MENUCLOSE

暮らしの更新

ライター/KULUSKA・藤本あやさんが、
蕾の家・池田めぐみさん、さゆりさんに聞く、
「地域の文化を伝えていくこと」

鎌倉周辺エリアの人たちをインタビューでつないでいく企画「QONVERSATIONS Neighbors」。今回は、鎌倉を拠点に活動するものづくりユニット・クルスカの藤本あやさんがインタビュアーとなり、鎌倉・長谷の古民家を活用し、さまざまなワークショップや教室などを行っている「蕾の家」の池田めぐみ、さゆりさん姉妹にインタビューを行います。近年は鎌倉のみならず、京都などにも活動の場を広げ、その地域ならではの体験や出会いをプロデュースしているおふたりに、藤本あやさんがインタビューした公開取材イベントの模様を、ダイジェストでお届けします。

藤本あや
古民家にはどんな力がありますか?

おふたりにお会いしたのは、クルスカが鎌倉で活動を始めてから1年くらい経った頃でした。クルスカの活動を応援してもらったり、色んなことに声をかけてもらったりしたのですが、当時から思い描いていた世界がとても近かったんですよね。おふたりと(奥谷)舞子さんの3人でスタートした蕾の家ですが、いまは関わる人も増えて、京都などに新しい場所もできましたね。今日は、これからの活動がどう進んでいくのかということなど未来の話も伺えればと思っています。まずはその前に、この蕾の家がどんなスペースなのかをお話し頂けますか?

めぐみ:私たちが学生だった頃、創業メンバーの3人でヨーロッパを旅したんです。その時に、スペインのバレンシアで地元のおじちゃんたちが家に招いていくださり、親戚の方々を呼んで、大きなフライパンでパエリアをつくってもてなしてくれたんです。フライパンをみんなで囲み、現地の暮らしを感じられたことにとても感動し、そこでしかできない体験には大きな価値があるなと感じました。同時に、私たちにはどれくらい独自の生活文化やコミュニティ、習慣があるのか? あまりそれらを大事にできていないんじゃないかということに気づき、私たちの地元を拠点に、日本や鎌倉ならではの体験や出会いをプロデュースしようと考えたことが、蕾の家を始めたきっかけです。

さゆり:そこで注目したのが、古民家でした。先人の生活の知恵や美意識、愛情などが集積している場所である古民家を使って、人が集まれる場づくりをしたいと考えたんです。

めぐみ:私たちが古民家を探している時に、当時手伝っていたカフェに来たお客さんから古民家が空くという話をたまたま伺ったんです。その物件が、オーナーさんの意向でゲストハウスやカフェがNGだったので、教室やワークショップ、イベントなどができる場所にしようという話になりました。

(左から)池田めぐみさん、さゆりさん、藤本あやさん。

この3,4年の間に京都の「もやし町家」や、鎌倉の二階堂の「GADNA HOUSE」など、新しい場所もオープンしましたね。

めぐみ:もやし町家は、築120年くらいの町家をリノベートした空間になっていて、「GADNA HOUSE」は古民家ではないですが、鎌倉のガーデナーさんが手がけるお庭と、ギャラリーとハウスの2つの建物からなるスペースです。これらはオーナーさんや物件との出会いが大きく、こういう場所があるから何かやれないかという声をかけて頂いたり、エリアを決めて一緒に物件を探すところから始めることもあります。

蕾の家は、貸しスペースというよりもコミュニティという感じがしますが、ここで開催されているイベントはどんな思いで企画されているのですか?

さゆり:自分たちが興味があること、まだ知らないことをテーマにして、集まってきた人たちと一緒にそれに触れたり学んでいくという形が多いですね。興味を持ってくれた人たちがここに集まり、そこから人のつながりや口コミで輪が広がっていく感じです。また、こうした場を運営していると、「あの人たちに相談したら乗ってくれるんじゃないか」という感じで、色々な企画の相談を受けたりもしています。

めぐみ:始めてみて気づいたことなんですが、古民家では、年齢や性別、バックグラウンド関係なく人がフラットになれるんです。例えば、ヨガ教室などにしても、20代から80代の人たちまでが仲良くなれたりして、場の力というのはあるんだなと。

さゆり:古民家は冬になると凄く寒いのですが、そのぶん庭にお花が咲き始めたことで春が来たなと感じたり、自然と生きているということが実感できます。もともと日本人は自然と境がない暮らしをしてきていて、そこから芸術や料理なども発展してきたんだということがわかる。だから、蕾の家のイベントなどでも季節を大切にするようにしています。

蕾の家

藤本あや
地元の人とはどう付き合っていますか?

蕾の家のイベントには、地元の人だけではなく、県外や海外のお客さんも集まっていますが、誰に向けて、どんな距離感で発信したいとお考えですか?

めぐみ:基本的にはその土地の個性を大切に、鎌倉では鎌倉らしい自然体な感じを発信していきたいですし、京都では「自然と生きる」ということよりも、日本の文化に触れられるような体験を意識しています。地域ごとの個性がなくなるとつまらない世界になってしまうという思いがあるので、それぞれの場所でローカルの人たちを巻き込みながら、色々な企画をしていくように心がけています。

さゆり:例えば、もやし町家では、これまであまり表に出てこなかったような京都の方たちにご協力頂いて、一緒にお話をしたり、その人たちが培ってきた生活文化に触れたり、いかに土地の本質に触れることができる機会をつくれるかというところが私たちが挑戦し続けたいことです。

地元の人たちとの関わりで大切にしていることはありますか?

さゆり:場を運営する上では、ご近所との関係が本当に大事だということを痛感しています。この蕾の家では、最初の頃に結構失敗をして怒られたりしたので(笑)、京都では最初からそれを強く意識していました。だから、よく難しいと言われる場所ではありますが、いまのところ続けていくことができています。基本的には、どうすればその場所のことについて地元の人たちから学ばせてもらえるか、一緒に何ができるかというスタンスで関わるようにしています。

もやし町屋

地域に密着した学びという話が出ましたが、おふたりがいま学んでいることを教えてください。

さゆり:私は食ですね。もやし町家は、もともと味噌や醤油などの製造で使われる種麹をつくっていた場所だったんですね。当初はオーナーもそれを知らなかったようで、周囲にご挨拶に行った時に初めてわかり、種麹のことを「もやし」と呼ぶことも知りました。そうしたルーツがある場所なので、現在京都で唯一というもやし屋さんに麹造りを教えてもらう企画などをしたのですが、味噌や醤油、みりんなど日本の調味料のほとんどは麹によってつくられていて、知れば知るほど和食の原点は菌にあるということがわかってきました。いままさに和食の原点や本質に触れられている感じがしているので、それを伝えられる仕掛けをもっとしていきたいなと考えています。

めぐみ:こうした体験を今度は鎌倉に持っていったり、今後は地域の横の連携をもっとしていきたいと思っていますし、外国人向けに日本食の真髄を感じてもらえるようなワークショップなども来年には始めたいと考えています。また、まったく切り口は変わりますが、私自身の学びというところでは、会社の経営というのがあります。私たちはこのプロジェクトをどういう組織で運営するかを考えている時に、NPOなどの選択肢も視野に入れていたんです。でも、資本主義の社会で自立をしていくという意味では、自分たちで価値を生み、対価を頂くということが大切なんじゃないかということになり、株式会社にしました。いまはメンバーが7名に増え、ますます色々なことが起きていますが、それをチームでいかに乗り越えるかということを考え、日々奮闘をしています

(左から)池田めぐみさん、さゆりさん、藤本あやさん

藤本あや
どうやってヴィジョンを共有するのですか?

それぞれバックグラウンドが異なるメンバーが集まってチームになった時に、ヴィジョンを共有する難しさはありましたか? 何か独自の方法があるのでしょうか?

さゆり:会社を始めた当時から続けていることとして、自分たちのヴィジョンを絵にするという習慣があるんです。創業メンバーの舞子が絵を描くことが好きだということもあるのですが、私たちには動物的なところがあるからか(笑)、こうして視覚化されることで不思議とひとつの方向に進んでいくような力が得られるんです。実はこの絵はこれまでに3,4回アップデートしているのですが、最新版は国内外の地図をベースに、各地域の文化を大切にした取り組みをしていきたいという思いがヴィジュアル化されています。この絵の中では、京都のスタッフが未来の旦那さんと描かれていたりもします(笑)。リアルな現在と、すでに話は持ち上がっていてもうすぐ実現できそうなこと、今後こういうことをしていきたいという未来がひとつの絵の中でゴチャ混ぜになっています。こうして絵に描かれていると、対外的にも自分たちがやりたいことを伝えやすいし、具体的な絵を思い描くことは大事だなと感じています。実は、以前に描いた絵の中には、クルスカのおふたりも入っているんですよ(笑)。

そうなんですね! それは嬉しいです(笑)。こうして見ると一目瞭然というか、ヴィジョンが視覚的に伝わってくるのでわかりやすい。ひとつの絵にすることで、チームのみんなが同じ方向を見ることができるんですね。例えば壁画とか、古くからあるコミュニケーションに近いものがここにはあるのかもしれません。

めぐみ:そうですね。この絵を描く時はまず鉛筆で下書きをするのですが、その段階ではまだ迷いがあったりして、味気ないものなんです(笑)。でも、みんなでどうしようかと話し合いながら徐々に絵が固まってきて、そこに色が入った途端、一気に現実味を帯びていく感覚があるんです。日々色々な仕事をしていると、その中で喧嘩をしたりもしますが、そういう時に「何のためにこれをしているのか?」と立ち返る場所があることはとても大事です。だから、私たちはこの絵を名刺の裏に描いているんです。

色々考え込んでしまうと難しいルートができてしまいますが、到達のイメージがシンプルに見えていれば、そこに行くための道すじは自分たちで決められる。これは色んな企業が実践してみても良さそうですね。

さゆり:そうなんですよ。今後はヴィジョンサービスじゃないですが、企業の色んな人たちの意見を聞いた上で、最後に私たちが絵にするというサービスができると面白いんじゃないかなと。以前に蕾の家で出会った方が、「会社は何のために存在しているのかを忘れた時に潰れたり、変なことが起こるものだ」と仰っていたんです。「だから、あなたたちは何のためにこの会社をしているかを常に考えなさい」という言葉が印象に残っています。

藤本あや
これからどんなことをしていきたいですか?

この絵に描かれていることもあると思いますが、これからみなさんでどんなことをしていきたいと考えていますか?

めぐみ:私たちは出会いにとても恵まれてきたところがあるので、私たちがいなかったら出会わなかった人同士をつなげるようなことに注力したいと思っています。例えば、今度京都の古民家を使った宿泊施設の起ち上げに関わることになりそうなのですが、ここでもオーナーさんがやりたいことを汲み取った上で人をつないだり、外国人の旅行者が現地の人と出会い、何かしらの気づきが得られる機会をつくったりと、人と人の間に立って何かが生まれる機会をプロデュースしていきたいなと。特定の場所にはこだわらず、その土地ならではのものを享受しながら、その場に行かなければ生まれない出会いをつくっていきたいです。

蕾の家の外観。

もともと蕾の家というネーミングも、色んな蕾が花を咲かせるような出会いをつくるというところにあったと思うので、そこからずっと思いがブレていないんだなということを、今日のお話で確認できました。これから先もチームでどんどん新しいことに挑戦されていくんでしょうね。

さゆり:私たちは古いものを大切にしたいという思いをずっと持っているのですが、それを博物館のように保存するのはちょっと違うかなと思っています。古くから伝わってきたものをいかに現代の人たちが活用し、未来に残るものにしていくということこそが、いまを生きている意味なんじゃないかなと考えています。

私たちは古いものを大切にしたいという思いをずっと持っているのですが、それを博物館のように保存するのはちょっと違うかなと思っています。古くから伝わってきたものをいかに現代の人たちが活用し、未来に残るものにしていくということこそが、いまを生きている意味なんじゃないかなと考えています。

さゆり:私は最近、高野山によく行っているのですが、1000年以上前のものをいまでも見られるというのは凄いことだなと感じるんです。いままで残ってきたものというのは、長い歴史の中であったであろうさまざまな危機を乗り越えてきたもので、逆に私たちが目にすることが叶わずになくなってしまった素晴らしいものもたくさんあったはずですよね。そういうことを考えていくうちに、いまを生きている私たちは、果たして1200年後にも残るようなものをつくれているのかということが気になり始めたんです。それをきっかけに、現代の技術や職人さんの力を借りて1200年後に残るものをつくろうというプロジェクトをを知って、とても尊い活動だと注目しています。いまはなんでも簡単でクイックにできることが良いとされがちな時代だけど、労力をかけて未来に残るものをつくるということはとても大事だと感じますし、ドキドキするんですよね

めぐみ:前にあやさんとも話をしたことがあったけど、私たちは次の時代にバトンをつないでいくという意識を持っています。古民家にしても、バトンをつなげる人がいなければ、廃墟や駐車場などになってしまいますよね。別に新しいものが悪いとはまったく思っていないのですが、過去と未来のはざまにあるようなものに対して、自分たちが新たな息を吹き込んで、現代に生きるものに変えていけるようなプロジェクトにひとつでも多く関わっていけたらと思っています。

(左から)池田めぐみさん、さゆりさん、藤本あやさん。

そうですよね。前にバトンの話もしましたね。バトンをつなぐという意識があるだけでずいぶんと違うと思いますし、その思いがひとかけらでもあれば、それを誰かに配って増やすこともできます。伝統や革新などだけでない、「受け継いでいく」ということを、100年単位で見るのか、1000年単位で見るのかで、関わり方が凄く変わってきそうですね。今日は色々なお話が聞けて良かったです。どうもありがとうございました。