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「問い」をカタチにするインタビューメディア

暮らしの更新

料理研究家・堀田裕介さんが、
農家・小泉伸吾さんに聞く、
「これからの農家の役割について」

インタビュアーを務めてくれる堀田裕介さんは、「食べることは生きること 生きることは暮らすこと」をモットーに、日本全国を飛び回りながら、生産者と消費者を繋ぐ食の活動に取り組んでいる料理研究家。そんな堀田さんが今回インタビューするのは、大阪と京都の中間にある大山崎で20年間農家を続け、さらにバンド「pug27」のメンバーとしても活動している小泉伸吾さん。これまでも食をテーマにしたイベントなどで何度に仕事をしてきたふたりが、これからの農業や働き方などついて、さまざまな意見を交わしました。

堀田裕介
なぜ農家を始めたのですか?

伸吾さんとは、以前に僕がいたgrafがやっていたレストランに野菜を提供してもらっていたことがきっかけで知り合いました。その後もgrafが主催している食と音楽などを絡めた「Taste Of Folklore」というイベントをはじめ、色々と付き合いが始まったんですが、伸吾さんは単に野菜を作るだけではなく、僕らがこれまで抱いていた農家のイメージを覆すような活動をずっと続けているように感じていたんです。しかも、grafの服部(滋樹)さんらと一緒にバンドも続けていて、そういう生き方なども含め、改めて話を聞いてみたいなと。農家を始めて今年で何年目になるんですか?

小泉:結婚して農家を始めたのが23の時で、いま43歳だから、今年でもう20年。僕は生まれが工業地帯だったから周りに農地なんかなかったし、若い頃は農業のことなんて考えてもいなかった。社会人になって洋服屋で仕事をするようになったんだけど、言ってみれば究極のインドアの仕事で、これはしんどいなと。その頃からいずれ農家みたいな仕事ができないかなと思うようになって、結婚するという段階で、嫁の実家がたまたま農家だということが分かって。農業なら生産から販売まで自分でやれるし、面白い仕事やろうなという思いもあったよ。実際に入ってみたら奥が深すぎたけど(笑)。

その後の農業ブームなどもあって、いまでこそ若い人が農家を目指すということも増えましたけど、そんな流れが一切なかった20年前に始めるのは凄いなと。

小泉:そうやね。若い時って変わった仕事をしてみたいというのがどっかにあるやんか。僕もまさにそういう感覚で始めたんだけど、当時から(農業は)絶対これからの仕事だとは思ってた。さすがにここまでのブームまでは想像できなかったけど。2年前くらいはホームセンターとかに苗を買いに行っても若い子が凄く多くて、これはブームやなって感じたけど、その頃からしたらだいぶ落ち着いたと思う。でも、結果として農業への関心が高まったと思うし、昔に比べれば食べることへの意識もだいぶ変わったよね。

それは凄く感じますね。最近は、ソーシャルメディアなんかでも話題になるのは食べ物のことが多いし、コミュニケーションの中心が食に移ってきているというのは職業柄感じていて。その大元にいる農家の人たちは、いまがチャンスとばかりに都会などに販売に行っていたり、就農受け入れイベントをやったり、環境のことを意識した農法を取り入れたりと、単に野菜を作って販売するという以外の活動をするようようになってますよね。

小泉:うちは大阪と京都の間にある都市型の小さな農家で、滋賀なんかにある大きな農場とは違うから、小規模農家にしかできへんことって何やろうとか、常に自分なりに考えてる。もともと食べることが好きだから、作って食べるという流れを面白く見せられるイベントとかを、フットワークの軽さを活かしながらやっている感じかな。

イベントでは「これ成立するんか?」というような結構無茶なことをやり続けてますよね(笑)。でも、大阪のお客さんはノリが良いから、どうやったらその場を楽しめるかを考えながら参加してくれるし、イベントの輪郭を作っていってくれるところがありますよね。

小泉:当然イベントを企画する側は、こうなったらいいなというイメージを持って始めるわけだけど、実際にやってみると全然違う方向に流れていったりする。でも、結果的にそれが盛り上がったりして、逆に考えさせられたりもするよね。

「Taste Of Folklore」

堀田裕介
農家とバンドは両立しますか?

僕の好きな言葉に「生きるように働く」というのがあるんです。これが僕のテーマなんですけど、農家でありながら、都会と行き来して好きなバンド活動などもやっている伸吾さんには、その秘訣みたいなものって何かあるんですか?

小泉:バンドを一緒にやっているgrafの服部とかもそうだけど、いま自分の周りにいるのは、大体20代前半に知り合った人たちなんだよね。自分がアメ村の洋服屋で働いていた当時、毎日夜遊びとかをしていて、そこで知り合った人たちから色んな人脈が広がっていったんやけど、農業を始める頃には、色んな所で当時の友達がお店を開いたりするようになって、そこに作った野菜を持って行ったり、イベントやライブをするようになった。当時無駄だと思ってやっていたことや、全然関係ないと思っていたことが、何年後かには必ず戻ってきて、どんどん大きな輪になっていく。だんだんそれがわかってきたから、最近は何をやるにもきっとどっかでつながるなっていうイメージを持って動いてるよ。

ライブのイベントで見かける割合と、マルシェなどで出店者として会う割合が半々くらいで、どっちがオンでどっちがオフなのかわからない感じですよね。

小泉:よく言われることなんだけど、オン/オフという感じじゃなくて、単にスイッチの切り替えがあるだけで、両方オンと言えばオンだし、オフと言えばオフ。すでにバンドも15年以上続いているけど、メンバーは皆仕事をしながら、遊びやバンドの時はスイッチを切り替えてやってる。だから、スタジオのロビーとかで「最近どうなん?」みたいな話をしていても刺激になるし、仕事もがんばろうって気にもなる。別に何かひとつに絞る必要はないと思うし、大げさにいうとそれが自分らのバンドのメッセージだったりする。歳を取ろうが楽しめるし、仕事をしていても好きなことをやろうと思ったらできるし、時間は自分で作るものだしね。

小泉さんが参加するバンド「pug27」。

職業なんかにしても、これだけ社会が多様化しているなかで、ひとつに絞る必要はないですよね。カテゴリを決めてしまうことで世界が狭くなってしまう。最近僕は、働き方をテーマにしたイベントなんかで話させてもらうことも多くて、そこで「遊ぶように働いて、仕事のように遊びたい」と言っているんです。遊びこそ真剣に取り組まないと面白くならへんし、仕事でも同じことばかりしていたら息が詰まる。でも多くの人は、働くこと=自分の時間を切り売りすることと考えているんですよね。

小泉:若い子たちって無駄なことをしたがらないでしょ? 遊ぶと言っても「何して遊ぶんですか?」 とか「誰とどこに行くんですか?」って感じで(笑)。ひとりでも遊びに行く時は行くし、お店とかに行く場合はひとりの方が料理人と仲良くなれたりもする。20代の頃はあまりイメージできてなかったけど、いまならすべてが繋がってくるというのがわかっているし、遊びに行ったことがきっかけで、どんな野菜作ろうかとか考えたりもするからね。甲本ヒロトが、「楽」と「楽しい」は違うっていうことを言っていたけど、楽だと思った瞬間にそれは楽しくなくなるんだよね。生きると食べるは一緒やないし、生きるために食べるのと、食べるために楽しく生きるのは全然違う。だから自分は楽しく食べたいと思う。

堀田裕介
農家に求められる役割は何ですか?

農家として自分が作りたいものと、求められる作物にギャップってありますか?

小泉:ある時はあるよ。例えば、農協とかに野菜を卸す時は大きさとかの規約があって、農家にとってはそれが「求められる作物」ということなんだけど、実際に色んなお店に食べに行ったりしてると、そんな大きいのいらないよなって(笑)。その辺のギャップは実際に自分が外に食べに行ってないとわからへんし、それがわからない農家からしたら「そんな小さい大根どうすんねん」と思うようなものも、お店からは求められていたりする。農協の朝市にくるようなおじいちゃんおばあちゃんと、色んなお店に食べに行っている人たちは当然生活スタイルもちゃうし、提案の仕方も変わってくるはず。お店とかで食べられることまでをイメージして作っている農家さんは意外に多くないんだよね。

仕事柄色んな農家さんと交流する機会が多いんですけど、明らかに感じるのは農家の役割が変わってきているということ。昔は外から見えないところで野菜を作って、それを農協に出荷さえすればいいとされていたけど、いまは価格も安定しないし、なかなか食べていけない農家も増えていて、自分たちで販売もし始めていたりする。伸吾さんはずっと農家としてやってきたなかで、これからの農家の役割として見えてきたものはありますか?

小泉:昔の農家は作りさえすればそれでいいという職人的な感じだったけど、これからの世代は、作る工程や販売のことも意識しながら、食べることに対する人々の意識を少しだけ引っ張り上げるような提案をしていく役割があると思ってる。うちも一時期野菜のネット販売を考えたことがあったけど、結局アナログで販売することにしたのね。実際に会って野菜の説明をした上で販売すると、例えば一人暮らしの人だったら自炊をせざるを得なくなるだろうし、そこから少しでも環境や意識が変わっていったらうれしいなと。

大阪と京都の中間、大山崎にある小泉さんの農場。

野菜に興味はあるけど、誰が作ったのが安心で美味しいのかってなかなかわからないから、結局有名な農家をネットで調べて買うくらいしかできない。でも、有名無名関係なく、知り合いが作っている野菜だったら買い続けたくなるだろうし、伸吾さんのような役割を持った人がもっと街に出てきて、接点がなかった人たちと出会うことで、その人たちの人生も変わっていくかもしれないですよね。例えば、伸吾さんのバンドを見に来た人たちが、そこでいままで知らなかった食と出会うこともあるだろうし、そういうギャップみたいな部分を上手いことつないでいく方法を考えていくことも大切になってくるのかなと。

小泉:そうやね。いまはどうしてもイベント的なことが多くなっているけど、今後はもう少しじっくり根付いていけるようなこともしていきたい。直接農家が街に出て行くのもいいけど、街中に良い八百屋さんがもっと出てきて、生活や環境に根付いたお店になったらいいと思う。実際に最近は若い人がやる八百屋もよく見るし、そういうものがどんどん増えていってほしいね。

デザインイベント「DESIGNEAST」で堀田さんが手がけた「Fantastic Table」。ワークショップ感覚で来場者がサンドイッチを作ることができる。

堀田裕介
農業はこれからどうなりますか?

農地があると、地域の人たちとのつながりが見えてくると思うんですね。農業というのはもともと土着的なところがあって、地縁とは切っても切れないところがある。だから、野菜を作ったり買ったりすることで、その土地の地域性を知ることができるし、その土地に住んでいる実感や使いこなしている感覚も出てきますよね。いま僕が関わっている都市農園のプロジェクトでも、寂れてしまった土地を農園にして、地域の住民とクリエイターなど、人をつないでいく場にできないかと思っているんですけど、農業のこれからの可能性はそういうところにあるんじゃないかと感じているんです。梅田みたいな中心地は難しいけど、都市農園みたいなものが大阪にももっといっぱいできるといいですよね。

小泉:都会のアクセスの良い場所に畑が作れるといいよね。小さくてもいいから自転車ですぐ行けるような場所に畑があったらいいし、僕らにしても車で40分もあれば大阪にも京都にも出られるというのは凄く大きい。作ったものをすぐに配達できるし、人と出会ってつながれる。ホンマにこの場所でやってて良かったなって思う。

田舎でひとりでやっていたらまただいぶ違ったかもしれないですね。とはいえ、最近はSNSとかで繋がれるからだいぶ環境は変わったし、農業が凄く開かれてきていますよね。

小泉:農業はいま転換期に来てる気がする。TPPとかもこれからどうなっていくかわからないけど、どちらにしろ農家が自分で考えなあかん時期に来ているし、自分でやる人はどんどんやっていくだろうから、良い方向に行くんじゃないのかな。

小泉さんのバンド「pug27」の10周年記念ライブイベントでは、堀田さんがケータリングを担当した。

安い時こそもっと食べてくださいと言えばいいと思うんですけどね。最後に、これから先にやってみようと思っているイベントや企画があれば教えて下さい。

小泉:大きなものを一発やるというよりは、小さい場所でいいから年間通して5回くらいのイベントができたらなと。例えば、バーでナスとかタケノコとか毎回ひとつの野菜に特化した料理を作ってみたり、一年間の食のサイクルがわかるようなイベントをしてみたい。別にローリスクにするために小さくするんじゃなくて、もう少しコミュニケーションがじっくり取れることをやりたいなと。人を集めたトークショーみたいなことじゃなくて、普通に世間話ができるようなイメージかな。自分たちが作っている野菜にしても、どこどこの農家さんが作っていますと大々的に言うんじゃなくて、何気なく自然にそこに入り込んでいて、食べた時に「なんかこれおいしいな」みたいに感じてもらうのが理想。そんな感じのことをやっていきたいですね。


インタビューを終えて

小泉さんのバンドpug27企画のライブパーティ「BIRD WATCHING」が、7月28日に梅田・NOON+CAFEにて開催される。ライブはもちろん、美味しいフードブースの出店も予定されている。