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「問い」をカタチにするインタビューメディア

問いから学ぶ

編集者・服部 円さんが、
キュレーター/服飾研究家・深井晃子さんに聞く、
「ファッションが持つ多様性」

今回インタビュアーを務めてくれる服部円さんは、「honeyee.com」「.fatale」をはじめファッション系メディアを中心に活動し、猫×クリエイターをテーマにしたWebマガジン「ilove.cat」も主宰する編集者。そんな服部さんがインタビューするのは、京都服飾文化研究財団(以下KCI)で理事、チーフキュレイターを務める深井晃子さん。深井さんがキュレーションした展覧会を見たことが大きな転機になったという服部さんが、深井さんにいま聞きたいこととは?

服部 円
なぜ洋服を集め始めたのですか?

今回の取材の前に、KCIのコレクションを初めて見学させて頂いたのですが、そもそもどのようなきっかけで洋服を収集することになったのですか?

深井:創設者であるワコールの塚本幸一さんのひらめきが大きかったのだと思います。KCIができた70年代は、ファッションが大きなポテンシャルを持っているということに多くの人が気付き始めた時期で、メトロポリタン美術館やヴィクトリア&アルバート博物館などでもファッションの展覧会が行われるようになっていました。時代の空気をキャッチする能力が非常に高かった塚本さんも同じように感じ、三宅一生さんの尽力で、メトロポリタン美術館でダイアナ・ヴリーランドがキュレーションしたファッションの展覧会を京都国立近代美術館で75年に開催したんですね。これがきっかけとなり、日本にもファッションの研究所が必要だという機運が高まり、78年にKCIが生まれたんです。

深井さんご自身はどういう経緯でKCIに入ったのですか?

深井:私はモラトリアム期間が非常に長くて…(笑)、自分がこれから何をしようかということをしばらく決めかねていました。KCIが立ち上がる前に私はパリにいたのですが、75年頃に現地でアール・デコ展を見たんですね。そこではファッションも展示の一部として組み込まれていて、こういう視点でファッションを捉えることができるんだと感じました。その後、日本に帰ろうという頃にちょうどKCIができていたので、塚本さんに会いに行き、ここで仕事がしたいということを話し、働くようになったんです。

立ち上げ当初はどういうものから収集していったのですか?

深井:完全にゼロからのスタートだったので、当初はテーマもなにもないような状態でしたが、ファッションの歴史をつくってきた美しいものを収集していこうと考え、縁があったものの中からコンディションの良いものをとにかく買っていきました。ただ、一口に「美」と言っても、時代を問わない絶対的な美しさというものと、時代によって変容する美しさというものがありますよね。それらを見極めていくために、当然時代背景についても勉強しないといけないのですが、たくさんのものを見ていくうちに、次第と良いものが自分でもわかってくるようになっていきました。当時は、ファッションの美術館というものが多くなかったですし、貴重なものをいまより安く手に入れることができたので、収集は比較的しやすかったですね。

深井さんが手がけた「身体の夢」展(1999年)。 (C) Kyoto Costume Institute, photo by Naoya Hatakeyama

服部 円
コレクションの特徴は何ですか?

KCIのコレクションは、ヴィクトリア&アルバート博物館などの海外のコレクションと比べた時に、どんな特徴があるのですか?

深井:ヴィクトリア&アルバート博物館やメトロポリタン美術館、装飾美術館のコレクションというのは主に寄贈品で、19世紀頃にパリのオートクチュールをたくさん買っていたお金持ちが後に寄贈しているんですね。一方で私たちの場合は、寄贈して頂くこともありますが、自分たちで購入するケースがほとんどです。それぞれの時代を表象する美やシルエットを持っているものを自分たちの意思で集めているので、数は多くありませんが、筋は通っていると言えるかもしれません。以前にKCIのコレクションを用いて、タッシェンから『ファッション―18世紀から現代まで―』という分厚い本を出したのですが、いまでも非常に価値が高いものだと世界的に評価されています。

収蔵庫を拝見してみて、コム デ ギャルソンのコレクションが非常に豊富なことに驚きました。

深井:90年代前半に、デザイナーの川久保玲さんが1000体ほどのコレクションを寄贈してくれたのですが、これはまさに青天の霹靂だったのと同時に、大きな責任を感じました。ファッションの歴史上、非常に大きな意味を持つコム デ ギャルソンの80年代のコレクションがあるということは、KCIにとっても非常に大きな財産だと考えています。本当は、これらのコレクションでコム デ ギャルソンの展示をしたかったのですが、もしそうするなら自分自身でやりたいという川久保さんの強い意志があり、いまはまだ時間がないから難しいと言われてしまいました。ただ、先日開催した『Future Beauty』展がその代わりの役割を果たしてくれたと考えています。この展示では、日本のファッションが歴史的な文脈においてどんな意味合いを持っているのかということをしっかり世界に見せたかったんです。そこで日本ではなくロンドンから展示を始めたのですが、実際に多くの方が認めてくださり、日本のファッションが改めて評価される良い機会になったと感じています。

『Future Beauty』展 at 東京都現代美術館(2012) (C) Kyoto Costume Institute, photo by Osamu Watanabe

KCIでは、デジタルアーカイブスにも力を入れていますね。

深井:デジタルアーカイブスに早くから取り組んでいたのはフランスで、90年代くらいにそれを見て、すぐにうちでもやろうということになりました。もともと写真は非常に大切だと考えていたので、それ以前から撮り貯めていたことも良かったのだと思います。KCIには常設の展示室がないのですが、私はそれをメリットととらえていきたいと考えています。洋服というのは、きれいな状態で見せようとするとマネキンが必要になるんですね。ただ、そうすると洋服は傷みやすくなってしまうし、収集庫で寝かしている方が長持ちするんです。だから、普段はデジタルアーカイブスでコレクションを見られるようにしておき、ある期間だけ展覧会を行い、現物をお見せするというやり方が理想なのではないかと思っています。

KCI Digital Archives

服部 円
洋服に美術的な価値はありますか?

美術作品などに比べて、繊維製品である洋服というのは保存が非常に大変だと思います。KCIでも温度や湿度を管理して保管されていますが、どんな点に注意しているのですか?

深井:以前に比べて技術が進化しているので、より長い期間保管できるようになってきているとは思いますが、それでもやはり洋服のような繊維製品は難しいですよね。KCIでは常時気温20℃、湿度50%で保管しているのですが、これが現在では最良の方法だと思います。それでも1000年以上経てば朽ち果ててしまう可能性はあるし、逆にその頃には保管方法がさらに進化していることも考えられます。ただ、それはいまの私たちには予測できないので、とにかく虫を付けない、カビを生やさないという基本的なことを続けていくしかないですね。

古い洋服の修復をされているところも少しだけ見学させて頂いたのですが、こうした取り組みも立ち上げ当初からやられていたのですか?

深井:はい。できることならば、なるべく修復せずに元の状態のまま残したいのですが、それが原因で洋服全体が壊れてしまうということもあるので、最低限の補強はするようにしています。補強の考え方にも流行のようなものがあり、元の通りに復元した方が良いという考え方と、たとえダメージを受けていたとしても、さらに悪くならないように最低限の補修にとどめる方が良いという考え方があって、近年は後者が主流です。一方で、絵画の世界では、いまはどちらかと言うと元通りに復元するという考え方が主流になっていますよね。

美術作品やジュエリーなどはかけられる保険金も高く、しっかり守られているイメージがありますが、洋服というのはどうしても消費されるものというイメージがありますよね。とはいえ私は、洋服にも美術作品同等の価値があると感じるのですが、深井さんはどのようにお考えですか?

深井:美術作品やジュエリーなどには億単位のものがたくさんありますが、洋服はどんなに高いものでも数千万円程度で、金銭的な価値としてはそれくらいが限度なんですね。ただ、だからといって洋服がアートピースではないとは思っていません。何百年先に残すことが想定されている絵画などに比べ、洋服というのは衣服としてつくられているということが前提にあり、そこが絵画との違いなのだと思います。

「身体の夢」展 at 京都国立近代美術館(1999) (C) Kyoto Costume Institute, photo by Naoya Hatakeyama

服部 円
どこまでが「ファッション」なんですか?

同時代のブランドの洋服も収集されていますが、毎シーズン色々なブランドがコレクションを発表する中で、どういう基準でピックアップしているのですか?

深井:私たちが欲しいと思ったものが必ずしも手に入るわけではないので、手に入ったものということになりますね。以前は私も長くパリコレに行っていて、どうしても欲しいものがあった時は、デザイナーに直接掛け合ったりして、嫌がられながらも収集していました。ただ、そうでもしない限り、日本に入ってくるものは限られているし、手に入るものの中からしか選べないというのが現状です。また、ディーラー経由で収集する場合にしても、彼らが持っている洋服も偶然によるところが大きいので、基本的には限られた出合いの中から最良のものを選んでいくという考え方です。そういう意味では、自分たちが考える理想的なコレクションというのは、いくらお金があっても実現できないですし、洋服の場合は匿名性が高いこともあり、アートのコレクションよりも出会いが大切になってくると言えます。

ショーをしているようなメゾン以外にも、歴史的価値を見出すようなファッションはたくさんあると思います。例えば、ユニクロのヒートテックは収集されているのですか?

深井:いえ、していないです。でも、本当は収集しなければいけません。私たちは、「ファッション」というものを基準に収集していますが、そもそもどこまでがファッションなのかという話になりますよね。ユニクロのヒートテックも時代を表象するものだと思いますし、そうしたものはコレクションに入れていくべきだと考えています。時代を表象しているものというのは、その時代に人間が生きた証と考えることもできますよね。そういう意味では、109などに置かれているものも含まれると思いますし、ゴスロリなどのファッションも収集しています。いま私たちは、現代のゴスロリの源流とも言えるピンクハウスのコレクションを集めたいと考えているのですが、なかなか手に入りにくくて困っているんです(笑)。

当時は、ピンクハウスの洋服が時代を表象しているものかどうかわからなかったということなんですか?

深井:いえ、正直なところを言うと、個人的な趣味に合わなかったというのが大きかったんです。研究対象としては欲しいと思っていましたが、実際に何を買えば良いかわからなかった(笑)。また、当時の私はパリを中心に見ていたこともあり、まずはそっちが優先だろうと考えていました。ピンクハウスもそのうち集まるだろうと思っていたのですが、いまも当時のものを手放したがらない人が多く、少し考えが甘かったんですね。また、日本については若い人たちにしっかりやりなさいと伝えていたのですが、みんなあまり興味がなかったのか、積極的に集めなかった。そういう点は私たちが反省するところだと思います。

KCIに付属するギャラリー。

服部 円
展覧会はどうやってつくるのですか?

展覧会についてもお伺いしたいのですが、深井さんが展覧会を企画される時は、テーマやコンセプト、開催時期などをどのように考えていくのですか?

深井:最も重要なのは時代やファッションがいまどのように動いているのかということです。まずはそれを考え、KCIとして何を見せたいのかということと合わせて構成していきます。また、開催時期も大切になりますが、私は歴史というのは過去を振り返るためにあるのではなく、未来を考えるためにあるものだと考えているんですね。できるだけ長いスパンの過去を見ておけば、それだけ遠い未来が見通せる気がしているのですが、そのおかげもあってか、まだ時期を見誤ってしまうようなことはないですね。

「Future Beauty」展 at 東京都現代美術館(2012) (C) Kyoto Costume Institute, photo by Osamu Watanabe

ひとつのテーマを展覧会という空間の中で見せていく時にはどんなことを意識していますか?

深井:展覧会のテーマ設定というのはなかなか苦しい作業でもあるのですが、空間をつくっていくことはとても面白く、私の好きな仕事です。ただ、図面上ではあまり具体的なイメージが描けないタイプで、その空間に入ってマネキンを置いたりしていくなかで、色々な要素が明確になっていきます。空間を考えていく作業というのは、自分の想像力を元に絵を描いたり、彫刻をつくる作業に似ています。展覧会といっても、『身体の夢』展や『Future Beauty』展のようにアーティスティックなアプローチもあれば、『モードのジャポニスム』展のような、文化・歴史的なコンテクストをしっかり伝えるタイプのものもあり、それぞれ多少考え方は違いますが、美術館で見せるファッション展では、レイアウトからマネキンのポーズまで、ひとつのシーナリーとして絶対に美しく見えないといけないと考えています。

「身体の夢」展 at 京都国立近代美術館(1999) (C) Kyoto Costume Institute, photo by Naoya Hatakeyama

最後の質問です。深井さんにとってファッションとはどんなものですか?

深井:本当はファッションが嫌いなんです(笑)。ファッションにはあまりにも要素があり過ぎて、色んなところからアプローチできてしまうから、つかみどころというものがなく、嫌になってしまうことがあるんです。さらに、いまはファッションがより多様化していて、パリコレというものがひとつの尺度になっていた90年代とは大きく状況が変わっています。そういうこともあって、私は2004年からパリコレにはもう行く必要がないと感じ、違う場所で起きているさまざまな現象を追っていかないといけないと考えるようになりました。ファッションに関わる多様なものをそのまま伝えるのではなく、あるテーマに焦点を当てていくということが、展覧会をつくることであり、自分の仕事なのかなと考えています。<インタビュー終わり>


インタビューを終えて

今回インタビューさせて頂くにあたって、深井さんはどんなことを基準に物事を見ているのかとても興味があったのですが、ユニクロやピンクハウスなどもコレクションすべきだと考えられているということがわかり、個人的にとてもうれしかったし、安心できました。また過去を振り返り、そこから未来を見据えたものを提示していくというお話もありましたが、それこそがKCIの役割であり、深井さんが最も興味を持たれていることだと理解できました。
いまファッションに興味がないというスタンスを取る人が多くなっていますけど、それは消費されていくファッションのイメージのひとつであって、ファッションとは、それこそ深井さんがおっしゃるように多様な面があり、そして時代を映すものである。そしてなおかつ、過去の現象から未来を予測できるというのは、ファッションならではスピード感があってこその面白さだと思いました。アートでもインテリアでもなく、ファッションにしかできないことというか、『身体の夢』展を見て感じた、ファッションにある“何か”のヒントを掴んだ気がします