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暮らしの更新

クロスステッチデザイナー・大図まことさんが、
森岡書店・森岡督行さんに聞く、
「本屋を営む醍醐味について」

今回インタビュアーとしてカンバセーションズに初登場するのは、レトロなゲームのグラフィックやピクセルアートを思わせるタッチを、クロスステッチという刺繍技法でポップに表現する大図まことさん。そんな大図さんがインタビューするのは、写真集や美術書を扱う書店として茅場町にあるビルの一室で開業し、その後8年間にわたり国内外のファンから支持され続けている森岡書店森岡督行さん。つい先日、これまでの活動について綴った『荒野の古本屋』を出版するなど、ますます注目度が高まっている森岡さんに、大図さんが聞きたいこととは?
※このインタビューは、雑誌「QUOTATION」との共同コンテンツです。6月11日発売の『QUOTATION』VOL.19の誌面でもダイジェスト版をご覧になれます。

大図まこと
どうして就職しなかったのですか?

先日書かれた『荒野の古本屋』は、晶文社の「就職しないで生きるには」シリーズとして出版されていますが、そもそも森岡さんが若かった頃、就職という選択をしなかったのはなぜなのですか?

森岡:私はもともと、太平洋戦争の頃の歴史や政治の流れなどを結構真面目に勉強していました。同級生には就職をしない人は少なかったと思うのですが、その頃自分は色々思い悩んでいたんですね。当時、環境問題などが話題になっているなかで、自分も経済活動に参加して、環境に良くないことに関わるというのはどうなんだろうという思いがありました。その一方で、生きていくためには就職をして、お金を稼がないといけないですよね。その狭間でかなり思いつめていたのですが、結局それが極端な形となり、就職なんかしていられないという思いに至ったんです。

真面目なのか何なのかよくわからないですね(笑)。でも、二十歳くらいの頃なんて普通は自分のことしか考えないと思うんです。その時に日本の将来のことまで考えていたなんて凄いですね。

森岡:もちろん、単純に働きたくないというモラトリアム的な部分もあったでしょうし、自分の中で色々なものが混ざり合っていた時期だったんだと思います。当時は、世界の行く末については不安を感じていましたが、自分自身の就職についてはどうにかなると思っていたような気がします。当時そういう考えを持つようになったのは、哲学の本を乱読するようになったことがきっかけだったのですが、ある意味病的になっていたところもあったのだと思います(笑)。本を読むのは昔から好きでしたが、神保町をウロウロするようになってからその度合いが強まっていきましたね。

僕は森岡さんよりも5歳ほど年下で、まさに就職難の時代だったんですね。僕自身、就職試験を何十社も受けましたがすべて落ち、最終的に酒屋でアルバイトをするようになりました。そういう時期が3年ほどあったのですが、その間はとても不安で。もちろん親からも色々言われますし、周りの友人が就職したりすると、話もだんだん合わなくなってきてつらかったですね。

森岡:自分の場合は幸運だったと思います。たまたま新聞で神保町の古本屋さんの求人記事を見つけることができたんです。当時僕は中野に住んでいたのですが、妹も近所にいて、その日はたまたま妹の家に行ったんです。妹は新聞を取っていたので、それを何気なく見ていたら、その後働くことになる一誠堂書店の求人広告が載っていました。実はその当時、メディアの情報を遮断して、昭和16年の朝日新聞を読んでいたんですね。すべての情報を切り替えることで、その時代に行った気分が味わえるんじゃないかと思ったんです。そうしたら、太平洋戦争開戦の日の新聞に、一誠堂書店の広告が出ていて。その1ヶ月後にリアルタイムの新聞で求人募集を見つけて、とても不思議な体験でしたね。

大図まこと
なぜ古書店を始めたのですか?

本の中でも書かれていましたが、森岡書店を始めるきっかけになったのは、この場所との出会いだったそうですね。

森岡:はい。この場所のことは、以前にここに入っていた古道具屋さんに来た時に知りました。自分には建物からイメージを膨らませていくところがあるのですが、その古道具屋さんが店を閉じることになったと聞いて、ここで古書店をやりたいという衝動が込み上げてきて。こんな部屋は他にないと思いましたし、その思いがどんどんエスカレートして、歯止めが効かなくなりました。それからお客様に支えられ8年間続けることができているのですが、神田の古書店の仕事も楽しかったですし、もしこの場所との出会いがなければ、独立することもなかったんじゃないかと思います。

お店を始めると決意するまではいいですが、当然色々なお金がかかったり、現実的な問題も出てきますよね。その辺はどうやってクリアされていったのですか?

森岡:やはりお金というのは切実な問題ですよね。お店を始めようとは思ったものの、そんなに貯金があったわけではないので、まずはそれをすべて切り崩し、さらに親族からの借金と、前職の退職金をすべて注ぎ込んで元手を用意しました。新規事業支援制度などにも応募してみたのですが、事業内容が適合しないということで、結局用意した元手の半分を物件取得で使ってしまったので、最初はかなり厳しい状況でしたが、本を売ったりしてなんとかつなぐことができました。

お店の内装もかなりこだわられていますよね。

森岡:什器なども開店から半年くらいの間で揃え、それからは内装も変えていません。内装のコンセプトは、世界のすべては男/女、善/悪、醜/美など2つの対立項から成り立っているという思想から着想しています。ここに置かれている本や展示などもすべて世界の一部ととらえ、どんなものが置かれてもバランスが取れるような空間づくりを意識しました。また、東洋でも西洋でもないような場所にしたいという思いがあったので、シンメトリーが基本であるヨーロッパ建築的な要素と、茶室など左右非対称に空間がつくられる東洋的なイメージを融合させた空間にしています。この場所では、どんどん内装が変わっていくような商業空間のようなことはできないので、10年、20年と同じ空間で続けられるようにと考えているのですが、ここを撮影に使って頂いたある写真家の方から、8年間も変わらずに使われ続けていることは奇跡だねと言われ、とてもありがたいことだなと感じています。

大図まこと
お店を続ける秘訣は何ですか?

これまで8年間もお店を続けられてきたということは、おそらくこれから先の8年間も続けていけるんでしょうね。

森岡:とにかく毎月末の支払いを必死でしてきたということだけは覚えていますが(笑)、自分でもどうやってここまで続けられてこられたんだろうと思います。こうすれば必ず続くという秘訣やノウハウというものは特にないんです。以前に、神保町の古本屋の先輩が、お店というのはその人そのもので、それ以上のものは何も出ないとおっしゃっていたんですね。それが正しいとするなら、ハウツー的なことよりも先に大切なことは、その人の経験だったり、どれくらいの心の振れ幅が持てるかということだったりするのではないかと思っています。

OOZU MAKOTO WORKS

森岡さんの仕事が凄いと思うのは、扱う商品がほぼすべて一点物で、売れるか売れないかわからないものを仕入れるというところです。例えば、僕のような仕事では、まず展示会を開いて受注をもらってから生産をするのですが、ある程度先に見通しをつけていくやり方なんですね。古本屋さんにも、お客さんからの注文を受けて特定の本を探すということはあるかもしれませんが、基本的には誰が買うかわからないものを、先に在庫として抱えるわけですよね。

森岡:そうですね。自分のような職種は”縄文系”の仕事だと思っています。先に狩りや釣りに出かけて行って、そこで収穫したものを並べて売っているようなイメージです。一方で、大図さんのように、先にある程度計画を立て、受注や発注をするようなお仕事は”弥生系”なんじゃないかなと。おそらく人にはそれぞれ合った仕事の仕方があって、私には縄文系が合っている気がしています。ただ、本の場合は腐ったりすることがないので、すぐには売れなくても、ずっと置いておけばいつかこれに反応してくれる人がいるだろうという考えは持っていて、そこが古本屋の特徴だと思います。新刊の本屋であれば本をどんどん回転させていきますが、神保町の古本屋などでは、少なからず私のような感覚を持っているところがほとんだと思います。

仕入れた本を売っていくためにお客さんにお知らせをするなど、営業活動的なこともされているのですか?

森岡:それはお店によってそれぞれだと思いますが、自分はそういうことはしていません。ただ、何の策略も持っていないかというとそういうわけでもないんです。このお店というのは東京の都心にあるけれど、どこか外国に行った気分になれて、しかも今でも昔でもないような不思議な時間感覚に陥る空間だと思うんですね。例えば、ディズニーランドなんかは、せっかく来たんだから買っていこうかという気持ちが働いて、衝動買いをするケースが多いじゃないですか。このお店というのは場所柄、何か他の用事のついでに来るようなところではなく、ここを目指して来てくれる方が多いと思うのですが、そういう場が持つ力や作用みたいなものがあるのではないかという考えはあるんです。

OOZU MAKOTO WORKS

大図まこと
本屋業界はいかがですか?

森岡さんとこうしてお話ししているととても面白いですし、このお店のお客さんには、森岡さんのファンも多そうですね。最近は、セレクト系のオシャレな古本屋さんなども増えていますが、僕はちょっとあの雰囲気が苦手なんですよ(笑)。

森岡:そうですなんですか?(笑) でも、この業界には本当に良い人が多いんですよ。例えば、同業他社と言うと商売敵としてお客さんを奪い合っているようなイメージがありますが、この業界にはあまりそういう感じはなく、お互いに話が合うから楽しいし、みんな仲が良いんですよね。例えば、自分がお客さんから注文を受けた時に、知り合いのお店に電話をして、「そちらにこの本ありますか?」と聞くようなことも結構あるんですよ。

それは面白いですね。普通に考えたら、そういう問い合わせが来た時に、自分が売りたいと思うんじゃないかなと。

森岡:いや、それはないんですよ。それどころか、例えば私がある本屋さんに、こういう本を探していると電話をすると、うちにあるから送っておくよと言って、その本を値引きして売ってくれるんです。そういう暗黙の取り決めのようなものがあるんですが、そもそもが厳しい業界でやっているからか、持ちつ持たれつの精神があるんですね。また、うちのように作家さんの展示をしている本屋も多いですが、展示などに至っては、作家を奪い合うどころか、色んなお店で同じ作家の展示をしますし、神輿を持ち上げるかのように作家さんを担いで、みんなで盛り上げていこうという考え方でやっているところがありますね。

オガワナホ 「ナナとミミのえほん原画展」at 森岡書店

森岡さんはどういうきっかけでギャラリーを始めるようになったのですか?

森岡:これまでの8年間ですでに260回ほどの展示をしてきていますが、開店当初は展示をするということは考えていませんでした。まだ神保町で働いていた頃にまで遡るのですが、ある時に喫茶店でコーヒーを飲んでいたら、ひとりのご婦人が入ってきたんですね。そこでたまたまご挨拶をさせてもらったのですが、その後このお店を開いて少し経った頃に、噂を聞きつけてその方がいらっしゃってくれたんです。そこで、「この場所は雰囲気も良いし、ギャラリーでもやったらいいんじゃない?」というアドバイスをして頂いたのですが、さらにお店の品揃えを見て、「写真集が好きなのね」と。そして、「うちの息子も写真をやっていて、こないだ『POOL』という写真集を出したのよ」と言われたので、「もしかして息子さんは平野太呂さんですか?」とお聞きしたら、そうだと(笑)。平野さんの写真は大好きだったので、ぜひ写真展をやりましょうという話になり、それから展示をするようになったんです。ビルの大家さんからの勧めもありました。

オガワナホ 「ナナとミミのえほん原画展」at 森岡書店

大図まこと
これからも本屋を続けていきますか?

森岡さんの一日の仕事の流れはどんな感じなんですか?

森岡:特に決まっているわけではないですが、午前中に本の仕入れなどをして、合間にご飯を食べて、午後はお店に来て展示の管理や本の販売をするという感じが多いですね。現在の私の仕事は、本屋とギャラリー、スタジオ貸し、それと時々依頼を受ける書き仕事の4つなのですが、月々によって仕事量や売り上げの割合は変わります。

森岡督行『荒野の古本屋』

本屋さんはこれからもずっと続けていくおつもりですか?

森岡:そうですね。本屋を中心に、ギャラリーの運営や書き仕事など、いまやっていることをこれからも続けていきたいと思っています。あと、いつか2店舗目なんかも出せたらいいなと考えていますが、そんなに大きく展開できるような仕事ではないですし、何人かアルバイトに来てもらうこともあるのですが、基本的にはひとりでやっていける規模で続けられればなと。一人だと病気をした時などには大変なのですが、やっぱり気が楽なんですよね(笑)。

最後に、本屋さんを営むことの醍醐味を教えてください。

森岡:お店をやっている楽しさというのは、やはりこうして色んな方と知り合えるということですよね。いまこうして大図さんたちとお話ししているのもとても楽しいですし、さらにこの先に何かつながるんじゃないかとワクワクするんです。このお店をスタートした当初、この場所にあった古道具屋さんから、「商品はコミュニケーションの手段でしかないからね」とボソッと言われたことがあって、当時はそれがあまりよく理解できなかったのですが、いまは本当にその通りだなと思います。おそらくこのインタビューを読んでくれた方がこのお店にいらっしゃってくれるということもあるでしょうし、さらにその人が作家さんだったとしたら、未知の写真展などにもつながっていくかもしれません。もちろん本自体はずっと好きですし、それ自体が完成されたものだと思っていますが、最近は本を通じたコミュニケーションに大きな喜びを感じています。そうは言っても、月々の家賃や生活費の支払いは大変ですし、それさえなくなれば本当に良いんですけどね(笑)。<インタビュー終わり>


インタビューを終えて

人生初のインタビュアー体験で緊張しましたが、あっという間に終わってしまいました。こちらの素人で失礼な質問に対しても優しい口調で真面目に応えてくれて、その人柄がこのお店の売りであり、次の仕事へ繋がるポイントなのだなと思いました。
森岡さんの古本から繋がるエピソードが本当に小説や映画のようでワクワクしました。帰りの電車の中で映画化した際は誰を主役にするか、ヒロインも必要だなと考えていたらあっという間に駅に着きました。お店のある茅場町から僕が住む浅草はたった10分くらいの距離だったのでした。配役が決まったら伝えに行こうと思います。森岡さんどうもありがとうございました。