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地域と関わる

書店店主・中川和彦さんが、
アナウンサー・西 靖さんに聞く、
「いま大阪のまちに足りないもの」

本はもちろん、雑貨や洋服なども販売し、併設されたカフェではさまざまなゲストを招いたイベントを開催するなど、本屋という枠を超え、大阪の文化発信拠点となっている「スタンダードブックストア」。今回インタビュアーになってくれる同店の店主・中川和彦さんがインタビュー相手に選んだのは、情報番組「ちちんぷいぷい」の総合司会を務めるなど、関西で知らぬ人はいない毎日放送の人気アナウンサー、西 靖さん。読書や音楽などの趣味を持ち、過去にスタンダードブックストアのイベントでも共演している西さんに、「本」「コミュニティ」「大阪」 などをキーワードに、中川さんが迫ります。

中川和彦
数字を稼ぐことは大切ですか?

先日、カリフォルニアにある作家ヘンリー・ミラーのメモリアルライブラリに行ってきたんですね。そこでは、ヘンリー・ミラーや彼の友人、この土地にゆかりのある作家、アーティストの本の販売、ワークショップ、さらにさまざまなアーティストのライブパフォーマンスなどが開催されているんですね。また、それとは別なんですが、大阪には「ISまちライブラリ」という蔵書ゼロからスタートした図書館があって、イベントやワークショップなどでその場所に関わる人たちそれぞれが本を持ち寄ることで蔵書が構成されていくんです。先日、そこの人とお話をしている時にも感じたんですが、本というのはコミュニティを作るツールになるんだなと。西さんにはうちのイベントに出て頂いたこともありますし、本がお好きじゃないですか。今日はそんな西さんに、本やコミュニティをテーマに色々お話を聞いてみたいなと思っているんです。

西:ありがとうございます。たしかに本は好きですけど、中川さんにおっしゃって頂くほど高い意識を持っているわけではなく、読み散らかしているだけですけどね(笑)。

でも、本が置いてある場所にはよく足を運びますよね。最近では、佐賀県武雄市の図書館をTSUTAYAが運営するというニュースが話題になりましたが、今後本の業界が大きく変わっていこうとしているなかで、本屋としてただ本を売るだけでいいんだろうかと疑問を持っているんです。もともと心斎橋でお店を始めた時も、本を売ろうという意識よりも、まず自分がいたくなるお店にしたいという思いが強かったんです。

西:初めて中川さんのお店に行った時、まさにその「自分がいたい場所」という感覚を強く持ったし、他にこんな本屋ないなと。いわゆる普通の本屋さんというのは、ベストセラー作家の新刊が平積みされているようなイメージですからね。

書店はみんな本が売れないと言っていますけど、そもそも本というのは、単に売って終わるだけじゃない凄いパワーを持っていると思うんです。以前に谷川俊太郎さんとお話した時も「書店が本の専門店になっちゃっている」とおっしゃっていたんですが、本を買ったらさっと行ってしまうような場所ではなく、もっと人と人が触れ合ったり、何かが起こったりするような場所にすることが大事ちゃうかなと。

西:本を扱う書店の人たちはやっぱり本が好きというのが前提にあるだろうし、お店に来るお客さんに喜んでもらいたいという気持ちが強いと思うんです。そのなかで売れる売れない関係なく置きたいものもあると思うんですね。でも、当然利益は上げていかないといけないわけで、儲けることと人を喜ばせることの関係は難しいところですよね。その辺は業種によってさまざまだと思うんですが、例えば僕らがやっている民間放送局の場合は、番組を見てもらう視聴者ではなく、スポンサーからお金を頂いて、その結果出資した番組の視聴率が高ければスポンサーも喜ぶという三角関係の中で仕事をしています。ちょっと変わった業態だとは思うんですけど、それでも本屋さんと同じように、数字はあまり稼げないかもしれないけど、これはやっておきたいという企画もあるんですね。特に毎日3時間やっている「ちちんぷいぷい」では、最初から最後まで数字を取るためだけのコンテンツで構成するのは難しいし、それだと作っている側も退屈してしまうんですよね。

退屈してしまうのは見ている側も同じとちゃいますか?

西:私が司会をしている「ちちんぷいぷい」という番組では、CDを出したりもしているんですが、あまり情報番組でそんなことしないじゃないですか。でも、「ちょっとよそじゃやらんけど、僕らこれ好きなんですよ」ということが番組のカラーになるし、「次は何するの?」と気にしてもらえるようになる。例えば、アーティストさんが「ぷいぷい」さんと何か一緒にしたいと言ってくれるようになったり、何かが生まれる起点になるんです。「ぷいぷい」は、非常に緻密に計算された構成があって、数字を稼ぎまくる番組というよりは、色んな人に頼ったり頼られたりする行き来がある番組だと思っているんですが、ひょっとしたら中川さんがやっている本屋さんもそんな世界なのかなと。

月〜金曜午後2:55から5:50までMBSで生放送されている『ちちんぷいぷい』。

中川和彦
放送にはどんな未来がありますか?

本の業界ではここ最近ずっと売上が下り坂なんですね。そのなかで、減ってきているパイを少しでも多く取ろうと必死になるよりも、もっと違うところに可能性があると思って、雑貨を置いたり、カフェをやったりしているんですけど、いまテレビの業界ではどんな動きがあるんですか?

西:テレビもやはりスポンサーがつきにくくなっているし、状況は似ています。テレビというメディアだけに限って言うと、すでに成長していく産業ではなくなっているのはたしかなので、ネットなども含めたテレビ以外のアウトプットも意識して、コンテンツメーカーとして何をやっていけるかということを考えていく必要があると思うし、これまでと同じようにやっていたら放送局も厳しいですよね。そのなかで個人的にはラジオというメディアをもう一度フィーチャーしてみたいなと思っているんです。ラジオはテレビに比べたら少ないバジェットでできるし、小回りが利くメディアなので公開収録なども含め、それこそ地域コミュニティにも溶けこんでいきやすいサイズ感なんですよね。

うちでも一度FMの収録をやったことがあるんですが、本当に小さな規模でできちゃうんですよね。僕はまったく新しい発明とかはできないけど、本と雑貨をくっつけただけで新しい業態と言われたりもする。例えば、西さんと僕が一緒になってラジオと本屋をくっつけたら面白いことになるかもしれないし、そういう「くっつき合い」がこれからはより必要になってくるのもしれないですね。

西:いまこうして話しているところに機材を少し持ち込めば、それで収録できてしまいますからね。ラジオの収録イベントなど色々一緒にできそうだし、ラジオというものが小商い的な感覚を持ったミドルメディアのような存在になっていけるといいのかなと。

『辺境ラジオ』刊行記念トークセッション @スタンダードブックストア 心斎橋

本にしてもマスに対して作ろうとするとなかなか難しいけど、最初から500人とか1000人とか同じ価値観を共有して繋がれそうな人たちを相手にしていけばもっと色々できると思うし、そういうものがもっといっぱいあった方が面白いんちゃうかなと。大型チェーンは大型チェーンでいいけど、それも小さいところがあってこそのことだと思うし、選択肢がなくなっていく世の中はかなり生きづらいですよね。自分たちはそういうスペースを作っていかないとなと思っているんです。

西:池上彰さんも、その街が発展しているかどうかを図る指標として、まず本屋さんを見ると言っていました。以前にベトナムに行った時にも、小さい本屋さんが人で賑わっていて、そこに将来性を感じたそうですよ。

写真家の若木信吾さんも海外で情報を仕入れる時は本屋とカフェに行くと言っていました。中川さんの所にはその両方があるんだからがんばらないといけないよと。大阪の街自体を変えようとしても難しいけど、自分のお店を良くしていくことで、それを嗅ぎとってくれた人たちがまた何か違うことを始めたりしてくれたら、少しずつ街も変わっていけるのかなと。大阪の街にはまだ何かが欠けている気がしていて、だからこそいまがチャンスなのかなとも思っているんです。

中川和彦
最近の大阪はどうですか?

西さんは、いまの大阪の街をどのように見ていますか?

西:最近はどんどん新しいものができて、梅田なんかもだいぶ変わってきているし、随分ハイパーやなと。グランフロントなんていう巨大な施設もできましたしね。もちろん、ああいうのがうまくいってほしいとも思いますが、一方でみんながハイパーなものばかり求めてしまうと、足元がスカスカになるような気がしています。以前、内田樹先生、名越康文先生とやっている「辺境ラジオ」で、「うめきた」(大阪駅北地区)に大仏を作ろうという話で盛り上がったんですね。大阪の街について思うことをリスナーに募集したところ、商業施設を作るよりも、むしろ大仏を作ったほうが面白いんじゃないかという案が寄せられて。この大仏案におふたりが飛びついたんです。

僕もとても良い案だと思いました。

西:大阪という街には、門前町的な統一感をもたらすものが少ないと思うんですね。例えば、東京には皇居や浅草寺など軸になるものがあるけど、大阪にはそういうものが少なく、あまり良くない意味での雑多性が生まれてしまっている。例えば、うめきたに大仏ができて、それを軸に土産屋やホテル、旅館など門前町的なものが形成されていくと、大阪は正しく再生するんじゃないかという話になったんです。市民に寄付を募ったりしながら、長い時間をかけてそういうものを作っていけたらいいんじゃないかなと思うんです。デベロッパーには見向きもされないでしょうけど(笑)。

「辺境ラジオ」収録風景。

でも、たしかに自分たちでお金を出せば、みんな大事にしますよね。いま大阪の街はお買い物ばっかりになってしまっていて、何かが足りない気がするんです。

西:あと僕は、大阪の街中に大学が帰ってきてほしいなと思うんです。例えば、京都なんかは街中に学生が溶け込んでいるし、京都の人たちが学生さんを暖かく包んでくれる文化があるでしょ。でも、大阪の街中には学生が300円で晩御飯を食べられるようなところがない。モノとかカネを生み出すものだけじゃなく、大学のような存在が大阪の街に帰ってきてほしいなと。

たしかに東京なんかに行っても大学が街中にありますもんね。

西:大阪の街に育てられたという思いを持った学生たちが将来世界で活躍してくれてもいいし、もちろん大阪に帰ってきてくれてもいい。どちらにしろもっと学生が街の中にいないといけないと思うし、その時に起点になるのが本屋さんだったりすると思うんです。例えば、学生の展示やイベントなどを本屋さんでやったり、大学の研究室とコラボレーションもできるかもしれないですよね。学生はそんなにお金を使わないかもしれないけど、彼らを養っていける街を目指すことで、大阪はもっと血が通い始めるんちゃうかなって。ただ箱を作れば街ができていくわけではないし、コミュニティというのは、強い人たちだけで構成できるものではないですよね。むしろ競争を勝ち抜いていたり、利益を上げていくという発想とは真逆じゃないですか。でも、中川さんや、そのひとつ下の僕らの世代というのは、親世代から、自分のやりたいことをやってほしいっていう夢を託されたというか、自己実現ということを言われてきていて、そのこと自体はありがたいんだけど、人を支えたり養ったりするための基本的なOSが組み込まれていない気もするんです。まずはそういうところからちょっとずつ改めていく必要があるのかもしれないですね。

中川和彦
大阪人の強みって何ですか?

大阪にはこんなにたくさん人口がいて、これほど大きな街というのは世界中を探してもそんなにないと思うんです。その大阪の何が面白いのかと聞かれた時に「人」だと言う人が多いように、たしかに面白いヤツはたくさんいる。でも、大阪では色んなことが起きているのに、なかなかそれが全国ネットには広がっていない気がしているんです。発信があまりできていないというか、そもそも発信せんでもええやんって思っているのかなと。大阪の人は目立ちたがりに思われるけど、実はそうでもないんちゃうかなって。

西:僕は高校を卒業してから大阪に来た岡山の田舎者で、だからこそ感じるのかもしれなですけど、大阪は東京なんかに比べるとハードルが高いというか、閉鎖的なところがありますよね。地元の人間と外の人間を明確に峻別している感じがするんですよ。

そうですか? 大阪は一番ウェルカムな街だと思うんですけど。

西:もちろんみんな優しいんですけど、変な関西弁をいつまでも気持ち悪がったりするでしょ?(笑) 東京の方がよそ者の構成率が高いから、もう少し均一化されていて、ちょっとした違いは何となくスルーされていく。だからある種開かれているというか、開かざる得ない街だと思うんですが、大阪の場合は何代にもわたって大阪という人も多いし、社交的に見えて、実は内向きというか、大きな田舎なのかもしれないなと思うこともあります。

照れ屋でうまく表現できていないというところもあるのかもしれないですね。さっきの全国ネットにならないという話もそうだけど、その気質が災いしている状況もあるのかなと。

西:先日、あるシンポジウムに参加したんですが、演出家の平田オリザさんの講演がとても面白かったんですね。僕も普段から話をする仕事をしていますが、とてもじゃないけど平田さんのように100人の心を掴んだり笑わせたりすることはできないし、むしろそういうことが苦手なんですよ。こうして一対一で話すことで相手と息を合わせたり、笑ってもらうということは普段からしているつもりですが、大勢の人を同時にわらかすということは実はやっていないんですよ。人前で喋れと言われても、みんながこっちを見ている感じがどうも慣れなくて。そういうことを考えてみると、もしかしたら大阪というのは一対一のコミュニケーションというのが一番得意で、僕自身そういうコミュニケーションの仕方を培ってきたのかなと。

「辺境ラジオ」トークセッション@スタンダードブックストア心斎橋

たしかにそれはあるかもしれないですね。大阪には少数対少数でやっているものが多い気がするし、そういうものがもっとつながっていくといいのもしれないですね。

西:相手の顔が見えるやり取りを続けていくなかで、たまにもの凄く汎用性があるというか、みんなが共感するようなものが生まれればそれでいい気がします。最初からみんなの共感を得ようとして始めちゃうと1対マスになってしまうし、大阪の人はあまりそういうやり方が得意じゃないのかもしれない。大阪の強みは、変に気取った感じのない一対一のコミュニケーションにあるのかもしれないですね。やっぱりスタンダードブックストアにもいつも中川さんがおってほしいと思うし、行く度に「これがいいんだ」「いいからこれを読め」って口うるさく言ってくれたりすると凄く楽しそう(笑)。

そうですね。カフェの店主とか居酒屋の親父とかなんでもいいんですけど、みんなが大阪に人を見に来るようになったら面白いですよね。大阪というのは入り込んだらメッチャおもろいとこだと思うし、こんなにウェルカムな街はないですからね。今日はとても良いヒントを頂けた気がします。どうもありがとうございました!