかもしれません。いま感じているのは、価値観が相対化すればするほど、極端な話、定価というものが揺らいでいくのではないか? ということです。例えば、スゴい技を持ったサーファーが作ったお米だったら、サーファーの人たちからしたら「どうせならあの人からお米を買おう」と思うかもしれないし、逆にサーフィンをやっていない人からしたら「?」だったりする。価格とは違うところに価値が生まれているのも面白い現象だなと思います。

中原:たしかにそうですね。そういえば以前にアメリカで展示会をした時に、こっちから上代を言ったら怒られたんですね。「お前はオレが家賃をいくら払っているのか知っているのか?」と。「この通りとあの通りでは家賃が違っていて、背負っているリスクも違うんだから、上代は自分たちで決める」と言うんです。こっちが買い取るんだから、後は好きにさせろというわけですよね。そうしてくれる方がこっちとしても気が楽だし、もちろん限度というのはあるんでしょうけど、要は自分で責任を持つということですよね。自分たちの経済力で乗り越えられるギリギリのところで、リスクを背負って実践してみるというのは大事なことですよね。

兼松佳宏
これからどんなものを作っていきたいですか?

中原さんにとって「居心地の良い街」って何ですか?

中原:僕は、居心地の良い街よりも、居心地を良くしたくなる街が好きなんです(笑)。もともと居心地が良い場所に行くのは苦手で、自分が行ったらいけないような感じがする(笑)。成熟している街にはあまり興味がなくて、自分が入り込んで何かできるような所が好きなんです。あまり面白くない街の方がやりがいがあるし、どんな田舎に行ってもそこで面白いものを見つけられる自信はある。そういうものはそこら中に転がってるんですよ。

ランドスケーププロダクツが手がけるインテリアショップ「Playmountain」。

そういう意味ではこれからも旅を続けていく感じなんですね。

中原:そうですね。デスクの前で考えているのが苦手なので、常に動きながら考えています。集中力がないというのもあるのですが、悶々としているのがスゴくイヤで、なんでも即決したいし、最初のひらめきや直感を大切にしたいんです。何をやるにしても、完成されすぎたものはあまり作りたくないというのがあって、それよりも何か変化のきっかけになるものができればと思っています。例えば、自分が心地良いと思うグラスがあって、それに共感してくれる人が出てくると、今度その人がまた別のグラスを選ぶ時に、そのグラスに似たものを探すかもしれないし、逆に全然反対のものを探すかもしれない。どちらにしても、そういう基準になるようなものを見つけたいし、作りたいと思っています。

「BE A GOOD NEIGHBOR coffee kiosk」

誰かにとっての「原体験」を作っているような感じ。

中原:そうですね。いつも僕が最初に出すプランというのは、完璧じゃないんです。いくら僕らが適当に都合の良いことをクライアントに言っても、本人たちは何も変わらないですよね。でも、最終的に変化するのはクライアント自身なわけで、そのためにやっていかないと意味がない。そういう意識は常に持っていますね。

最後に、中原さんが今後デザインしてみたい空間のアイデアなどがあれば教えてください。

中原:地元のことで言うと、宿泊施設のようなものを作りたいのと、あと公民館なんかもやってみたいと思っています。先日、大人になって初めて、鹿児島で公民館のイベントに参加したんですけど、年配の人も若い人もみんなちょっとずつ寄付金を持ってきて、そこでそれぞれゴザを敷いて、焼き鳥やおにぎりを売っているんですね。そうやって宴を楽しみながら、ちゃんとミーティングなんかもしていて、成熟した地域のコミュニティというものを見せつけられた気がしたんです。そういうコミュニティがあることを前提に、それにふさわしい場や空間を作ってみたいなと思いますね。


インタビューを終えて

インタビューのなかで最も印象的だった言葉は、中原さんにとっての『日本』イコール自分の周りということでした。政治の行方は依然不透明ですし、『日本は課題先進国だ』と煽る向きもありますが、妙に焦るでも変に憂うでもなく、ランドスケープとして見えている目の前の範囲のことから大切にしていく。そのバランス感覚にとても共感しました。
何より1997年に立ち上がったランドスケープ・プロダクツの物語は、そっくりそのまま、多感だった僕の10代の終わりから20代へ、自分にとっての軸をつくり上げていく自分史の振り返りでもありました。
やることなすこと『それそれ!』と感銘しながら、『やられた…』と良い意味でショックを受けるほどの、ずっとお会いしてみたかった方はそういるものではありません。いざ、そんな憧れの人を目の前にして、『いくつになっても緊張で震えるものなんだなぁ、妙な汗かいたなぁ』というのが、インタビューを終えての率直な気持ちです(笑)。
こうやってひとつ上の世代の方と語り合うことは、彼らが受け継いできたものを受け取ることでもある。そんなことにも気付かされました。僕たちの仕事もきっと、受け継がれてきたものを丁寧につないでいくことなんだろうと思います。さて、何から始めようかな、ワクワク!
というわけで、中原さん、原田さん、本当に貴重な機会をありがとうございました。鹿児島でのご縁、楽しみにしています