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「問い」をカタチにするインタビューメディア

暮らしの更新

ゲストハウス管理人/向島集会所、lit・森岡ともきさんが、
カレー屋店主/クワイエットビレッジ・カレーショップ・大岩峰男さんに聞く、
「理想のカレー屋さんについて」

去る10月15日、岡山のcafe moyauさんをお借りして開催した公開取材イベント「QONVERSATIONS TRIP OKAYAMA」。岡山に移住もしくはUターンされた方がインタビュアーとなり、岡山で長く活動してきた方々にインタビューするというテーマのもと開催されたイベントのダイジェスト版をお届けします。
「SESSION1」では、2010年に直島の隣にある向島にゲストハウス「向島集会所」を立ち上げ、今年に入り、岡山・宇野港の目の前に「lit」というゲストハウスを新たにスタートさせた森岡ともきさんが、岡山市内にある人気のカレー屋「クワイエットビレッジ・カレーショップ」の店主、大岩峰男さんにインタビューを行いました。

森岡ともき
インドカレーと出会ったのはいつですか?

まず、今回インタビューをさせて頂くにあたって、「街をより面白くしている人たち」というテーマが裏に潜んでいるのかなと自分なりに読み取ったんですね。そのテーマを活かすインタビュー相手は誰だろうと考えた時に、面白いと思うことを、面白がりながら続けている面白い人がいいのではないかと思い、大岩さんにお願いをさせて頂きました。私はもともとカレーが大好物なんですが、ピンと来るお店というのは少なくて、外で食べることはあまりないんですね。ピンと来ない部分というのは味以外の部分で、お店の雰囲気や、流れている音楽、お店のネーミングだったりするんですが、大岩さんのお店は、もちろんカレーは美味しいですし、お店の雰囲気やインテリア、音楽なども素敵で、でもどこかもう一口足りない感じが後を引いて、また来たくなるようなお店だったんです。

大岩:ありがとうございます。

今日はその正体を紐解けたらなと思っています。まず、大岩さん、お名前がスゴく良いですよね。インタビューの下調べのために検索をしてみたら、「クワイエットビレッジ」については色々出てくるんですが、「大岩峰男」で検索をすると、スゴく大きい峰山の画像とかがたくさん出てきました(笑)。「クワイエットビレッジ」という店名も良いですが、これはミュージシャンのマーティン・デニーから取ったのですか?

大岩:そうですね。「クワイエットビレッジ」という楽曲に代表されるエキゾチックサウンドが好きだったんです。以前にインテリア・デザインの仕事をしていたのですが、その時に企画した飲食店にダミーの名前をつけたこともありました。

名前は大事ですよね。大岩さんのカレー遍歴についてお聞きしてもいいですか?

大岩:幼少の頃からカレー好きで、まずあったのは家のカレーですよね。うちの場合は祖母が料理をすることが多かったんですが、それはあまり美味しくなくて(笑)。その後、中学生くらいの時に、お店の名前をちょっと忘れちゃったのですが、岡山駅の地下にとてつもなく辛いカレーを出す小さなお店があって、おこづかいを握ってたまに行っていたのですが、いま振り返るとそれがインドカレーとの出会いですね。当時は特に意識せずに美味しいカレーだと思って食べていましたが、最近東京の「デリー」というお店でカシミールカレーを食べた時に、その頃の記憶が蘇りました。大学時代は、京都で過ごしていたんですが、その頃からは機会があれば色んなカレー屋さんに行くようになりましたね。

クワイエットビレッジ・カレーショップの店内。

クワイエットビレッジはベンガル地方のカレーですが、タイカレーとかに浮気はしなかったんですか?

大岩:もちろんあります(笑)。以前に結構長い旅行をしていたことがあって、その時にタイにも長く滞在していて、タイカレー美味しいなと思っていました。いまだに好きですよ。

森岡ともき
なぜカレー屋をやろうと思ったのですか?

大岩さんが岡山でカレー屋をやることになった経緯を教えて下さい。

大岩:大学が京都で、その後就職した会社も大阪だったので、関西圏で生活している時間が長かったんですね。僕は岡山出身なんですが、関西で結婚してからもしばらく岡山には戻っていなかったんです。その後子供が産まれて、ちょくちょく帰ってくるようになったのですが、子育てをするなら岡山がいいなと思うようになって。そういう意味では僕も同じUターン組なんですが、これから仕事をどうしようかと色々思案した結果、カレー屋をやることになりました。

それまでやっていたインテリア・デザインの仕事は考えなかったのですか?

大岩:もちろんそれも選択肢のひとつとしては考えていました。京都にいる時に「ベンガル湾」というバングラデッシュ人のご主人と日本人の奥さんがやっているカレー屋さんがあって、美味しいんだけど不思議な味で「何じゃこれは?」と思いながらよく食べていたんですね。そのうちご主人と仲良くなって、ある日作り方を教えてほしいと言ってみたんです。当時から自分でもカレーは作っていたんですが、「カレー屋をやるなら教えてやる」という話になって。それで、前の仕事を辞めて岡山に引越しする前の正味ひと月くらいの間で一緒に厨房に入り、勉強というか修行をして、自分のカレー屋を開くことにしたんです。でも、それ以前にもずっとカレー屋のことは頭の片隅にあったのかもしれないですね。

チキンカレーとダルが一度に楽しめるクワイエットビレッジの人気メニュー「半々」。

そういうことはあるかもしれないですね。私も高校の友人にゲストハウスをやろうと思っていると話した時に、「高校の時からペンションをやりたいって言ってたよ」と言われて驚きました。ちなみに、いまは奥さんも一緒に厨房に立たれていますが、カレー屋さんをやる時に反対はされなかったのですか?

大岩さんの奥さん:反対はしなかったですが、続けられるかどうか不安はあったのでスゴく考えました。最終的には、いままで考えたことがないくらい深く考えたんだから、あとは失敗しても仕方ないじゃないかということになりました。以前に、会社を辞めて海外に行くと決めた時に似たような感じでしたね。

大岩:先ほど話した長い旅行のことですね。大学卒業後、一部上場企業に就職して7年間働いた後に、10ヶ月くらいアジアをブラブラしたんです。つまりドロップアウトですね(笑)。

どこかで聞いたことのあるような話ですね(笑)。

大岩:旅から帰ってきた後に拾ってくれたのが、インテリア・デザイン事務所だったんです。奥さんにはもう感謝しまくりですね。

森岡ともき
カレー作りのコツはありますか?

会場のお客さんのためにもなりそうなカレー作りのコツがあれば教えてください。

大岩:スパイスは、量も種類もあまり入れ過ぎないことですね。単純な話、少ない分には後から足せるけど、多いものは引けないですからね。ちょっとずつ色んなスパイスを加えながらやっていくしかないんですよね。ただ、大人数分をまとめて作った方が味はまとまると思います。ちなみに、いまうちでは毎朝チキンカレーを30弱、ダルを20くらいで作っていますね。

カレーの味というのは、日によって変わることもあるんですか?

大岩:そうですね。意識的に変える日もありますよ。例えば、ここ数日はなかなか手に入りにくいカレーリーフを知人からもらったので、それをいつものメニューにちょっとずつ加えて試してみたりしていますが、味に微妙な違いが出て面白いですね。Facebookに書いたりすると、それを目当てに来てくれるお客さんもいますが、黙っていたらあまり気づかれないくらい微妙な違いだったりします。

家でカレーを作ったり食べたりすることはあるんですか?

大岩:基本的にはないですね。妻が次の日の野菜カレーの具材を切ったりすることはありますが。

変な話ですが、市販のカレールーでお気に入りのものはありますか?

大岩:うーん、…あまりないですね(笑)。あ、「デリー」というお店のカシミールカレーのレトルトがあるんですが、それは年に何回か食べますね。あと、去年の夏に自宅で「ジャワカレー」の中辛を使って、割と丁寧めにカレーを作ったんですけど、子供は飛びついていましたね。うちのお店のカレーにはそこまで食いつきが良くないのに、美味しい美味しいと言ってガツガツ食べていました (笑)。

ちょうどいま大岩さんは「カレーのためのうつわ展」に参加されていますが(※現在はすでに終了)、カレーとスプーンや器の関係についても話を聞かせてください。いま私はゲストハウスをやっていて、家庭のカレーの延長線上のようなものを出させてもらっているんですが、いまだにスプーンや器には悩んでいるんです。口に入れる量というのは男性と女性でだいぶ違うだろうし、カレーを食べた時の印象は器によって大きく変わるだろうと思うんです。

大岩:インテリア・デザインの仕事をしている時に、京都でうどん屋さんの内装から器まで担当したことがあったんですね。その時に、信楽焼の作家をしている人にうどん鉢をお願いしたのですが、それがとても良い出来だったので、自分のお店をオープンする時にもその方にお願いしました。自分ではとても気に入っていますよ。スプーンは、柳宗理さんのものを使っています。もともとカレー用のスプーンなのかはわからないですが、いくつか試してみたらこれが一番いいんです。もともと僕は柳ファンで、このスプーンはお店を開く前から使っていたものなんです。

大岩さんのお店で使われている器たち。

森岡ともき
どんなカレー屋さんが理想ですか?

大岩さんがいままでで一番感動したカレー体験を教えて下さい。

大岩:美味しかったカレーの体験はいくつもありますが、インドを旅行した時にデリーの「ロイヤル」という菜食中心の小さなカレー屋があって、そこには3日くらい通いましたね。

日本のお店ではどうですか?

大岩:何年か前に東京でアーティストの大竹伸朗さんの個展があった時に、1泊2日で東京に行って、そこでカレーを5食くらい食べたんですね。帰りの新幹線に乗る前にも、東京駅の八重洲口の近くにある「ダバインディア」というお店に入ったんですが、その日はお昼もカレーを食べていて、それがスゴく油っぽくて胃もたれしてたんですよ。でも、せっかく東京に来ているんだから食べないとと思い、南インドのターリーのようなものを頼んだんですけど、二口、三口と食べていくと、胃もたれがスッとリセットされて。やっぱりスパイスはスゴイなと思って感動しましたね。他にも東京や大阪にはたくさん美味しいお店があるんでしょうけど、岡山に限って言えば、以前からある「マハラジャ」というカレー屋さんがあって、そこは日本人が作る正統派インドカレーという感じでリスペクトしています。

クワイエットビレッジ・カレーショップの「魚カレー」。

ぜひ今度連れて行ってください。いまの話にもつながってくると思いますが、大岩さんが考える理想のカレー、もしくはカレー屋さんとは?

大岩:インドでもタイでもどこでもいいんですが、カレーが日常食としてある、そこらへんの路地裏や街角で普通にやっていて、近所の子供でもちょっとおこづかいがあれば食べられて、ご年配の方にも満足してもらえるような街場のカレー屋さんが理想ですね。

ちなみに、いまはその理想の山の何合目くらいまで登れているんですか?

大岩:別に山を登っているつもりはないんですけど(笑)、日々の仕事を続けていきながら、そんなお店を目指していきたいなと思っています。

最後に、この先やってみたいことなどがあれば教えて下さい。

大岩:あまり大きなことはないんですけど、この後に出られる森山(幸治)さんをはじめ、色んな方に声をかけて頂き、結果として街との関わりも出てきているので、そうしたつながりを大事にしながらやっていければという感じですね。