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「問い」をカタチにするインタビューメディア

地域と関わる

イラストレーター・佐藤純子さんが、
菊信紙工所/製本部 部長・菊地充洋さんに聞く、
「思いと知恵が詰まった本づくり」

仙台駅前の書店で働いていた頃に描いた日々の生活にまつわるマンガエッセイ『月刊佐藤純子』が人気を集め、現在はイラストレーターとして活動している佐藤純子さん。そんな佐藤さんがインタビューするのは、『月刊佐藤純子』のデザイン、印刷、製本を手がけた「製本部」の部長であり、有限会社 菊信紙工所で製本、紙加工などの仕事に励んでいる菊地充洋さん。本を接点につながりを持ったふたりの間で、果たしてどんな話が展開されるのでしょうか?

佐藤純子
製本部って何ですか?

私は書店で働いていた頃、『月刊佐藤純子』という日々の雑記的なマンガを描いていて、色んな人に渡していたんですね。それを見てくれた方から一冊の本にすればと提案され、その本のデザインと印刷を、菊地さんがやっていた製本部にお願いすることになって、そこで初めてお会いしたんですよね。その時に渡された名刺にとても面白い印刷がされていたことが記憶に残っているんですけど、菊地さんの名刺はいつも面白くて、別の機会に渡された名刺では、和紙のような紙に文字が印刷されていましたね。菊地さんと会う度に、また違う名刺がもらえるかなと期待しちゃいます(笑)。

菊地:その時にお渡しした名刺は、紙を漉いたままの状態で使用したもので、繊維がむき出しになっているんですね。規格外の紙なので、機械を使った一般的なオフセット印刷はできないので、シルクスクリーンや活版印刷などアナログの手法を使うしかないんですけど、そういうものは凄く味があって素敵なんです。例えば、シルクスクリーンというのは、原理的にはとてもシンプルなんですが、それだけにインクの粘土やメッシュの細かさ、テンションの強さなどが品質に大きく影響するんですね。その加減がとても難しくて、まだまだ修行中の身なんです(笑)。

凄く職人さんぽいですね。『月刊佐藤純子』は、もともとコンビニでコピーしたものをお配りしていたので、本にする時も表紙と中頁の紙質をあえて同じにしたり、背表紙の文字をずらしたりと、菊地さんとデザイナーの松井(健太郎)さんが、本気でユルユルした雰囲気を出そうとしてくれたんですよね。

菊地:そうですね(笑)。製本部では、仙台のグラフィックデザイナーやイラストレーター、大学職員、文学館の学芸員、紙メーカーで働いている人など、色々な方が属していて、それぞれが持っている専門知識を共有しながら、製本の可能性を追求していくことを目指しています。純子さんの本の他では、東北大学が一般の人たちに向けて開講している「せんだいスクール・オブ・デザイン」の受講者が編集する雑誌『S-meme』の装丁などを担当させて頂いています。

『月刊佐藤純子』

そもそも製本部はどういう経緯で結成されたんですか?

菊地:製本業というのは、印刷屋さんありきで成り立つ仕事で、製本の技術だけで独立して商売を成り立たせせることが難しいのが現状なんです。同業者の中にはそうした構造に対する問題意識があって、もっと自立していかないといけないと考えていました。そのなかで2010年に、印刷業者が集まっている印刷団地という場所のすぐ側にTRUNKというクリエイターのワーキングスペースができることになり、何か接点を持ってみようということになりました。そこで知り合ったのが製本部を一緒にやっている松井健太郎さんで、当時はTRUNKで副ディレクターをしていました。お話を聞いてみると、松井さんは本が大好きで、古本屋をまわったりしているということだったので、本をキーワードに、何かしら将来につながりそうな活動をしてみませんかと持ちかけたのがきっかけでした。

佐藤純子
どんな本をつくっているんですか?

製本部がつくった本には、不思議なものがいっぱいありますよね。よくこんな面白いことを思いつくなぁといつも驚かされます。『S-meme』なんかも毎回形態が違いますよね。

菊地:そうですね。『S-meme』では、毎回4ヶ月くらいの期間で、受講者がコンテンツを収集し、一冊の本にまとめていくんですが、担当教授の五十嵐太郎先生から、製本の可能性を追求してくださいと応援して頂いています。受講者は学生から社会人まで幅広いのですが、『S-meme』は色んな印刷を楽しめる機会としてもとらえてくれているようです。いままで世に出ていなかったようなアイデアが色々出てくるなかで、それをどう実現させていくかを考えていくのが自分たちの役割です。例えば、左綴じ横書きの本をひっくり返すと、今度は右綴じ縦書きのコンテンツが現れるというような仕掛けをつくっているんですが、こうやって情報に何かしらプラスアルファをしていくということは紙メディアにしかできないことなのかなと思います。

「S-meme Vol.7」 ©Sendai School of Design

本というのは一見制限があるように思いますが、菊地さんたちはそれをヒョイと飛び越えた面白いものをつくっていますよね。きっと製本部は、菊地さんや松井さんをはじめ、みんなの知恵が集まっているからこそ、ひとりでは考えもつかないような本が生まれるんでしょうね。

菊地:部員さんが持っている専門知識というのは凄く貴重で、色んな手助けになっています。僕自身としては、部員さんたちがつくったものを見て、なぜこの人はこういうものをつくっているのかということを自分なりに分析することを心がけています。例えば、名刺ひとつとっても、「この人はなぜ右上に文字を持っていくんだろう?」と自分なりに分析・解釈していくんですが、そこから気づきをもらえるということも多く、とても刺激になっていますね。

製本部は、自分たちや周りの人たちの考えや妄想を形にしている感じがします。読んでいる文字や紙自体は平面だけど、凄く立体的に感じられるんですよね。

菊地:通常印刷というのは、コストを最重要視して設計したものをお客さんに提案するんですね。製本に関してもその枠の中で選択肢を提示していくわけですが、製本部の場合は、そうしたパターンに当てはまらないものをつくっています。普通ならちょっとあり得ないよねと言われてしまいそうものを、いかにあり得るものにできるのかを考え、逆提案していくんです。最近は、印刷や製本の技術が見直されている風潮がありますが、逆提案型というのはあまりないからか、それを新鮮だと感じてくれる人たちから、少しずつ実践の機会を与えてもらえるようになりました。でも、これからは自立していけるようにもっと力をつけていかないといけないし、まだ世に出ていない製本のアイデアというのもたくさんあるはずなので、それをできるだけ多く製本部として提案していきながら、こうした活動や仕事のあり方を定着させていくことを目指しています。

「S-meme Vol.7」 ©Sendai School of Design

佐藤純子
パンクバンドから何を学びましたか?

噂によると、菊地さんはパンクバンドをやっていたそうですね。

菊地:もうやめてしまったんですけど、16年くらいバンドをやっていました。パンクというのは凄くコアな音楽なんですが、国内外にネットワークが広がっていて、当初は全国各地をまわってライブをしていました。アンダーグラウンドな音楽なので、国内では支持者も少ないんですが、世界各地にマニアがいて、自主レーベルの音源が世界中に流通しているような世界なんですね。インターネットも身近になってきた2000年以降は、海外からも評価されるようになり、海外からライブの依頼が来て、生まれて初めてアメリカにも行きました。その後は8年間くらいで10回ほどアメリカ各地でライブをしました。

佐藤佳之『アタリマエノヨウニ』

バンドの時の経験でいまの仕事にも活きていることはありますか?

菊地:パンクの世界では、レコードジャケットからライブのフライヤー、バンドのTシャツまですべてD.I.Y.でつくるのが当たり前なんですね。そこからさらに進んで、バンドメンバーでシェアハウスをして、野菜なんかを育てて自給自足をする人たちもいるんです。彼らはライブやレコードの売上で生計を立てているんですが、とても生活を楽しんでいるように見えました。そういう光景から学ぶことがたくさんあったし、自分たちもD.I.Y.でものづくりがしたいという思いが、いまの製本部の活動に反映されていると思います。

パンクの人たちが丁寧にものづくりをしているというのはちょっと意外ですね(笑)。

菊地:みんながみんなそうというわけではないですけどね(笑)。アメリカでそういう光景を見て日本に帰ってくると、ここでは同じことは実現できないというジレンマを感じるようになりました。まずは環境をつくらないといけないと思ったんですが、その時に仙台という街では地方都市ならではの土地の広さを活かせるんじゃないかと感じたんですね。以前に卸町という場所でライブをしたことがあるんですが、ここは流通系の会社が集まっている場所で昼間はとても賑わっているんです。でも、夜になるとゴーストタウン化することが問題になっていたので、それなら音を出してもいいんじゃないかと。結局、バンドはやめてしまったんですが、音楽をしていなくてもパンクという考え方は体現できるし、製本部自体も凄くパンクっぽいんじゃないかなと思っています。

卸町倉庫『ハトの家』で行われたイベント。『S-meme Vol.6』のテーマ『演劇/ライブから考える』に関連付けて、イラストレーター・yossieTHRASHGRAPHICS氏の展示と合わせた共同企画として開催された。

佐藤純子
ものづくりに大切なことは何ですか?

いまお話にあったように、菊地さんがつくる本たちは凄くパンクでカッコ良いですね。

菊地:音楽をやっている時もそうでしたが、僕が共通して大切にしていることは、ひとつ何かを加えるということなんですね。なにかをつくる人たちは、昔あったものをそのまま再現するだけでは仕方がないと思っています。そこに何かしら新しいものを注入し続けないと、人は見てくれなくなってしまうんじゃないかと。

『S-meme Vol.6』©Sendai School of Design

例えば、現代美術にはカッコ良いと思うものもあれば、よくわからないものもあるけど、製本部の本はパンクで新しいんだけど、同時に親しみが持てる感じもあって、そこが良いなと思います。どの本も決して奇をてらったものではなくて、誰もやっていなかったことなんだけど、長く愛せるようなものになっているんですよね。

菊地:本というのは親しみが持てますよね。本にしても、長い歴史とともにつくられてきた定型というものがあって、それはとても大事なものだと思います。僕自身古いものをなぞってみることは多くて、なぜそういう形になっていったのかを考えていくことはとても面白い作業なんです。でも、それをそのまま自分の表現してしまうのはちょっと違うし、あまり意味がないと思うんですね。そうした歴史を理解した上で、いかにそれまでになかったアイデアやユーモアのようなものを足していけるかということを常日頃考えています。

『S-meme Vol.6』©Sendai School of Design

菊地さんや製本部がつくるからこそ、こういう本ができ上がるということが大切なんですね。

菊地:そう思います。例えば、誰かから凄くカッコ良い名刺をもらった時に、それを分析して、こういう感じで組んでいけばいいのかと真似することはできますが、それでも絶対に全く同じようにはならないと思うんですね。そこがとても大事なところだと思っていて、音楽にしても、製本にしても、オシャレをする時にしても、常にそこを意識しているところがありますね。いまお話をしながら、そういう自分の傾向に初めて気づきました(笑)。<インタビュー終わり>