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地域と関わる

編集者/カンバセーションズ代表・原田優輝さんが、
ファブラボ鎌倉・渡辺ゆうかさんに聞く、
「ファブラボとローカルコミュニティの関係性」

レーザーカッターや3Dプリンタなどのデジタル工作機械を備える市民工房として、世界50ヶ国500カ所に草の根的に展開している・ファブラボ。その日本における最初のラボとして2011年5月につくられたのが、今回取材をする・渡辺ゆうかさんが共同設立者となっている・ファブラボ鎌倉です。日本最初のファブラボのひとつが鎌倉の地にできた理由、ファブラボとローカルコミュニティの関係性、地域間ネットワークを持つ強みなど、カンバセーションズの原田優輝がインタビュアーとなり、気になるトピックを中心にお話を伺ってきました。

原田優輝
なぜ鎌倉だったのですか?

渡辺さんは、現在ファブラボ鎌倉を拠点に活動されていますが、もともと鎌倉のご出身だったのですか?

渡辺:いえ、同じ神奈川県ですが、鎌倉出身ではありません。鎌倉には子どもの頃から遠足などで来ていましたが、新しいものと古いものが隣り合わせで共存している場所という印象があり、自分にとって憧れのエリアでもありました。都心から通勤圏内なのに、ここだけ結界が張られているような不思議な場所で、他にあまりこういうところはないなと。ファブラボを設立するにあたっても、当初はアクセスが便利な都心につくる案もあったのですが、共同設立者の田中(浩也)さんとは、ローカリティが際立ってくるようなファブラボが全国にできると良いよねと話していて、最終的に鎌倉を選びました。東京には、自分たちが始めなくても自然とデジタル工作施設はできるだろうし、これから私たちがどんなライフスタイルを築いていきたいかを考えても、30歳を過ぎているせいか東京とは違った時間の流れ方に身を置いてみたいと(笑)。

当初は、地元の人たちが集まる場としてイメージされていたのですか?

渡辺:もちろん鎌倉エリアの人たちも想定していましたが、半分以上は外から来る人たちのことも意識していました。ただ単にデジタル工作機械が体験できる施設というだけでは、みんな都心の施設に足を運ぶと思うのですが、蔵を改装したつくったファブラボ鎌倉は建物自体が他にないものですし、街の雰囲気もやはり都心とは違います。そうした場所を目的に、外から人が訪れるという流れをつくることが大切だと当初から考えていました。やはり、地元だけを対象にしていると内輪のコミュニティしかできないですし、外の人も入りにくくなってしまう。そうではなく、外と中の人が半々くらいのバランスの中で、ニュートラルに運営したいという思いがありました。適度に距離が保たれた、干渉し過ぎないコミュニケーションというのが、この街にはあるような気がしています。鎌倉にいる人たちは、他のエリアに比べて、知的好奇心が旺盛な人が多いように感じていて、新しいものをすんなり受け入れながら、これまでにしてきたことをアップデートしようという意識もある。そうした風土の中で、ファブラボもあまり抵抗なく受け入れてもらえていると感じますし、3Dプリンタ、レーザーカッターに興味を持って遊びに来てくれる地元の方も多いですね。

渡辺ゆうかさんとファブラボ共同設立者の田中浩也さん。

僕はまだ鎌倉で暮らし始めて3ヶ月ほどですが、東京よりは人と人との距離感が近いけど、踏み込み過ぎない適度な関係性の中で、それぞれが自分のペースで暮らし、働いているような雰囲気は感じています。

渡辺:そうした人間同士の距離感が、都心との物理的な距離とも似ていますよね。もちろん、良い面と悪い面それぞれあると思いますが、私は適度に放っておかれる方が好きなので(笑)、これくらいがちょうどいいかなと感じています。無理に周りに合わせるのではなく、お互いが心地良くいられる距離感は大事だし、ファブラボ鎌倉にしても、それぞれが適度に好きなことをしつつ、同じ空間を共有するというくらいの気軽な感覚を持っていた方が長続きすると思ったんです。

ファブラボ鎌倉の様子。

原田優輝
コミュニティとどう関わっていますか?

僕が鎌倉に拠点を移したひとつの理由として、東京と少し距離を置きたいという思いがありました。ただ、それはあくまでも「少し」だったんですね(笑)。都心から遠く離れた地に移住するという考えはなく、適度な距離感から東京という場所を客観的に見ながら、仕事や生活の環境を考えていきたいという思いがあったので、渡辺さんが大事にされている感覚はとてもよくわかります(笑)。

渡辺:でも、こういうことを話していて、「都会的だね」と言われたこともあります(笑)。私は、コミュニティに関わる仕事を続けてきたからこそ、あまりそれを意識し過ぎてしまうと重たくなってしまうという実感があるんです。あまり力技でコミュニティを活性化させようとしても長続きしないというのは感覚値でわかっているし、楽しいことさえできていれば、勝手に人は集まってくると思っています。そうした自然発生的に人が集まれる場をいかに提供できるかということを意識しているところがありますね。

それはとても納得できるお話ですね。東日本大震災以降、ローカルに目を向けたメディアやイベントが増え、コミュニティデザインという考え方も注目されるようになりました。それ自体は自然な流れだと思いますが、「ローカル」や「コミュニティ」というものが、目的化されてしまうことには違和感を抱いてしまいます。

渡辺:ローカルやコミュニティと向き合っていくためには、絶妙なバランス感覚というものが必要になると感じています。少し間違うと排他的なコミュニティになってしまうこともあるし、ただ入りやすいだけではなく、抜けやすいということも大事な要素だと思うんですね。かなりドライな考え方かもしれませんが、入って抜けて、またすぐに戻れるくらいの気軽さが必要なんじゃないかなと。毎週月曜日にファブラボ鎌倉で開催している「朝ファブ」は、朝9時からの掃除に参加していただくと、ここにある機材が使えるという取り組みなのですが、毎回色んな人たちがやって来ます。そこで一期一会的な出会いがあるということが、参加者にとっては大きな刺激になっていると感じます。もともとエンジニアなどの仕事をしていたおじいちゃんなんかが集まってくるのですが、そういう人たちというのは、地域の中ではある種のマイノリティなんですね。自分の能力が活かせる居場所を探している人たちが集まれる場というものを、継続的に提供していくということが大切なことなのかなと(笑)。

朝ファブの様子。

僕はメディアに関わる仕事をしていますが、ローカルにある情報や資源をショウケースに並べるようにして紹介するという発信の仕方に対してどこか違和感があったんですね。その中で、QONVERSATIONS TRIPという出張取材企画を始めるようになったのですが、カンバセーションズの対話の枠組みだけを持って行き、そこで交わされた地域の人たち同士の対話がコンテンツになって伝わっていくという形が、自分の中で腑に落ちるところがありました。それは、いま渡辺さんがおっしゃったように、コミュニケーションの場を提供するということと繋がるように思います。

渡辺:いま私たちができる範囲で、コミュニティに貢献していくということを考えた時に、それは鎌倉市と一緒に何か大きなイベントをするというようなことではなく、「朝ファブ」のように、生活者が毎週決まった場所に通えて、発想を膨らませたり、アイデアを形にできる環境を提供していくことなんですね。いまはまだそれがコミュニティにどんなインパクトを与えられるかというところまではわかりませんが、実直に続けていくことで見えてくるものがあるのではないかと考えています。例えば、それを「地元のアクティブシニアの痴呆症予防」みたいなところと関連付けてしまうと、文脈が全く変わってしまいますよね(笑)。そうではなく、あえて目的化しないということが大事だと思っているし、実際に「朝ファブ」では、掃除だけして帰ってしまうような人もいるんですよ。

原田優輝
どんな活動をしていますか?

「朝ファブ」の他に、ファブラボ鎌倉ではどんな取り組みをされているのですか?

渡辺:全6回30時間のコースで、デジタル・ファブリケーションの技術を習得する「FAB BASIC」というプログラムを実施しています。ここでは、スキルをしっかり身に付け、さらに履歴書に書ける資格も得ることができます。また、今年で4年目になるのですが、富士山で間伐した木材を使ってものをつくる半年間のプログラム「FUJIMOCK FES」も開催しています。みんなで素材を調達するため間伐しに森に行って、ものづくりのスキルを覚えながら、林業の現状を知るきっかけにもなるような取り組みを目指しているのですが、1から10までこちらで用意するのではなく、参加者それぞれが考える余地を残すことを大切にしています。名前は、お察しの通り「フジロック・フェスティバル」をもじっているのですが(笑)、林業の問題を意識するという大義名分はありつつも、基本的にはみんなで楽しむというスピリットがベースになっています。

「朝ファブ」が日常の延長線上にあるイベントだとすると、「FUJIMOCK FES」は、非日常性が高いイベントだと言えそうですね。

渡辺:そうですね。20人規模のイベントなのですが、参加者が一緒になってごはんをつくるなど、寝食を共にすることもあり、ファブラボ鎌倉の適度な距離感の関係性よりも、つながりが濃厚なんです。プログラムを終わっても関係が継続していくことが特徴で、毎年着実にコミュニティが育っている感覚があります。年単位で見れば20人でも、それが5年続けば100人になりますよね。このイベントに一緒に取り組んでいるホールアース自然学校の方たちとは、口コミのコミュニティを形成していこうという話をしています。それがすぐに社会的なムーブメントにはつながらないかもしれませんが、個人個人にはどうしようもないくらい強いインパクトを与えることができていて、それによって後戻りできない人たちが増えているんです(笑)。

FAB BASIC PROGRAM

ファブラボは地域ごとに体制が大きく異なりますが、ファブラボ鎌倉は法人として運営されているんですよね。

渡辺:はい。2011年に合同会社ファブラボ・カマクラを起ち上げ、今年の7月から一般社団法人 国際STEM学習協会に組織形態を変更しました。ファブラボ鎌倉で培った経験をより広く社会に展開していくことを見据えていて、ファブリケーション、フィジカル・コンピューティング、プログラミングを組み合わせた学習(GLOBAL STEM)の普及や、FABスペシャリストの育成というものに力を入れていくつもりです。また、その流れの一環として、12月に横浜で開催される「学び」に特化した国際会議「FabLearn Asia」の準備を進めています。デジタル・ファブリケーションと学びが、世界とどう結びついていくかということをテーマに、国内外からゲストをお呼びする予定なのですが、主に教育者の方たちに向けて発信していく取り組みになるので、アプローチの仕方なども現在模索しているところです。

原田優輝
ネットワークは活用できていますか?

ここ数年、色々な地域に足を運ぶ機会が増えたのですが、各地の人たちとの関係性が生まれてくる中で、地域間のネットワークを活かした活動への興味が強まっています。それを、デジタル・ファブリケーションを通して実践されているのが、国内外にネットワークを持つファブラボだと思っているのですが、各地のファブラボとどんな関係性を築いているのですか?

渡辺:国内には「日本ファブラボ会議」というものがあり、各地のファブラボ関係者との意見交換などが行われています。今後の展開としては、ファブラボ太宰府との連携があります。ファブラボ太宰府は、「ホームセンターGooDay」が母体となり、関連会社の電子工作キットメーカー「EK Japan」の社屋内で運営されているのですが、彼らはキットを量産することが得意なんですね。鎌倉で良いプログラムができた時に、それを「EK Japan」で展開しているエレキットで形にしていくといったような連携体制が構築できれば、お互いの利点を活かせて良いと考えています。デジタル工作機械を使用したプログラムを他の場所で展開しようとすると、どうしても機材など初期投資がかかるのですが、各地のファブラボにはすでに機材があるので、すぐに実施できます。そうした強みを活かしていきたいと考えています。

いまはまだ地域の情報や資源が、一方的に消費されてしまっているだけというケースが多いような印象があります。そこで終わるのではなく、ローカルにある資源や、そこで生まれた方法論が、オープンソース化、標準化され、それが各地域にローカライズされて展開されていくという流れが生まれてくると面白いと思っています。それを実現しようとした時に、ファブラボのようなネットワークがあるというのは大きな強みになるのかなと。

渡辺:そうですね。私たちは、ファブラボ山口の設立にも協力させていただいたのですが、ファブラボ山口のスタッフの方が、「FUJIMOCK FES」に参加してくれる予定です。そこには、このプログラムを暖簾分けするような形で、山口の森林の問題を解決したいという思いがあるようです。私たちとしても、ゆくゆくは「FUJIMOCK FES」のプログラム自体をオープンソース化し、良いエッセンスを取り込みつつ、ご当地ラーメンのように改変をしてもらうということができると良いなと思っています。また、鎌倉で活動しているものづくりユニット「KULUSKA」さんは、自分たちが設計したスリッパの設計図をオープンソース化し、さまざまな場所でワークショップをしています。このような形で、クリエイターが主体となり、ファブラボをプラットフォームとして使ってくれるといいなと思っています。デジタル工作機械が普及した時に大切になるのは、やはりマテリアルと人なんです。その土地の素材、人、技法などをオープンにしていくことで、これまでのデザインやものづくりの概念と異なる価値が提示できるんじゃないかなと。

KULUSKA Workshop

ファブラボという施設自体が目的になるのではなく、そこから生み出される価値をいかに考えていけるかということが、大切なポイントになりそうですね。

渡辺:その価値というものを、具体的なプロジェクトを通してしっかり見せていくことが大切だと思っていますし、それはいまも継続して模索している部分です。デジタル工作は必ずしも万能ではないですし、ファブラボをつくればすべてが解決するということはありません。むしろファブラボをつくってしまったがゆえに、その使い道を考えざるを得ない状況というのが全国的に発生していて、それ自体はもしかしたら良いことだなと。すべての地域に同じプレイヤーがいるわけではないですし、地域の素材や魅力に改めて目を向けながら、ファブラボのあり方や価値について考え、各地で実践していくことが大切なんじゃないかなと思っています。