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「問い」をカタチにするインタビューメディア

地域と関わる

ゲストハウス管理人・竹中よしおさんが、
直島町観光協会・圓藤曜一さんに聞く、
「直島が多くの人を惹き寄せる理由」

アートの島として世界中から熱い注目を集める香川県・直島。今回この島でインタビュアーを務めてくれる"よっちゃん"こと竹中よしおさんは、直島のすぐ隣にある人口わずか15人程度の小さな島・向島で唯一のゲストハウス「向島集会所」の管理人をしています。そんな竹中さんがインタビューするのは、2011年に直島に移住し、直島町観光協会で働く圓藤曜一さん。直島に魅せられて島に移住し、現在は外から訪れるさまざまな人々を迎え入れる仕事をしているふたりが、直島の魅力や未来の可能性などについて語り合ってくれました。

竹中よしお
なぜ直島に移住したのですか?

僕は前回の瀬戸内国際芸術祭の時に初めて直島に来て、そこで現在宇野でlitというゲストハウスの管理人をしている森岡ともきさんと知り合い、この向島に来たんです。そこで初めて人口15人のこんな島が直島のすぐ隣にあるということを知って驚いたんです。

圓藤:僕もいつか向島には来たいと思っていました。まだ着いたばかりですが、直島とはまた違って最高の場所ですね。

5分船で渡るだけで別世界ですよね。ここからしたら直島はマンハッタンみたいなもんですよ(笑)。僕は、当時このゲストハウスの管理人もやっていた森岡さんから、こっちに移住してみないかと誘われ、その半年後に船舶免許を取って移住してきたんです。移住してから仕事を探してみたら、直島のカフェでスタッフを募集していて、そこで働くことになりました。その後、森岡さんが「lit」の方で忙しくなり、集会所の管理人に僕を誘ってくださいました。圓藤さんはどういうきっかけで直島に来たんですか?

圓藤:僕は北九州の門司港出身で、小学校1年生の時に両親の仕事の都合で上京したんですね。うちの両親はふたりとも音楽家で、その仕事を手伝ったりしていて、僕も音楽をやりたかったんですけど、仕事としてやっていくのはやはり難しくて。それで一度サラリーマンも経験してみようと思って就職したのですが、やってみたらやはり全然合わなくて(笑)。ちょうどその頃、古くからの友達が直島にカフェをオープンすると聞いて遊びに行ったんです。そこで少しお店の手伝いをしながら島の人たちと話をしたり、観光客を迎える側として直島を見ることができたんですが、その時の経験が面白くて、その後2年間で10回くらい直島に遊びに行くようになったんです。東京でサラリーマンをしていた時は、たくさんの人たちがいるなかで、自分ひとりがいなくなったとしても何も変わらないんじゃないかという気持ちになることがあったんですね。でも、直島の人たちは僕ら一人ひとりのことを、ちゃんと一人ひとりとして見てくれるし、そうやって一緒に生きていくような感覚がシックリ来て、いつかここに住めたらいいなと思うようになったんです。

どういう経緯で観光協会の仕事に就いたのですか?

圓藤:直島で仕事をすると考えた時に、主な就職口としてあるのは三菱マテリアルさんやベネッセさん、それ以外だと飲食店などになると思ったんですけど、どれも敷居が高くて難しいなと感じていたんですね。そこからしばらく月日が流れていったんですが、ある日東京で友達と飲んでいる時に、僕が移住できる方法を考えようということなり、出てきた案が役場の職員だったんです。いま考えると全然簡単なことではないんですけど(笑)、直島に通っていた時に知り合った人にそういう話をしたら、しばらくしてから、役場の仕事はないけど、観光協会が募集をかけるみたいだという話を教えてくれたんです。その後、2011年3月頭に履歴書を送り、月末に採用の連絡を頂き、4月には移住することになったんです。僕も東日本大震災が起きた月に色んな変化があったんです。

竹中よしお
直島の魅力はどこにありますか?

僕と圓藤さんはほぼ同じ時期に移住してきているんですね。圓藤さんの存在は前から気になっていたんですけど、なかなかゆっくり話す機会がなくて、この人は何者なんだろうと思っていたんですよ(笑)。直島にいる人同士で交流する機会って割と少ないですよね。もっと交流する場があったらいいなと思っていて、観光協会さんにもぜひそういう機会を作ってほしいです。いま流行のお見合いパーティみたいなものではなく、人と人が交流できる場が作れるといいですよね。

圓藤:そうですね。直島は外から来ている人たちも多いので、そういう人同士の交流会などもあるかと思っていたんですけど、みんなそれぞれの生活があったりして、意外とそういう機会がないですよね。観光協会がある宮浦港周辺と、いま僕が住んでいる本村港周辺の交流はあまりないし、本村の中ですらあまりそういう機会がないんです。

直島のすぐ隣に位置する向島にある「向島集会所」。

だから僕はなるべくここで交流会のようなことをするようにしているんです。向島集会所という名前の通り、色んな人が集まるようなオープンな場にしたくて、ベネッセで働いている方とかさまざまな人たちを呼んでいるんですけど、まさにそのベネッセさんの取り組みが色んな人たちをこの島に惹きつけていて、直島は凄く面白い環境だなと思います。僕はここに来るまでに国内を色々回っていたんですけど、沖縄とかも同じように移住者は多いけど、どちらかというと都会の生活に疲れた人たちが現実逃避しに来ているイメージがあったんです。でも、直島の場合は良い刺激を受けに来ている人たちが多いから、話を聞いていても凄く面白いんですよね。

圓藤:安藤(忠雄)さんも言っていましたが、直島というのは何かを探しに来るにはベストの場所だと思います。ベネッセさんが入ってきた当時は、島を訪れるのは建築やアート関係の人たちがほとんどでしたが、いまはそこまでアートや建築に興味がない人も、何か面白そうということでやって来るようになりましたよね。そういう流れの中でこの向島集会所には、知らない人たち同士が会話をすることで自分のプラスになるものを得られる環境が作られていると思うし、ここでしかできないことをやっていますよね。

直島の面白い状況をちょっと脇にある向島から見ているのが楽しいんですよね。直島がファインアートをやっているので、こっちはもう少しローカルチャーと言うか、お客さん同士が交流してくれる仕組みを作るようにしています。みんな初対面とは思えないくらい仲良くなるし、毎日刺激があって寝る時間がないんですよ(笑)。

圓藤:直島には綺麗な風景やアートなどがあって、それらはもちろん素晴らしいんですけど、何よりもやっぱり人が魅力的なんです。直島に来る人たちというのは、本当に良い人たちが多いですよね。また、島の人たちにしても、パソコンが不慣れな方にちょっとお手伝いをしてあげると凄く喜んでくれたり、逆に野菜などをたくさん頂いたり、お互いに助け合っていく感覚がありますよね。都会ではすでに失われてしまったものがここにはまだ残っている感じがするし、それは直島の大きな魅力。そういう人たちと一緒にいたいと思うし、本当に贅沢な感じがするんですよね。

竹中よしお
島の人たちとの関係はどうですか?

直島は観光客のマナーが良いから、いままではゴミが落ちてないのが当たり前でしたが、最近は少しゴミを見かけたりするようになりましたよね。島の人たちは見られる意識があるから家の周りを凄く綺麗にしていることもあって、少しでも道にゴミが落ちていると目立ってしまうんですよね。観光客が増えることでルールが乱されてしまうことは少し心配していて、向島もなるべくひっそりしていたいというところがあるんです。島の人口15人のうち僕以外は60以上の人たちが大半なんですが、僕みたいによそから来る人たちに凄く優しいんですね。そういう方たちの生活を邪魔しちゃいけないと思うので、お客さんにはなるべく夜遅く出歩かないようにと言っているんです(笑)。

圓藤:8月の超繁忙期などになると僕らもみんなでゴミを拾うことがあります。その辺りを今後どうしていくかはひとつの課題ですけど、気づいた人たちが守っていくしかないのかなと。島の人たちも我慢している部分はあるだろうから、生活に支障が出るようなことがあるとそういう話が出ますが、もともと優しい人たちが多いから対応さえしっかりすればすぐに理解してくれるんですよね。おそらくいま直島でやっているような試みを2,3年くらいの期間でやろうとすると、住民の人たちとの軋轢なども出てくると思うんですが、直島はもともとベネッセさんが30年程前から時間をかけて島の人とコミュニケーションを取ってじっくり進めてきているところがあるし、歴史的に見て直島が文化に触れ続けてきている島だということも大きいと思います。船が行き来する場所にあるから昔から文化的な交流は盛んだったし、いまはそれが現代版にアップデートされているだけなのかもしれないですよね。

島のおじいちゃんとかが、若い女の子と話ができるからという理由で現代アートに詳しくなって、色々案内していたりしますよね (笑)。なかなかこういうことをするようなおじいちゃんおばあちゃんは他では見ないし、凄く面白いですよね。

圓藤:直島では若い人たちの大半は島を出てしまっていることもあるんですが、一番元気があるのは60~70歳くらいのおじいちゃんおばあちゃんたちなんですよね。直島は小さな島ですが、一人ひとりを見ていくと、東京の有名ホテルでケーキ職人として働いていていた人から、過去に日本レコード大賞新人賞を受賞した曲の作詞作曲を手がけた人などをはじめ、面白い人たちがたくさんいて、そういう方たちと接しているだけでも凄く刺激的なんですよね。

おじいちゃんおばあちゃんの話が凄く面白いですよね。島に来る前は自分が住んでいる場所の歴史のことなんてどうでもよかったんだけど、直島に来てからはそれが凄く気になるようになりました。直島のことを知れば知るほどお客さんにも話ができるし、歴史を知っていくのは凄く面白いですね。

圓藤:僕も直島のことを知ることがそのまま仕事につながるので、休みの日などにも色んな場所に足を運ぶようにしています。最近は新しい飲食店などもどんどんできているので、実際にそういう場所に行くようにしていますし、そうするとお店の人とも仲良くなれたりするので、自分自身楽しみながらそういうことをしています。そこで体験したものを観光客の方にも還元していくというのが自分の仕事なのかなと思っています。

圓藤さんが働く観光案内所は宮浦港を降りてすぐ。

竹中よしお
どんな夢を持っていますか?

直島には去年美容室もできましたし、ここ1年くらいで本当に色んなお店ができていますよね。

圓藤:美容室は待ちに待っていました(笑)。最近はパン屋さんやラーメン屋さんなどもできたし、中途半端に島の外に出るよりも充実しているかもしれないですね。僕には、「直島は願えば叶う場所」という持論があるんです。僕が東京から移住してくる時に唯一残念だったのは、友達と離れることだったんですが、実は今度友達が直島に移住をすることになって、それすらも叶うのかと(笑)。直島にはないものが多い分、できることがまだまだたくさんある。夢を大きく広げて持っていれば、いずれそれが実現できるような場所だと思うんです。

そうですね。僕には、いつか向島集会所を日本で一番予約が取りにくい宿にしたいという夢があるんです。凄く大きな話だけど、直島ならそれが可能なんじゃないかなと。圓藤さんはそういう夢は何かありますか?

圓藤:うちの奥さんは、移住をする前まで東京で管理栄養士の仕事をしていたんですけど、それを僕のわがままで無理矢理こっちに連れてきたんです。幸い彼女の実家が岡山だったのでそれは凄く良かったんですけど。いま彼女は岡山などを中心に管理栄養士の仕事をしているんですけど、いつか直島でカフェとか自分が本当にやりたいことができたらいいねという話をしていたんです。実は、最近それが急に現実的になってきているんですよ。直島で最初にカフェを始めた「カフェまるや」さんというのがあるんですけど、先日そのカフェをやられていた方が直島を出ることになり、ちょうどその時に家探しをしていた僕らがそこを借りられることになったんです。そこに引っ越してから、周りの人からも何かお店をやったらと言われていたんですが、僕らも調子に乗ってそれを実現させようとしていて、もしかしたらもうすぐオープンできるかもしれないんです。すでに直島にはお昼ごはんを食べられるお店はたくさんあるので、朝食をメインにやってみようかなと。

向島集会所

いいじゃないですか。直島は朝ごはんを食べられるお店が少ないですしね。

圓藤:そうなんですよ。こういうことも東京にいたら夢で終わっているかもしれないけど、不思議と直島だと現実的になっていくんですよね。もちろん何も願わなければ叶わないですけど、何かひとつ願うとそれが実現するというのはこれまでの経験から感じることです。だから、この彼女の夢もサポートしていきたいなと思っています。

直島の今後については何か考えていることはありますか?

圓藤:アート以外にも楽しめる何かができてくるといいですよね。いまはアートで注目されている島ですが、これからの時代に直島はより色んな意味で注目されていくんじゃないかなと思うんです。都会が変化していけばいくほど、直島の変わらない部分の良さというのが気づかれていくだろうし、なぜ変わらないのかということを知っていくことによって、いままでとは違う考え方が得られるんじゃないかと。僕がここに来て感じたことがより多くの人に伝わるような直島を作っていったり、応援していきたいなと思っています。